レベルが7に上がった。
朝日が昇り街の住民たちが起き出す時間、俺は宿屋のベッドの上で冒険者カードを見ながら腕を組んでいた。
うちのパーティーの戦術だと基本的にトドメはめぐみんが刺しているので、俺とダクネスはそんなに多くの敵を倒していない。
この前まではレベルは5だったので、先のキャベツ狩りでレベルが2もあがったことになる。
なんでこんなにレベルが上がってんだ……?
初心者殺しだとか白狼だとか、所謂中級モンスターを倒しても一しかレベルが上がらなかったり、なんならレベルが上がらなかった時もあったのに。
そもそもなんでキャベツに大量の経験値があるのだとか、倒していないキャベツの方が多いはずなのにとか色々突っ込みたいことはあるが考え出すと頭が痛くなりそうなのでまぁいいだろう。
この世界ではその辺気にしたら負けな気がする。
そんなこんなでキャベツのおかげで2もレベルが上がったため、現在のスキルポイントも増えて今は2となっている。
もう既にあらゆるスキルを持っているのだからスキルポイントなんて要らなくね?と思うだろうがそう簡単な話にはならない。
この世界のスキルというのは、追加補正というものが存在する。
例えば魔法。
上級魔法を習得するには、アークウィザードでも30ものポイントが必要だと言う。
では30ポイント貯めて上級魔法を習得すれば、他の強力な上級魔法使いに並べるのかと言われたら、そうではない。
上級魔法を習得すると、今度は上級魔法威力上昇や詠唱速度短縮、魔力制御といった補正スキルが開放されるのだ。
これら補正スキルには補正限界がなく、幾らでもポイントをつぎ込むことができるという。
そのため熟練の上級魔法使いと上級魔法習得したてでは天と地ほどの差があり、これが俺たちがまだアクセルの街から出ない理由でもある。
レベルが上がって手に入るポイントは一律一ポイント。
まだ全体的にレベルが低い俺たちは、スキルの補正や熟練度も低いため拠点を変えるのはもっと先になるだろう。
しかし才能によってはレベルがとても上がりづらくなるという。
俺は特典で才能を開花してもらっているため、当然レベルは上がりづらく、スキルポイントは貴重になっている。
スキルポイントを得られるポーションというのもあるそうだが、やはりとても高価で今の俺に手が出せるものでは無い。
なのでこの貴重なスキルポイントをどう振るか悩んでいるというわけだ。
そして色々と悩んだ末に、俺は得たスキルポイントを剣術向上と敵感知範囲拡大に振る。
攻撃手段はある程度確保出来ているため、接近された際のためと、三人の補助を目的としてこのスキルにポイントを振ったのだ。
火力はめぐみんの爆裂魔法で過剰ってほどあるし、防御方面はダクネスがいるし、回復はアクアがいる。
問題がないとは言えないが、何だかんだ良い仲間に恵まれたと思う。
そうしみじみと思っていると、隣のベッドで寝ていためぐみんが起き上がった。
最近漸く慣れてきたが、やはりこんな美少女と一つ屋根の下というのはとても心臓に悪い。
「…おはようございますカズマ。今朝は随分早いですね」
「おはようめぐみん。いつも通りじゃないか?よし、そらじゃ支度してギルドへ行こうか」
ーーーーーー
「ん、来たか二人とも」
「遅いわよ!ほら、早くキャベツの報酬を受け取りに行きましょ!」
俺とめぐみんがギルドへ到着すると、既に来ていたらしいアクアとダクネスが待っていた。
結構早い時間帯なのだが、ギルドでは先日のキャベツ狩りの報酬支払いが行われているためか冒険者達で酷く混雑している。
「おう、二人ともおはよう。お前ら早いなぁ」
「おはようございます。二人はもう報酬を受け取ったのですか?」
「いや、一旦二人を待ってからにしようという話になってな。アクアは待ちきれなくなったみたいだが」
そう言ってダクネスがアクアに視線を向けると、アクアは既に報酬受け取りの列に並んでいた。
「ねぇ皆、報酬はそれぞれがが手に入れた報酬そのままにしない?」
「俺は構わないけど二人はどうよ?」
「私も構いませんよ」
「うむ、各々で構わんぞ」
相当報酬が楽しみなようだ。
俺たちもアクアの様に列に並ぶ。
俺もかなりのキャベツを捕らえたから報酬はかなり期待できる。出来るが……
…というか、それよりも
「ダクネスさん、着やせするタイプなんすね……」
そう、今日のダクネスの恰好は黒のタイトなスカートに黒のタンクトップと革ブーツ。
そしてその恰好で背に大剣を担ぐ姿は、騎士というよりも戦士のそれだ。
先日のキャベツ狩りでとうとう鎧が壊れ、今は修理に出しているらしい。
まあダクネスとパーティーを組んでまだ三日目、これまでは知らないが初日なんかゴブリンにもみくちゃにされてたのだ。
逆によくもった方なんじゃないだろうか。
そんな理由で薄着になっているダクネスに、俺は敬語になってしまった。
ダクネスは締まるところは締まり、それでいて全体的にムチっとした身体。
そう、俗にいうエロい身体付きってヤツだ。
俺の超好みドストライク。
つい隣にいるめぐみんと比較してしまい、その体つきが尚更目立つ…!?
