「おいおい…。俺の幸運値は高いんじゃなかったのか?…いるか知らないけど、恨むぜ幸運の神様」
月明かりが雲に隠れ、周囲は闇に閉ざされている森の中。
木々が無くぽっかりと開いた地で、俺は左右の手でワンドと剣を持ち悪態をつくと、目の前の存在に向き直る。
目に映るのは、怨念と強大な魔力を内包する漆黒のオーラで身を包み、鋼の如く強靭で圧倒的な筋肉。
白目を剥き、顔には涙のように赤い線が伸びる。
鋭い爪と牙を持ち、額からは黄金に光る三本の角が生えている。
「guruguruguruguru……」
唸りを上げるそいつは、拳を握り強大な魔力を噴出する。
俺は魔力回復ポーションを飲み、剣に魔力を篭めて構えると、愛用している戦闘スキルを全開にした。
さあ、準備は整った。
「来い!」
俺が叫ぶと同時、目の前の巨体が迫り、剣と拳が激突するーー。
ーーーーーー
キールのダンジョン攻略から翌日。
俺は一人、ある所へ向かっていた。
ダンジョンの攻略で全員かなり疲労したということもあり、一週間程冒険は休みということになった。
そういう事で、俺達は各々自由行動をしている。
アクアは屋敷のソファを陣取ってゴロゴロしていた。高い酒を買ったとか言ってたから、今頃飲んだくれているのだろう。
身体が鈍ると言っていたダクネスは、昼間は筋トレをするために実家に向かった。…すでに筋力値は俺よりも高いのに、まだ鍛えるようだ。
めぐみんは、日課の爆裂を終えたために屋敷で休息している。一緒に来たがっていたが、魔法を使い体が上手く動かせない状態で行くのは諦めてくれた。
今回の目的を考えると、先に爆裂散歩を済ませて良かったと思う。
——俺達のパーティー…いや、俺には大きな課題がある。
昨日のダンジョン攻略で改めて自分の力の無さを感じたのだ。
アクアはプリーストとして、他のプリーストと比べられないほどに優秀だ。
ダクネスも、圧倒的な防御力を誇り、壁役としてパーティーの縁の下の力持ちとなってくれている。
めぐみんだって、最大瞬間火力において他のウィザードの追随を許さない。強敵と戦う際、あれほど重宝できる攻撃手段は他にないだろう。
……強力な仲間たち。
対して自分はアクアから貰ったチートのみ。
しかも、それがなければなにもない。
チート能力だって、完全には扱いこなせていないのだ。
この前戦った御剣という男は、自分のもらったチートを完全に使いこなしていた。
なんでも彼は王都の冒険者格付けランキングで第三位を得たらしい。アイツはチートを一つしかもらっていないのに、単身で大物賞金首『エンシェント・ドラゴン』を討伐したとのこと。
比べて俺はブラックオーガにすら苦戦を強いられた。
三種のチートを得たにも関わらず、なんと情けないことなのだろう。
魔王なんて、本当に俺なんかに倒せるのだろうか?
そんな訳で、強くなろうと決めた俺は、とある店の前にやって来ていた。
そこは、小さなマジックアイテムを扱っている魔道具店。
俺は店のドアを開けると、ドアについている小さな鐘が、カランカランと涼し気な音をたて、人が来たことを店主に告げる。
「いらっしゃ…カズマさん!いらっしゃいませ」
「よう、ウィズ。昨日ぶり」
――――――
「この前買った光源の魔道具、あれ凄く便利だった。本当に助けられたよ。あれのおかげでダンジョン攻略もスムーズにできた」
そう、昨日ダンジョンで使用した光源の魔道具は、このウィズの店で購入したものだったのだ。
リッチーのいる店ということもあって、念のためにアクアを連れて行ったのだが、案の定暴れまくり、ウィズを消滅させかけたので、今回は留守番にした。
昨日ウィズと話した感じ、どうも危険なリッチーとは思えなかったので、こうして一人でやってきた訳だ。
「お役にたてたようで何よりです!…あの魔道具、高い以外で特に悪い効果もないのに、なぜか売れなかったんですよ。こちらとしても、カズマさんが沢山購入して頂いて助かりました!」
いやまあ、幾ら便利とはいっても、近くに対して大きなダンジョンもない駆け出しの街で売っても高ければ購入されないだろう。
っと、そんなことよりもだ。
俺は魔道具の礼もそこそこに、本題に入ることにした。
「ウィズ。以前言っていただろ?何かリッチーのスキルを教えてくれるって。能力をもっと伸ばしたいって思っててさ。ドレインタッチってスキルを教えてくれないか?」
「ああ、その件ですね。分かりました。…あ、でもこのスキルは相手が居ないと使えないのですが、カズマさん相手に使っても大丈夫ですか?」
そう言って心配そうに見るウィズ。
