IFすば   作:来世カズめぐ部屋の観葉植物になりたい者

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第十話 この不浄な湖に女神の浄化を!

「…あれ?何だこれ、依頼が殆ど無いじゃないか」

 

ウィズと出会ってから数日後。

ダクネスの装備も修理から返ってきた。

めぐみんも新調した杖をモンスター相手に試したい。

アクアはシンプルに金が欲しい。

ということでクエストを受注しようと、朝食を先に取り終えた俺とダクネスで掲示板を見に来たのだが…。

普段は所せましと張られている大量の依頼の紙。それが、今は数枚しか張られていない。

しかも…。

 

「山に出没するブラックファングという名の巨大熊の討伐…マンティコアとグリフォンの討伐…ルーシーゴーストの討伐…安楽王女の討伐……何だよこれ!高難易度のクエストしか残ってないぞ!」

 

そう、残されているのは冒険者達がこぞってやりたがらない所謂塩漬けクエストと呼ばれるものしか無かったのだ。

これらは難易度の割に報酬が見合わなかったり、高難易度過ぎてそもそも駆け出し冒険者では不可能であったりと様々な理由から冒険者達が誰もやりたがらず放置されているのである。

この数日酒場で他の冒険者達から情報収集をして色々とクエストの情報を収集していたのだが、ものの見事に残っているのは受けたら命が幾つあっても足りないと忠告されたものばかりであった。

 

「いや、めぐみんの爆裂魔法があるのだ。相手が一体ならば可能性がある。なに、鎧だって新調したし、モンスターの攻撃はこの私が全て引き受けるから気にする必要はない!だからこの、ブラックファングの討伐を受けよう!」

「本音は?」

「一撃熊以上の攻撃とか楽しみが過ぎるだろう!」

「却下だ却下!」

 

この変態はどうしてこういつもブレないのだろうか。

ブラックファングの生息地は山、爆裂魔法なんて使えないし使えたとしてもそれで土砂崩れが起こったら大変だ。

そもそもまだ俺達は低レベル、誰が好き好んで上級冒険者達ですら死の危険性がある高難易度クエストを受けないといかんのだ。

そんな俺達のもとに、ギルド職員がやってきた。

 

「ええと…申し訳ありません。最近魔王軍の幹部らしき者が街の周辺で目撃されまして…その影響か、この周辺の大半のモンスターが隠れてしまい、仕事が激減しております。最低でも来月には討伐隊が派遣される予定ですので、それまではここに残っている高難易度のお仕事しか…」

 

「魔王軍の幹部…?そういやこの前王都の方で魔王の幹部に動きがあったって聞いたな…」

 

そんな最前線にいるような大物がここにやってきたのか?

なんだって態々前線から離れて少数でこんなチュートリアル的な街に、ゲーム終盤に出てくるような魔王軍の幹部なんていうビッグネームがやってきたのか。

はた迷惑もいい所である。

 

「はい、目撃情報によると王都で魔王軍を率いていた幹部ではないかと言われていまして……。本当に何故でしょうね?あのレベルの存在が辺境まで、しかも少数で動くとなると、魔王を倒す勇者か、はたまた神が光臨したかぐらいの事態じゃないとないはずなのですが…」

 

お姉さんの言葉に俺は少し嫌な予感を感じた。

めぐみんと共に朝食をとっているアクアの方を見る。

光臨してますやん、駄が付くがガチの女神様が。

 

「ま、まあなんにせよ、一ヶ月待てば騎士団が来るってなら問題ないな!それまではちょっと長い休暇にしよう!」

 

今のところ無理してクエストを受ける必要は俺達にはない。

杖の購入で結構使ってしまったが、それでもまだ懐に余裕はある。

幾らスキルや能力が高くても、俺達みたいな低レベル冒険者では、魔王の幹部なんて相手と戦ってもまだ勝負にはならないだろう。

 

 

――――――

 

 

クエストが無くなったことで他の冒険者達もやってられないとばかりに普段より多くの冒険者が、昼間から飲んだくれている。

 

