俺がブラックオーガロードを討伐した翌日の朝。
休日最終日である今日、俺は待ち合わせのため街の小さな広場に訪れていた。
昨日は帰ってから冒険者カードを取られたりダクネスに説教されたりアクアに泣かれたり何をしたのか説明させられたりと、かなり色々あった。
もう一人で危険なことは二度としないし、悩みがあったら仲間に相談すると誓って何とか許してもらったが、あれだけ怒った皆は初めてでとても怖かった。
特にめぐみんを怒らせると大変なことになる。具体的に何があったかは思い出したくもない。取り敢えず俺は、これから先めぐみんを本気で怒らせないようにしようと全力で誓ったのだ。
そんなこんなで昨日こってり絞られた俺は、現在あまり人気のない広場に備え付けられたベンチに腰掛けながら、落ち着かない様にモジモジと手をこすり合わせながらめぐみんを待っていた。
休みの日にこんな朝早くから起きて外に出た理由。
その理由はもちろんただ一つ。
デート、そうデートである。
今日はこの前めぐみんと約束したデートがあるのだ。
この世界に来て初の、しかも超がつくほどの美少女とのデートである。
そのため俺は街の広場にて待ち合わせをしているのだ。
態々待ち合わせなどせず二人で屋敷から行こうとも思ったが、めぐみん曰く雰囲気を大事にしたいとのことで街にて待ち合わせということになった。
鈍感系主人公ではない俺は、めぐみんの言わんとすることがよく理解できるので、朝からめぐみんと会わないよう、かなり早くに屋敷を出てここで待っているのだが…。
いつも同じ屋根の下に住んでいるからこそ、逆に新鮮でなんかこう、凄くドキドキする。
デート未経験という訳ではないのだが、相手がこの世界に来てほぼずっと一緒に居る相棒みたいなもんだからか、普段とのギャップ的なあれで滅茶苦茶緊張する。
緊張からか顔が少し熱くなっているのを感じつつ、俺は今日どうするか事前に考えていたことを反復させ、何をするのかどうするのかどこへ行くのかと頭がパンクするほどぐるぐる考えていると———。
「お、お待たせしました、カズマ」
名前を呼ばれて声のするほうを見ると、そこにはいつの間に買ったのか、普段のローブではなく黒いワンピースを着ためぐみんの姿がそこにはあった。
肩口がむき出しになっているせいで白い肌が大きく露出し、それと相反する黒いワンピースのおかげで、ロリっぽい普段と異なり、なんだかえらく艶めかしく見える。
「…カズマ?」
「ハッ!」
余りの可愛さに見惚れていると、喋らない俺を不思議に思ったのかめぐみんに声をかけられて、漸く我に返る。
「わ、悪い。めぐみんが余りに綺麗だったからその、見惚れてた」
「みとっ…!そ、そうですか…」
俺の言葉にめぐみんは顔を真っ赤にさせる。
なんだかキザったらしいセリフを吐いてしまった気がするが、目の前のめぐみんに見惚れすぎて自分が何を口走ったのかよく理解できていない。
ま、まあめぐみんが悪い気持ちになってないなら気にしなくてもいいだろ。
「お洒落とか、昔からしたことありませんでしたし、興味を持ったこともなかったのでそう言ってもらえて嬉しいですよ。ちゃんと似合ってますか?」
「お、おう。めちゃくちゃ似合ってるよ」
不安だったのだろう、俺の言葉を受けて本当に嬉しそうな様子で後ろに手を組み、ベンチに座る俺に笑顔を向けてくるめぐみん。
やばい、なんだこの甘酸っぱい空気は!いや、デートだから当たり前なんだけども!当たり前なんだけども!!