「構わないよ。ああ、でもできればドレインするのは少しだけにしてほしいんだが…」
「も、もちろんですよ!スキルを覚えてもらうだけなら、ほんのちょっとでも効果があれば覚えられると思いますのでっ!」
慌てた様に早口にいうウィズに向って、俺は苦笑しつつ右手を差し出した。
前のアクアの威嚇がよほど応えたのか、すこし怯えが混じっている。
差し出された右手を取り、ウィズは俺から少しだけ魔力を吸い取ると、すぐに手を放してくれる。
…なんか、そう怖がられると少しいじけるな。
そう思いつつ俺は自分の冒険者カードを確認すると、確かに『ドレインタッチ』と書かれたスキルが刻まれていた。
俺はスキルポイントを消費して、迷わずスキルを習得した。
ドレインタッチはアンデッド特有のスキルで、相手の体力や魔力を吸い取る事ができる。
更に、自らの体力や魔力を、相手に分け与える事もできるらしい。
このスキルがあれば、敵から魔力を奪うことができるし、仲間から魔力を借りることも出来る。
この世界に降り立つ前、アクアからもらったカタログで確認した時から便利だと思っていたスキルだ、手に入れられたのは本当に幸運だったと思う。
と、俺がスキルを取得し感慨に耽っている中、気を取り直したウィズが、
「そういえば、昨日ギルドで知ったのですが、カズマさん達があのベルディアさんを倒されたそうで。あの方は幹部の中で最も多く勇者候補を倒し、剣の腕に関してはトップクラスだったのですが、凄いですねえ」
そう言って、俺に穏やかな笑みを浮かべ……。
……あれ?
「あのベルディアさんって、なんかベルディアを知ってたみたいな口ぶりだな。あれか?同じ最上位のアンデッドってことで繋がりでもあったのか?」
俺のそんな疑問に、ウィズが世間話でもする様な気軽さで。
「ああ、言ってませんでしたっけ。私、魔王軍の八人いる幹部の内の一人ですから」
にこにこしながらそんな事を。
……………………。
「『セイクリッド・ターン……」
俺は保険として作っておいた、アクアの魔法を封じ込めたスクロールを開き、ウィズに向かって使おうとすると…。
「待ってーっ!カズマさん、お願いします、話を聞いてください!」
スクロールから溢れる神聖な魔力に怯えたウィズが悲鳴を上げる。
怯えるウィズを見て、事情を一切聞かないのもどうかと思い、俺は警戒しつつ魔法の発動を中断する。
「……えっと、幹部ってどういうことだ?流石に魔王軍のスパイとかだと、冒険者な手前見逃すわけには……」
そんな俺の言葉に、ウィズは泣きそうになりながら必死に弁解する。
「違うんです!魔王城を守る結界の維持の為に頼まれたんです!勿論今まで人に危害を加えた事はないですし、幹部と言ってもなんちゃって幹部ですから!」
結界?なんか気になるワードが出たな。
「…えっと、何だ?つまりゲームとかによくある、幹部を全部倒すと魔王の城への道が開けるとか。そんな感じか?で、ウィズはその結界とやらの維持だけ請け負っていると」
「げーむとやらは知りませんが、そういう事です!」魔王さんに頼まれたんです、人里でお店を経営しながらのんびり暮らすのは止めないから、幹部として結界の維持だけ頼めないかって!魔王の幹部が人里でお店やってるなんて思わないだろうから、人間に倒されないだけでも十分助かるって!」
魔王の城に入るには、その結界をなんとかしなくちゃならないのか…。
ここでウィズを倒したとて、まだ幹部が六人も残っている。魔王城に攻め込むにはどのみち他の幹部を倒さないといけないし、アクアがいれば、幹部全員を倒さなくても結界が破れるかもしれない。
……ふむ。
「理解した。まあ、取り合えずは当分見逃すことにするよ。幹部を全員倒さなくても結界を破ることが出来るかもしれないしな」
「あ、ありがとうございます!私にはまだ、やるべきことがあったので…」
俺がそう言ってスクロールをしまうと、ウィズはぱあっと表情を明るくさせた。
「でも、良いのか?幹部って連中は一応ウィズの知り合いとかなんだろ?ベルディアを倒した俺達に恨みとかは無いのか?」
俺の疑問にウィズはちょっとだけ悩み。
「ベルディアさんとは、特に仲が良かったとか、そんな事も無かったですからね……。幹部の中で私と仲の良かった方は一人しかいませんし、その方は……、まあ簡単に死ぬような方でも無いですから!……それに、この前も言った通り」
そう言った後、ウィズは。
「私は今でも、心だけは人間のつもりですしね」
と、ちょっとだけ寂しげに笑った。
――――――
スキルを教えてもらった後、またウィズが色々と商品を卸したとのことなので色々と見せてもらった。