俺はその中で昼間から酒を飲んで駄弁っている、相席している男の話を聞いていた。

俺はといえば酒ではなく、男と向かい合いながらネロイドのシャワシャワを飲んでいる。

酒をあまり飲まない奴らがよく飲んでいたので、俺も飲んでみたのだが…

うん、分からん。

美味いのか美味くないのかよくわからんが、飲んだ後シャワシャワしたことからシャワシャワの意味は分かった。

炭酸でもないのになんでシャワシャワするんだとか、このシャワシャワかんがどうしても表現できないだとか色々言いたいことはあるが、それは置いておく。

俺はネロイドを飲み干してテーブルに置き…。

 

「魔王の幹部ねぇ。物騒だけど、俺達には縁の無い話だよな」

「違いねぇ」

 

目の前の男が俺の言葉に笑いながら同意した。

やってきた幹部のせいで仕事ができず、飲んだくれている冒険者を捕まえ話を聞くと、色々と面白いことを教えてくれる。

 

どこそこで危険なモンスターをみかけたから、暫くはあのあたりでクエストは受けない方がいいとか。

あのモンスターは柑橘系の果物の汁を身体につけておくと匂いを嫌って寄ってこないだとか。

こうした情報収集はゲームにおいて最も大事なフラグ回収作業だ。

酒場でのこういった会話は如何にも冒険者っぽくて心地よい。

そうして感慨に耽っていると、向かいにいる冒険者が言った。

 

「ま、何にせよ街から南にある廃城には近づかない方がいい。幹部ってからにはオーガロードやヴァンパイア、はたまたアークデーモンかドラゴンか。いずれにしても俺達が会ったら瞬殺されるような化け物が住んでいるのは間違いない。お前さんも気を付けろよ?」

 

 

――――――

 

 

俺は他の冒険者達から幹部についての情報を得て戻ってくると、アクアとめぐみんとダクネスが、テーブルの真ん中に置いた、コップにさした野菜スティックをぽりぽりかじっている。

 

「全く……!何でこのタイミングで引っ越してくるのよ!幹部だか何だか知らないけど、もしアンデッドなら見てなさいよ!」

 

そう言ってアクアは野菜スティックをかじりながらバイト雑誌のページをめくっている。

 

「これに関してはアクアに完全同意だな。全くやってられっかての」

 

そう言って俺も一本貰おうと野菜スティックに手を伸ばす。

 

クイッ

 

野菜スティックが俺の伸ばした手から逃れるように、ひょいと身をかわした。

 

……は?

 

「何やってんのよカズマ」

 

アクアがテーブルをバンと叩くと、野菜スティックがビクリとはねる。

一瞬動かなくなった野菜スティックを、アクアが一本つまんで口に運ぶ。

 

「魔王軍の幹部が少数で来ているということは討伐の絶好のチャンス。王都より直ぐに騎士団や腕利きの冒険者が来ると思うので、また直ぐに仕事は再開できるはずです」

 

めぐみんが拳を握ってテーブルをドンと叩き、ひるませた野菜スティックをつまみ、口に運んだ。

 

「仕方のないことだろう。まあめぐみんの言う通り幹部討伐の絶好の機会だ。直ぐに討伐隊が派遣されるさ」

 

ダクネスがコップのフチをピンと指で弾き、そのまま野菜スティックを指で摘まむ。

 

「なるべく早くいなくなって貰いたいもんだなぁ。こっちも早くクエストを受けられる様に…?」

 

言いながら俺は番とテーブルを叩くと、野菜スティックに手を……。

 

ヒョイッ。

 

「………………だああああああらっしゃああああああああああああああああああ!!」

「やめてえええ!私の野菜スティックに何すんの!食べ物を粗末にするのはいくない!」

 

俺は野菜スティックを掴み損ねた手で、今度はスティックが入ったコップごと掴むと、それを壁に叩きつけようと振りかぶるが、半泣きのアクアにてを掴まれる。

 

「野菜スティックごときに舐められてたまるか!てゆーか何で野菜が逃げるんだよ!ちゃんと仕留めたやつを出しやがれ!」

「何言ってんの。お魚も野菜も新鮮な方が美味しいでしょう?活き作りって知らないの?」

 

こんな活き作りがあってたまるか。

俺がそう憤っていると、めぐみんが肩を叩いてきた。

どうしたのかと振り向くと、いつの間にか野菜スティックを手に持っていためぐみんが…。

 

「ほらカズマ。はい、あーん」

 

………………パクッ。

 

