ガールズバンドクライ~砕けろハリネズミ~   作:エーデリカ

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お待たせいたしました。少々仕事が滞っているというか、前任者の火消しに奔走しておる日々でして……。

告知ですが、ズミクニ様(川崎17)@zumizumidayo
のガルクラ百合合同誌に「になとも」で1作寄稿させて頂きました。
https://x.com/zumizumidayo/status/1811239993698083004
https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=2472514

公式供給に負けないくらい頑張って描きましたので、こちらもどうぞよろしくお願い致します。


#3 純情-Castitas-

「お前らそこで正座な」

 

 時間も勿体ないから5分で片づけようとした。つまり私の第一声がコレである。思ったより至るまでにかかってしまった事の責任は負おう。但し、それはソレだ。スタジオの床に正座させているのは見知った我らがバンマスとボーカルである。

 

「あのさぁ……委員長」

「何か?」

「いや……何でもない」

 

 いい加減にしろよ河原木桃香。長い付き合いだからちょっとのやらかしは大目に見るが、挙句に年下を巻き込むなら話が変わってくる。

 

「ケイさんごめんなさい!」

「謝罪は要らない! そんな暇あったら成績上げりゃ良いんだよ!」

「イエスマム!」

 

 とまぁ、彼女らのバンド練習が今日行われる事がグループLINEに流れてきた(むしろ何故メンバーに含まれているのだ)私は、ついぞ我慢の限界になり殴り込みに来た訳である。主犯が遠慮がちに手を上げた。

 

「だから悪かったって。私もまさか仁菜がこんなにのめり込むと思ってなかったんだ……」

「仁菜さんの自習ノートが作詞で埋め尽くされてた時の私の気持ちが分かるのかァ!?」

 

 まるで裁判の証拠品だ。横から覗き込む安和さんも、顔が灰汁を飲んだみたいな表情になる。

 

「ニーナ……私が言うのもアレだけど、流石にさ……」

「こればっかりは悪かったと思ってる」

「ケイ先輩に対してはやけに素直だなオイ」

 

 ちっとはその素直さを私に向けてくれとドラマーが強請る。常々同じ学校でもないが安和さんは私の事を先輩呼びしてくるが、それは今どうでも良い事。攻勢が削がれたと勘違いした河原木さんが、それに乗じて負けじと突っかかってくる方が問題だ。

 

「委員長だって生徒手帳に歌詞を書き込んでた時期くらいあっただろ!?」

「私コピ専だからオリジナルは滅多にやらないし。河原木さんと同じにしないでね。誰も彼もがミュージシャン目指してる訳じゃないんだよ?」

 

 高校時代にバンドマンというか、推しメンに憧れすぎて右利きギターをレフティに改造した馬鹿ならいた。とはいえフェスを目指したり、事務所所属に憧れるのは本当に一握り。

 

『お金の問題じゃなくて実力的に。一生仲間うちで楽しく放課後やっとけよ』

 

 お世話になったある店長さんの言葉だ。それをかけられたガールズバンドが悔し気にしていたのを、当時ライブハウスで演奏する事自体に魅力を感じていなかった私は「そんな事もあるのか」と対岸の火事であった訳で。

 

 進学して都心に足を運ぶ機会が増えた。妙な縁でライブハウスに出演する機会も増えた。ただそれは()()()()()()()()()()()()だった。本当に皮肉なものだ。

 

 チケットノルマを裁く為には、顔が利く人間がいた方が都合が良い時もある。そこそこ有名なサポートであれば、正規メンバー扱いされなくても「あの人がいるなら見に行くか」となる訳で。ひょんな拍子に私がその役回りと噛み合ってしまっただけの事。

 

「私もさ、仁菜を此処まで巻き込んじまった後ろめたさがあるんだ」

「どの口が言う」

「だからだな……仁菜の勉強の邪魔はなるべくしたくない」

 

 ここまでバンドに誘っておいてか? 私の怪訝な表情を見て、更に拝み倒すような態勢になる河原木さん。

 

「それで?」

「なるべく仁菜に負担をかけたくないからさ。音楽指導も委員長にお願いしようかなーって」

「まだ言うか」

 

 脳天に軽くチョップをすれば、彼女は舌を出して()()フリをする。

 

「私は作詞作曲とバイトで面倒見れないんだってば」

「人をカラオケボックスに巻き込んでおいて自分は退散ン!?」

「お前が勝手に来たんだろ!?」

「人様に家庭教師を任じておいて、あまつさえその妨害だけで気が済まないってか!?」

「……………………ここは奢るから5時間後に駅前に集合!」

 