「おい、今私をチラ見した理由を聞こうじゃないか」
俺がダクネスと比較したのに気付いたのか、めぐみんが額に青筋を浮かべて詰め寄ってくる!
「意味はないさ。ただ、現実は余りにも残酷なんだなって思っただけだよ」
「紅魔族は売られた喧嘩は必ず買う種族です。よろしい、その喧嘩、買おうじゃないか!」
俺が素直な感想を述べるとめぐみんが掴みかかってきた!
めぐみんが俺のマントをグイグイ引っ張り外へ連れ出そうとするが、
「落ち着けめぐみん!というか、カズマも煽るんじゃない!」
ダクネスに止められ諦めためぐみんが、悔しそうに俺のマントから手を離した。
そんな風にアホなやり取りをしていると、いつの間にか列に並ぶ冒険者も少なくなり、俺たちが報酬を受け取る番となった。
ーーーーーー
俺、めぐみん、ダクネスの換金が終わり、俺たちはギルドのテーブルで食事を取っている。
一番早く並んだはずのアクアはまだ換金が終わっていないらしく、未だに窓口に張り付いていた。
「にしてもアイツまだ換金終わらないのか?」
「流石に遅いですね。でもアクアはかなりの量を納品していましたし、もしかしたら報酬が嵩みすぎているとか?」
確かに、収穫量は俺に次ぐくらい大量のキャベツを捕まえていた。
それは大半の時間一人マイペースにキャベツを追いかけていたからで、もしかしたら本当に報酬が多く、手こずっているのかもしれない。
そう思ってアクアの方に視線をやると…。
「なんですてぇぇぇぇぇ!?ちょっと、貴女どういう事よっ!!」
ギルドにアクアの声が響き渡った!
「何で五万ぽっちなのよ!あんた、どれだけキャベツ捕まえたと思ってんの!?」
「そ、それがも申し上げにくいのですが…」
「何よ!」
「……アクアさんが捕まえてきたのは、ほとんどがレタスでして…」
「なぁんでレタスが混ざってんのよ!」
会話の内容を聞くに、どうやら報酬額が納得のいくものではなかったらしい。
受付のお姉さんに掴みかかっていたアクアが、諦めたのかこちらににこやかな笑みで近づいてきた。
「カーズーマーさん!今回のクエストの報酬は、おいくら万円?」
「…二百万ちょい」
「「「にひゃっ!?」」」
アクアとダクネス、めぐみんが絶句する。
そう、俺は降って湧いた突発クエストで結構な額が稼げた。
なんでも俺の収穫したキャベツはその殆どが質が良く、沢山の経験値が詰まっていたそうだ。
これも幸運値による恩恵というものだろう。
「カズマ様ー!前から思ってたんだけれど、あなたってその、そこはかとなく良い感じよね!」
「…ほう?何がどう良い感じなのか詳しく」
「えっと、その、ほら!自分の力じゃない癖に威張ってるところとか!」
……。
「喧嘩売ってんなら買うぞコラ。言っとくがこの金は、もう使い道決めてるからな」
先手を売った俺の言葉に、アクアの笑顔が凍り付いた。
「カズマさああああああん!私、クエスト報酬が相当な額になると踏んで、この酒場に十万近いツケがあるの!今回の報酬じゃ足りないのよ!ねえ助けてよカズマさん!」
半泣きで縋りついてくるアクア。
俺を煽ったときもそうだが、どうしてこいつはこう、後先を考えずに動くんだろう。
キャベツに泣かされそうになった事と言い、酒を浴びるほど飲んで路地裏でダクネスのお世話になった事と言い、コイツは本当に女神としてそれでいいのか?
