私はその手を取る。
「家族だもん。たとえ死んだとしても、私は二人と居たい」
そう言ってりゅーくんを抱きしめる。
「そっか······ありがとう。こっちに残ってくれて」
「ぱぱ、まま。ぼくも」
そうして、りゅーくんと共にケントも抱きしめる。たとえ死んでいても、二人の体温は温かいと感じられた。
その後はまた三人で遊び、家に帰ってからケーキを食べて、昼寝して。起きたら夕飯を作って、食べて。
毎日毎日、変わらない日常と町並み。魂が素だからと私達は老けたりしないが、ケントは成長する。
その成長を二人で見守って日常の幸せを噛みしめる。現世へと帰っていたら、この成長を見ることなく一人寂しい人生を送っていただろう。
だから、あの選択は正解だ。息子の成長を見ることは親として何よりも幸せなことなのだから。
今はまだフラッシュバックするあの事故の記憶も、いつかは忘れる。その時はこんな句を私達の変わらない日常に詠おう。
不変たる 家族と生きし この世界
こんな感じの句を。この私達だけしかいない世界に詠おう。
「ハナちゃーん! ケントの卒業式行くよー!」
はーい! とりゅーくんの隣に並んで歩く。
こうして、私達の世界は進んでいく。変わらない私達は成長するケントを見守って······
────ピッ······ピッ······ピーー
白い部屋に甲高い音が響く。
ベッド脇に立つ四人の人影。一人は状況を理解できていないようで、疑問を表情に浮かべている。
「おねーちゃん。このおとなあに?」
「この音は······そうね。あなたのママがお空に行ってしまった音······かな」
「そーなんだ! ままってすごいんだね」
無邪気に笑う男の子と、それを抱える少女。
少女の顔は悲哀を隠すように辛いからこその無表情を浮かべていた。
母のぬくもり 感じることなく
「············はぁ、どうやら僕のヒントはあまり役に立たなかったようだね。まぁそれも彼女の選択。一つの結末だ」
コトリ。と気にする者は誰もいないとはいえ行儀よく静かにカップをソーサーに戻す。
「······とはいえ、遺された者がどんな物語を紡ぐかもまた······ククッ」
「マスター。人の死を呆れたように見ないでください。死とは悲しきもの。せめて祈りを捧げましょう」
「······哀那。君の性質上仕方ないのかもしれないが、選択したのは彼女だ。人は間違った選択であれ自ら選んだ道は祝福するものなのだよ」
遺された息子くんには申し訳ないがね。と、付け加えて再びカップから紅茶をすする。
「······マスター、なんとかならないものでしょうか? せめて観測していた者として、お墓参りとかは······」
「そうやって何人もの無関係の故人の墓に手を合わせに行く······君の悪い癖だよ。観測していたとはいえ、所詮我々はなんのツナガリもない赤の他人だ。結末を受け入れそれを記憶するくらいにしておいてくれ」
ページをめくろうとして、背後から啜り泣く声に振り向く。
「······哀那。君のその誰のことであっても悲しめるのは感受性や優しさとも言えるが、遺族からすれば迷惑どころか嘲笑にも等しく取られかねない。だから一人につき二度三度までにしてくれ。それに身勝手に介入されると僕が図書館に怒られるんだ。だからもう少し考えてくれ」
ぐすぐすうえーんと泣く哀那。このままではずっと泣き続けかねないと判断し、僕は彼女を連れてとある場所に行くことにした。······図書館には多少文句を言われるだろうが仕方ない。
「······一先ず手を合わせに行くぞ。これ以上泣かれてもうるさくて集中できないからな」
そうして生み出した扉をくぐる。
重苦しく暗い空気の、中央に死後間もない遺体が安置される部屋、霊安室。
本来であれば結末を迎えたあとは観測に徹しなければならないのだが······
「······ぐすっ。
膝を立て、祈るように泣き喚く哀那。······世界に観測されないようにしてるとはいえ霊前で喚くのはやめて欲しいところである。
そう思いながらも手を合わせ、黙祷を捧げる。来た以上はこれくらいはするべきだろう。
「······そしてどうか子どもたちの未来に幾許かの幸あれと、僕は願おう」
遺された者たちのレールはこの先にも続くのだから────