目が覚めると、青い空が見える。
さっきまでのことは夢だったのだろうか?
そう思い、起き上がって辺りを見回す。
目の前には綺麗な川が流れている。
「…異世界だ。……おいおい、本気で異世界だ。え、本当に?これって夢じゃなくて本当に異世界?俺ってこれからこの世界で魔法とか使ってみたり、冒険とかしちゃったりすんの?」
興奮冷めやまず頭の中の発言が全て口から出てしまう。
公道で口走ったせいで周りを歩く人々に変な人間を見る目で見られてしまう。
いかんいかん。
顔を少し赤くさせつつ、足早にその場を離れ、大きく深呼吸をする。
…ふう、少し落ち着いた。
さて、こういった時には魔王に対抗するための冒険者組合だとか、モンスター討伐のための冒険者ギルドとかがあるがずだ
冒険者ギルドの場所をしるため、俺は通りすがりの御婆さんに尋ねる。
男性に聞くのはガラの悪い相手だと絡まれて面倒だし、若い女性だと俺のチキンハートには難易度が高い。
「すいませーん、ちょっといいですか?冒険者ギルド的なものを探しているのですが……」
「ギルド?あら、この街のギルドを知らないなんて、ひょっとして他所から来た人かしら?」
おばさんの言葉に、やはりギルドがあったかと安心する。
「いやあ、ちょっと遠くから旅してきたもので。ついさっき、この街に着いたばかりなんですよ」
「あらあら……。この街に来るってことは、冒険者を目指している方かしら。駆け出し冒険者の街、アクセルへようこそ。ここの通りをまっすぐ行って右に曲がれば、看板が見えてくるわ」
「まっすぐ行って右ですね。どうも、ありがとうございました!」
「おー、エルフだ!あれはドワーフか?あの耳は獣人かな?如何にも異世界って感じでいいなぁ」
そんなことを呟きながら歩いていると目的の場所についた。
「おお!ここが冒険者ギルドか、如何にもって感じの建物だな!」
俺は意気揚々と扉を開けて、建物の中に入っていく。
―――――
——冒険者ギルド——
ゲームに必ず出てくる、冒険者に仕事を斡旋したり、もしくは支援したりする組織。
つまり異世界のハロワ的な存在だ。
そこはかなり大きな建物で、中からは食べ物の匂いが漂っていた。
中にはきっと荒くれがいるのだろう。
新参者を見て、いきなり絡んでくるかもしれない。
そんな覚悟をしながらなかに入ると…………!
「あ、いらっしゃいませー。お仕事案内なら奥のカウンターへ、お食事でしたら空いている席へどうぞー」
いかつい、荒くれ者ばかりがいるのかと思っていたら、綺麗なウェイトレスのお姉さんが愛想よく出迎えてくれた。
どことなく薄暗い店内は、酒場が併設されている様だ。
そこかしこに鎧を着た連中がたむろしているが、特に柄の悪そうな人は見当たらない。
だが、やはり新参者は珍しいのかやけに注目を集めている。
「…えっと、冒険者になりたくて、ここに来たんですけど…?」
「ああ、はい。ではあちらのカウンターにお並びください」
お姉さんに案内された俺は、受付カウンターの列に並んでいる。
周りにいる人達は屈強な感じがして、場違い感がすごい。
「はい、次の方どうぞー。今日はどうされましたか?」
受付の女の人はおっとりとした感じの美人で、ウェーブの掛かった髪と巨乳が大人の女性という雰囲気をかもし出していた。
「えっと、冒険者になりたいんですが、田舎から出てきたばかりで何もわからなくて……」
田舎から来たとか遠い外国から来たとか言っておけば、受付が勝手に色々教えてくれる。異世界転生のテンプレだ。
「そうですか。えっと、では登録手数料が掛かりますが大丈夫ですか?」
そう、それがチュートリアルの基本だ。
後は受付の人の言う事に従っていけば……。
「……え?登録手数料?」
「はい、登録料は1000エリスになりますけど、よろしいですか?」
困った、金なんてないぞ。まさか日本円は使えないよな?