「というか、私が超苦労してあげたチートで美味しい思いしてるんだからちょっとくらい助けなさいよこのクソチート!」
「お前このクソビッチが!そもそもお前が俺を煽らなかったらそんな苦労しなかったのを忘れてねぇだろうな!」
「で、でもでも!それで良い思いしてるじゃない!」
…ぐ、確かにそれを言われたら痛い!
「ねぇお願いよぉ!ツケ払う分だけでいいから!」
「ああもう!しょうがねぇなぁ!」
ーーーーーー
「それで、今日はどんなクエストを請けるか決めているの?」
ツケを払い終え、文無しになったらしいアクアが突然そんなことを言ってきた。
そうだ、キャベツの報酬やらで忘れていたが、今日受けるクエストについて話そうと思っていたのだった。
「ああ、とりあえず今日はアクアのレベルがまだ一だからレベル上げをしようと思う。だから一撃熊とかじゃなくていつもよりは簡単なクエストかな」
全体的なレベル上げが必要だと思った俺は、昨日から考えていたことを伝えるとアクアが心得たとばかりに頷く。
俺もまだレベルは低いが、アクアはまだレベル一。
流石にレベル上げが必要だと思い、今日はアクアのレベル上げを兼ねたクエストを請けようと考えていたのだ。
俺の提案を聞いたアクアが、人差し指を口に当て考える動作を取ると……。
「それじゃあ、さっきダクネスと見てて見つけた、ジャイアントトードが繁殖期に入って街の近場まで出没しているから、それを……」
「「カエルはやめよう!/やめましょう!」」
言いかけたアクアに、強い口調で俺とめぐみんは拒絶した。
「…どうして?カエルってば刃物が通りやっすくて倒しやすくて、攻撃方法も舌を使った捕食だけだって聞いて美味しいモンスターって聞いたんですけど」
「あー…カズマとめぐみんはカエルに食べられかけた経験があるからトラウマになってるのだ。頭からパックリいかれて粘液まみれにされたらしい‥‥あ、頭からパックリ……。粘液まみれ‥‥」
ダクネスが俺たちの惨状をアクアに説明してくれると、粘液まみれになった俺たちを思い出してか少し顔を赤らめた。
「……お前ちょっと興奮したろ」
「してない」
突然発情しだしたメス豚に、トラウマを思い出すのも忘れて疑惑の視線を向ける。
ダクネスは目をそらし、赤い顔でもじもじしながらも否定するが…。
…こいつ一人で勝手にカエル狩りに行かないだろうな?
「……話を戻すが、アクアのレベル上げができるクエストを請けたい。クエストの掲示板見に行ったんだろ?何か良さげなのないか?カエル以外で」
「ふむ……。そういえば先程見た中に共同墓地にあるアンデッドモンスターの討伐というクエストがあった。それはどうだろう?」
おお、これまたなんて都合のいい。
アークプリーストのアクアにとって直接退治できるアンデッドが相手というのは、これ以上ないほどに絶好なレベルアップの機会だ。
ただ……、
「ダクネスは鎧が戻ってきてないけど大丈夫なのか?流石にその格好で壁役は心配なんだが……」
「うむ、私なら問題ない。伊達に鎧なしでもアダマンマイマイよりも硬い自信がある。それに鎧無しの方が殴られた際気持ちいいからな」
……。
「……お前今、殴られたら気持ちいいとか言ったか?」
「言ってない」
「言ったろ」
コイツどんどん遠慮が無くなってきたな……。
いやまぁ別に良いんだけどさ。
「言ってない。後はアクアにその気があるかだが……」
「もちろん良いわよ!アンデッドの浄化なんて、中々この私に相応しい仕事じゃないかしら!アクア様に任せなさい!」
そう言ってアクアは満足そうに言ったのだった。
ーーーーーー
「それで?カズマは私を連れてどこへ行こうと言うのですか。いい加減教えて欲しいのですが……」
俺達は共同墓地にいるアンデッドの討伐依頼を請けた。
しかし、請けたはいいもクエスト開始は夜のため、一旦日が落ちるまでは自由時間とし一時解散にしたのだ。
俺達が歩いているのはアクセルの商店街。
中でも今いるのは冒険者がよく使う商品が並ぶエリアである。
「ほら、金もかなり入ってきたからさ。装備の方を更新しようと思って」
言いながら俺はこの前めぐみんと来た杖が売っている店に入った。