衝撃を与えると爆発するポーション、蓋を開けると爆発するポーション、水に触れると爆発するポーション等……。
どれもこれも爆発系ばかりで爆薬の店かとツッコんだりしていると、いつの間にか時刻は昼を回っていた。
そろそろ、もう一つのここに来た目的を果たそうと思った俺は商品を見るのもそこそこに。
「……なあウィズ、一つ頼みがあるんだけどさ」
「頼み、ですか?私を見逃してくれる恩もありますし、私にできることならなんでも聞きますよ!」
そう言って息まくウィズ。
な、なんでも…!っと、いかんいかん、邪念が出た。俺の目的はそういうのじゃない。
「ウィズはテレポートって使えるか?」
「使えますよ。一応人間だった頃は王都でもそこそこ有名なアークウィザードだったんです」
そう謙遜気味に言うウィズ。
そうか、それなら期待できるな。
「なら、一つお願いがある」
――――――
俺は一人、人気のない森を歩いていた。
周囲は木々に覆われて暗く、うっすらと枝葉の隙間から太陽の光が覗いている。
ここは、ベルセルク王国の国境付近にある、高レベルモンスターが闊歩する森の中心。
ウィズに頼んだお願いとは、この森へのテレポートだったのだ。
いや、正確にはウィズがよく行く狩場にテレポートしてほしいというものだ。
強くなる。
その目標を達成するためには二つの手段がある。
一つは、高級な食材によるレベル上げだ。
この世界では、食材にも経験値が詰まっており、食べるだけで経験値を得ることができるものもあるらしい。そういった食材は金がかかるが、ベルディアの報酬を得た俺ならば問題なく購入はできるだろう。
そしてもう一つは、最もオーソドックスでシンプルなもの。
そう、モンスターの討伐によるレベル上げである。
より強い敵を倒せば多くの経験値が手に入る。
また、戦闘経験も積むことができ、スキルの熟練度だって上げることができる。
手っ取り早く強くなるなら一つ目の手段だが、俺が目指すのは魔王討伐。
スキルの熟練度も上がるモンスター討伐でのレベル上げの方が、全体的な成長も見込まれるため俺は二つ目の手段を選んだ。
アクアからチートを貰った俺はレベルが上がりづらい。
アクセルの街周辺のモンスターでは大したレベル上げにはならないだろう。
そのため俺は、リッチーが狩場とするレベルの、強敵が潜む狩場へと飛ばしてもらったのだ。
冒険を休みとしたこの一週間が期限だ。
俺はもっと力が欲しい。
仲間を絶対に失わないくらい、どんな理不尽も跳ね返せるような力が。
当面の課題は合体スキルの魔力を喰いすぎを抑えること、そしてレベル上げによるステータスの上昇、魔法スキルの威力の底上げだ。
レベルは三十を目安に上げたいな……。
考えながら、俺はテレポートの枠の一つをこの地に登録すると、早速モンスターを狩るため歩き出すと……。
「一撃熊、それも群れか……」
ウィズに、ここに送ってもらって早々強力なモンスター、それも群れに遭遇した。
初心者殺しすら一撃で殴り殺す程の威力を誇る拳を繰り出し、その体毛は並大抵の鉄をも弾く強力なモンスター。それが七体。
嗅覚も効くのか、やつらは直ぐにこちらに気づくと獲物を見つけたといわんばかりの勢いでこちらに迫る。
怖ええ……。
その迫力から腰が引け、もう帰ってしまおうかという想いも出るが…。
「……そうだ、何のためにここに来たんだ佐藤和真!俺の不甲斐なさのせいで仲間を傷つけないためだろう!仲間を守る強さを得るんだろう!!」
俺は昨日のめぐみんの負傷を思い出し、気合を入れ直す。
「『ライトニング・ストライク』!!『ルーン・オブ・セイバー』!!!!」
特殊な鉱石が内包されたちゅんちゅん丸は、その刀身に魔力や魔法を溜める効果を持つ。
これは、その性質を利用した合体技の一つだ。
俺は天に掲げた剣に雷を落とし、その刀身に強力な稲妻を迸らせる。
溢れんばかりの雷を纏った剣を手に、俺は更にルーン・オブ・セイバーを発動させた。
ライトニング・ストライクによって落とした雷を剣に溜め、更にルーンオブセイバーを重ね掛けして斬りかかる、魔力をバカ喰いする俺の奥の手。
某有名ゲームのギガスラッシュとか再現出来るんじゃね?とか考えて編み出した。
雷は俺の魔力で操作でき、刀身に溜めることで雷の剣を形作る。
ライトオブセイバーとルーンオブセイバーの合体技より威力は低いが、あれよりも消費魔力が少なく、更に雷が広がることで広範囲に攻撃を届かせる全体攻撃技だ。
「……さあ、来いよデカ熊共!全員真っ二つにしてやる!!」
俺は両手で雷剣を構えると、そのまま一撃熊の群れへと斬りかかった!
