IFすば   作:来世カズめぐ部屋の観葉植物になりたい者

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今回長めです。


第一話 この幽霊屋敷に救済を!

「申し訳ありません。この物件はちょっと……」

 

ベルディアの報酬が入って数日後。

莫大な収入を得た俺達は、そろそろ拠点があってもいいんじゃないかという話になり、アクセルの街の不動産に来ていた。

 

「何故ですか?敷金も十分ありますし、私たちは魔王の幹部を倒して世間的にも注目のパーティーです。身元保証としても十分だと思うのですが……」

「うむ、この物件の購入条件は満たしているはずだし、どうして購入できないのだ?何か事情があるのか?」

「それは……」

 

めぐみんとダクネスの問いかけに不動産屋の店員は困った表情を見せる。

不動産屋で幾つかの資料を確認した俺達は、その中にこれだ!という物件があったため、購入を申し出たのだが、何故か不動産屋のオーナーが難色を示した。

 

「ねー、やっぱりこの屋敷じゃなくてもっと大きな屋敷にしたいんですけどー!折角だしこの、アクセルで一番大きな屋敷がいいんじゃないのー?」

「俺達四人で住むんだぞ?それだと大きすぎるし管理が大変だっていったろ?

 

今俺達が購入を検討している物件の条件は、四人で暮らすのに大きさも丁度良く、立地もギルドから近いというものだった。

最初はアクアの言う通り、見栄を張って不動産屋の扱う物件の中でも一番デカい屋敷にしようと思ったが、この街一番の屋敷は思ったよりデカかった。

これから購入する拠点は四人で住むため、あれだとほとんどの部屋をもてあますだろうし、掃除などの管理も大変だ。

見栄も張れて、四人で使うのにほどよい大きさで、かついい立地となると、候補は一つだけに絞られた。

だからこそ俺達は、今見ている屋敷を是非購入したいのだが……。

 

「えっと、可能であれば、取り合えず事情だけでも教えてくれませんかね?事情によっては諦めますし、何か問題があるなら、俺達は冒険者ですし大抵のことは解決できると思うので…」

「…では、そういうことなら……」

 

俺が事情を教えてほしいとお願いすると、不動産屋の店員はしぶしぶといった風に話し始めた。

 

「………実はこのところ、この街の空き家に悪霊が現れ始めまして……」

「「「「悪霊?」」」」

 

何でもここ一週間ほど前から、この街の複数の空き家に様々な悪霊が住み着きまくっているという。

冒険者ギルドにも相談したのだが、こんなことは始めてで対処のしようが無いとのこと。

なにせ、悪霊の討伐クエストを出して除霊しても、またすぐに新しい悪霊が住み着いてしまっているのだという。

「祓っても祓っても、また新しい悪霊が湧いてしみついてしまうのです。ただ、悪霊が住み着く範囲はある程度絞られていまして、他に案内できる物件はあるのですが……」

「この屋敷はその、悪霊が住み着いてしまう範囲にある物件だったと」

 

俺の言葉に不動産屋の店員はコクリと頷く。

……ふむ。

 

「事情は理解しました。そういうことなら、相談があるのですが……」

 

俺はそう言いながら、アクアを見ると―――。

 

 

――――――

 

 

「……この屋敷か」

 

街の郊外に佇む、一軒の屋敷。

資料で確認したところ、部屋数は屋敷にしてはそれほど多くないと言っていたが、中々どうして書類にあった写真よりも大きい印象がある。

日本にある一軒家の七、八倍の大きさがあるその屋敷は、とある貴族の別荘だったらしい。

色々とアイテムを作ったりする予定もあるし、スペース的にも丁度いい。

 

「悪くないわね!ええ、悪くないわ!この私が住むのに相応しいんじゃないかしら!」

 

アクアが小さめのカバンを手に興奮したように叫び、同じくカバンを手にするめぐみんも、心なしか顔が紅潮していた。

さっきまで一番大きい方がいいとか騒いでたくせに、調子いいなあ…。

 

「それにしても、念願の拠点を手に入れられて良かったです。一時はどうなるかと思いましたが、何とかなって良かったです。カズマの提案のおかげですね」

 

めぐみんが小さな荷物片手にそんなことを言った。

 

そう、結局俺たちは、不動産屋に渋られた屋敷に住めることになった。

 

俺が不動産屋の店員に提案したのは、悪霊が出ても都度浄化が可能であるため、もしダメだったら返却するので取り敢えず住ませて欲しいというものだった。

また、うちのパーティーには優秀なアークプリーストが居るため、もしかしたら原因を突き止め、それを断つことが出来るかもしれないと。

もし原因の排除が上手く行き、悪霊騒ぎが収まれば報酬として屋敷を格安で売ってくれとも。

 