「装備の更新、ですか?…あの、もしかして、この前オススメしたの、あんまり合いませんでした?」
「ああ、いやそういうことじゃなくて!今日はめぐみんにこれを渡そうと思ってたんだ」
勧めた杖が合わなかったと勘違いしためぐみんが不安そうな顔を作る。
今日は喜んで欲しくてここに来たのにそんな顔を作らせてしまった俺は、少し慌てつつ目当ての杖を手に取った。
「これは!?」
俺が手に取ったのは、この前めぐみんとこの店に来た時めぐみんが欲しそうに見ていたスタッフタイプの杖だった。
「この前めぐみん、これ欲しがってただろ?もちろんタダで渡すわけじゃない。これから強敵を倒して報酬を得た時すこしずつ返してくれればそれでいい」
「ほ、本当にいいんですか?」
「俺が欲しいのは最強の火力を持つアタッカーだ。そして、ここには最強のアタッカーを更に最強にする魔法の道具がある。そんなの、手が届くなら最高のアタッカーに渡したいだろ?」
まだ駆け出しの俺たちではとても高価なものであるそれは、めぐみんからすればそう簡単に受け取れるものではないのだろう。めぐみんの瞳には期待と、申し訳なさが映っていた。
本当に受け取っていいのか考えているのか、俺の持つ杖に手を伸ばすも直ぐにひっこめるのを繰り返している。
しかしだ。
俺達はこれから新気鋭の冒険者として必ず凄腕になる。ならばこの先きっとこれ以上の装備や金が入ってくる。だからこそこの程度のものは、使い捨てられるぐらいになるべきだ。
めぐみんは俺に役割を任せすぎていることを気にしていた。
しかし、俺はめぐみんの攻撃力を頼りにしているため、本当に特に気にする必要はない。
確かに俺は万能で大抵のことは出来る。だが、俺一人では限界があるし、自身の特性を伸ばしたヤツには勝てない、言うなれば器用貧乏だ。
だからこそ爆裂魔法という、ある種極まった攻撃火力を持つめぐみんがそんなことを気にする必要はないのだ。
しかし、それでも気にしてしまうというのなら、その火力を更に高め、そんな考えなど消し飛ばせる程に強力な力を得てくれればいい。
俺はそう考え、めぐみんにこの杖を渡したいのだ。
「俺が倒れるのが怖いっていうならさ、俺にもできない、最高の火力で俺を守ってくれ」
俺がそういうと、悩んでいためぐみんは遂に俺が差し出した杖を掴んだ。
「…励ましの言葉が実にカズマらしいですね。…任せてください!この杖で、カズマを強敵達から守って見せましょう!」
俺から杖を受け取っためぐみんは、満面の笑みを浮かべてそう答えた———。
——————
街の喧騒も静まり、段々と灯りが消えていく時間。
俺たちは街から外れた丘の上に来ていた。
ここにはお金のない人や身寄りのない人がまとめて埋葬される共同墓地がある。
基本的にこの世界の埋葬方法は土葬だ。
そのまま土に埋めるだけ。
そりゃあアンデッドが生まれやすくて当然だろう。
今回受けたクエストは共同墓地に湧くアンデッドモンスターの討伐。
先ほどまでキャンプをして夜を待っていた俺たちは、心胆を寒からしめる異様な気配に固唾を飲んでいた。
「……ねぇカズマ、本当にギルドからの情報ってゾンビメーカーの討伐なのよね?私、そんな小物じゃなくて大物のアンデッドが出てきそうな予感がするんですけど」
俺たちが墓場の目前までやってきた時、アクアがそんなことをぽつりと呟いた。
今回引き受けたのはゾンビメーカーと呼ばれる雑魚モンスターの討伐だ。
ゾンビを操る悪霊の一種で、自らは質のいい死体に乗り移り、手下代わりに数体のゾンビを操るという、アクアのレベル上げにもってこいな敵のはずなんだが…。
「……あんまそういう事言うなよ。それがフラグになるんだからな。さっきも言ったが俺の敵感知に引っかかったら敵を確認、もし想定外のイレギュラーが起こったら即刻撤退。いいな?」
俺の言葉にパーティーメンバーがこくりと頷く。
俺は敵感知スキルをフルに使用して共同墓地の気配を模索した。
アクアが言った一言が気になるが、ここは駆け出し冒険者の街。
流石にそんな大層な敵はいないだろう。
……いないはずだ。
…………ん?