――――――
「…はあ、はあ、はあ…………」
夕日が段々と地平線に沈んでいく中、俺は、大量のモンスターの死骸の山を前に片膝をついていた。
一撃熊を一撃で薙ぎ払った後、戦いの音を聞きつけたモンスターたちが押し寄せ、戦闘に継ぐ戦闘と休む間もなく無我夢中で戦い続け、漸く一段落ついたのだ。
目の前の一撃熊や一撃兎、ブラックハウンドなど多種多様なモンスターの死骸で出来た山から、相当数のモンスターを倒したことが分かる。
ドレインタッチの習得により魔力や体力を回復する機会もあって余裕はあるが、それでも長時間の戦闘というのは精神的に疲労が溜まった。
「……レベル十五、か」
俺はまだぎりぎり差し込む夕日の光で冒険者カードを照らし、そのレベル欄を確認する。
この前のダンジョン攻略でブラックオーガを倒したことでレベルは十になった。
つまり、この森でモンスターたちと戦い続け、一気にレベルが五も上がったという事だ。
見ればステータスもかなり上がっている。
やはりこの森に来て正解だった。確実に成長出来ている!
だが…。
俺は少し落胆した様子で肩を落とすと、自分の両手を見つめる。
合体スキルの方は、未だに改善の様子が見られない。
魔力の流れやスキル発動までの最適な所作、使用時のタイミングなどこの戦闘で多くの試行錯誤をしたが、それでも消費魔力量や最適な動きといった課題解決の糸口は、全く見えないでいた。
違う職業が使うスキルを同時に使用するんだ。その性質上簡単に改善できるとは思ってなかったけど、全く糸口が見えないってのは結構へこむな…。
いや、今日は特訓を始めてまだ一日目だ。
そんなに早く成果なんて出たら苦労しないだろう。
それに、敵感知といったスキルの熟練度も上がってきているし、レベルの上昇でスキルポイントも増えた。
これでスキルの効果補正に振ることもできる。
そう、俺は着実に強くなっている。
日も落ちてそろそろ夜になる時間だ、早く帰らないと皆に心配かけるだろうし、今日はここまでにして屋敷へ戻るとしようか。
おっと、その前に…。
「『インフェルノ』!『クリエイトウォーター』!!」
俺は死骸の山へ火を放ちそれらを灰に変えると、燃え広がった炎を消すために水を出し、消火した。
死体の放置はアンデッド化の原因になったり、瘴気発生の元になったりする。
アンデッドモンスターは潜伏スキルが通じず、総じて厄介なやつが多く、できるだけ会敵は避けたい。
また、死体の怨念や魔力溜まりから生じるとされる瘴気は、ブラックオーガのような異常個体出現の原因にもなる。
レベル上げに来ているとはいえ、異常個体との戦闘も正直避けたい。
ならば、死骸を放置したことでアンデッド化し、森にアンデッドモンスターが増えるといったリスクや、瘴気発生による異常個体出現のリスクは減らしておくべきだろう。
……よし。
俺は死骸の燃焼と消火を終えると、テレポートの詠唱を唱える。
「『テレポート』!!」
詠唱を完成させた俺は、自分の成長に対して確かな手ごたえを感じつつ、転移魔法で屋敷まで戻るのであった。
――――――
「ただまー」
「おかえりなさい。遅かったですね……って、なんか凄くボロボロじゃないですか!一体どうしたんですか?」
俺は屋敷の前に転移してそのまま扉を開けると、お玉を片手に持ったエプロン姿のめぐみんが出迎えてくれた。
台所の方から良い匂いがする。
そっか、今日はめぐみんが御飯当番の日だったな。
「ああいや、ちょっとクエストの手伝いをさ。それより、風呂って沸いてるか?汗まみれだし一旦そっちに入りたいんだけど」
「えっと、一応既に沸かせてはいますが…。クエストの手伝いですか?冬場前の影響で最近のクエストは高難易度しか残っていないはず……」
「じ、じゃあ先風呂入ってくるから!」
パッと思いついた言い訳に、めぐみんは疑念を抱いたようで怪訝そうな顔を作る。
ぐ、やっぱ苦しい言い訳だったな…。次からは大衆浴場で風呂に入ってから帰るか。
そんな事を考えながら、俺は誤魔化すようにバタバタと風呂へ向かった。
「む?カズマか、おかえり。遅かったな、今日は一体何をしていたのだ?」
「あら、カズマ遅かったじゃないの!ほらほら、そろそろ御飯なんだから、その汚れ落として来なさいよね!今日は夕飯で皆と飲むために、とっておきのシュワシュワを買ってきたんだから!」
風呂へと向かう途中、黒のスーツ姿のダクネスと、大事そうに酒瓶を抱え、酔っぱらっているのか顔を赤くさせたアクアと出会う。
……こいつ、まさか昼からずっと飲んでんのか?