どうやらこの屋敷、ここの所の悪霊騒ぎで特に評判が悪くなったらしく、なんなら普通に格安で売ってくれると言って不動産屋も乗ってくれたのだが…。

 

「しかし、本当に除霊できるのか?祓っても祓っても直ぐにまた新しい悪霊が湧くと言っていたが…」

 

ダクネスが大きな荷物を背負いながら言ってくる。

 

まあ、確かに終わりが見えず湧き続ける悪霊を祓いきれるのかと不安になるのは分かる。

原因の究明も全く捗ってないとの事だし、先に原因を断つ方が良いと考えるのは自然だ。

 

しかしこちらには正真正銘の女神がいるのだ。

こいつはアンデッドや悪魔の気配に敏感だし、この手の原因調査にもってこいの神材だろう。

 

それにもし原因が分からなくても、都度除霊すれば問題ない。

最悪の場合結界を張るとか息巻いていたし、アクア自身が神聖な存在であるため、こいつが住むだけで聖地みたいな感じになって霊が近ずけなくなるかもしれない。

その事もあって、俺は特に問題視していない。

 

…多分。

 

「まあその辺は問題ないだろ。俺達には対アンデッドのエキスパート、アクアが居るんだから。…大丈夫だよな?」

 

自分で言ってて少し不安になってきた。

…いや、暇な日は昼間から酒をあおり、宴会芸を全力で楽しむ普段の姿からは女神の威厳が一切感じられないが、腐っても女神。

ことアークプリースト案件では問題ないはずだ。

 

「任せなさいな! ……ほうほう。見える、見えるわ!この私の霊視によると、この屋敷には貴族が遊び半分で手を出したメイドとの間にできた子供、その貴族の隠し子が幽閉されていたようね!やがて元々身体の弱かった貴族の男は病死、隠し子の母親のメイドも行方知れず!この屋敷に一人残された少女は、やがて若くして父親と同じ病に伏して……!…名前はアンナ=フィランテ=エステロイド。好きな物はぬいぐるみや人形、そして冒険者達の冒険話!でも安心して、この霊は悪い子じゃないわ。おっと、でも子供ながらにちょっぴり大人ぶった事が好きみたいね!甘いお酒を飲んだりしてたみたい」

 

ペラペラとテレビに出てくるインチキ霊能力者みたいなことを言い出すアクアを、胡散臭い視線で眺めながら、俺はめぐみんとダクネスに尋ねた。

 

「…なんでこんな名前やら余計な設定やらも分かるんだってツッコミたいんだが。……まあ、大丈夫か。俺もダクネスも居るし、多分何とかなるだろ。……なるよな?」

「「………」」

 

二人も俺と同じ不安を抱えているのか、俺の質問に答えてくれなかった。

 

 

ーーーーーー

 

 

夜半過ぎ。

俺たちは鎧などは脱ぎ、部屋割りをそれぞれくつろいでいた。

まだ家具も少なく、ガランとした部屋で俺は一人、ベッドの上に仰向けになっている。

 

この屋敷を購入するのに、本来必要な金額は三億程度。しかし、もしこの悪霊騒ぎの原因を突き止め、解決できれば五千万にまで下げてくれるという。

単純計算で五分の一、これは本気で今回の騒ぎを調査するべきだろう。

ただ、今日はもう遅く、家具選びやらなんやらで忙しかったため、原因の調査は明日からということになった。

 

だから今晩は悪霊が出るであろうこの屋敷で一夜を明かすのだが、アクアがいる以上、正直俺はなんの心配もしていなかった。

あれでいて一応アークプリーストの腕は最上級のアクアだ。

自分の家が悪霊なんぞに好き勝手やられるのを放置しておく様なヤツではない。

 

そんな事を考えつつ、先ほどジャンケン大会による部屋決めで確保した、二階の一番大っきな部屋でリラックスしていたのだが…。

 

「あああああああああっ!?わああああああああーっ!?」

 

その頼りにしていたアクアの泣き声が響いて、俺はベッドから飛び起きた!

 

「どうしたっ!?おいアクア、何があった!大丈夫かっ!?」

 

俺は慌ててアクアの部屋まで駆けつけると、なぜかドアが開いていた。

俺はそのままアクアの安否を確認するため部屋を覗くと、そこには……。

 

「うっ……ううっ………。か、かじゅまああああっ!」

 

部屋の中央で、大事そうに空の酒瓶を抱え、泣いているアクアの姿が。

 

……おい。

 

「これは大事に大事に取っておいた凄く高いお酒なのよ!お風呂から上がったらゆっくりちびちび大事に飲もうと楽しみにしてたのにっ!それがっ!!私が部屋に帰ってきたら!!!見ての通りからだったのっ!よおおおおおおおおっ!!!」

 