「敵感知に反応があるな。だが、数が多い。五体、六体、七体、八体…?」
そこには十を超えるゾンビの気配があった。
数が多いな。
ゾンビメーカーって取り巻きのゾンビは精々三、四体って聞いていたんだが。
聞いていた数の倍はいる。
想定以上の敵の量にいぶかしんでいると、墓場の中央で青白い光が走った。
…なんだ?
それは、怪しくも幻想的な青い光。
遠くに見えるその青い光は、大きな円形の魔法陣だった。
その魔法陣の隣には、紫のローブを来た人影が…。
「……あれ?ゾンビメーカーではない、気がするのですが………」
先ほどまで杖に頬擦りして変態みたいになって俺をドン引きさせていためぐみんがポツリと呟いた。
「突っ込むか?ゾンビメーカーじゃなかったとしても、こんな時間に墓地にいる以上アンデッドに違いはないはずだ。アークプリーストであるアクアがいれば問題ない」
大剣を構えながらダクネスがソワソワした様子で提案してくる。
いや待てお前は落ち着け。
鎧もないのに突っ込もうとしているダクネスに俺が引いているその時、アクアがとんでもない行動に出た。
「あ————————————っ!?」
突如叫んだアクアは何を思ったのか立ち上がり、そのままローブの人影に走り出す。
「ちょっ!おい待て!」
俺の静止も聞かずアクアは走り出す。
そのままアクアはローブの人影に駆け寄ると、ビシッと人影を指さした。
「リッチーがノコノコこんなとろに現れるとは不届きなっ!成敗してやる!」
リッチー。
それは、超がつくほどメジャーなアンデッドモンスターで、ノーライフキングと言われ畏れられている最上位のアンデッドにして、アンデッドの王。
魔法を極めた大魔法使いが、魔道の奥義により人の身体を捨て去った存在だ。
強い未練や恨みでアンデッドになってしまったモンスターとは違い、自らの意志で自然の摂理を捻じ曲げ、世界の理から外れ神々の敵対者となった存在だ。
その、ラスボスや裏ボス級の超大物モンスターが……。
「や、やめやめ、やめてええええええええ!誰なんですか?突然現れてなぜ私の魔法陣を怖そうとするんです!?やめて!やめてください!」
「うっさい、黙りなさいこのクソアンデッド!どうせこの妖しげな魔法陣でろくでもないこと企んでるんでしょ、なによこんな物!こんな物!!こうしてやるわ!」
超大物モンスターが、ぐりぐりと魔法陣を踏みにじるアクアの腰に泣きながらしがみつき、食い止めている。
ええ…?