「まだ飲む気なのか!?アクアはもう既に昼間何本も飲んだだろう!?休みとはいえ自堕落がすぎるぞ!」
「い、いいじゃないの別にー!ちゃんと共同墓地の除霊だってしてるんだし、私仕事してますから!折角の休みなんだからのんびりしてたっていいでしょ!ダクネスのケチンボ!」
「け、ケチンボ!?」
ケチンボと呼ばれたのが余程ショックだったのか、ダクネスは驚きの声を上げている。
「クエストの手伝いを少しな。別に大した用事でもないから気にしないでくれ」
「む…。休みだというのに、クエストに行ったのか?この前のダンジョン探索でお前はかなり消耗したのだ。あまり無理はするなよ」
そう言って心配そうにこちらを見るダクネスに俺は大丈夫だと告げると、ダクネスは小さく、そうか…と呟き、めぐみんの手伝いをしてくると言って居間の方へ去っていった。
......余計な心配かけちまったかな。
日中特訓して帰ってくるだとこんな風に心配されるし、いっそ昼はずっと寝て特訓は夜に行くか?
俺がうんうんと悩んでいると、酒瓶を抱えたアクアがこちらに寄ってきて俺の肩をぽんぽんと叩く。
「カズマさんカズマさん」
「ん?どうした?」
アクアは一泊間を置くと、先ほどまで酒に酔っぱらって低俗な雰囲気を醸し出していた姿から一変。
全てを見透かすような瞳でこちらを見ながら、
「何か困ったことがあるなら、相談しなさいよ?悩みを抱えすぎたら、人は壊れてしまうから…」
我が子を諭すかのような優しい声色で、そんなことを言ってきた。
…こいつは、本当に偶に突然女神らしい姿を見せるな。
こう言ってくれるのは嬉しいが、俺が強く成ろうと特訓しているのは、完全な自己満足だ。
自分の弱さに悩んで、克服しようと訓練を積んでいる。
もし俺が訓練してるなんて言ったら、優しい皆は俺の手伝いをするとか言いだすに決まっている。
自己満足でやっている行為に、態々皆を巻き込みたくない。
だから、俺は自分の弱さに悩んでいるなんて情けないこと、言うわけにはいかない。
それに、一人でやった方が訓練になるしな。
「………」
俺が黙っているのを見て、アクアは慈愛に満ちた顔で微笑むと、
「ほら、さっさとお風呂入ってきなさい!この後は私のとっておきの芸を疲労するんだから!」
いつもの顔に戻り、酒瓶を掲げて楽しそうに今の方へ歩いて行った。
……アイツには、お見通しなのか?でも、あんまり皆には心配かけたくないし、これは俺自身の問題でもあるんだ。皆を巻き込みたくないし…。
俺はどうするべきかと葛藤していると、ふと正面から気配を感じて顔を上げると。
「あと、お金があるからってえっちいお店はほどほどにね?」
廊下の角から半分顔を出したアクアが、ボソッとそんなことを……。
「違うわコラ!おい待て勘違いしてんじゃねえ!!」
あんのアマー!!!