寝るか。

 

「そうか、じゃあお休み。また明日な」

「これは悪霊の仕業よ!私、この屋敷を探索して目につく霊をしばき回してくるわ!……おりゃああああああああ!!でてこいやああああああああああ!!!!!」

 

そう言って女神がしちゃいけない形相をしたアクアが、屋敷の廊下へ走って行った。

 

「なんだ、一体何の騒ぎだ?」

「一体何があったんですか?驚いてゲーム盤をひっくり返してしまったのですが…」

 

先ほどのアクアの叫び声を聞きつけてやってきたのだろう、一階でチェスの様なゲームをやっていたダクネスとめぐみんがやってくる。

 

「アクアのやつが、取っておいた酒を悪霊に飲まれたって騒いでるんだよ。除霊してやるとか騒いでるだけだから、後はあいつに任せておけば大丈夫だろ。俺はもう寝る」

 

俺が部屋に戻ろうとすると、後ろからアクアの罵声とターンアンデッドを唱える声が聞こえてきた。

 

 

——————

 

 

「……で、なんでめぐみんが俺の部屋に来てんの?」

 

俺が部屋に帰って少しして、寝ようと思い電気を消した瞬間、ドアがノックされたので恐る恐る開けると、そこには枕を持っためぐみんが、その紅い瞳を少しだけ輝かせながら立っていた。

 

「誤魔化さず、正直に言いましょう。悪霊が怖いからです」

 

扉の前に立つロリっ子が、そんな情けないことを言い放った。

 

「お前この前の共同墓地のクエストは平然と付いてきてたじゃん」

「あの時とは状況が違うでしょう!それに私以外は皆神聖属性の力が使えるじゃないですか!一人でいるよりも誰かと一緒に居るほうがいいんですよ!」

 

いやまあ確かにそうだが…。

 

「だ、ダクネスはどうしたんだよ。別に俺じゃなくてもアイツなら…」

「ダクネスはアクアの助太刀をすると言って除霊に向かいました」

 

アイツも神に仕える聖騎士たるクルセイダー。

プリースト程ではないが、神聖な力も使えるという。

あいつは防御スキルにしかポイントを振ってないはずだが、スキルが無くとも神への祈りくらいは出来るのだろう。

 

ここに来た理由は分かったが、しかし、一つ大きな問題がある。

 

「お前、こんな時間に男の部屋に来る意味が分かってんの?何度も言うけどどうなっても知らないからな?冗談とかじゃなくて、本当にどうなるか分からんからな?」

「昨日までは同じ部屋で寝ていたのです。私は間違いなんて起きないって信頼していますから」

 

そう言ってめぐみんは俺の部屋に入ると、ポスンと俺の布団に座った。

 

……おい。

 

「お、おまっ、年頃の女の子が夜中に無防備な姿で男のベッドに座るとかマジでどうなるか分かってんの!?何度も言ってるけど俺じゃなかったら大変なことになってるからな?他の男に同じこと絶対すんなよ?」

「ほ、他の男にも同じことをするわけないでしょう!カズマは私をなんだと思っているのですか!というか、俺が紳士で良かったなみたいなこと言われてもちっともカッコ良くないです!」

「てめえ言いやがったなこの痴女ロリっ子が!というかお前、この前俺のこと好きだとか言ってたじゃねえか!襲ってほしいなら襲ってほしいってハッキリ言えよ!」

「なっ!私はカズマを信頼してるって言ってるじゃないですか!!なんでそんなことになるんですか!ていうか、痴女ロリっ子ってなんですか!?今言ってはいけないことを言いましたね!紅魔族は喧嘩を売られたら買う種族なのです!その喧嘩買ってやりましょう!!!」

 

コイツー!

このロリっ子どうしてくれようかとめぐみんを見ると、こちらを睨みながら構えを取るめぐみんの肩が、少し震えているのが目に入った。

………。

 

「あーもうしょうがねえなあ!悪かったからそんな睨むな!それとベッドの上で暴れんなよ?」

 

 

——————

 

 

「カズマ、寝てますか?」

「寝てるよ」

「起きてるじゃないですか!」

 

時刻は日本でいう丑三つ時頃だろうか。

俺とめぐみんは背中合わせになって、一つのベッドの中で身を寄せ合っていた。

 

……大き目のベッドにして良かった。

 

「眠れないんだよ。アクア達がいるとはいえ、いつ悪霊が襲ってくるか分かんないんだぞ?そんな時に眠っちまったら恰好の餌になるじゃん」

 

そう、俺が寝ないで目を開いているのは、悪霊の餌食にならないためだ。

向かってくるのはリアル悪霊。テレビや映画と違い、画面の向こうではなく現実に存在する悪霊だ。

ホラー耐性があるとはいえ、怖いものは怖い。

襲ってきたら直ぐに迎撃する為に起きているのであって、決して震えるロリっ子を守るためとかでは無い。

 