「えっと、自分の国のお金しか持ってなくて……これ、使えます?」
そう言って、自分の財布の中身を見せるが
「…えっと、申し訳ございません。こちらを使うことはできません」
「……そ、そうですか…あの、この辺で日雇いのバイトとかってありませんかね?」
最初から躓き、絶望しつつもダメ押しで聞いてみる。
「外壁の工事がいつも人手不足らしいのでそちらに行ってみてはどうでしょうか…」
「わかりました。ありがとうございます」
なんとも言えない気持ちになりながら、俺は金を得るためギルドを後にした。
―――――
ギルドを出て受付のお姉さんの言う通りに外壁に行くと土木現場を見つけた。
外壁の補修というこの仕事は、街の安全に直接かかわるものであるが、常にモンスターからの脅威に晒される仕事でもあるため、人気もなく常時人を募集しているらしい。
辺りを見回すと、忙しそうに働いている人たちがいる。
「に、肉体労働か……でも、我儘いってる場合じゃない、よな……」
このままでは最悪餓死もありえる。
暫く見ていると、指示を出している人を見つけた。
俺は意を決して、その人の側に行き――…
「あのぉ、すみません」
「なんだ?今、忙しいんだが?」
俺の呼びかけに、やや不機嫌そうに返してくる。
「…あの、ギルドの紹介できたんですけど……」
俺は相手の態度にびびりながも仕事をさせてくれと伝えると、その人から不機嫌さが消えていき……
「おー、なんだ!バイト志願者か!最近また人員が減ってこまってたんだ!いよし、即採用だ!」
満面の笑みを見せて快く採用してくれた。
万年人手不足というのは本当の様だ。
「本当ですか!!ありがとうございます!!」
よかった、これで冒険者になるためのお金は稼げそうだ。
「俺は、ここを仕切っている者だ。親方とでも呼んでくれ!」
顔は滅茶苦茶おっかないけどいい人そうだなー、最初は機嫌悪かっただけか。
「はい、親方!俺はカズマっていいます。よろしくお願いします!」
そう言って、俺は頭を下げる。
「おー、カズマよろしくな!早速だが掘削作業を頼む。道具は現場にあるから自由に使え!」
親方に促され、掘削作業を始めたのだった―――……
――――
「ご苦労だったな、カズマ。とりあえず急ぎの仕事は終わったよ。少ないがこれはお前の日当だ」
数時間の日当で15000円だと思えば破格だろう。
「ありがとうございます!本当に助かりました!!」
俺は何度もお礼をいい、その場から立ち去った。
これで冒険者登録ができる!
っと、とりあえず、腹が減った、まずは飯だな。
ギルドでも食えたよな?とにかく向かおう。
俺は心地よい疲労感を味わいながらギルドに向けて歩き出す。
「…昨日まで引き篭もってたのに、土木作業なんて肉体労働をよくやれたもんだ…」
俺は自嘲気味に呟く。
思えば引き篭もった理由は幼馴染の件だが、もう4年も前のことたんだ。いい加減乗り越えないとただ単にそれを理由にして甘えていただけだったんじゃないかと自分で思ってしまう。
そんなことを考えながら歩いているとギルドについた。
「いらっしゃいませー。お食事でしたら空いている席へどうぞー」
もう遅い時間だからだろう、人はほとんどいない。
先に食事を済ませるためにカウンター席に座る。
鳥のから揚げ定食を頼み、本当に異世界に来たんだなぁと耽っていると。
「お待たせしました」
ウェイトレスさんから食事を受け取る。
「…美味いな、異世界の飯ってあんまり美味くないイメージがあったんだが・・・」
鳥のから揚げがかなりジューシィーで美味い!味がわからなかったから割高なのも選んだのだが……格安の蛙のから揚げというのがあった、それも美味いのかもしれない・・・
明日の朝食で試しに頼んでみよう。夕食に満足した俺は会計を済ませ、登録のカウンターへ向かう。
今朝会ったお姉さんがまだいたので、俺はそこに並んだ。
「はい、次の方どうぞー・・・あっ」
覚えていてくれたようだ
「戻ってきましたよ。登録料持ってきました」
そう言って1000エリスを払う
お姉さんはそれを受け取り――
「はい、それではこちらのカードに触れてください。それで貴方の潜在能力がわかりますので潜在能力に応じてなりたい職業を選んでくださいね。選んだ職業によって、経験を積む事により様々な職業専用スキルを習得できる様になりますので、その辺りも踏まえて職業を選んでください」
おっと、早速きたな。