――――――
闇に閉ざされた森の中、木々の隙間から漏れる月明りが俺の視界をそっと照らしてくれる。
そんなもの静かな森の中で、ピカッと眩い光が落ちる。
「『クリエイトウォーター』!『コール・オブ・サンダーストーム』!!」
水浸しになった大量のスライム達に、俺が呼び出した黒雲から木々を突き抜けた巨大な稲妻が突き刺さったのだ。
水に濡れたことで、より電気を通しやすくなったスライムたちは、稲妻を浴びてそのまま蒸発していく。
俺はスライムが全部討伐出来たか確認すると、手慣れた仕草で近くの木の枝に飛び乗り潜伏スキルで気配を殺す。
デカい魔法を使ったんだ、今の音で引き寄せられたモンスターが来るはず。
「ッ!敵感知……。次は…ミノタウロスか!」
すると直ぐ、俺は敵感知によって気配を掴み、向ってくる敵を千里眼で確認する。
俺の目が捉えたのは、こちらに突進するように迫る牛の頭をした巨大な人型モンスター。
その手には巨大な斧を持ち、その巨体からは想像もできない程のスピードで走っている。
しかし、ミノタウロスは狂暴かつ強力なモンスターだが、魔法抵抗力は低い。そこがねらい目だ。
俺は奴の進行経路を予測し、ワンドを構えてスキルを発動した———!
ーーー特訓を始めて早四日が経過した。
日中抜け出して夜帰るのでは、皆から心配されるしアクアからおかしな勘違いをされるため、今は昼間は寝て夜に特訓に行くという生活サイクルを繰り返している。
お陰で心配かけることは無くなった。が、夕方まで寝ているためアクアにバカにされたりアクアに呆れられたりアクアに煽られたりと、ちょいちょいイラッとすることがある。
ま、それも皆に隠れて特訓してる代償だろ。そう思えば安いもんだ。
それに、日本での生活の影響からか俺は夜の方が調子が良い。
昼夜逆転生活も特に問題なく続けられるし、こっちの方が都合が良かったかもしれない。
モンスターを倒し、潜伏スキルで隠れ、戦闘の音を聞きつけやってきたモンスターによっては相手をするという戦法を連日取り続けたお陰で、俺のレベルはかなり上昇した。
そんな事を考えながら、プスプスと煙を立てる真っ黒に焦げたミノタウロスを前に、俺は自分の冒険者カードを確認する。
表示されているレベルは22。
この五日間の特訓で俺のレベルは十二も上がったということになる。
ステータスも高くなり、魔力操作の熟練度や剣術の熟練度もかなり上がった。
合体スキルも、魔力操作の能力が上がったおかげか無駄な魔力放出を抑えられるようになり、前よりも各段に効率よく発動できるようになった。
着実に成長できている。それは間違いない。
そう、間違いないのだが……。
何か、何かが足りないような感覚が、ずっと胸に刺さっているのだ。
あと少しで掴めそうな何かが……。
「……っと、もう朝か…」
そんなことを考えていると、何時の間に昇ったのか木々の隙間から日の光が差し、夜に慣れた俺の目を照らす。
今日はここまでだな。
眩しい光に思わず目を顰めると、今日は潮時と考え、テレポートの詠唱を始める。
休みの終わりまであと三日。
七日目の夜は翌日クエストに行くので特訓はしない。
そのため俺がここに特訓をしにくるのは、あとニ日ということになる。
そう、たったの二日だ。
残り二日で、俺はこの胸でざわめく違和感を拭うことはできるだろうか?
そんなことを考えていると、テレポート詠唱が終わった。
魔力操作の上達に伴い、テレポートといった上級魔法よりも難易度の高い魔法も、直ぐに詠唱が完了できるようになった。
やはり着実に成長は出来ている。実感だってあるし、第三者から見てもそれは明らかなはず。でも、何か違和感、というか、何かを掴めそうで掴めない感覚がある。
俺も何かは分からない。でも、これを掴むことが出来さえすれば、俺は大きく成長できそうな気がする。
「『テレポート』!」
レベルも、ステータスも、スキルの熟練度も上がってきているのに、未だ取れない違和感に疑問を感じながら、俺はテレポートを使い屋敷へと帰るのだった。
「ただまー…」
まだ日が昇って間もなく大半の人が寝ている時間帯。
俺はテレポートで屋敷の前に着くと、みんなを起こさないため、音を立てないようそっとドアを開ける。
今日も疲れたし、さっさと風呂入って「…おやカズマ。随分早起きですね」寝たい。そう思いながら、ドアを閉めて玄関に入ると…?
「……」
「……」
目の前に、椅子に座っためぐみんがいた。
何が起こっているのか理解できず頭が真っ白になり、たっぷり十秒間俺たちは無言で見つめ合う。
え、なんでここにめぐみんがいんの?いやここは屋敷だから居ておかしいことはないんだけど、いやそうじゃなくて何でこんな時間に?いやそうだなんでこんな時間にめぐみんが玄関前に態々椅子を用意して座ってんだ!?
