「頼もおーっ!」
テンションの高いアクアが勢いよく冒険者ギルドの扉を開けた。
日が落ちきってから少しした時間帯。
私たちはアクセルの街に到着し、冒険者ギルドまでやってきていた。
アクアのテンションの高さも分かる。なんせ私たちは何十、下手すれば百年以上もの間討伐されなかった魔王の幹部を打ち倒してしまったのだから。
突然勢い良く開いた扉に驚いたのか、冒険者達の視線が私達に集まった。
それを見てアクアは満足そうに頷くと、胸を張って自信満々に、
「今日、時間は四時くらい!私達四人は魔王軍幹部!…えーっと、何とかのベルディアを討伐したわ!!」
そう言って、得意げに冒険者カードを見せつけた。
「「「「「「「!!!!???」」」」」」」
唐突なアクアの発言に、冒険者ギルドに居る冒険者たちにざわめきが走る。
突然言われても信じられないのか、その半分以上が疑惑の表情をしている。
当然だ、あの魔王軍の幹部が、駆け出し冒険者によって討伐されたなんて簡単に信じる方がどうかしている。
しかし、
「ほ、本当に倒してきたんですか!?」
アクアの冒険者カードを確認しに来た受付のお姉さんが、アクアのカードを見て驚愕の表情を見せると、震えだした。
興奮冷めやまぬと言った表情をしたお姉さんは、そう言ってアクアの両手を掴む。
お姉さんの反応を見て、先程まで半信半疑だった冒険者達もそれが真実だと気づき驚愕の表情へと変わっていく。
…なんか、とても凄腕の冒険者らしくていいですね。悪くないです。
「ほ、本日をもちまして、魔王軍幹部王都侵攻部隊隊長『勇者殺し』のベルディアの討伐を確認しました!!直ぐに王都とギルド上層部へ報告します!皆さん、本当にお疲れ様でした!!!!」
お姉さんはそう高らかに宣言し、私達に一礼した後カウンターの奥へ駆け出して行った。
そして、
「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」
ギルド全体から歓声が沸き起こった。
「ほ、本当に魔王の幹部を倒しちまったのかよ!?」
「へっ、お前達ならやってくれると思ってたぜ」
「まさか最弱職のカズマが魔王軍幹部を討伐なんてな!」
冒険者たちが口々にそんなことを言う。
…む、聞き捨てならないことが聞こえましたね。やはりまだカズマは弱いと思われてたのでしょうか。
「さぁ、宴会よー!!」
アクアが高らかにそう宣言すると、ギルド中が盛り上がり、一気にお祭りムードとなった。
アクアは早速と言わんばかりに大量のお酒を注文している。
…まあ、ベルディアの報酬は相当なものだったし、それくらい大丈夫か。
「ダクネス、あなたも向こうに混ざりたいでしょう?代わりますよ」
私はそう言って、未だ目を覚まさずダクネスに背負われている私たちのリーダーを受け取る姿勢を取った。
魔力切れで動かなかった体も、街までの道のりである程度回復したためカズマの介抱くらいは出来るだろう。
「む?いや、私は気にしないし、めぐみんも宴会に参加するだろう?」
「いえ、どうせダクネスはまだ飲んじゃダメとかドケチなことを言うでしょう?」
「いや待て、ケチとはなんだ!私はめぐみんのことを思ってだな…!」
説教垂れ始めたダクネスの言葉を遮るため私は耳を塞ぐと、ダクネスは呆れたようにため息をし、
「分かった、ではカズマを頼む」
そう言ってカズマを預けてくれた。
「ええ、ダクネスも今日は本当にお疲れ様でした。デュラハンの城への潜入と、直接対決は、私が想像できないほど激闘だったと思います。二人の活躍を、あの冒険者たちに教えて上げてください!」
特にカズマが舐められているのは問題だ。
今日の活躍をダクネスに伝えてもらい、私達のリーダーも一目置かれる存在になってほしい。
「ふっ…。任せろ、今日の激闘と、最も活躍した者のことを奴らに話してこよう」
私の想いが伝わったのか、ダクネスが優しい表情を作って頷いた。
そしてアクアを中心として騒ぎになっている方へ、歩みを進めるのだった。
ーーーーーー
カズマを受け取った私は、カズマを膝に乗せて食事を取っていた。
カズマの顔に零してはいけないので、いつも以上に慎重に食べる。
ふとカズマの顔を見ると、何が楽しいのか気持ちよさそうな顔をして、笑みを浮かべている。
…本当に不思議な人だ。
最初は、私の命の恩人だった。
ホーストを相手に、死を覚悟していた私をカッコよく救ってくれた変な服を着た優しい人。
そして、私が初めて本気でパーティーを組みたいと思った人だ。
強くてカッコイイのにどこか情けなくて、でもとても親しみやすくて一緒にいたら楽しいと思えた人。
パーティーから追い出されそうになった時は本当に焦ったものである。
私の爆裂魔法を、何だかんだ言いながら初めて認めてくれた人でもある。
私の為に態々戦術を考え、実行して中級とされる強いモンスター達を倒せた時は、本当に嬉しかった。
…未だにカエルへのリベンジは果たせていないが。
変な服を着てて、どこかこの世界の常識に疎くて、でもとても強くて、強いと思ったら何故か締まらなくて、
天才から落ちこぼれになったと言われた私を、パーティーに入れてくれて、果てには魔王軍幹部討伐者の一人にしてくれた人。
この人は気づいているのだろうか?
