IFすば   作:来世カズめぐ部屋の観葉植物になりたい者

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第一話 このヒキニートに特典を!

「佐藤和真さん、ようこそ死後の世界へ。あなたはつい先程、不幸にも亡くなりました。短い人生でしたが、あなたの生は終わってしまったのです」

 

真っ白な部屋の中、俺は唐突にそんなことを告げられた。

突然の事で何が何だか分からない。

部屋の中には小さな事務机と椅子があり、そして、俺に人生の終了を告げてきた相手はその椅子に座っていた。

 

 

もし女神というものが存在するのなら、きっと目の前の相手の事だろう。

テレビで見るアイドルの可愛らしさとは異なる、人間離れした美貌。

淡くやわらかな印象を与える、水のように透き通った水色の長い髪。

歳は俺と同じくらいだろうか。出過ぎず、足りな過ぎずな完璧な躰は、淡い紫色の、俗に羽衣と呼ばれるゆったりとした服に包まれている。

 

その美少女は、髪と同色の、透き通った水色の瞳をパチパチさせ、状況が掴めず固まったままの俺をじっと見ていた。

……俺は、先ほどまでの記憶を思い出す。

 

「……一つだけ聞いても?」

 

俺の質問に美少女が頷く。

 

「どうぞ?」

「……あの女の子は。……俺が突き飛ばした女の子は、生きていますか?」

 

 

 

大切な事だった。

俺の人生で、最後の見せ場だったのだ。

命懸けで助けに行って、結局間に合わなかったのだとしたら悔しすぎる。

 

 

「生きてはいますよ? もっとも、左足を骨折するという大怪我を負いましたが」

 

良かった…。

俺の死は無駄じゃなかった訳だ。最後に、少し良い事できたかなあ……。

ほっとした様子の俺を見た美少女は、小首を傾げる。

 

「まぁでも、貴方が何もしなければ、そんな大怪我を負う事もなかったんですけどね」

 

「…………は?」

 

この子、今なんて!?

 

「あのトラクターは、本来ならあの子の手前で止まったんですよ。当たり前ですよね。だってトラクターですもん。そんなにスピードも出てなかったし…つまり、あなたはヒーロー気取りで余計な事したって訳です。……プークスクス!」

 

 

何だろう、初対面でなんだろうこの子。

どうしよう、失礼だが凄く殴りたい。

 

 

いや、落ち着け佐藤和真。あの子が命に別条がないならそれでいいじゃないか。

この子の言ってることが本当なら、トラクターに轢かれずに済んだってことだし。

トラクターに轢かれず…トラクターに?

 

 

「……今なんて?トラクター?トラックじゃなくて?」

「ええ、トラクターですけど。あの女の子だって、大型のトラックが迫ってくれば流石に気づくし当然逃げますよ」

 

…………は?

 

「え、じゃあナニ?俺の死因はトラクターに耕されて死んだってこと?」

「いいえ、ショック死ですけど。トラックに轢かれたと勘違いして。…………プッ、アッハハハハハハハ。私、長くこの仕事やってるけど、こんな珍しい死に方したのはあなたが初めてよ?プーークスクス!!」

 

…………。

 

「あなたは轢かれそうになった恐怖で失禁!気絶して近くの病院へ搬送!医者や看護師に笑われながら目を覚ますことなく心臓麻痺……w」

「やめろおおおおおお!聞きたくない!聞きたくない!!」

 

その女の子は耳をふさいでいる俺に近寄ってくると、にやにやと笑みを浮かべながら、わざわざ俺の耳元で、

 

「現在あなたの家族が病院に駆けつけ、その死因に家族までもが思わず吹き出し…………」

「止めてやめて!なあ、ウソだろ!?そんな情けない死に方ってあんまりだろ!」

「プークスクス!……さて、私のストレス発散はこのくらいにしておいて。初めまして佐藤和真さん。私の名はアクア。日本において、若くして死んだ若者たちに新たな道を導く女神よ。……さて。今まで見てきた中でも、最もおかしな理由で死んだ面白いあなたには、二つの選択肢があります」

 

……こいつ!

どうにかしてほえ面かかせてやりたい!