顔を真っ赤にして何も言えなくなった俺は、無言でめぐみんが差し出してきた野菜スティックを、そのまま口で受け取る。

その様子を見て、アクアとダクネスがニヤニヤしている。

 

や、やめてくれよ…。

 

「カズマが怒るのも無理ありません。どうでしょう?頭を冷やすのもかねて散歩にでもでかけませんか?」

「行きます」

 

 

――――――

 

 

「もうその辺でいいだろ?適当に撃って帰んないか?」

 

俺はめぐみんの誘いに乗り、街の外へと出ていた。

デートの誘いかとうっきうきで乗ったのだが、後々話を聞くと、単純に爆裂魔法を撃つ日課の手伝いだったのだ。

今まで毎日クエストを受けていたから知らなかったのだが、こいつは、一日に一度、必ず爆裂魔法を放つ事を日課にしているらしい。

そういえば仲間になった時そんなこと言っていた気がする。

あんな空気で散歩の誘いとかデートだと思うじゃん!童貞の純情を弄びやがって!

こいつは将来男を転がす魔性の女になる。

さっきの誘い方を思い出して俺は確信した。

甘酸っぱい展開など無かったと嘆きながら、俺は街からちょっと出た所で、めぐみんに爆裂魔法を放つよう促した。

 

「ダメなのです。街から離れた所じゃないと、また守衛さんに叱られます」

「今お前、またって言ったな。音がうるさいだとか迷惑だって怒られたのか」

 

俺の言葉にめぐみんがコクリと頷く。

しょうがない、幹部が住み着く城は南にあるっていうし、反対方向に行けばまあ大丈夫だろう。

 

思えばこの世界に来てから、こうして外をぶらぶらする事はあまり無かった。

出歩くとしても、それはクエスト絡み。

こうしてのどかに散歩するなんて事は……。

 

「……あっ、ありました。あの廃城です!この前守衛さんにあの廃城はもう使われないから撃っていいと言われたのですよ」

 

遠く離れた丘の上。

そこにぽつんと佇む朽ち果てた古い城。

それは、まるでお化け屋敷みたいな…。

 

「薄気味悪いなあ……。北にも城があるなんて知らなかった。なんか、お化けでも住んでそうな……」

 

俺の呟きに、

 

「早速いきますよ!折角なので、盛大に破壊してやります!!」

 

そう言って、ウキウキと魔法の準備をするめぐみん。

心地よい風が吹く丘の上。

のどかな雰囲気には場違いな、爆裂魔法の詠唱が風に乗った……!

 

 

…………こうして、俺とめぐみんの新しい日課が始まった。

 

文無しのアクアは、毎日アルバイトに励んでいる。

ダクネスは、しばらく実家で筋トレをしてくると言っていた。

特にやることのない俺とめぐみんは、その廃城の傍へと毎日通い、爆裂魔法を放ち続けた。

折角の散歩の機会なので、帰りはテレポートを使わずに帰っている。

……役得と思っているのは内緒だが。

 

それは寒い、氷雨の降る夕方…!

「『エクスプロージョン』ッッ!!」

それは、穏やかな食後の昼下がり…!

「『…プロージョン』ッッ!!」

それは、早朝の爽やかな散歩のついでに…!

「『……ジョン』ッッ!!」

 

どんな時でもめぐみんは、毎日その廃城に魔法を放ち…。

めぐみんの傍らで魔法を見続けていた俺は、その日の爆裂魔法の出来が分かるまでになっていた。

 

 

「…………『エクスプロージョン』ッッッ!!!」

「おっ、今日のはいい感じだな。爆裂の衝撃がずんと骨身に浸透するかの如く響き、それでいて肌をなでるかのように空気の振動が遅れてくる。……ナイス爆裂!」

「ナイス爆裂! ふふっ、カズマも爆裂道が段々分かって来ましたね。どうです? カズマもいっそ、爆裂魔法を覚えてみては?」

 

あっ、そういえば、俺が爆裂魔法を習得していることって、まだめぐみんに言ってなかったけ。

今の魔力総量的に撃ったら結構ギリギリになるな…。

うーん。

 

「よし、めぐみん。ちょっと杖貸してくれないか?」

「別にいいですが…突然どうしました?」

「まあ見とけって」

 

怪訝そうにこちらを見るめぐみんから杖を借り、俺はとある魔法の詠唱を始めた。

 

「…!!??ど、どういうことですか!?!!???カズマ、どうして貴方がその詠唱を…!?」

 

驚愕して震えているめぐみんに俺は不敵な笑みを浮かべると、いつもめぐみんが目標にしている城に向かって、魔法を唱えた――!

