侵入してきたSCAVをボコボコにする話   作:奥の手

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主人公ラヴレフの話ではないので、幕間とさせていただきます。


幕間:留守の様子

 ラヴレンチー・ミハイロフ・イリニフ、愛称を自ら〝ラヴレフ〟と名乗っているロシア人の元BEARがインターチェンジに出向いている間、この者が身を置いていたウッズ近くのハイドアウトには一人の少女が留守をしていた。名をニーナと言う。

 

 出発の翌日にはラヴレフが帰ってくる行程だが、それはニーナには伝わっていない。

 ニーナは言葉を解していなかった。正確にはその大部分を理解していないだけで、単語一つのニュアンスや身振りから意味を推測してはいるが、具体的な期限や条件といった細かい情報は残念ながらわかっていない。

 

 故に、この場所の主人であるラヴレフの帰りを、何日も待つ覚悟でこの少女は残っていた。

 その間、自分にできることはしようという殊勝な心がけである。

 

 まずは教えてもらった仕事。ガスアナライザーとDVDデッキを分解して中の基盤を取り出す。単純な作業だが一定以上の器用さを求められる。

 

 幸運なことに、ニーナは手先が器用だった。痺れの残る右手と、まだ生え揃っていない左手でも、動かせる指を無駄なく動かしてガスアナライザーを分解できる。

 DVDの方は、指が生えそろえばできそうだと自分で判断したので、今の状態でできるところまで分解して一旦置いておくことにした。

 指はもう後二日か、かかっても三日あれば完全に元通りになりそうだった。

 

 ラヴレフが留守の間、ニーナは言いつけられたことが二つある。

 

 一つはちゃんと食事をとること。

 古ぼけた木箱に缶詰がいくつか放り込まれている。調理しなくてもそのまま食べられるものばかりであり、そしてタンパク質とビタミンを不足なく取れるものだった。

 一日四つずつ。つまり朝に二つ、晩に二つ食べるよう指示されている。

 しかしニーナはラヴレフの示した数字の意味を理解していなかったので、早朝に出発したラヴレフを見送った直後に二つ、昼に二つ、晩に二つ食べている。お腹が空いていたのだから仕方がない。小魚のオリーブオイル漬けの缶詰を食べた時に一番幸せそうな顔をしていた。

 

 言いつけられたことの二つ目は、もし万が一侵入者が来たら攻撃しろということ。

 ニーナの腰にはベルトで巻いたポーチがぶら下がっており、中には手榴弾が三つ入っている。

 使い方もしっかりと教わり、ハイドアウトの前の森で実際に一通りの投げる手順も練習した。

 

 レバーを握ったまま安全ピンを抜いて、殺したい相手のいる方向へ投げる。

 たったそれだけだが、言葉を理解せずこれを覚えて運用するのは、それなりにリスクのあることだった。

 目の前で爆発して、空気と耳朶を震わせながら地面を穿ち周囲の木に鉄片を差し込んだ小さな塊を、ニーナは恐れを含んだ目で見つめてから「らゔれふ…………」と呟いていた。ラヴレフはそんなニーナの背中を軽く叩き、自分で安全ピンを抜かせて自分で投げさせた。

 

 主人なき今、この場所と自分の身を守れるのは自分だけ。そのことはニーナにもわかっていた。

 ラヴレフが出発したあと、一時間に一回はポーチの中の手榴弾を確認して、もしハイドアウトの入り口が大きな音を立てて開いたらいつでも投げられるよう心構えをしていた。

 

 入り口には近づかないほうがいいとわかっていた。なぜダメなのかはわかっていないが、近づくと自分の左手のようになると主人が言ったことはよくわかった。この場所に初めて入った時に爆発したので、多分また爆発するということだと、概ね正解の解釈ができていた。

 その爆発とともに入り口が開いたら、つまり主人の帰還ではないのだから腰のポーチの手榴弾が役目を果たす。

 

 とにかくニーナは〝大きな音と一緒に入り口が開いてしまったら、教えられた通りに腰の入れ物の中身を投げる〟と覚えていた。

 

 主人なきハイドアウトの留守番は、無事に一日目を終えた。

 地下故に外が明るいのか暗いのかはニーナにはわからなかったが、室内の時計の針が二回目の8を示していたので、もう寝てもいいとわかった。

 腰にポーチをつけて大きなバスタオルも下半身に巻いたまま、オーバーサイズの寝袋に体を潜り込ませる。

 

 自分を傷つけたのも、手当したのも、この場所を使わせてくれているのも全てラヴレフである。

 受けた害より恩の方が大きい。

 ニーナは、ラヴレフに感謝こそすれど恨みの気持ちは一片もなかった。

 見ず知らずの場所で言葉も通じない、見たことも聞いたこともない物の溢れるこの場所で、何よりも美味しいご飯を食べさせてくれるラヴレフのことを、ニーナは全面的に信服していた。

 前の主人より何倍も優しい。大好きだと、役に立ちたいのだと思いつつ、早く帰ってきて欲しいと願いながら心地よい眠りに身を任せた。

 

 翌日。

 正確には明朝。

 外はこれから日が登ろうかという時間帯。

 まだニーナはトマトチキンの煮込みスープに囲まれた夢の中で寝袋に涎を垂らしているところ。

 

 ハイドアウトの入り口が、空気を切り裂くように爆発した。

 

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