リッチー?の取り巻きのアンデッド達は、そんなもみ合う二人を止めるでもなく、ボーッと眺めている。
……えーっと、どうしよう。
アクアは絡んでいる相手をリッチーだと言い張っているが、なんだかリッチーというよりチンピラに因縁つけられてるイジメられっ子にしか見えない。
「やめてー!やめてください!この魔法陣は未だ成仏できない迷える魂たちがを天に還してあげるための物です!ほら、たくさんの魂達が魔法陣から空に昇っていくでしょう!?」
リッチー(?)の言う通り、どこから集まってきたのか、青白い人魂の様な物がふよふよと魔法陣に入ると、そのまま魔法陣の青い光と共に天へと吸い込まれていく。
「リッチーのくせに生意気よ!そんな善行はアークプリーストのこの私がやるんだから、あんたは引っ込んでなさい!そんなちんたらやってないでこの共同墓地ごとまとめて浄化してやるわ!」
「ええっ!?ちょ、まっ」
リッチーの静止を構いもせず、アクアは手を広げ大声で叫ぶ。
「『ターンアンデッド』!」
墓場全体がアクアを中心に白い光に包まれた。
アクアから湧きだすようにあふれる光が、リッチーの取り巻きのゾンビに触れるやいなや、ゾンビたちが掻き消える様にその存在を消失させる。
リッチーの作った魔法陣の上に集まっていた人魂も、アクアの放った光を浴びて居なくなった。
その光はもちろんリッチーにも及び…。
「キャー!か、身体が消える!?う、嘘でしょ…!?止めて、止めてください!私の身体がなくなっちゃう!!成仏しちゃううううっ!」
「あっはははははは、愚かなるリッチーよ!世界の理に反し神の意に背くアンデッドよ!さあ、私の力で欠片も残さず消滅してしまいなさい!」
アクアはヤクザの様な顔で高笑いを始める。
「おい、やめてやれ」
俺はアクアの背後に立つと、その後頭部を剣の柄でこすっと小突いた。
「ッ!?い、いったいじゃないの!あんた何してくれんのよ!」
後頭部を強打され集中が途切れたアクアは、白い光を放つのを止めて頭を抑えながら俺を涙目で睨めつける。
さっきからこんなにされて敵感知に反応がない。話も通じるみたいだし、こんないきなり倒しちゃうのは流石に人として良くない気がする。
そもそも何をしていたか詳しくも聞きたいしな。
ダクネスとめぐみんもやってきたところで、俺は掴みかかってきたアクアを無視し、震えながら蹲るリッチーに声をかけた。
「お、おいあんた大丈夫か?えっと、リッチー…ってことでいいのかな?」
見るとリッチーの足元は半透明になっていて、軽く消えかかっている。
やがて徐々に半透明になっていた足がくっきり見えるまでもどり、涙目のリッチーはフラフラしながらも立ち上がった。
「だ、だ、大丈夫です…。危ないところを助けていただきありがとうございました……っ!えと、おっしゃる通り、リッチーです。リッチーのウィズと申します」
言って目深に被っていたフードをあげると、現れたのは月明りに照らされた二十歳くらいの人間にしか見えない、茶色い髪の美女だった。
リッチーっていうからには骸骨みたいのを想像していたんだが。
ウィズは紫色のローブに身を包み、さながら悪の魔法使いといった恰好だ。
いや、リッチーなんだから悪の魔法使いでいいのか?
「えっと…。ウィズ?なんであんたはこの墓地で魂を天に還してるんだ?アクアじゃないが、リッチーのあんたがやることじゃないと思うんだが」
「ちょっとカズマ!こんな腐ったミカンみたいなのと喋ったらあんたまでアンデッドが移るわよ!ちょっとそいつにターンアンデッドかけさせなさい!」
俺の言葉にアクアがいきり立ち、ウィズに魔法をかけようとしている。
ウィズが俺の背後に隠れ、怯えた様な顔をしながら…
「その、私は見ての通りリッチー、ノーライフキングなんてやってます。そのおかげかこの共同墓地に埋葬されている現世に縛られ、苦しむ魂たちの声が聞こえるんです。それでその、成仏したくても出来ないこの子達に何か出来ないか考えたところ、こうして定期的にここを訪れ、天に還りたがっている子達を送ってあげているんです」
…ほろりときた。
この人めちゃくちゃ良い人じゃないか。いや、人間ではないんだけどさ。
「それは人として正しすぎて善い行いだとは思うんだが…。そういうのってこの街にいる人間のプリーストとかがやってくれるもんじゃないのか?」
俺の疑問に、ウィズが言いにくそうに今もなお威嚇し、直ぐに攻撃ができる態勢をしているアクアをちらちらと見ながら。
「そ、その…。この街のプリーストさんたちは、拝金主義…いえその、現実的な事を重視しているといいますか、その…」
アークプリーストのアクアがいるので言いにくいのだろう。
「あー…つまり、この街のプリーストは金にがめついやつがほとんどで、こんな金のない連中が埋葬されている共同墓地なんて、供養どころか寄り付きもしないって事か?」
「えっと……その、そういうこと、です」
その場にいる全員の無言の視線がアクアに集まる中、当の本人はばつが悪そうに目をそらす。
「それならしょうがないと思うが…。でも、ゾンビを起こすのはどうにかならないのか?