 

「『エクスプロ―ジョン』ッッ!!!」

 

 

必要な魔力を最低限しか込めていない俺の爆裂魔法は、めぐみんのソレより一回り小さい爆発を起こし、丘の上に立つ廃城に直撃した。

 

…とと、ぐ、魔力の残りが本当にギリギリだな……。

 

「あ、あのカズマ…。もしかして私はいらない子ですか?カズマが爆裂魔法を使えるなんて知りませんでした…」

「え?あ、いやいや!そんなことはないぞ!俺の爆裂魔法じゃせいぜいめぐみんの四、五割程度しか威力でないし、うちのパーティーの最高打点はめぐみんしかいないんだから」

 

不安にさせるつもりは全くなかったのだが、失敗してしまった。

そうだよな、爆裂魔法のみのめぐみんからすれば、色々できる上に自分が出来る唯一のことまで俺が出来てしまったら不安にもなるよな。

 

「前にその杖を渡したとき言っただろ?俺が欲しいのは最強の火力を持ったアタッカーだって。なのに俺がお前を手放すわけないだろ?」

「ええ、そうでしたね」

 

俺がそう言ってめぐみんを背負うと、めぐみんは安心したように言って俺の背中に顔を埋めた。

……なんかとても小恥ずかしいな。

 

「それで、俺の爆裂魔法はどうだった?」

「もちろん最っ高でしたよ!」

 

俺とめぐみんは、そんな事を言いながら笑い合う。

さっきの爆裂魔法は何点だった。魔力の流れをもっとスムーズにすれば更に良くなる等、

そんな事を語り合いながら。

 

 

――――――

 

 

俺とめぐみんが爆裂散歩を始めて一週間程度が経った頃。

 

 

「クエストよ!キツくてもいいから、クエストを請けましょう!!!」

 

 

「「えー……」」

 

突然そんなことを言い出したアクアに、俺とめぐみんの不満の声が同時に漏れた。

アクアを覗いて、俺達の懐は潤っている。

高難易度なクエストしか無い今、態々仕事をしたいとは思わない。

 

「私は構わないが。……だが、私とアクアでは火力不足だろう」

 

ダクネスがちらちらと俺とめぐみんを見る。

そんな目で見られても、俺とめぐみんは無理して危険なクエストを請ける必要性がない。

乗り気じゃない俺達を見て、いよいよアクアが泣き出した!

 

「お願いよおおおおおおお!もうバイトは嫌なのおおおお!コロッケが売れ残ると店長が怒るの!頑張るから!今回は私、全力で頑張るからああああ!!!!」

 

 

俺達に縋りついてくるアクアを見て、俺とめぐみんは顔を見合わせる。

 

「しょうがねえなあ……。じゃあ、ちょっとよさそうだと思うクエスト見つけてこいよ。悪くなければ付き合ってやるからさ」

 

その言葉に、アクアは喜々としてクエスト掲示板へと駆けだしていった。

 

「……あの、一応カズマも見てきてくれませんか?アクアに任せておくと、とんでもないものを持ってきそうです…」

「……だな。ま、まあ私は別に無茶なクエストでも構わんが!」

 

めぐみんとダクネスの意見は最もだ。

二人の意見を聞いて俺も嫌な予感がしてきたので、アクアを追って掲示板へ向かった。

するとそこには、何やら難しそうな顔で請け負うクエストを吟味しているアクアの姿が…。

 

「よし!」

「よしじゃねえ!お前何請けようとしてんだよっ!!」

 

俺はアクアが手に取った依頼書を取り上げた。

 

『―――マンティコアとグリフォンの討伐―――マンティコアとグリフォンが縄張り争いをしている場所があります。放っておくと大変危険なので、二匹まとめて討伐してください。報酬は五十万エリス』

 

「アホか!!」

 

俺は叫ぶと、張り紙を元の場所に張りなおした。

見に来て正解だった。危うくとんでもないクエストを持ってきた所だった。

 

「何よもう、二匹まとまっているところにめぐみんの爆裂魔法を喰らわせれば一撃じゃないの。ったくしょうがないわねー……」

 