「!!????」
驚きの余り上手く舌が回らず、口をパクパクさせてしまう。
そんなおかしくなっている俺を見て、小さくため息を吐いためぐみんは、
「あなたが聞きたいのは、どうしてこんな時間に、こんな所でまるで人を待っていたかのように待機していたのか、ですね?」
ジト目のままそんなことを言ってくる。
いや確かに俺が聞きたいのはそうだけど…え、もしかして「夜中コソコソ抜け出してるのもばれてますよ」……はい、詰みです対戦ありがとうございました。
「私たちはもう結構長い付き合いなんです。あなたが夜中、皆に内緒でどこかに行き、朝方疲れ切った様子で帰ってきてることは知ってました」
「ま、マジか…。ちなみにいつからお気づきになされなさったんで……?」
「休みに入って三日目ですね。折角の休日なので、どこか行こうかと思ってたのに日中ずっと寝ているのです。普段努力家なカズマが日中ずっと寝てるとか、疑いもしますよ」
おっとかなり早い段階で気づかれてたみたいですね。
というか、日本にいたころは日中寝てるのは当たり前だったんだけどなあ……。俺もここにきて随分と変わったものだ。
気まずさから現実逃避を始めた俺は、めぐみんと目を合わせないようキョロキョロし始める。
視線を合わせようとしない俺を見てか、めぐみんは少し怒り気味に声色を低くした。
「さあ、一体どこで何をしてたのか!キリキリ吐いてもらおうか」
ああ、やっぱ聞いてくるよなあ…。
正直特訓してるってことは、めぐみんには一番言いたくなかった。
強くなりたいから特訓してるなんて言ったら、こいつは自分が普段の戦闘でトドメを刺してるせいでレベル上げの機会を奪ってるとかアホなこと思うに決まってる。
「い、いやそれは……。ほ、ほら。お前らにはあんまし関連性薄いことだしさ!」
俺がそう言って誤魔化すと、めぐみんは悲しそうな、怒ったような表情を作り捲し立てる。
「何をしてるのかだけ教えてくれてもいいじゃないですか!どうしてカズマはいつもいつも心配をかけるような行動を取るのですか!?デュラハンの城へ突入した時も!ダンジョンで私たちを庇って魔力切れを起こした時も!そして今回も!いつも無茶してるあなたを見ていていつかぽっくり死んでしまうんじゃないかって不安になるんです!!」
「め、めぐみん…?」
「私たちを心配させないための行動だとは分かっています。でも、だからと言って何の相談もなしに一人で行って、ボロボロで帰ってくるというのは限度が過ぎますよ……」
言いながら顔を下に向けるめぐみんから、小さな雫のようなものが零れているのが見えた。
「っ、ごめん。俺が悪かった。俺が悪かったから泣かないでくれよ…」
…俺は思っていた以上に、めぐみんを不安にさせてしまっていたようだ。
こういう時どうすればいいのか分からない。年下の女の子を不安にさせて泣かしてしまった時、どうするのが正解なんだ。
少なくともこの涙は俺が原因だ。なら、俺が慰めるのが筋なのだろう。
俺は意を決してめぐみんを抱きしめる。
するとめぐみんは無言のまま俺の胸に顔を埋め、背中に手を回した。
二人とも無言の時間が続く。
やがて俺はめぐみんが落ち着いたのを確認すると、ゆっくりと口を開く。
「ごめん、めぐみん。あと一回、あと一回だけ行かせてくれないか?もう少しで、何か掴めそうな気がするんだ。これ以降は、もう無茶はしないって約束するから…」
めぐみんが俺を抱きしめる手に力を込めた。
少し痛みが伴うくらいギュッと締め付けるその姿からは、俺を離したくないという思いが伝わってくる。
一体どのくらいの時間が経ったのか、一分?五分?十分?いや、たったの五秒ほどかもしれない。でも、俺にとってはとても長く感じる時間だった。
やがて満足したのか、めぐみんがゆっくりと俺を抱きしめる手を離す。
釣られて俺も慌てて手を離すと、そのまま一歩後ろに下がった。
「……分かりました。今回は見逃します。それに、私が何を言っても今のカズマは聞いてくれなさそうですし」
う、否定できないな…。
めぐみんの言葉を受け、俺が苦い顔を作ると、めぐみんは少し呆れた様に肩をすくめた。
そして、めぐみんは姿勢を直すと、意を決したように口を開く。
「ただ…」
「ただ?」
勿体着けるように間を開けるめぐみんは、俺に顔を見せないよう下に向ける。
ただ……なんだ?