 彼女は人の説教を無視して風のように逃げ去っていく。残された私らはまさしく台風一過。雷を落とす先を失った私は、代わりに溜息を吐いて腰を下ろす。

 

「怒ってます?」

 

 遠慮がちに仁菜さんがこちらを覗き込んで来る。表情が巧いというか、まるで雨に打たれる子犬のよう。それを見て私は本心代わりに溜息を長く吐いた。

 

「…………怒ってない」

「嘘ですよね!? 絶対、絶対、ぜぇ~ったいに怒ってますッ!」

「あぁそうだよ怒ってるッ!」

 

 あんまりにしつこいのでこっちも取り繕う訳にもいかない。

 

「勉強が如何に大事かは、私なりに説いたつもりなんだけど」

「いや……面目ありません……」

 

 所謂、反省はしているが後悔はしていないという奴だな。私も学生時代にこういう連中は五万と相手をしてきたから分かる。何を言っても無駄って訳だ。

 

「それでも大人になるっていうのは、そういった我儘相手に妥協点を探すまでがお仕事なんだよ」

 

 監督者は私だ。河原木さんの横槍が入ったとて、その誘惑を制御して勉学に支障ないように済ませるまでが任務だ。落ち度と言われれば、責任は元々こちらにある。だから……

 

「まぁ河原木さんに対しては八つ当たりって自覚はある」

「ケイ先輩、本当はそんな風には思ってないでしょ」

「気付いてたのなら、仁菜さんを止めてよ?」

 

 はーいと気のない返事をする安和さん。この暴走特急であるバンドで例えれば、仁菜さんがアクセルで、河原木さんがハンドル。さしずめ同乗者(同情者)とでも言ったところか。私には関係ないですともう関せずな少女は、わざとらしく両手の平を上にしてやれやれと肩を竦めた。

 

「で……桃香さん行っちゃいましたけどどうします? ドラムとボーカルだけってメロディなしのカラオケと一緒じゃん」

 

 どうせ河原木さんの支払いだし、こっちは真面目に練習に関わるつもりもない。最近のアニメで新曲入ってたかな。安和さんと一緒にリモコンのディスプレイを手元に手繰り寄せて物色していれば、何やら決意したらしい仁菜がこちらを見る。

 

「ケイさんって……ギター出来るんですよね?」

「んー、まぁ人並みには」

「一緒にギターやりませんか!?」

 

 そういえば絡んで暫く立つが、彼女らの目の前でお披露目をした事はなかったな。とはいえ、私には使い込んだ武器がない。

 

「今日はマイギア持ってきてないんだけど」

「桃香さんのがあります!」

 

 中指立ててけと書かれたギターがスタンドに鎮座ましましている。まるで主の帰りを待つ哀愁を漂わせてとは言い過ぎだろうか。まぁ、敵前逃亡されたという意味では可愛そうな兵士だとも。

 

「……それ、勝手に使っちゃって良い奴なの?」

「一度私が貰ってるから、所有権は気にしないでください!」

 

 そんな紆余曲折知らないんだけど。アレか? 雨の中で一緒に中指立てて下さいの時か? 仁菜さんが河原木さんから貰って、河原木さんは一時的に返して貰ってる。今は仁菜さんが私に貸しているから問題ない……そんな訳があるか。

 

「仁菜さん……フルオーダーって知ってる?」

「ふるお~だぁ~?」

「河原木さんのギター、私の記憶だと恵比寿のPsychederhythmで特注かけてる奴なんだけど……」

「それって凄いんですか?」

 

 可愛げに首を傾げられてどう説明するかが悩み所である。どう返したものか。そのギターっておいそれと触って良い物じゃないんだが……。

 

「例えばニーナ用に洋服をカスタムしたら、店員さんっていつもの仕事以上のモノをしあげるでしょ。手間分は余計にお金がかかるって事。ネットで調べたけどこれくらいはするんじゃない?」

 

 スマホを掲げた安和さんから助け舟が出て胸を撫で下ろした。まぁ内容には頬を引き攣らせるのだが。

 

「金額の桁が一つ違うでしょ?」

「……私、そのギター躓いて路上に転がしたんですけど大丈夫ですかね?」

 

 三人の視線が御大……正確に言えば楽器に集中する。ピックガードの傷はともかくとして、それっぽい()()が随所に見られるのはそのまさかだった。

 

「桃香さん……よく許してくれたね」

「弁償しろって言わないあたり、本当に仁菜さんのモノになった説があるな」

 

 そういった事情であれば問題なかろう。実は触ってみたかったんだとは口が裂けても言えないが、丁度良い機会を頂いた事にする。

 