その二匹をまとめる作戦は、俺に丸投げするのだろう。

というかこのクエストは、危険度の割に報酬が初心者殺しや一撃熊より少ないという超低コストクエストだ。

こいついっそのこと一人でクエスト請けさせてほっぽりだしてやろうかと考えている俺に、アクアが興奮しながら服の袖を引っ張ってきた。

 

「ねえ!これこれ!これいいんじゃない!!」

 

言われて、アクアが手に取った依頼書を見ると、

 

「湖の浄化?」

 

アクセルの街の水源の一つである湖を浄化して欲しいというクエストだった。

水質が悪くなった影響でブルータルアリゲーターという凶悪なワニ型モンスターが住み着き、大変危険な状態らしい。

しかし、浄化が完了すればモンスター達は他に住処を移すため討伐の必要はないと書かれている。

報酬は三十万と少なめだが。

 

「アクアお前、水の浄化なんて出来るのか?」

 

俺の疑問にアクアがふっと鼻で笑う。

 

「バカね、カズマ忘れたの?私を誰だと思ってるのよ。というか、名前や外見のイメージで、私が何を司る女神かぐらい分かるでしょう?」

「宴会芸の神様だろ?」

「ちっがうわよこのヒキニート!水よ!麗しくも美しいこの水色の瞳と髪が見えないのっ!?」

 

なるほど。

水の浄化だけで30万か、確かに美味しいな。

水場なんて足場の悪い中、無理して討伐する必要ない所とかポイント高い。

 

 

「じゃあそれを請けろよ。ていうか、浄化だけならお前一人でいいんじゃないか?そうすれば報酬一人占めできるだろ?」

 

 

だが、そんな俺の言葉にアクアが渋る。

 

 

「ええーっと、多分、湖を浄化してるとモンスターが邪魔しに来ると思うから、私が浄化を終えるまで、モンスターから守ってほしいんですけど」

 

 

そういう事か。

そんなこと言われてしまったら、助けない訳にはいかないな。

 

 

「ちなみに浄化ってどれぐらいで終わるんだ?五分くらい?」

「……半日くらい?」

「長えよ!」

流石にそんな長い時間守り切れねーわ!と依頼書を戻そうと……。

 

 

「ああっ!お願い、お願いよおおっ!他に碌なクエストが無いの!協力してよカズマさーん!」

 

 

掲示板に紙を貼りなおそうとする俺の、右腕にすがって泣きつくアクアに、俺はふと思いついた。

 

 

「……なあ、浄化ってどうやってやるんだ?」

「……へ?水の浄化は、私が水に手を触れて浄化魔法でもかけ続けてやればいいんだけど…」

 

 

アクアが水に触れなきゃいけないのか。

ふむ…。

 

 

「おいアクア。多分安全に浄化できる手があるんだが、お前、やってみるか?」

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

アクセルの町から少し離れたところにある、結構大きい湖。

湖からは小さな川が流れ出ていて、それがアクセルにつながっている。

山に繋がる川があり、そこからは川の水が絶えず湖に流れ込んでいるようだ。

なるほど。

 

 

「依頼にあった通り、随分濁ってるな」

「……ねえ、本当にやるの?」

 

 

背後からアクアの不安気味な声が聞こえる。

俺の考えた隙の無い作戦の、一体何が不安なのか。

 

 

「じゃあやめるか?言っとくが足場の悪い水場で半日もお前を守り切る自信はないぞ?」

 

 

アクアが言った。

 

 

「…なんか私、今から売られていく希少モンスターの気分なんですけど…」

 

 

……希少なモンスターを閉じ込めておく、鋼鉄製の檻の中央で、体育座りをしながら。

 

 

「じゃ、檻を湖に下ろすぞ…ダクネス手伝ってくれ。」

「ああ…」

 

そう、これが今回の作戦だ。

アクアは安全な檻の中から水の浄化をして、俺達は離れた場所から、遠距離攻撃で迎撃を行う。

こちらに近寄られたら、ダクネスが抑えてその間に撃破する。

モンスターの数が多くなったら、俺が囮役をして湖から離れた場所まで誘導してめぐみんの爆裂魔法という、いつもの作戦付きだ。

今までの経験から、一番安全になる方法を模索したはずだ。きっと、うまくいくだろう。

緊急の際は、借りてきた馬に鎖で檻を引っ張らせて逃げる予定だ。

 