 

「一つは、新たな人生を歩むか。そしてもう一つは、天国的な所でお爺ちゃんみたいな暮らしをするか」

 

 

なにその身も蓋もない選択肢。

 

 

「いやその……。天国的な所って?そもそも、お爺ちゃんみたいな暮らしってなに?」

「天国ってのはね、貴方が想像しているような素晴らしい所ではないの。肉体がないから食事も睡眠も必要ない。早い話、三大欲求は何も満たせない。できることといえばそこで暮らしている人とまったりお喋りすることくらいね」

 

なにそれ、ゲームも娯楽も何もないとか、天国ってより地獄なんですけど。

しかし、赤子になってもう一度人生をやり直す……か。

いや、それしか選択肢はないのだろうか。

そんな残念そうにしている俺を見て、女神は満面の笑みを浮かべた。

 

「うんうん、天国なんて退屈なところいきたくないわよね?かといって、すべてがゼロになる輪廻転生もいやよね!そこで!!ちょっといい話があるのよ!」

 

なんだろう、物凄く胡散臭い。

アクアは、警戒する俺にニコニコしながら言った。

 

 

「あなた……ゲームは好きでしょう?そんな貴方に、今の記憶と肉体を引き継いでの異世界行きを提供できるといったらどう?剣と魔法の世界よ?」

「確かに魅力的な話ではあるんだけど。何かあるんじゃないのか?」

「その世界は、長く続いた平和が、魔王の軍勢によって脅かされていた!人々の築き上げてきた生活は魔物に蹂躙され、魔王軍の無慈悲な略奪と殺戮に皆怯えて暮らしていた!―いたっ!!…そんな世界だから、魔王軍に殺された人たちは、その世界での輪廻転生を嫌がって他の世界に逃げちゃうのよ。このままではその世界が滅びちゃうから、それなら他の世界で死んじゃった人たちを、そこに送り込んでしまえって話になってね?」

 

何という移民政策。

 

「で、どうせ送るなら、若くして死んだ人達を、肉体と記憶を継がせて送ってあげようって事になったの」

「いや、そんな世界に送られても、また死ぬだけじゃねーの?」

「あら、良い質問じゃない」

 

 

変な死に方のクセに。などと非っ常に余計な事を呟きながら感心したような様子を見せる。

…こいつマジで後悔させてやる!

そんな俺の心中を知らず、女神は説明を続ける。

 

 

「だから特典をつけてあげることになったのよ。それは強力な固有スキルだったり、とんでもない才能だったり。神器級の装備だったりね!……如何?これならお互いにメリットがある話でしょ?貴方達転生者は特典と共に第二の人生を送ることが出来る。その世界の人達は即戦力になる人がやってくると。悪くない話だと思わない?」

 

成程。チート貰って第二の人生か、確かに悪い話ではないな。しかしどうしたもんか。

  

「えっと、聞きたいんですけど、向こうの言葉ってどうなるんです?俺、異世界語とか喋れるの?」

「その辺は問題ないわ。私達神々の親切サポートによって、異世界に行く際にあなたの脳に負荷を掛けて、一瞬で習得できるわ。もちろん文字だってよめるわよ?副作用として、運が悪いとパーになるかもだけれど…。だからあとは凄い能力か装備を選ぶだけね!」

「今重要な事が聞こえたんだけど…パーがなんだって?」

「言ってない!」

「言ったろ」

 

先ほどまでの緊張感もなく、相手は女神だというのに、俺は既にタメ口だった。

……しかし、これは確かに魅力的な提案だ。

と、俺の目の前にアクアがカタログの様なものを差し出した。

 

「さあ選びなさい、あなたに、何者にも負けない力を授けましょう」

 

目を通すと、成程。どれも強力なチートばかりだな。

そして、スキルに職業。

俺が今から向かう世界には、職業と、それに関連してスキルというものを覚えることができるらしい。

いよいよゲームみたいだな…。

なるほど、剣のスキルを取ればどんな素人でもある程度剣が扱えるようになるんだな……。

でもこのスキルってのは職業毎に設定されていて、補正が乗る代わりに全員が全てのスキルを取れる訳では無いと……。

剣とか扱ってみたいが正直前に出れる度胸はないんだよな。

やはり魔法系がいいか…。

ただそうなると就く職業はこのウィザード系統になるな。

チート魔法にも惹かれるが、せっかくの異世界なんだから出来ること全部やってみたいんだよなぁ……。

 

俺が悩んでいると、どこから持ってきたのかアクアはスナック菓子を食いながら―――

 

「ねー、早くしてー?どうせ何選んでも一緒よ。最初から引きこもりのニートに期待なんてしてないから」

 

コイツ…!

目の前の気怠そうにポテチを摘まむ駄女神に、いい加減腹が立ってきた。

 

 

人が重要な決断迫られてる中くつろぎやがって!

どうにかコイツを痛い目に合わせてやりたい…!