「……確かにそうですね」

 

しかし、俺のそんな考えを知ってか知らずか、めぐみんは全て分かってますとでもいいたげな声色で呟くとーー、

 

「……お、おい、そんなにくっつかれると恥ずかしいんだけど…」

「…私も怖いものは怖いのです。なので、あなたから離れる訳にはいかないのですよ」

 

布団を頭まで被り、俺の背中に顔を埋めてきた。

服越しだと言うのに、背中から来るめぐみんの柔らかく女性らしい肌の感触と、熱い吐息が当たる感覚が頭を襲う。

心臓の鼓動が早くなるのが分かる。こんなに暗くても、傍から見れば俺の顔が真っ赤になっているのが分かるのではないかと言うほど顔が熱い。

 

こういう時どうすればいいのか分からないんですけど…!

というか、童貞の俺にこんな展開から動く勇気が無い。

いや違う、今は悪霊が襲ってくるかもしれないという緊急事態だ!

そもそも何か行動を起こそうと言うのが間違っている!…いる。いるのだが……。

 

「……」

「……」

 

一体どれほど無言の時間が続いたのだろうか。

相変わらずめぐみんは何も喋らず、ただ俺の背中に顔を埋めて息を吐いている。

その熱い息を感じて、俺の冷静な頭がぐちゃぐちゃになっていくのが分かる。

お、落ち着け。俺はクールな男だ。一時の感情に流されちゃいけない。

そもそも、まだめぐみんは十三歳だ。俺のストライクゾーンは十四歳から。まだ恋愛対象内ではない娘に手を出すとか、それこそロリコン、それこそ変態だ。

大丈夫、俺は冷静だ。

というか、流れで同じベッドで寝ることになったがまずそれがおかしいだろう。

そう、こんな妙な空気になるのは同じ布団の下にいるからだ。どうせ寝ないのなら、俺は布団の外にいればいいじゃないか!

 

「めぐみん…俺は……」

 

布団から出るため体を起こし、めぐみんの方に体を向けると………。

 

ズルッ。

 

外は暗く、人々が寝静まっている時間帯、俺もめぐみんもほとんど動いていないのにも関わらず、物を引きずるような、奇妙な音が響いた。

俺は嫌な予感がしながら、扉のほうに視線をやると——。

 

「……め、めぐみん、お前さっきこの部屋に入ってきたとき、扉って閉めたよな…?」

「私とカズマの記憶力が確かであれば、私はしっかり部屋の扉は閉めたはずですよ…?」

 

俺の恐怖が伝染したのか、めぐみんが震えた声で答えると、同じく体を起こす。

俺たちの視線の先には、なぜか少しだけ開いたこの部屋の扉。

 

ズルッ、ズルッ。

 

段々と音が大きくなり、この部屋に近づいてくるのが分かる。

その音がなる度に、めぐみんの顔がどんどん蒼褪めていく。

 

ズルッ。

 

余りの恐怖からかめぐみんが俺の手を強く握ってくる。

音は突然部屋の前まで止まった。俺は恐怖を押さえつけながら、魔法を撃つために身構え、左手を突き出した。

だ、大丈夫だ。こっちには破魔の魔法がある!どんなに強い悪霊でもきっとあのデュラハン程じゃないはずだ!

 

キィッと耳をつんざくような音がを響かせながら、扉がゆくっりと動き、外にいる存在を露呈するが———。

 

そこには何も居なかった。

 

「な、なんだよ。なんもいなじゃねえか」

 

俺は心底安心して未だに俺の右手を強く握りしめるめぐみんに視線を向ける。

しかし、めぐみんの顔は青いままだった。

 

「ど、どうしたんだよめぐみん。なんでそんな青い顔してんだ」

 

俺はそんな様子のめぐみんに少し恐怖を感じながら問いかける。

確かに恐いが、俺の敵感知に何も反応はないし、魔力の流れも感じない。

なのになんでそんな怯えているのかと、俺は少し疑問を覚え、めぐみんの方を向く。

すると、いつの間にか両手で枕を持つ、青い顔をしためぐみんが俺の右手を指し———、

 

「カズマ、そ、その手は……」

 

手?手ってどういう………。

俺は嫌な予感がしながら、めぐみんに握られている右手を見ると……、

 

「うわああああああああああああ!!??『ターンアンデッド』ッッッ!!!!???」

 

俺は半狂乱になりつつ部屋全体に全力で破魔魔法を叩き込んだ。

眩い光が部屋を満たし、次の瞬間俺の右手から握られた感覚が消え去った。

 