 フィッティングしてこのギターを改めて目の当たりにする。ジャズマスター由来の右腕を阻害しないボディの曲線。音色を出さずとも伝わってくる重厚感(主に値段的な意味で)。これを掲げてバンドマンってそれだけで十分だと感じる一品に違いない。

 

 暖気を済ませたアンプにシールドを引き延ばす。ボリュームを上げてピックアップを切り替える。少し掻き鳴らすだけで、その良さというものが僅かながら齧った私に伝わってくる。

 

「ご馳走様でした……」

「ケイさん!?」

「試し弾きで満足しちゃったよこの人」

 

 スタンドに戻しつつ拝む私に対して、慌てて仁菜さんは引き戻しにかかる。安和さんのツッコミもキレキレである。

 

「真面目にバンドマンやってない奴が、おいそれと他人の楽器を触るなんて御法度だと思うんだよねぇ」

 

 まして私は一度逃げ出したのだから。交友関係のあるギタボの赤髪が脳裏で揺れる。まぁバンドマンが辞めるだの抜けるだの何て、世の中には溢れている話題なので後腐れがない状況の方が珍しいというか……。

 

「不義理を働くって、自分の居場所を削っていく事になるんだよね。のらりくらりと立ち回ってたら、誰にも相手されなくなったというか」

「でも桃香さんから聞いたら、ケイさんって結構有名人って聞いてるけど」

 

 ダイダスには劣るけど。皮肉も込めてそう添えられたらしいが、十分に的を得ている。

 

「別に売れたくてバンドやってる訳じゃないし。セッションって楽しいよ? ただ仲間を集めるのが面倒臭いというか、ぎくしゃくとかするぐらいだったらサポートを渡り歩いた方が精神的に楽だし」

 

 それなりに横の繋がりは出来ているが、私の性格を分かっている奴程よく声をかけてくれる。楽曲や趣味には口を出さない。所謂便利屋というポジションであれば、方針の都合により解散なんて憂いを見るリスクを減らす事ができる。

 

「まぁ、私って都合が良い女って訳だよね」

「そこだけ齧ると燃えそうな発言……」

「でも、知名度ってそれなりにあるんだよね。SNSで見かけたけど、ケイ先輩ってフォロワーが一万人くらいいるし」

「一万人ッ!?」

 

 ズイと突きつけられたのは、まさしく私のアカウントである。それこそ()()()()の集合体。

 

「あー。そんな時代もあったか……っていうか、そのアカはたまにしか更新してない筈なんだけどどうやって知ったの?」

「桃香さん!」テヘッ

「あんにゃろう……」

 

 就活も忙しくて久しくバンド活動からは離れていたから、こんな所に伏兵がいるとは思わなかった。ペコちゃん人形の如く舌を出す後輩に対して手斧をお見舞いする。

 

「まぁ……あくまでも認知されてるって感じでしょ。巧い下手とかは関係ない」

「そんなものなのかなぁ……私は弦楽器って素人だけど、ケイ先輩ってセンスが良いと思うんだけどなぁ」

 

 切り抜き動画でも見ているのだろうか。こちらを振り返った安和さんの表情は、何か新しい玩具を手に入れたようなもの。

 

「えーっと。『変幻自在のスペースキーパー』『ヒトモドキもといカメレオン』『優柔不断のバンドクラッシャー』ってリプライがあるんですけど……」

「晒すな読み上げるな。こっちが狂い悶えるわ」

 

 精神ひきちぎると喜びでじゃないぞ。一体どこの法皇だよ。

 

「満更でもないんじゃない?」

「私のバンド生活は黒歴史なのッ!」

 

 今思えば大学時代の片足半分は軽音楽に上書きされていたように思う。仁菜さんを嗤えない。これこそ反省はしているが、後悔はしていないという奴だ。

 

 行く先々の相手がフォローしてくれるし、別のイベントに顔を出すとなれば付き合いも兼ねてリポストしてくれる訳で。そうやって、私を知らない人達に私が伝播していく……そんな感じ。

 

「ケイさんって、何と言うか()()()()()()()んだよね。いても違和感がないというか」

 

 かつての私であれば、琴線に触れない演奏ができなくて御免なさいと回答していた所だろう。

 

「私の役割はさ。きっとイラストに例えるときっと余白みたいなモノなんだよね。背景に何を描き込んで良いとか、吹き出しが入ったり、トーンが貼られたり」

 

 演出的にはあっても良いが、ストーリーには何も寄与しない。そういう立場だとは分かっている。

 

「という訳で、仁菜さん達が好きな音楽を()ってよ。私はそれを追っかけたり模倣するだけだから」

 