 

水の女神であるアクアは、水に浸かるどころか湖のそこに一日沈められても呼吸に困らず、不快感も一切無いらしい。

更にアクア曰く浄化魔法を使わずともアクア自身が湖に浸かっていればそれだけで浄化効果があるそうな。

それほど神聖な存在だという事なのだろう。流石は一応、腐っても女神だ。

アクアを入れた檻は湖の際に沈められ、体育座りのアクアは足の先と尻の部分を湖に浸からせた。

後はこのままモンスターがくるまで待つだけだ。

アクアが膝を抱えながらポツリと呟く。

 

 

「…ねえ、なんか私…紅茶のティーバッグの気分なんですけど…」

 

言われたらそうとしか見えなくなってくるじゃん!

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

浄化装置改めアクアを湖の際に設置して約二時間が経過。

だが、未だにモンスターが襲ってくる気配はない。 

俺達三人は、檻から二十メートル離れた陸地でアクアの様子を見守っていた。

水に浸かりっぱなしのアクアに離れた所から声を掛ける。

 

「おーいアクア!浄化の方はどんなもんだー!湖に浸かりっぱなしだと冷えるだろ。トイレ!行きたくなったら言えよー!」

「浄化の方は順調よ!あと、女神はトイレなんて行かないし!!」

 

そんなことを言い返してくるアクア。

 

「なんだか大丈夫そうですね。ちなみに、紅魔族もトイレなんて行きませんから」

「お前らは昔のアイドルか」

 

聞いてもないのにめぐみんまでそんな事を言ってくる。

お前らが普段食ったり飲んでたりするそれはどこに消えるんだとツッコみたい。

 

「私もクルセイダーだから、トイレは…トイレは……。うぅ……」

「ダクネス、この二人に対抗するな、トイレに行かないって言い張っているアクアとめぐみんには、今度日帰りじゃ終わらないクエスト請けて、本当にトイレに行かないのか確認してやる」

「や、止めてください!紅魔族はトイレになんて行きませんよ?でも、謝るのでやめてください」

「うむ、流石は私の見込んだ男だ」

 

そんなアホなやり取りをしている間にも、時間はどんどん過ぎ去り、浄化が進んでいく。

 

「……しかし、ブルータルアリゲーター、来ませんね。このまま何事もなく終わってくれればいいのですが」

「ちょ、お前!?フラグとしか思えないセリフを!」

 

めぐみんがフラグ全開なセリフを言った瞬間だった。敵感知が反応したのか、俺の頭が、小さな電流が走ったような感覚に襲われた。

それに付随するかのように湖の一部、アクアが浸かっている地点から少し離れた地点に、小さなさざ波が走った。

大きさ的には地球の平均的なワニと比較しても、あまり変わらないだろう。

だが、そこはやはりモンスター。地球のワニとは一味違った。

 

「か、カズマー!何か来た!ねぇ、なんかいっぱい来たー!!!」

 

そう、この世界のワニは群れで行動する様だった。

 

「うっわ、すげえ数だな……」

 

数えるのもバカらしくなるほどのワニが、アクアの檻を襲おうと動き始めた。

幾らあの檻が頑丈でもこの数は不味いか。

 

「二人とも、戦闘準備だ!アクアを守るぞ」

「任せろ!」「了解しました!」

 

当初の予定通り、ダクネスが湖に向かって駆けだしていく。

俺はそれぞれに支援魔法をかけ、ダクネスに合わせ走り出し、めぐみんはいつでも魔法が撃てるように詠唱を開始した。

 

「ダクネス!ワニ共を呼び寄せてくれ!」

「任せておけ!『デコイ!』」

 

ダクネスが囮スキルを発動し、アクアに群がっていた大半のワニをこちらに引き付ける。

 

「『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』!わあああああああああっ!メキって言った!今檻から鳴っちゃ行けない音が鳴った!!!」

 

しかし数が数で、ダクネスの囮スキルに引っかからなかった奴らが、アクアの入っている鋼鉄製の檻をガジガジと齧っていた。

最初は水に浸かって女神の身体に備わった浄化能力だけを使っていたアクアだったが、余りの怖さからか一心不乱に浄化魔法を唱えまくっている。

 