「え!?なに??何今の手!?悪霊か!?悪霊の仕業だよな!??え、そういう感じ?そういう来かたする感じ??え、え、え?いや待ってくれよ?なんでこんな和風ホラーテイストなやつなの!?悪霊っつたらもっともやもやした感じじゃないの!???確かに悪霊怨霊っつたら和風ホラーだけどさあぁ!!そりゃあないだろ!!!???」

 

恐怖のあまり混乱し、八つ当たりのようなことを喚き散らす。

やばい。

洋風ホラーはへっちゃらなのだが、和風ホラーときたら話が違う。

性格悪くねちっこく、肉体的恐怖よりも精神的な不安を煽る和風ホラーをリアルにやってくるのは流石にアカン。

 

「おおおおおおお、落ち着いてくださいカズマ!手はちゃんと浄化されましたからもう問題ないですよ!」

「落ち着けるわけないだろ!いや、俺が悪かった、想定が甘かった!異世界だからホラーも洋風系のホラーだとか高を括ってたってのにこういう系は予想外だった!しかも手を握るだけでそれ以外なにもしないってのが怖さを助長してくるんだけど!敵感知が働かない分尚怖いよ!!」

 

しかもこいつ魔力的な動きも見せなかった。つまり、本当に気配なく突然現れたということだ。

どうなってんの???

本当にマジでどうなってんだよ!

 

「おい、アクア達と合流するぞ。全員で悪霊の掃除だ。こんな性格悪い悪霊共なんて全員で浄化してやる!!」

 

俺は余りの恐怖から安心感を得るため、他メンバーとの合流を提案した。

アイツは腐っても女神だ。和風だろうとなんだろうとホラー耐性は強いはず…!

しかも女神として浄化能力は最高峰、頼らない手はない!

ついでに俺たちの盾になってくれるダクネスもいる!

 

俺はめぐみんの手を掴み、扉のノブにてをかけて部屋を出ようとすると。

 

ペタッ。

 

「ヒッ。あ、あのカズマ。ま、窓のほうからペタペタと音が聞こえるのですが…」

 

震えた声でめぐみんがそう言ってくる。

 

「わ、分かってるよ。いいか、絶対に振り向くなよ。ああいうのは振り向いてもそこにはいないんだ。もっと心理的な隙を突いた感じで襲ってくるから……」

 

言いながら俺はめぐみんを引っ張り部屋を出ようとするが、めぐみんは全く動かない。

そんな中もペタペタと窓から音がなっている。

コイツ恐怖の余り動けなくなってやがる!

 

「おいめぐみん、恐いのは分かるが…」

 

言いながら振り向き、背後を見ると、

 

「か、カズマ。私の足を掴んでるのは誰なんですか……?」

 

形容し難い何かに足を掴まれためぐみんと、窓にべったりと張り付いている沢山の頭が……

 

「あああああああああああああ『ターン・アンデッド』『ターン・アンデッド』『ターン・アンデッド』『セイクリッド・ターンアンデッド』ォォォぉぉぉぉー!!!!!!!!」

 

俺は見える範囲に破魔魔法を乱射し、めぐみんを抱きかかえて部屋から飛び出して駆けだした。

 

 

 

——————

 

 

「はあ、はあ、はあ……。おい、めぐみん大丈夫か?」

 

俺は屋敷一階の大広間に出ると、一旦落ち着くためにめぐみんをソファへと降ろす。

屋敷中を走り回ったのだが一向にアクアを見つけられず、結局視界も広く、誰か居るかもしれないと期待を込めて大広間まで来たのだが…。

 

「すみません、私のせいで余計に疲れさせてしまって…カズマこそ大丈夫ですか…?」

「俺は大丈夫だから気にすんな。魔王の幹部とすら渡り合ったカズマさんだぞ?こんなことで疲れないって」

 

実際今かいている汗は疲れのせいじゃない。

恐怖から来る冷や汗だ。

ここに来る中も、やつらは落ち武者のような格好だったり、ボロボロな髪の長い女性だったり、隙間から見てくる目だったりと、多種多様な姿でこちらを襲ってきたのだ。

どれもこれも心理的隙を突くねちっこい襲い方ばかりで恐怖心が煽られる。

いつどこから来るのかも分からずずっと気を張り巡らせているというのもあり、体力よりも精神的なダメージがデカすぎる。

 

「しっかしアクアが全然見つからねえな…。二階はどの部屋にもいなかったし、下に降りれば見つかると思ったんだけど…」

「ダクネスも一緒ですし、万一のことはないと思いますが、流石に心配ですね…」

 

確かに、これだけ騒いでるのに見つからないのはおかしい。

ここはかなり広い屋敷だが、悪霊の襲撃の度に俺もめぐみんも騒いでるし、大声を聞きつけたアクアが駆けつけると思っていたのだが…。

 