 二人の趣味は知らないけど、どうせダイダスの曲なら抑えてるんでしょ。そういってスマホを突きつけた。画面には有志がまとめたらしいインディーズ時代のセットリスト。それをまじまじと見た仁菜さんは、やや意を決したようで言の葉を紡ぐ。

 

「『ゆきどけ、ぬかるみ、あおぞら』とかどうですか?」

 

 その発言を聞いて、私は安和さんと顔を突き合わせた。それもおそらく違う理由でだ。もちろんこのページには載ってない。

 

「ニーナって熊本出身だよね……桃香さんと会った事もなかったらしいし、それこそインディーズ時代でも円盤化されてない曲じゃない? ネットには隠し撮り以外上がってないって噂もあるし、ライブに参加してない訳だから何処で知ったの?」

「何言ってるの!? 真のダイダスファンなら知ってて当然だよ!? 現地物販で初回盤1stアルバムにしかないシークレット!」

 

 ご指摘の通り『ETERNAL VEIN』のかなりコアなマイナストラックだ。-3:04にCDプレイヤーで巻き戻すと聞く事が可能な……そしてライブでも公言していない再生方法だし、本当にごく一部しか知らない曲。

 

「ケイ先輩は知ってるんですか? 私は桃香さんから直接音源借りた事があるけど」

「まぁ知ってるよ。その曲は私も作ったし」

「へ~」

「そうなんですね~」

 

 …………………………………………閑話休題。

 

「「えええええぇぇぇぇぇえええええぇぇぇぇぇ!!!!!?????」」

「今日一で声が出たなお前ら」

「ダイダスですよッ!? どうしてケイさんが!?」

「……まぁ何となく察しはつくけど、私も聞きたいかな」

 

 うずうずこちらを見る二人に対して、余計な事を言うべきではなかったと後悔した。まぁ、遊び心でというか恥ずかしくてシークレットにして欲しいと言った手前ツケが回ってきた感じか。

 

「ちなみにダイダス真のファンを名乗る井芹仁菜さん?」

「ハイッ!」

「威勢が良いな…………この曲が披露される日って、ちゃんと法則性があるのは知ってる?」

 

 スマホで何やら調べている。そんじょそこらに転がっているモノではないが、追っかけであれば実は簡単に分かる問題だ。

 

「ギブアップですッ!」

「威勢はよろしいんだが…………じゃあ、正解ね。私がダイダスでヘルプに呼ばれた日にしかやらないの。この曲」

 

 だって、これは河原木さんと私の合作だし。その発言に仁菜さんは更に目を丸くする。セットリスト的に河原木さんがボーカルに集中したい日とかは、意外とお呼ばれはしていたのだ。実は交流する機会も多かったし。

 

「でもでも納得いかないです! 証拠が欲しいです!」

「この隠しトラックの時間は3分04秒。実際に収録されているのは、原曲の1番のみ。確かフルサイズは6分28秒だったかな。ユーコピー?」

「すばるちゃんどういう事!?」

「私に聞くなよ…………2番は多分ケイ先輩のパートって事。サビダッシュとかはツインボーカルね。私もライブ本番で聞いたら、そういえばダイダスにしては結構長い曲だなって思ってた。確かにケイ先輩がいた気がする……」

 

 当時曲作りに大分悩んでいた時期だったらしく、遊び半分で河原木さんとセッションしていたら勝手に出来た曲だ。河原木さんが頑なに共著を主張するもんだから、表向きにはダイダスでない私が名を連ねるのを気を遣った処置らしい。

 

「ちなみに生真面目にダイダスの事務所から譲渡契約だの連絡が来たけど、ムカついて断ってるから」

 

 脱退したメンバーの末路を知らない癖に。あんな目に遭わせておいてどの口がと思った個人的な意趣返しだ。だから、これは私と河原木さん……そして旧ダイダスのメンバーとを繋ぐ、唯一残った著作物なのだ。

 

「旧ダイダスのサポートギターが此処にいるんだよ? 遠慮しなくて良いからね」

「もし認めてくれたら、これからもセッションしてくれます?」

「まぁ。気が向いたらね」

「分かりました……それじゃあ行きますね」

 

 長いブレス。歌い出しから雪崩のように連なる旋律が特徴的な曲。今はいないギターボーカルの分も、彼女の相棒と共に吠える。

 

『Don’t stop,melting of snow...』




>>私コピ専だからオリジナルは滅多にやらないし。
桃香さんを模倣するだけだから、内心共著も自分の曲と言えないから、ニーナの羨望は居心地が実は悪いオリ主。
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