「『狙撃』!『狙撃』!『狙撃』!『狙撃』ー!!ダクネス!そっちの援護はまだ大丈夫か!?」

「任せろ!まだまだイケる!!」

 

俺は狙撃スキルを使い、アクアに群がっているワニに向かって矢を突き刺していく。

アクア側のワニを一通り退治し、ダクネスの方はどうなっているかと見ると、ワニに齧られているダクネスの姿が。

 

「このバカ何がまだまだイケるだ!『ライトニングセイバー』ッッ!!『フリーズガスト』ッッ!!」

 

うちの前衛は本っ当にブレない。

俺はダクネスに群がっているワニに上級魔法を喰らわせる。

一発でかなりのワニを倒せてはいるが、そもそもの数が多すぎて一向に数が減らなかった。

 

「『ライトオブセイバー』ッ!!ああもう埒あかねえ!めぐみん!爆裂魔法の準備は!?」

「いつでも行けますよ!」

「よし!ダクネス!一旦交代だ!『デコイ』!!」

「くっ!もう引き際か…」

 

なんだか残念がっている変態がいるような気がするが、俺は囮スキルを使い気にせず皆のいる反対側へ走り出した。

 

「さあ来いワニ共!『フォルスファイア』!!!」

 

俺の囮スキルではダクネスのそれより精度が低い。だからこそアークプリーストが持つモンスターを集める魔法を使い、囮効果を重ね掛けした。

すると先ほどのデコイでは集まって来なかったワニ達もこちらへ面白いように一直線に向かってきた!

俺は追いつかれないようワニ達を誘導しつつ、事前に決めていた地点まで走ると…。

 

「『テレポート』!!」

 

転移魔法で脱出した。

あとはうちの頼りになるアタッカーがなんとかしてくれるだろう。

俺はめぐみんの横まで戻ると、紅い瞳を輝かせためぐみんが、杖を構えて魔法を唱え――!

 

「『エクスプロージョン』ッ!!!!」

 

全てのワニを一掃してみせた。

 

「おっと、流石だな。ナイス爆裂!」

「ふへへ、ナイス爆裂!今日のもまた、最高でした…」

 

崩れ落ちるめぐみんを受け止め、木にねかせてやる。

 

「よし、残った敵を片づけるぞー」

 

 

 

――――――

 

 

浄化を始めてから七時間が経過したころ。

 

湖の際には、ボロボロになった檻がポツンと取り残されていた。

ブルータルアリゲーターに齧られた檻は、ところどころにワニの歯形が残っている。

あの後もちょいちょい姿を表したが、最初に出てきた程多くもなく、割と簡単に退治できたのだが……。

 

「…おいアクア、無事か?もう浄化は終わったぞ」

 

俺達が檻へ近づき、檻の中のアクアを窺った。

 

「……ぐすっ…ひっく………えっく……」

 

膝を抱えて泣く位なら、リタイアすれば良かったのに……。

まあ、あの状況だし無理もないか。

 

「ほら、浄化も終わったんだし帰ろうぜ?お疲れ様アクア。お前は本当によく頑張ったよ。さっきダクネスとめぐみんで話し合ったんだが、俺達は今回報酬はいらないからさ。報酬の三十万、お前が全部持っていけ!」

 

体育座り状態で膝に顔を埋めたアクアの肩がピクリと動く。

だが、檻から出てくる気配はない。

 

「……そろそろ檻から出ないか?もうアリゲーターはいないし、それじゃあ帰れないだろ?」

 

俺の言葉に、アクアが消え入るような小さな声で呟いくのが聞こえた。

 

「……まま連れてって」

 

……?

 

「なんだって?」

「……檻の外の世界、怖い。このまま街の外まで連れて行って」

 

……どうやら、、今回のクエストはアクアに強いトラウマを植え付けたようだ。

 




辻褄合わせコーナーー

なんでベルディアはアクセルの街に来なかったの?
→二回連続の爆裂魔法を警戒したため。現在彼はアクセルの街を周到に調べています。

他の冒険者が言っていた幹部の住み着いた南にある城って?
→シンプルに情報ミス



裏設定
現在アクアが寝床にしているのはダクネスが取っている宿の部屋。ダクネスが実家へ帰っていた間もアクアはそこに寝泊りしているため、実はダクネスに対しそこそこの借金がある。
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