「…………あの、カズマ。相談なのですが」

「どうした?ある程度のことは手伝うけど、こんな状況だし、内容によっちゃ難しくなるが…」

「そのですね、先ほどまで霊に追いかけられて今何も来ていないじゃないですか」

「お、おい、分かってると思うがフラグになるようなこと言うなよ?こういう悪霊ってそういうフラグに敏感なんだよ……ッ!?ほら見ろ台所の所になんかいるし!!ああもうどうして祓っても祓ってもでてくるんだよ!!というかこの和風ホラーチックな見た目をなんとかしてくれ!!!」

 

言いながら俺はまた破魔魔法をかけまくる。

俺が悪霊共を見つけては消し去り、戦闘していると、めぐみんは消え入るようなかぼそい声で、

 

「お願いですからトイレに行かせてください……」

 

顔を真っ赤にさせながらそう言ったのだった。

 

 

——————

 

 

「カズマ居ますか?」

「いるよ」

「ほ、本当に居ますか?」

「いるって!」

「ほ、本当の本当に、ちゃんと居てくれてますか?」

「ちゃんといるってば!もし悪霊が出ても直ぐ消し去れるようにしてるからそんな心配すんなって!」

 

あの後、広間の悪霊を祓い切った俺たちは、屋敷の中を駆けて近場のトイレまでやってきた。

こういう時、大体トイレから悪霊が出てくると踏んだ俺は、めぐみんが入る前に何重にも破魔魔法をかけ、更に小さな結界まで作ったので流石にトイレに出ることはないだろう。

しかし結界を作るための時間も短く、強い結界は作れなかったので万が一考えこうしてスタンバッっているのだが…。

俺がどこかに行くのが怖いのか、めぐみんが先ほどからしきりに話しかけてくる。

 

「……あの、カズマ。流石にちょっと恥ずかしいので、大きめの声で歌でも歌ってくれません?」

「何が悲しくてこんな夜中にトイレの前で歌わなきゃならないんだよ!どうせこれからダンジョンとか野宿でこんな状況はあるだろ!」

 

めぐみんに突っ込みつつ、実は待っている俺も微妙に気恥ずかしかったので、仕方なく歌いだした。

歌と言っても日本の歌しか知らないので、好きだったアニメのオープニングを大声でアカペラで。

 

「……お待たせしました、カズマ。困らせてすいません。……それにしても、随分変わった歌ですね」

「まあ、余りここの人たちは知らないであろう歌を歌ったからな…。ほら、行くぞ。とっととアクア達と合流しようぜ」

 

そう言って歩き出す俺の後を、ぺたぺたとついてくるめぐみん。

数えきれない程破魔魔法を使ったため、もう魔力の残量が少ない。

このままではジリ貧だし、一刻も早くアクア達と合流したい。

 

———と、その時だった。

俺とめぐみんがトイレの手洗い場から廊下に出ようとすると……。

 

ぴちゃっ——ぴちゃっ————

水が下る音が、聞こえてきた。

 

ここは手洗い場だ。水の音が聞こえることなんておかしくはない。ああ、おかしくないとも。この音が廊下から聞こえてこなきゃ。

俺とめぐみんは手洗い場のドア前に屈み、身を寄せ合う。

隣ではめぐみんが、俺の服の裾をギュッと掴み、震えながらしがみついてくる。

怖い、マジで異世界の悪霊怖い。

最悪テレポートで逃げることは出来るが、万一の手段があったとしても夜中に悪霊に襲われるというのは尋常ではない恐怖だった。

小さく震えていためぐみんが、何を思ったのか小さく何かを呟きだし———!

 

「こ、こらっお前は何を唱えてる!この屋敷ごと吹き飛ばす気か!?」

 

恐怖の余り爆裂魔法の詠唱を始めためぐみんの口を塞ぎ、そのまま暴れないように身を押さえる。

———いつの間にか外のぴちゃぴちゃという音がやんでいた。

震えながら俺を見上げてくるめぐみん。

ああもうどうする!?このまま戦い続けたとて魔力が持たない可能性がある!最悪のテレポート用の魔力は取っておきたい。いや、もう屋敷で戦わず一旦テレポートで外に…。

 

「おいめぐみん、一旦外に出るぞ!こんだけ屋敷で騒いでるのにアクア達が見つからんのは外にいるからかもしれない!そうでないにしろ、外までは悪霊達も追っては来ないだろ!『ターン・アンデッド』!!」

 

めぐみんがコクコクと頷くのを確認し、俺は扉を勢いよく開けて破魔魔法を唱えると、めぐみんを抱えて外へと駆けだした!

