大きな衝撃の後ゆっくりと静寂が訪れる。ものすごい飛行を体験した紫桜の目には星がチカチカ回っていた。
しばらくして爬虫類のような青年が自己紹介を始めた。
「・・・俺の名前はアーズ。すまん。一緒に連れてきてしまって」
「・・・・・・僕の名前は白鶯紫桜。君は人間じゃないよね・・・?」
「ああ、俺は・・・その、竜人間・・・なんだ」
そういって竜人間ことアーズはこちらのほうを不安げに見つめている。
(僕の方が不安なんだけどな・・・)
「・・・お前は変な奴だな」
「初対面で言われたくないなそれ」
「そうか・・・すまん。しかし俺を見ても怖がらないとは」
「いや空飛ばれたとき本気で怖かったけど・・・」
「・・・本当にすまん」
どうやらこの竜人間は見た目に反してかなり臆病な性格のようだ。
「さっきからすまんすまんってそんなに僕が怖いかな?」
そう紫桜が言うと、アーズはしばらく考え
「いや、俺の種族以外は大抵なんか攻撃しかけてくるから・・・」
「へぇ・・・その種族は強いの?」
「おそらく竜人間よりは弱い。・・・だけど俺は竜人間のようなやつじゃないから」
竜人間と言った時、アーズは嫌そうに顔をしかめた。
「・・・アーズさんって言えばいいのかな。アーズさんは自分の種族が嫌いなの?」
「アーズでいい。・・・そうだ、俺はあんな奴ら大嫌いだ・・・フィオレスもな」
(フィオレスってなんだろう・・・)
「・・・フィオレスってなに?」
そう紫桜が問うとアーズはさっきの比じゃないぐらい顔をしかめて
「竜人間が信仰する神だ。猛々しいとか勇ましいとか言われてるけど、あんな奴ただの卑怯者さ」
と、吐き捨てるように言った。
アーズはかなりイラついているようなので紫桜はそのままほっとこうと思ったが、今朝のように大切なことを忘れていたことに気付いた。
紫桜はアーズを刺激したくなかったがこればっかりは聞かないといけなかった。
「ねぇアーズ・・・ここに食糧ってある?」
「いや、ない」
その答えを聞いて、紫桜は落胆した。
紫桜は森の中を歩いていた。結構おいしそうな木の実がたくさん熟れていたので何日ヶ分は採ろうと思ったのだ。
(木の実がたくさんあって助かった・・・けど、木の実だけじゃ・・・)
ふと茂みがガサッと揺れると鹿のような動物が現れた。
(鹿までいるんだ・・・そういえば)
紫桜はフルートのケースを肩にかけていたことを思い出した。
「お前・・・なんというかすごいな」
「そうかな?・・・ところで水場ってないかな」
恐怖の飛行のせいか短時間ですっかり打ち解けた紫桜とアーズは。現在紫桜がフルートの掃除棒で仕留めてきた鹿を調理していた。ちなみに木の枝は紫桜が集め、竜人間であるアーズが炎の息でたき火のような感じにしている。
「水場なら・・・どっかの窪みに雨水でも溜まってんじゃないの」
「うーん・・・ちょっと水場探してくるね。さっさと落とさないと」
そう言って立ち上がる紫桜にアーズが声をかけた。
「もう一頭仕留めてくれないかな」
「自分で仕留めなさい」
アーズ(アーズ)
人間以外のたくさんの知的生命体が住んでいる異世界からこちらへやって来た。原因はまだ不明。竜人間であるが、普通の竜人間と違い戦闘意欲は全くない。しかし、その実力は竜人間の住む大都市イグニルの中で一番。常に戦いに明け暮れている竜人間達が嫌い。竜人間達を戦わせるようにけしかけているフィオレスは大嫌い。闘技場はもちろん競馬もあんまり好きではない。