俺たち、ゾンビメーカーを討伐してくれって依頼を受けてここにきたんだけど」
俺の言葉にウィズは困った表情を浮かべる。
「あ……そうでしたか。その、呼び起こしている訳じゃなく、私がここに来るとまだかたちが残っている死体は私の魔力に反応して勝手に目覚めちゃうんです。…その、私としてはこの墓地に埋葬される人たちが天に還ってくれれば、ここに来る理由もなくなるんですが…………ど、どうしましょう?」
——————
墓地からの帰り道。
「やっぱり納得行かないんですけど!」
アクアは未だに怒っている。
時刻は既に空が白みがかっている時間帯だ。
「しょうがないだろう。つか、あんな良い人討伐する気にはなれないだろうに」
俺たちは結局、あのリッチーを見逃すことに決めた。
この街にいる間は暇を持て余したアクアが、定期的にあの墓地に浄化に行くという事で折り合いがついた。
そこは腐っても女神、アンデッドや迷える魂の浄化は自分の仕事だと理解しているらしい。
睡眠時間が減るとか駄々をこねていた気がするが、気のせいだろう。
モンスターを見逃すということで若干不満があっためぐみんとダクネスも、ウィズが今までに人を襲ったことがないと知り、見逃すことに同意してくれた。
俺はウィズに渡された一枚の紙切れを眺めながら呟く。
「しかし、リッチーが街で普通に生活してるとか、この街の警備はどうなってんだか」
それは、ウィズの住んでいる住所が書いてある紙。
あのリッチーはアクセルの街で普通に住人として暮らしているらしい。
これでは魔王軍のスパイとか入り放題なんじゃないか?
そう思ったが、よくよく考えてみると冒険者カードなんていう身分用の魔道具とか、敵感知スキルとかがあるし問題はないのかもしれない。
敵感知スキルは向こうに敵意がない限り反応はしないが、少しでも敵意があれば反応がある。
いくら凄腕のスパイでも一切の敵意なくもぐりこめる存在は少ないだろう。
居たとしても嘘を見抜く魔道具があると聞いたことがある。大事な場所とかはそういう身分証明専用の魔道具があるからスパイとかに関しては特に心配ないのか?
なり手が少ないという盗賊職に重要性が高すぎる気がする…。
「でも、穏便に済んで良かったです。いくらアクアとカズマがいると言っても相手はリッチー。もし戦闘になっていたら私は死んでいたかもしれません…」
ホッと息を吐いためぐみんの呟きに、俺はぎょっとする。
「や、やっぱリッチーってそんなに危険なモンスターなのか?」
「危険なんてもんじゃないです。リッチーは結界を除く魔法防御、魔法の掛かった武器以外の物理攻撃の無効化。触れるだけで様々な状態異常を引き起こし、無限にアンデッドを生み出す。果ては魔力や生命力を吸収する伝説級のアンデッドモンスター。個体によってはその圧倒的な魔法能力から魔王の幹部すら単独で連続撃破を可能とする怪物がいたとか…。むしろ、アクアのターンアンデッドが効いたことが不思議でたまりません」
俺は無駄に敵対しなくてよかったと心の底からホッとする。
そうだよな、アンデッドモンスターの元締めみたいなもんだもんな。
レベル一でもアクアは女神、その圧倒的な神聖の力でリッチーの浄化も可能だったかもしれないが、もし本気の戦闘になっていたら本当に危なかったかもしれない。
リッチーのスキルを教えてほしいと頼んだら快く引き受けてくれたから、喜んで名刺をもらったが…。
スキルを習いに行くときは、必ずアクアを連れて行こう。
「カズマ、そのもらった名刺、渡しなさいよ。ちょっとあの女より先に家に行って、家の周りに神聖な結界張って涙目にしてくるから」
「や、やめてやれよ…」
どうしてコイツはこんな性格の悪いことをしようとするんだ…。
俺がそんな事を考えていると、ダクネスがポツリと言った。
「そういえば、ゾンビメーカー討伐クエストはどうなるのだ?」
「「「あっ」」」
それはこの世界に来て初めてのクエスト失敗であった。
あんま納得のいく内容じゃなかったけど、これ以上時間かけると永遠に投稿しなくなる気がしたので泣く泣く投稿。
改稿する際大幅に内容変わるかも
ちなむと魔王軍幹部の能力は大幅に盛られています。もちろんウィズも