 

 

——————

 

 

「あら?カズマ達じゃないの。カズマ―!」

 

やっとの思いで外に出ると、アクアの呑気な声が聞こえてきた。

声のするほうを見てみると、アクアは屋敷の屋根の上に立っており、その下ではダクネスがアクアの様子を見ていた。

 

「あんなとこに居たのか…」

「見つからないはずです…」

 

俺とめぐみんがアクアを見て呟くと、ダクネスがこちらに駆け寄ってくる。

 

「どうしたんだ二人とも。何かあったのか?」

「悪霊に追い回されてたんだよ。というか、お前らは何してんだ?悪霊退治に行ったってめぐみんから聞いたんだけど…」

 

俺がそういうと、めぐみんが頷いている。

 

「ああ、途中までは悪霊を祓っていたのだがな?突然アクアが、屋根の上から気配を感じると言い出して外に出たんだが…」

 

なんでもアクアは、屋根の上からこの屋敷に取り憑いている少女の霊の気配を感じて、外に出たらしい。

なんでもこの大量の悪霊は、少女が望むところではないのだとか。

悪霊たちに困らされた少女は、屋敷の屋根上で一人落ち込んでいて、それを見兼ねたアクアが少女の霊を慰めているとのこと。

 

アイツが言っていた少女の霊って、本当に居たのか……。

 

「じゃあ、そろそろお開きにしましょうか。今日のことは許してあげるけど、これからはお酒とか飲んじゃダメだからね?」

 

何も居ない所に向かって話しかけたアクアは、屋根の上からふわりと飛び降りる。

 

「あら、その様子だと、随分あの悪霊たちに手こずったみたいね?でももう大丈夫!この私が来たからには直ぐに終わらせてやるわ!」

 

俺たちの様子を見て何があったか分かったのか、アクアはそう言うとどこからか羽衣を出現させ、つぼみの咲くロッドを手に持った。

 

「さあ、あんた達も十分遊んだでしょ?そろそろ天へ還りなさい!」

 

その瞬間、アクアを中心に巨大な魔法陣が現れる。その魔法陣はどんどん大きくなり、やがて屋敷全体を包み込むと…。

 

「『セイクリッド・ターンアンデッド』!」

 

幻想的で、神聖さすらを感じさせる神々しい光が出現し、辺りを満たした。

 

「……凄いな」

 

屋敷にいる霊を浄化するその姿は、普段の駄女神なアクアのイメージを覆す程に神々しく、美しかった。

 

 

——————

 

 

後日。

俺とアクアは屋敷の悪霊の件についてギルドに報告へやってきていた。

悪霊の余りに異常だったのと、本来悪霊退治は冒険者ギルドの仕事であるため、臨時報酬がもらえるかもしれないと考えたからだ。

また、今回の騒動の原因を探るための情報も集められるかもしれない。

 

そんな思いで冒険者ギルドへ訪れ、何時もの受付のお姉さんに報告へ来ていたのだが…。

 

「確かにこの案件では、悪霊が街にはびこっているということで、様々な所から相談を受けております。街にいるモンスターを討伐したことで、僅かに臨時報酬が出ます」

 

受付のお姉さんは尚も続ける。

 

「お手数かけて申し訳ないです。それで、悪霊が大量発生した原因についての情報なんですが…ちょうど昨夜、原因となるものが分かったんですよ」

 

これは思わぬ収穫だ。

原因の究明が既に終わっているなら、ギルドは既に対処しているだろうしもう悪霊は出ないだろう。

解決に導いた訳では無いので屋敷を格安で売ってもらうというのはチャラになったが、ベルディアの報酬もあるし、特に問題はない。

 

「それで原因なのですが、街の郊外に共同墓地があるじゃないですか。あの墓場に、何者かがイタズラか何かで、神聖属性の巨大な結界を張ったんですよ。それで、墓場に発生した霊が行く所を失って、街の中の、人のいない空き家に住み着いたみたいで……」

 

ーーーそれを聞いたアクアがビクンと震え、動きを止めた。

………。

 

「ちょっと失礼」  

 

俺はお姉さんに断って、アクアをギルドの隅に無言で引っ張って行く。

 

「おい。心当たりがあるな?言え」

 

「……はい。以前ウィズに、墓場の迷える霊を定期的に成仏させて欲しいって頼まれてたじゃないですか。でも、しょっちゅう墓場まで行くのってめんどくさいじゃないですか。それで、いっそ墓場に霊の住み場所をなくしてやれば、その内適当に空気に散っていなくなるかなって思いました」  

観念した様に、素直に敬語で白状するアクア。  

つまり、手抜きをしたこいつのせいで、墓場にいられなくなった霊が街に迷い込んで来た訳だ。  ……なんというマッチポンプ。これはどう考えてもダメだろう。

 

「……ギルドからの臨時報酬は受け取らない。いいな?」

「…………はい」

 

 

ーーーーー

 

 