魔王軍幹部を倒した功績が、本当にとんでもないものであることに。
この百と数十年、魔王の幹部は一人も倒されていない。
勿論人類も黙っていた訳では無い。
数多の勇者候補と呼ばれる人々を輩出し、魔王軍と戦ってきた。
中には突然現れた強力な力を持つ本当の勇者みたいな存在も多く居たという。
しかし、それでも人類は魔王軍に勝てなかった。
誰も幹部に勝つことが出来なかったのだ。
中でもあのベルディアという幹部は、最も多く勇者を倒したとされている。
それを倒してしまったのだから、ここから魔王軍と人類の戦いは、人類側に傾くかもしれない。
そう、この人は人類の命運を変えたのだ。
…気持ちよさそうに膝の上で眠る顔は、そんな大層なことを成し遂げた者のようには見えないが。
私は彼のことを何も知らない。
一体どこから来たのか、どうしてそんな力を持っているのか、何故そんなにも魔王の討伐を目指すのか、
魔王を倒したらこの人はどうなってしまうのか。
でも、仲間思いなこの人が私たちを置いてどこかへ行ってしまうなんてことは無いだろう。
色々言っているが何だかんだ甘いこの人が、そんな酷いことをするはずがない。
もしこの人が居なくなったら、私はどうなってしまうのだろう。
この人との冒険を経験してしまったら、他の冒険者との冒険なんて考えられない気がする。
私は目を細めてカズマの頭を撫でる。
ああ、やっぱり私は……
「……アレ?ここはどこだ…。確か、ベルディアと戦ってて………」
「おはようございます、カズマ。ベルディアは無事に討伐しましたよ?ここは冒険者ギルドで、今は宴会中なのです。カズマは討伐した後魔力切れで眠ってい居たのですよ」
「ああ、そっか。魔力切れを起こしたのか……。でもよかった、ベルディアは倒せたんだな」
安心したようにカズマがホッと息を吐く。
「…あまり無理はしないでくださいね?カズマが死んでしまったら、私は立ち直れなくなってしまいますから…」
「ごめん。ま、まあ、無事だったんだからいいじゃないか。体に異常もないし……ところでめぐみんさん?なんで俺は膝枕されてるんですかね…?」
「頑張ったカズマへのご褒美ですよ。…いやでしたか?」
私が不安そうに言うと、カズマが慌てて答える。
「い、いや。全然いやじゃないってか、凄く、その、うれしい、ぜ?」
カズマは顔を真っ赤にさせてうろたえていた。
顔を真っ赤にして焦るその様子がおかしくて、でもとても可愛くて、私はついついカズマをからかってしまう。
私がカズマの様子にクスクス笑っていると、むくれた様子のカズマが言ってきた
「おい、俺だって思春期の健全な男の子なんだからな?こういうことされると勘違いするんだよ。モテない男なんてな、手を握られただけでうっかり好きなったりするんだからな。まじで気をつけろ」
緊張してるのか、上ずった声でカズマに告げられる。
こういう時、私はなんて返せばいいのか分からない。
もっと里で皆がしていた恋バナに興味を持つべきだったと後悔しながら、私はありのままの本心を告げる。
「私は、カズマの事好きですよ?」
少し恥ずかしいが、気取られないよう、なんでもなさげにサラリと言った。
「……今言ったことを詳しく。もう一度行ってみろください!」
一緒私が何て言ったのか理解出来ていない様子を見せたカズマは、数秒沈黙した後、突然顔を真っ赤に変える。
驚いたような嬉しいような顔をして、早口で言ってくるカズマを見ると、可笑しくて笑ってしまう。
「嫌いじゃないですよ?カズマの事は」
「おいさっきとセリフが違う、俺の記憶力はそんなに悪くないぞ!」
「そ、そんなことより、カズマはこの宴の主役なんですから、皆のところにいきましょう?」
私は恥ずかしくなり、ごまかすようにカズマを皆のところに引っ張る。
「おい、引っ張るなって!さっきの事もっとくわs……ああもう、わかったよ!しょうがねえなあ!!」
何も言わずずんずん歩いていく私を見て諦めたカズマは。そういって私の手を引っ張り、アクア達のもとへ駆け出した。
ということで、第一章のエピローグでした。
現在のめぐみんはら原作小説第五巻二日目の夜ぐらいの好感度を想定しています。
次回は第二章、その天才魔法使いは恋をする、です。
お楽しみに!