恥ずかしいような心地よいような感覚に包まれて俺はもういっぱいいっぱいです。
「う、うし。まずは劇だったな。早めに行くのも良いし、もう行こうか」
——————
昼飯にはかなり早く、朝飯には少し遅い時間帯。
俺とめぐみんはアクセルの街にある劇場にやってきていた。
異世界に来て初デート、その最初に訪れた場所は、この劇場である。
なんでも最近アクセルの街に有名な劇団が訪れていたようで、ここ一週間限定で舞台をやっているらしい。
めぐみんはその劇団の舞台が気になっていたらしく、俺をデートに誘い、折角だからと一緒に劇を見に来たのだ。
まだ劇には少し早い時間だが、劇場には長蛇の列が出来ている。
「それにしても凄い人だったな。チケットがあってよかった」
「ベルセルク王国で名を馳せている劇団ですからね。抽選でチケットを当てられたのは豪運でした」
俺達は劇場の行列に並ぶことなく、指定座席チケットを使って既に席についていた。
有名な劇団ということもあり、人気が高く事前にチケットを手に入れないと見ることが難しいのだが、めぐみんが商店街の抽選で劇のチケットを当てたようで、特に並ぶことなくこうして直ぐに席に座れたのだ。
「えっと、あらすじは最弱の勇者が強力な仲間を連れて魔王を倒す物語、か。有名な童話なんだっけ?」
「そうです。私もよく読み聞かせしてもらいましたよ。魔王を倒した伝説の勇者の話が元になった話なのです」
「へー。俺は読んだことないから新鮮な気持ちで見れるな」
伝説の勇者の物語なら、強力な勇者が強力な仲間を連れて魔王を倒すとか、基本史実から滅茶苦茶脚色させそうなものだが、この物語は勇者が弱かったり仲間がイロモノだったりと別の意味で脚色されていて本当に伝説が元になっているのか疑いたくなるような内容のものだった。
しかしなんでも上手くいく最強勇者ではなく、力が弱く、中々思い通りにならないながらも自分の運と智慧で強力な魔王軍の幹部達と渡り合い、遂には魔王をも倒してしまうという主人公の熱い展開がとても人気らしい。
「この童話は誰もが一度は見たことあるものなのですが……。カズマは教養が良かったりとか、妙な知識とかはあるのに、こういう常識みたいな知識は欠如してますよね」
言いながら、俺の顔を覗くめぐみん。
その顔には、長い付き合いであるからこそ分かる曇りが見えた。
前からめぐみんが、俺がどこから来たのか、どこかに行ってしまうのではないかと気にしていたのを思い出す。
もしかしたらめぐみんは、俺が異世界から来たという事実に、なんとなくだが勘付いているのかもしれない。
……俺はまだ皆に異世界人であることを話していない。
こいつらにも、いつか異世界からやって来たと言うべきなのだろうか。
俺が魔王を倒したら元の世界に戻ってしまうとか心配されるかもしれないが。
アクアが女神を自称するのを丸きり信じてもらえない様に、俺までおかしな事を言い出したと思われるかもしれない。
だけど、それを言ったところでどうなるものでもないし、何かが変わるわけでもない。
いつかこいつらに、俺の国の話をしてやろうか──。
と、その時、開演の始まりを告げる音が会場に鳴り響いた。
同時に周囲が暗くなる。
「始まるみたいだな。今は劇に集中しようぜ」
ーーーーーー
ーーーこれは、伝説の物語。
最弱の名を持ち、おかしな剣を掲げ、一癖も二癖もある仲間達と共に、数多の強敵を打ち倒し、遂には魔王をも討ち滅ぼした、最弱の勇者のお話。
死闘の末に、仲間達から貰った勇気と力で魔王を打ち倒した勇者が、神々に祈った願いとはーーー
ーーーーーー
「いやー、本当に凄かったな!流石有名な劇団って感じだな!」
劇が終わって劇場を出る中、俺は隣を歩くめぐみんに対し気楽そうに感想を呟いた。
劇が始まる前の悩みはどこへやら、始まった劇の圧倒的な完成度と迫力、幻想的な雰囲気に魅せられ、俺たちは各々の感想を話し合っていた。
「物語に完璧に魅せられましたね!特にあの魔法使いの人の演技が最高でした!否定され続けた自分の魔法を主人公に認められて背中を押してもらうシーン!魔法使い役の嬉しさや感動が入り混じった演技が相まって、涙なしには見られませんでしたよ!」
「そこも確かに良かったよな!俺はあれだ、主人公が最後に覚悟を決めて魔王と相打ちする場面!いやあれはすげーよ、魔法使いと育んだ絆が最弱なのに魔王を倒す鍵になったっつー王道な展開なのに滅茶苦茶胸が熱くなったしさ!」
あれは凄かった、一番人気の童話と言われても簡単に納得出来てしまう。
劇団の演技も凄かったのだが、あのストーリーは何かこう、凄く惹かれる物があった。
そう、他人事とは思えないような、凄く惹かれるものが………?
————ゴーン……ゴーン……。
あーだこーだと二人で印象に残った場面や好みの場面を言い合い盛り上がっていると、アクセルの街に昼時を告げる鐘の音が鳴り響いた。
…っと、もうこんな時間か。
「もう昼か、…そろそろ昼飯にするか」
「いいですね、丁度お腹が空いてきたところでした」
朝待ち合わせをして昼まで劇鑑賞、そして昼頃にランチ!