ここで俺の凄まじい潜在能力が発揮されて、ギルド内が騒ぎになったりする訳だ。……まぁ、時間も時間だし全然人居ないんだけど。
それでもワクワクしてしまうのが男の子というもの。
俺は内心緊張しながら、カードに触れた。
「これでいいですか?」
「はい、大丈夫ですよ。サトウカズマさんですね。ステータスは…身体能力は平均以上…知力は…かなり高いですね…!!!!?なんですかこの異常に高い魔力は!!それに加えて幸運が…文字化けしてる!?…これなら何にでもなれますよ!!」
お姉さんの興奮気味な様子に若干たじろぎながら
「それでどうします?アークウィザードは是非お勧めなんですが!!……あ、あれっ?」
興奮気味にアークウィザードを勧めてくるきょ……お姉さんが、俺の冒険者カードをみて戸惑いの声を上げた。
「どうしたんですか?」
「職業の欄が既に冒険者になっておりまして……サトウさん、既に冒険者登録をされたとか?」
そういえば他職業にならないよう、最初から冒険者に設定されるとか言われたきがする。
「あ、いえ、冒険者登録は初めてですよ。あと、丁度冒険者になりたいって思っていたので職業はそのままでいいです」
「本当に良いんですか?最弱職と言われる冒険者ですよ?」
俺が冒険者を選んだことで、お姉さんは困惑しているようだ。
まあ自分から最弱職になろうって奴は普通居ないだろうし無理もない。
「ええ、問題ありません。冒険者でお願いします」
俺は驚くお姉さんにはっきりと返す。
「……わかりました。」
お姉さんは俺の表情から、なにかあると思ったのだろうか?納得はしてなさそうだったが了承してくれた。
「それでは、カズマさん、ギルドへようこそ!今後のご活躍にギルド一同期待しております!!」
受付のお姉さんから洗礼を受ける。ヤバイ、ちょっと泣きそう。これだけはアクアに感謝だな。
今日はもう遅いし、一旦眠ろう。明日以降どうするかもある程度は考えてあるし。
お姉さんにお礼を言って、俺はギルドを出てから宿屋に向かった。
――――――――――――
「え?そんなにかかるんですか!?」
「ええ、このご時世だし、宿泊費はどうしても高くなっちゃうのよ」
宿屋のおば、んん"っ、お姉さんが困ったように言う。
「せっかく来てもらったんだけどねぇ、あとは馬小屋くらいしか空いてないわねぇ」
馬小屋か…野宿よりはマシかな…。
普通最初の街っていったら、もっとこう、駆け出し冒険者の支援のために宿の価格も安めに設定されるんじゃないのか…?
意外とこの世界の冒険者ってハードモードなんじゃ…。
「じゃあ、馬小屋で…」
「はい、じゃあ、1000エリスね」
うう、馬小屋で1000エリスか…。
おばちゃんに1000エリスを渡して馬小屋へ向かう
「くせえ…」
俺は暗視を頼りに宛がわれた場所に向かう。
そしてなんとかフンの付いてない藁を選ぶと、俺はゆっくりと床に着いた。
俺は今日一日を振り返る。感覚的には今日の朝はまだ日本にいたはずだ。
もしかしたら、今見ているのは夢で、実は家でゲームしながら寝落ちしているだけかもしれない。
だけど、今日のおかげでとても前向きな気分になれた。
もし目が覚めて地球だったなら今日は学校に行ってみようかな。アルバイトを始めるのもアリかもしれない。
いい加減、あのトラウマを乗り越えられそうだ。
そんな風に思いながら俺の意識は落ちていった。
――――――――――――
翌朝、目を覚ますと知らない天井が見えた。
体がチクチクと痛い。俺はゆっくりと体を起こした。
「…………」
どうみても馬小屋だ。夢じゃなくてやっぱり現実だったか…
とりあえず、起きて飯でも食いに行くか。
「『クリエイトウォーター』…つめてええ」
馬小屋を出て、自分自身に頭から水をぶっ掛ける
昨日は風呂に入れなかったから、少しでも体を洗おうと水を掛けたんだが…。
「…タオルとかないじゃん…何やってんだ俺」
寝起きとは言え大分バカな事をやってしまったと自覚した俺は自分のやった行動に突っ込みいれつつ風呂とかないのかなーと考える。
日本人なんだもの。風呂はやっぱり欠かせないんだよ…。
っと、とりあえず、乾かさないと…
「『ウィンドブレス』」
自分に風魔法を使い水気を飛ばす
「なんだよ初級魔法、結構使い勝手いいじゃん」
などと暢気なことを口にしながら体を乾かす。
さて、支度も済んだことだし、ギルドに向かおう。色々あったが漸くチュートリアルも終わった!さあ、これから俺の、異世界での冒険生活の始まりだ!