いや、今はそんなことよりも特典だ。コイツはこの先の異世界人生を左右する超重要な決断になる。心して選ばなければ…。

てか…。

 

 

「なあ、さっきから見てるこの特典ってやつ、どれもすげー魅力的なんだけどさ、こんな常識外の能力くれちゃっていいのか?カタログに書いてるこの世界の常識を大きく捻じ曲げてる気がするんだけど。そんなに魔王倒したいの?」 

「そんだけこの世界は切羽詰まってるってことよ。このままだとあと数年もしないうちに滅びちゃうって予想されてるの。魔王に支配されるこっちも色々面倒なことになるから困るのよ。だから結構な数送ってるんだけど、なーかなか倒されなくて、段々特典も良くなってきてるってわけ」

 

 

…ほう。この女神、煽てたらいい感じに喋ってくれるタイプだな?

 

 

「なんだ、向こうには同郷が結構いるわけか。…そいつら全員あんたに導かれたのか?凄いな、チートで転生っつても、死ぬのが怖くて簡単には頷かないだろ。そんなに転生させるなんて、あんたはさぞかし優秀なんだな」

「あら、あんた変な死に方した癖によくわかってるじゃない!その通り!この超エリートな私が、何人も転生者を送って破滅の未来をふせいでるの!ちょっと前までは違う女神が担当してたけど、中々転生してくれなくてね。そ・こ・で!水の女神たるエリートなこの私に、この仕事が回ってきたってわけ!私が担当してから転生者の数も右肩上がり!おかげで日本担当に昇神したし、私の優秀さが漸く皆に知らしめられたのよね~!」

 

 

そう、ふふんと自慢げに胸を張る駄女神。

なるほど、前の担当に昇神、ねえ。

 

 

聞いてもない事をペラペラと喋ってくれたお陰で、交渉の余地が出来た。

 

 

「よし、決めたよ」

「あら、やっと決まった?じゃあ何にするか教えて頂戴」

 

 

先ほどの御世辞のお陰だろうか、アクアの対応が少し柔らかくなったような気がする。

では、俺の欲しい特典を言わせてもらおう。

それはは…

 

「あらゆるスキルを覚え、本職と同等に使いこなすことが出来る俺専用の職業が欲しい。でも、職業だけじゃすぐ死んじゃうから、スキルは備え付けで。そんで、使いこなせなきゃ意味ないし、そのスキル全部がちゃんと使えて、余裕を持てるステータスにしてくれよ」

 

 

そう、専用の職業だ。

折角の異世界だ。剣も魔法も全部使いたい!

こう思ってしまうのはゲーマーの性だろう。

ちょっと無茶な事を言っている自覚はあるが。

 

 

「はあ!?あんた何言ってんの?専用職ってまた面倒な…。ってか、スキルにステータスもって、それだと"スキル"、"職業"、"才能開花"の3つ複合チートになるじゃない!そんなの無効よ無効!」

 

だろうな。

さあ、ここからがミソだ。

俺はニヤリと黒い笑みを心の中で浮かべると、目の前のチョロそうな女神に近づいて…

 

 

「でもさ、これ、アンタにとって悪い話じゃないと思うんだよ」

 

 

そっと耳打ちをした。

 

 

「どういうことよ?」

 

 

その言葉に、アクアは怪訝そうな顔をしながら話の続きを促してくる。

 

「あんたは、というか、アンタらは魔王を倒したいんだろ?でも、今の状況だと人類は滅ぼされてしまう。それってさ、単純に特典の能力不足って思うんだよ。だってそうだろ?優秀なアンタの力で、沢山転生させても世界滅亡の危機は救われてないんだから」

「続けていいわよ」

「これまでの勇者達で倒せなかったってことは、チートが足りなかったってことじゃないか?単純に考えようぜ。じゃあ、もっと強いやつ送ればいいじゃんってさ!一つの世界を救うためだったんだ。少しの不正ぐらいしょうがないさ。それに今まで送ったやつらじゃ倒せなかったんだろ?でも、あんたの判断でチートを増やしたら倒すことができました!ってなったらさ、あんたの判断力やら機転が評価されるんじゃね?」

 

 

確かに…。といった様子で、アクアが頷く。

もう一押し!

 

 

「今までもアンタがたくさん送ってきてもダメだった。だからこそ、ここでアンタが臨機応変に対応して、結果俺が見事魔王を倒したら、あんたは超絶評価されるぜきっと!さっき言ってた昇神も間違いなしだろ!」

 

 

まるで天才を見るかのようにアクアがキラキラした表情でこちらを見てくる。

よし!

 

 

「いいチートが貰えれば俺も幸せ、女神のあんたは評価が上がって幸せ、転生先の人たちは魔王が倒され平和に暮らせて幸せ。win-win-winじゃねーか!」

 

 

そう、一気にまくしたてると…!