今のところプラン通り進んでいるな…。
この後はこの街でもある程度有名で人気な喫茶店で昼食を考えている。久々のデート、それも丸一日使ったものだ。ちょっと気合を入れ過ぎたような気もするが、まあ問題はないだろう。
「この先に有名な喫茶店があるらしくてさ、折角だからそこにしようぜ」
ーーーーーーーー
「それにしてもすごく美味しかったですね!紅魔の里にはあのような感じの喫茶店はなかったですし、普段はよらないような場所なのでとても新鮮な気分でした!」
「お、それなら良かったよ。連れて行った甲斐があったってもんだ。俺はめぐみんが連れて行ってくれたあの露店も楽しかったぜ?いつもはああいうとこ行かないからな。新しい経験!って感じがして」
アクセルの街の郊外を歩きながら、私はカズマに今日のことについて話していた。
今日は本当に、色々な所を巡り歩いたと思う。劇場に行って舞台を鑑賞したり、いつもは行かないオシャレな喫茶店で昼食を取ったり、露店を回って一緒に遊んだり…。
学生時代、爆裂魔法に一筋だった私は恋バナなど浮ついた話とはほど遠かったから、誘ったはいいもののちゃんとデートできるかすごく心配だったのだ。
でも、どうやらそれは杞憂だったみたいだ。
今日は、カズマが色々な所に連れて行ってくれた。この用意が良い感じ、きっと前から準備をしていたのだろう。
本当はもっと私がエスコートするつもりだったんだけど、逆にエスコートされてしまった。
思い通りに行かなかった悔しさと、それをはるかに上回る嬉しさから口をもにゅもにゅしていると、目的の場所についてからか、カズマが足を止めた。
ふと周りを見ると、見覚えのある光景が広がっていた。ここは…、
「爆裂散歩でよく来ていた爆裂スポット、ですか」
遠くに見える廃城を見ながら、私はここがどこなのか言い当てた。
そう、ここはベルディアを倒す前に、毎日二人で来ていた爆裂スポットだ。
ここに来たということは、もしかして…。
私がカズマの顔を見ると、夕日に充てられてるからか、少し眩しく感じるカズマの笑顔がそこにはあった。
「俺達と言ったら、締めはこれじゃなくちゃ、だろ?」
「……」
本当に、この人は…。
嬉しさと、喜びと、幸せな感情で頭がぐちゃぐちゃになる。
ああ、本当に…、
どうやら、私はこの男のことが本当に好きなようだ。
私がいつまでも無言でいるからか、カズマは少し心配そうに私の顔を覗いてくる。
「めぐみん、大丈夫か?その、最後は爆裂魔法で締めるのが、一番喜ぶかなって思ったんだけど…」
私が何も言わないから、ちょっと不安になったようだ。
…最後まで締まらない人だ、これで、私が喜ばないわけがないのに。
「…ごめんなさい、嬉しくてその、言葉が出なかっただけです。ありがとうございます、カズマ。私のことを沢山考えてくれたことが、凄く伝わってきました。やっぱり私は、あなたのことがたまらなく好きみたいです」
「…!?え、めぐみん、それって…」
「さ、さあ!ほら、せっかくですしカズマも撃ちましょう!初めてのダブル爆裂魔法です!きっと今まででも一番の火力になりますよ!!」
言ってて恥ずかしくなった私は、誤魔化すようにカズマの腕を引っ張る。
「わ、分かった!分かったから引っ張るなって!」
するとカズマは真っ赤な顔で少し呆れたような様子を見せながらも、私の隣に立ち、両手を掲げ魔法を放つ準備に入った。
「さあ行きますよ!今日はいつも以上に良い爆裂魔法が撃てる気がします!」
いつも以上に気分も、魔力も高揚しているのが分かる。
なにせ、初めて好きと思えた人と、大好きな魔法を唱えるのだ。
隣では、カズマが両手を構え、同じ魔法を放つ準備を整えている。
…本当に、大好きだなあ。
この人がいないと、ダメだと思えるくらい、本当に、どうしようもなく、私はこの男が大好きになってしまったらしい。
しみじみとそう思いながら、二人で詠唱を唱えると、
「「『エクスプロージョン』ッッッッッッ———————!!!!!!!!!!!!!」」
普段より、何倍も大きくて温かな爆風が、アクセルの街を駆け巡った———!!!
お待たせしました、超久しぶりの投稿です。
私生活があまりにも忙しくて中々かけずにいたんですけど、つい先日色々決着したんで段々ゆっくりプロットを消化していく次第であります。
今回は恋愛回ということで、元カノがやばすぎてつい先日破局した作者では中々うまく書けず、苦戦を強いられました。
文字数少なくてごめんなさい。
第二章のプロットは一応完成しているので、今年中に第二章は書ききりたい所存です。
てかIFすば書ききるまでオリジナルは書かないとかいう縛りをしている作者なので、来年までには17章まで行きたいですね(多分無理)
改めまして、長らくお待たせしました。待たせた割にかなり酷い出来栄えですが、これから勘取り戻していきますので、暇つぶし程度に是非、ご鑑賞ください。