―――――
「おーし、ご苦労さーん! 今日はこれで上がっていいぞ! ほら、今日の日当だ」
「どうもです。お疲れっしたー!」
親方の仕事の終了の声で、俺は日当を受け取ると挨拶と共に頭を下げる。
「じゃあ、皆さんお先でーす!」
「おーう、お疲れ!二週間ありがとうな!」
俺が先輩達に挨拶し、先輩の声を聞きながら、俺は現場を後にした。
ああ、今日も一日働いた。
俺が引きこもりだったなんて信じられない話だ。
汗水垂らして働いて、金を貰い、風呂に入って疲れを癒す。そして床に就いて……。
こんな生活を続けて2週間が経とうとしていた。
……いや待ってくれ、違うんだよ。
別にモンスターが怖くて冒険者から労働者にジョブチェンジした訳じゃない。これには深い、そう。海よりも深い理由があるんだ。
あれは冒険者となった翌日のことだった……
―――――
「マジかよ」
テレポートの枠をこの街の入口に登録した俺は、潜伏スキルを使って小高い場所から魔物を見ていた。
街周辺に住むジャイアントトードの討伐というクエストを受けたのだ。
ジャイアントトード、ただのでかい蛙だと思っていたらとんでもないくらいでかい蛙だった。
全長はゆうに3メートルは超えているだろう
そんな姿を見てビビらないはずもなく、遠くに陣取った俺は少しビクビクしながら様子を伺っている。
大丈夫だ、チートを貰った俺は今やそこら辺の駆け出し冒険者よりかなり強いはず!
比較的美味しいとされるこのジャイアントトードに遅れを取るはずがない!
「俺の冒険者生活の始まりだぜ!喰らえ!〈インフェルノ〉!」
俺は手のひらサイズの炎球を作ると、目前にいるカエルに解き放ったーー!
―――――
ひどく体力と魔力を消耗した体は怠く、体を引きずるように動かす俺らを見た冒険者たちはギョッとしたように目をそらす。
そして昨日冒険者登録を行ったカウンターに着き、受付のお姉さんと目があう。
「お姉さん、……クエスト達成の確認をお願いします」
「は、はい、わかりました……わかったのですが、えっと、あの、そのぉ……何があったかお聞きしても?」
「……聞かないでください」
冒険者カードを渡して報酬の確認をお願いする俺だったが、ギルドのお姉さんはそんな俺が醸し出すやさぐれた雰囲気を感じ取ったらしい。
俺は頑張ったんだ……!最初の数匹は魔法で一撃で倒せるし、このまま行けるっ!チート最高!女神ざまあ!ひゃっほう!って思ってたら……。
俺の魔法で出た爆音に引き攣られた50余りのカエルたちが一斉に群がってきたのだ。
45匹目を倒した所までは良かったんだ。しかし後ろから更に目覚めたカエルに気付かず、他のカエルたちに気を取られている隙に、足を舌にとられ……!
「これ以上は思い出したくないです……」
何とか体内でテレポートが使えたから良かったものの、本当に危なかった。
「い、一応冒険者カードからジャイアントトードの討伐を確認しましたが……その、五匹でよかったんですよ? あまり無茶な冒険は控えていただきたいのですが……」
「別に俺もそんなに倒そうと思った訳じゃ……!うぅ、いえ、もういいです……」
「えっと、それではジャイアントトードを3日以内に5匹討伐。クエストの完了を確認致しました。その、ご苦労様です……それでは依頼達成報酬の10万エリスとカエル10匹の買取を合わせて15万エリスとなります」
俺は可哀想な人を見る目でお姉さんに見られながら、近接戦闘用の装備の購入を決意した。
―――――
という訳で、まず近接戦闘用の武器を購入するためにバイトをしているのだ。
カエルの討伐報酬と、この土木工事のバイトを2週間程すればある程度の出来の片手剣が買える。
そう、決して冒険にビビって土木工事のバイトに逃げたわけじゃない。
今日これで必要な資金が溜まったんだ。あとはこの金で武器を買い、明日こそあの憎きカエル共にリベンジを果たすんだ!
翌日、朝日が昇り街の住民たちも起き出す早朝の時間、プスプスとやけ焦げる平原と、そこに倒れる切り傷の着いた大量のカエルが横たわる中心で
俺はカエルに呑み込まれていた。