その後、俺とアクアはギルドを後にし、不動産屋に着いた。

今回の悪霊騒ぎが余りにも詐欺みたいなもんなので、謝りに来たのだが……。

 

「………なるほど。…出来れば今後もこの屋敷に住んでいただけるとありがたいです。なにせこの屋敷は広い分、他の物件よりも大量の悪霊が住み着いて暴れましてね。おかげで随分と悪評が……」

「「すみませんでしたっっ!」」

 

俺とアクアが地に頭を付けて土下座すると、店員が慌てて言ってきた。

 

「ああ、いいですいいです!お気になさらないでください!こちらの言い方も悪かったですね。こうしましょう。あなた達はこのまましばらく、この屋敷に住んでください。お代もこの前貰ったもののみで結構です。聞けば魔王の幹部を倒したパーティーということじゃないですか。それはつまり、さぞかし力のある冒険者なのでしょう。有望な冒険者の人達に貢献するのは、この街の住民の義務ですから、これ以上のお支払いも結構です。悪霊屋敷の評判も、皆さんが暮らしているうちに消えると思いますので」

 

店員さんの慈悲深い条件に、俺とアクアは再び地面にめり込む勢いで全力で土下座する。

 

「ああっ!やめてください、やめてくださいっ!」

 

 

ーーーーーー

 

 

この屋敷を格安で譲る条件として、二つのことを頼まれた。

その条件というのが、ちょっと変わったもので…。

「冒険が終わったら、夕食の時にでも仲間と一緒に冒険話に花を咲かせて欲しい。……また随分と変わった条件だな」

 

俺は屋敷の庭に屈みこみながら呟いた。

あの人もおかしなことを頼むもんだ。

 

そして、もう一つの条件とは…。

 

「どうですかカズマ。捗ってますか?」

 

屈みこみながら草むしりをしていた俺は、背後から声をかけられた。

振り向くとそこには、水を汲んできてくれためぐみんが立っていた。

 

「おお、めぐみん。サンキューな、助かるよ」

「いえいえ、この屋敷を受け取る時の条件なのでしょう?なら、私も手伝うのは当然ですよ。…それにしても、そのお墓も中々綺麗になりましたね」

 

めぐみんはそう言うと、バケツを置いて雑巾を使って墓石を拭き始める。

俺たちに出された、この屋敷を受け取った時に提示された二つ目の条件。

それは、屋敷の隅にある小さな墓の手入れをすること。

という訳で俺たちは、早速墓周りの手入れをしているのだ。

俺は周囲の雑草を抜ききり、めぐみんと共に墓石に水をかけて綺麗に洗ってやる。

と、掠れてはいるが、墓石に刻まれた文字が見えた。

きっと、この墓の下に眠る誰かなのだろう。

風化したのか、所々読めなくなってしまっているが、なんとかアンナという文字だけは読み取れた。

 

ーーアンナ。……アンナ?

 

誰だっけ、どこかで聞いたことがあるような…。

墓の前に屈みこんで悩んでいると、屋敷の方から声が掛かる。

 

「カズマー!めぐみーん!ご飯できたから、はやくきてー、はやくきてー!早くこないと、折角のお昼が冷めちゃうんですけどー」

「うむ、今日は自信作だぞ!さあ、早く食卓に来るといい!」

 

見れば、屋敷の窓から顔を出してこちらを呼ぶアクアとダクネスの姿が。

 

「分かりましたよー!待っててください、今行きますからー!」

 

めぐみんが二人に向かって叫び返す。

俺はその間に墓の表面を拭いて、水気を取り除いた。

 

すると、墓石には『アンナ・フィアンテ・エステロイド』と名前が刻まれているのがくっきり分かるようになった。

 

やはり最近どこかで聞いたことがあるような…?

 

「ほら、カズマ行きましょう?ダクネスの自信作ということですし、きっと凄く美味しいに違いないですよ!」

「分かった、分かったから引っ張るなって」

 

俺たちは墓の掃除を終えると、屋敷に向かって駆け出したのだった。

 




裏設定
カズマさんはプリーストのスキルをもってはいますが、無宗派であるため幽霊は見えません。
無宗派なのにプリースト系の技がなんで使えるのかは、そう言うチートだからです。こういうのもあって作るのに結構手間取ったんですねー。

あとがき
ホラー書くの難しすぎてめちゃくちゃ時間かかってしまった…。そもそも作者がホラー系苦手なんですよねぇ。やっぱり作者は戦闘描写の方が好き。
ベッドに入っためぐみんが実は悪霊だったとかやろうと思ったけど怖いしビビット来なかったので没にしたという裏話がありました。
という訳で、長いこと更新出来ずすみません!いつも読んでくれている皆さんには感謝しかないです。ありがとうございます!
次回もお楽しみに!
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