 

 

「そうね、その通りよ!アンタ中々良い事いうじゃない!待ってなさい、専用職業とスキル、強力なステータスね!爆速で作ってくるわ!あ、でも、魔物とか武器が使う専用スキルとか固有スキルは無理だから、そこは許してくれる?」

 

 

まあ、それはしょうがないか。

 

 

「人間が使う一般的なスキルは全部あるんだろ?じゃあ問題ないぜ」

「分かったわ!…んんっ。それでは上級職までの全スキルと、それを遜色なく使えるためのステータス、本職と同等の補正を乗せる職業。習得したスキルの使用方法、そして成長及び限界値の突破、…また、新規の職業は天界規定に抵触しますので職業名は条件と最も類似する"冒険者"となることはご理解ください。また、完全新規の特典であるため少々作成に時間がかかります。そちらのカタログをみてごゆるりとお待ちくださいね」

 

…こうも簡単にいくと拍子抜けだな。

ブラフのため騙してるわけじゃないが、こうも純粋だと少し良心が痛…まねえわ。ざまーみろとしか思わねえ。

先ほど散々煽ってきたアクアを思い返し、そう考え直していると、アクアが特典を作りに去っていった。

 

 

「忙しない女神だな」

 

 

ボソッと呟くと、足早にどこかへ姿を消すアクアを尻目に、俺は少しでも多くの情報を得ようとカタログに目を落とした。

これから手に入れるスキルでどうやって敵を倒すのか作戦を立てるのだ。

オンラインゲームのように効率的に敵を倒すことができれば、色々と楽になっていくだろう。

それに、敵対するであろう魔物が持つスキルとかを調べるのも重要となる。

どれどれ……死の宣告、不死王の手、なんだこれ、バニル式殺人光線……?巫山戯た名前のスキルだな。効果は…強!?どうなってんのこれ?

っと、へぇ、アンデッドモンスターには魔力を補給するドレインタッチというスキルがあるのか……。

 

 

モンスターサイドのスキルの確認もそこそこに、俺はチートを貰ってからの戦術を考え始める。

魔法を主軸に戦いたいが、接近戦も鍛えておかないと相手に近づかれた際の弱点となってしまう。それに魔力が切れた時何も出来ないのもヤバいだろう。そんなときこのドレンタッチがあると何かと便利そうだな。

このカースド・ライトニングの魔法を使い遠距離で攻撃しつつ、近づいてきた敵にはルーン・オブ・セイバーのスキルで……。

ああだこうだと考えながらページを捲り進めると……先程は読み飛ばしていた、爆裂魔法という項目を見つける。

 

爆裂魔法。

それは人類最強の攻撃手段であり、上位悪魔や神など、あらゆる存在に問答無用で直接ダメージを与えられる概念型の最強の攻撃魔法だという。

しかし高火力広範囲で、その上消費魔力の燃費も悪いため、扱いにくい攻撃魔法だと書いてある。

何十年も努力を重ねた天才魔法使いが、やっとの思いで使用することができる、文字通り戦略型の魔法。

 

 

ふむ、扱いにくいとされているが…しかし実際使おうと思えばうまく使えそうだ。

敵をデコイスキルで呼び寄せ、テレポートスキルで脱出し、爆裂魔法が使えれば大量の敵をまとめて消し去れる。

そういや、敵寄せができる、フォルスファイアというのもあったな。それも併用すれば……。

…とはいえ、爆裂魔法まで唱える暇はなく、そもそも魔力が持つかもわからないか。うーん。

俺が戦闘の脳内シミュレートをし続けているとアクアが戻ってきた。

 

「待たせたわね。それじゃ、こっちに来て頂戴」

 

俺がアクアの側までいくとアクアは目を瞑り、知らない言語で何かを呟いている。

瞬間、俺の体の中に熱いものが駆け巡る!

 

「ではこれより貴方を異世界へと送ります。魔王を倒した暁には神々からの贈り物を授けましょう」

「贈り物?」

「そう、世界を救った偉業に見合った贈り物。…たとえどんな願いでも、たった一つだけ叶えて差しあげましょう…!……魔王討伐、よろしくね?」

「……!」

 

その衝撃的な内容で、最後のアクアの言葉は、耳から耳へだった。

 

 

どんな願いでも一つだけ叶えられるだと!? 

それはつまり、過去の後悔も……、

そんなことを考えていると、段々と意識が朦朧とし目を開けられなくなる。

視界が真っ白に染まっていき俺は明るい光に包まれた。

 

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