俺が聞き返すと、めぐみんは下を向いたまま、
「ただ……見逃す代わりと言ってはなんですが、帰ってきたら、私とデートしてください」
そんな事を……
えっ
「えっ」
驚いたようにめぐみんの顔に視線をやると、耳を真っ赤にし、髪の隙間から真っ赤になった頬がチラついて見える。
「で、では私ももう寝ます。カズマも疲れてるでしょうし、さっさとお風呂入って寝てくださいね。おやすみなさい!」
焦ったように早口で言うめぐみんは、そそくさと自室に帰っていった。
「……えっ」
——————
月が夜空の頂点に達する時間帯。
月明かりに照らされる森の中、珍しく直ぐにモンスターと会敵せず、俺は潜伏スキルを使いながら一人ゆっくりと歩いていた。
今朝のめぐみんの発言が、頭から離れない。
あの後風呂でのぼせかけたし、中々寝付けなくて夕方に起きれず、夕食当番だったからアクアに叩き起こされたりと散々だったんだ。
最初は本気で言ってるわけじゃないだろとか思っていた。
だけど朝食(夕食)の時も、全然顔を合わせてくれなかったし、あの発言はからかいとか茶化しとか冗談とかそんなんじゃなく、ちゃんとデートの誘いだってのが見て取れた。
で、デートって。いや、でもめぐみんはまだ十三歳だぞ、流石に……。でももうすぐ十四になるらしいし…。
いや違う、年齢の話じゃない!何をもう付き合う前提みたいな感じ出してんだ俺!
デートって言っても、あの爆裂魔のことだ、最近は起きるのが遅くて爆裂散歩に付き合えなかったし、爆裂魔法散歩の誘いとかそんな落ちだろう。うん、そうに決まってる。
俺が今日何十回目か分からない全く同じ結論を出すと、なんとタイミングの良い事か。
前方に気配を感じ千里眼で確認すると、そこには額から二本の角を早した筋肉隆々の巨体が複数、あぐらを掻いているのが見える。
その手にはモンスターであろうぐちゃぐちゃになった肉を持っており、火を起こしながら喰らっているのが見える。
そう、人食い鬼ことオーガの群れである。
「オーガか…。ブラックオーガじゃないけど、あの時のリベンジマッチには丁度いいな」
俺はそう呟くと、最初の獲物を奴らに定め、武器を構えた。
オーガの群れは全部で八体。
しかもそれらのオーガのほとんどが武器らしき物を携えており、素手の者は一際大きなオーガのみ。
その一撃は一撃熊をも超えると言われており、拳一発でベテランの前衛職も吹き飛ばす威力があるという。
が、知性もあり武器持ちで厄介だとしても、ブラックオーガのような異常種と違いオーガは魔法抵抗力が低い。
単体ならいざしらず、群れとなると上級冒険者でも苦戦を強いられるオーガとはいえ、ここ最近で高レベルになり、威力も上昇した俺の魔法に耐えられるとは思えない。
とは言っても上級に分類される強力なモンスターだ、中級魔法程度では耐えられる可能性がある。
一撃で倒すとなると、最低でも上級魔法以上の威力がいるだろう。
爆発系魔法はまだスキルポイントを全く振っていないため、詠唱時間が長く魔力の流れで気付かれる可能性が高い。
そうなると使用するのは自然と上級魔法になるのだが、魔法系へのポイントは魔力操作や詠唱短縮に大半を割いているため射程距離が短い。
長いもので五十メートル程度。
近距離専門の相手だが、倒すとなるとこちらからある程度は近づかなくてはならない。
折角気づかれていないんだ、奇襲攻撃を仕掛ける絶好のチャンスだろう。
ライトニングストライクで諸共消し炭にしてやる。
俺は潜伏スキルをフルで使用しつつ、魔法の射程距離に入るようオーガ達に近づいていく。
———アノトキハヨ、サスガ二マズカッタヨナ!
———サイキンコノモリでミョウナケハイガ……。
———タシカニサイキンヘンナノガイルヨウナキガスンゼ。
オーガまで百五十メートル。
聞き耳スキルの効果範囲に入り、オーガ達の話し声が聞こえてくる。
…なんか気になるワードが聞こえた気がするが、きっと気のせいだろう。
木々に隠れながらオーガ達の近くへと足を進め、漸くオーガ達まで五十メートルという地点まで着いた。
…よし、あとはど真ん中にドでかい雷を落としてやるだけだ。
ふと、周囲が暗くなるのが感じられた。どうやら月が雲に隠れたようだ。
だが俺には暗視スキルがあるし、暗くなろうとも関係ない。
俺は腰に差していたワンドを取り出し、左手で構えると集中し魔力を操作するため目を瞑り…。
「オマエ、ナニヤッテンノ?」
いつからそこにいたのか、俺のすぐ隣でこちらを凝視する影が、鎌を振り下ろした———!
出来栄え悪
体調不良とへらったメンタルで書いたためあんまし出来栄えはよくないです。リメイク版に期待してください。