もう一人の勇者   作:Katarina T

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IF 少女、決意する

「へえ~~。貴方が噂のアリスさんだったんですか?」

 

「ふんっ、確か勇者を自称しているだったか………。だとしたら運命のとは、実に皮肉なものだな。なにせ我はこの世界の闇そのもの。究極の堕天使ルシフェル!勇者などという存在とは決して相容れることのない存在!であからして……………―――――」

 

勇者という言葉がどこかの琴線触れたのか、眼帯の生徒は目に見えて興奮した様子であり、口調からも彼女のテンションの高さが伺える。

 

眼帯の生徒の話には熱が入っており、一向に話が止まることはなく、このまま永遠にしゃっべりつづけていそうな感じである。

 

そんな彼女のようすに、これは止めても無駄だと判断したポニーテールの生徒は、一旦彼女のことは無視することにして、大人びた生徒に話しかける。

 

「彼女はほっとくとして、…………私は貴方も知らなかったことが意外でしたよ。いつもはこういう情報は、誰よりも早く手に入れていますよね?」

 

「私も噂を少し耳にはしていたんですけど……当時は忙しかったですし…………この頃騒ぎも多かったので、忘れてしまっていましたわ。」

 

「騒ぎって…………ああ!この前の空が赤くなった時のことですか!」

 

「ええ、そうです。あの時のごたごたに紛れて、すっかり噂のことを忘れてしまっていたんですよ。…………ですが、今こうして出会えたことに、私は運命的なものを感じていますわ!どうでしょう勇者様、もしこの後お時間があるのでしたら、私と濃密な一夜を共にしませんか?」

 

「どさくさに紛れに何言ってるんですか!!この変態!!そんなこと私が許すわけないでしょうが!!」

 

「あら?なぜ副部長さんの許可が必要なんでしょうか?………はっ、もしや、副部長さんも。でしたら副部長さんも含めて三人というのも、私は問題ないですよ。むしろドンとこいってやつです!!」

 

「貴方!ホントもう黙っていてくれませんか!?」

 

ぎゃあぎゃあっと騒ぎ始めてしまった二人を眺めながら、少女が口を開いた。

 

「あ、あの……ア、アリスは、そろそろクエスト報酬の確認をするために、拠点に帰らないといけません。ですから、アリスはここでパーティーから離脱することにします。さようなら!」

 

少女はそれだけ言うと、返事を待つことなく、来た道を引き返すようにダッと全力で走り出した。

 

 

「え、ちょっちょっと待って下さい!まだ正式にお礼も…………って行っちゃいました。」

 

少女の当然の行動に慌てたようにポニーテールの生徒が、少女を止めるように声を掛けるが、少女の方を振り向いた時には、既に少女の姿は視線の遠くの後ろ姿だけになってしまっていた。

 

「あら?いきなりどうしたんでしょう?」

「やはり、こんな遅くまで付き合わせてしまったのは、いけなかったんでしょうか?明日にでも謝罪とお礼をしに行くべきですね。」

「―――で、だからこそ我と貴様は…………ってあれ?あの娘は何処に行った?」

「たった今、帰られましたよ。気づかなかったんですか貴方は。…………とにかく今日はもう遅い時間ですし、彼女、確かアリスさんのことは、明日知ってる人に彼女の所属を聞いて、改めてお礼をしに行きましょう。」

 

ポニーテールの生徒の言い分に眼帯の生徒と大人びた生徒も賛成するように首を縦に振り、駅のホームに向かって歩き始める。

 

ポニーテールの生徒も二人について行こうと歩き始めた時、ふと白衣の生徒が動かないことに気が付いた。

 

「部長?先ほどから黙っていますけど、どうかしたんですか?」

 

白衣の生徒は、応えることなく黙って少女が向かった方に目を向けている。その顔はどこか腑に落ちない表情をしており、少し険しい目をしていた。

その様に眺めていた白衣の生徒は、少ししてその視線を外し、駅の方へと振り向いた。

 

「…………いや、なんでもない。我々も行こうか副部長。」

 

「は、はい。行きましょう。」

 

そうして先に行った二人を追うように二人も駅のホームへと歩いて行った。

 

「(気のせい…………なのか。)」

 

一瞬だけ感じた、何かの違和感を胸に抱いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女は、先ほどまでいたモノレールセンターから、ほど近くの小さな広場へとやって来ていた。

その広場の周りは、街灯や住居から漏れ出る明かりなどはないため薄暗く、昼間のような人の気配は微塵も感じられない。

 

どうやら周囲の建物を見るに、ミレニアムでは珍しく廃れている地域であるらしく、廃墟区内と同じくらい人の出入りがあまりない地域であるらしい。

 

少女は、その広場の奥、人目に付きにくい一角で疲れた様子で座り込んでいた。

 

「はぁ……、はぁ………、な、なんで私、逃げてしまったんですか。」

 

少女の息は上がっており、ここまで急いで走ってきたことが容易に伺えた。

 

少女は息を整えようと、一度大きく息を吐くと、その場で膝を抱えるように座りなおした。

 

 

「嘘を…………ついてしまいました。」

 

少女の頭には先ほどの………モノレールセンター前でのやり取りが浮かんでいた。

 

思い出すのは、最後、あの自分を偽ってしまった時のこと。

本当は否定したいと思いながらも、しかし代わりになる答えを自分が持っていないことを突き付けられたあの時。

 

どうしていいのか分からず、どうすることも出来ず、ただ何とかあの場を切り抜けるためについてしまった()()()()()

 

 

『はい!私はアリスです!』

 

 

その噓のせいで、新エネルギー開発部の面々は少女をアリスと思い、話しかけてきた。

 

当然だ。他でもない少女自身が自分のことをアリスと言っているのだから。

 

だけど、そんな会話を………自分のことをアリスと呼ぶ彼女たちの会話を少女は、あれ以上聞いていたくなかった。

 

「だって…………だって…………あれは私じゃなくて…………私の物じゃなくて…………」

 

 

 

…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

少女が過ごした彼女たちとの時間もその時の思い出も感情も…………全てがアリスに向けられたものになってしまいそうだったから。

 

だから、少女は逃げた。逃げるしか少女には選択肢がなかった。

 

 

「…………でも、仕方ありません。…………噓つきは………私なんですから。」

 

 

少女はなにか諦めたようにうつむいていた顔を上げる。

 

今日の天気はそこまで良いわけではないようで、空には暑い雲がかかっており、より一層少女の居る場所を暗くさせていた。

 

まるで少女の内面を表しているかのような空を眺めながら、少女はポツリと呟いた。

 

「私は…………なに?」

 

それは少女が目覚めた場所、あの薄暗い地下の部屋から、外へと歩み始めた時に言った言葉。

 

少女にとって今何よりも知りたいと願うことであった。

 

「…………まだ、分かりません。…………いっぱいレベルを上げれば、分かるんでしょうか。」

 

少女の言葉に答えてくれる人は、ここにはいない。少女の言葉はただ虚しく夜も深け真っ暗になった空間に消えていく。

 

少女は空を見上げるのをやめると、横になり瞳を閉じて眠りにつこうとする。

 

「明日から………いっぱい、クエストを頑張らなきゃ、いけませんね。」

 

少女はそう決意しながら、眠りに落ちていった。

明日はきっと、そんな希望を胸に宿しながら…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………数日後、そんな少女の希望が、ただの幻想(まぼろし)でしかなかったと、少女は思いしらされた。

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