新エネルギー開発部のメンバーと別れた日から早くも一週間近く経過した。
少女は、広場からほど近くにある、今は誰も住んでおらず、無人のまま放置された廃墟の一室を拠点にしていた。
少女は、自分の拠点に戻ると、どこかで拾ってきたリュックを下ろしながら、満足そうに笑顔を浮かべながら床へと座った。
「ふう~~、今日もクエストをバッチリこなせました!これでまた一つ、私は成長出来ましたね!パンパカパーン!私、レベルアップです!」
一人きりの空間には、その声に反応してくれる人などおらず、少女の声はただ虚しく響いた。
少女はあの夜から自分が何者なのかという答えを出すために、あちこちでクエストをこなしていた。
あるときは、探し物をしている生徒と共に捜索クエストをこなし、
あるときは、道が分からなくなって立ち往生している生徒と探索クエストをこなし、
あるときは、体力づくりだか、満塁ホームランを取るためだとか、日々のトレーニングが大切ですとか、いう二人組に巻き込まれるランダムエンカウントイベントに参加したり、
あるときは、やたらロマンを追い求めるメカニックたちが暴走させたワニを止める戦闘イベントをかいくぐったり、
少女の日常はそのような退屈とは程遠い、騒がしく、忙しい、ちょっぴりハプニングがある…………。
そんな輝かしい日々であった。
――――そう、輝かしい日々であるはずだったのだ。
「わ~~!見つかって良かった~~~。アリスちゃんありがとう!」
「ここです!ここ!やっとたどり着けました。アリスさん一緒に探してくださりありがとうございます。」
「ふう、今日のトレーニングはここまでとしましょう。アリスちゃん、本日は付き合って頂いてありがとうございます。」
「……もう無理。……限界ですよ。流石にグラウンド1000周はおかしいですよ………。はあ、それにしてもアリスちゃん、よくついて来れますね。今度、一緒に野球しませんか!」
「まさか徹夜して頭が回らなかったとは言え、暴走をおこしてしまうなんて。すぐに鎮座出来て良かった。アリスくん手伝ってくれてありがとう。」
「うん。アリスが協力してくれたおかげで、被害も少なく済んだ。」
「そうですね。もし、あれ以上暴れていたらと思うと、後でユウカ先輩に何て言われるか……。アリスさんは私たちの危機を救ってくれたまさに勇者ですよ!ちなにこのワニ型ロボットに使われているエンジンなのですが――――――」
思い出されるのは、彼女たちからのお礼の言葉。
そこにあるのは、彼女たちから少女に対する純粋な感謝のと親しみの籠った思い。
悪意なんて微塵もない、言った側も言われた側も心温まるはずの彼女たちの言葉。
―――そんな言葉が少女の胸に突き刺さる。
アリスちゃん…………アリスさん…………アリスくん…………。
―――アリス。
彼女たちは皆、口を揃えて少女をアリスと呼ぶ。
少女をアリスと呼んで、目の前の少女ではない、違う誰かに向けた言葉を口にする。
少女はそのことを思い出しながら、笑顔を消しながら俯いてしまう。
―――私は………アリスじゃないのに…………なんで。
そんな言葉がのど元からあふれそうにあるのをぐっとこらえて、少女は部屋の窓から外を眺める。
少女のいる一室はどうやら高い階数にあるようで、その窓からはミレニアムの象徴でもあり生徒たちの学び舎、ミレニアムタワーが見える。
「…………あそこに行けば、なにか変わるんでしょうか。」
少女は今まで、ミレニアム学区内を動き回っていたが、どうしてあの場所にはあまり近づこうとしなかった。
それは、少女が無意識のうちに感じていた、なにか良くない予感がしたから。
行けばきっと取り返しのつかないことになる。
そんな確かな予感が少女の中にあり、その不安感が少女をあの場所に行かせることを阻んでいた。
しかし、少女はもう我慢の限界だった。
このひとりぼっちの孤独にも、何もない何も知らない自身の現実にも、未だどうすればいいのか分からないこの現状にも。
少女は今のままではだめだと、現状を変えるために決心する。
きっと、なんとかなる。なにかがあると。そんな希望を胸に少女は懐からUFGを取り出すと眺めている窓より跳躍し、真夜中の外へとくり出した。
目的地は、ミレニアムタワー。
それと同時刻。ミレニアムより離れたとあるどこかの地下の一室。
薄暗く明かりもほとんどないそんな空間に一人ナニカがいた。
「ヒヒッ、ヒ………新しいコデックス、新しいキャンペーン…………小生の求道を……小生により意味のある気付き、発見、経験を得るための過程。」
そのナニカはせわしなく、意味の分からない言葉を並べたてる。
初めから誰かに聞かせる気などないかのように、自分以外はどうでもいいように…………そのナニカは行動する、
そして、ナニカは――――
「しかし、そのキャンペーンを実現するま、まえに…………どこかで奴らが言っていた、先生とやらを試してみるのもよいだろう…………。………お、こ、コイツは…………。」
ナニカの恐らく顔であろう場所に複数開かれている時計の文字盤の瞳が、何かを思案するように細められる。
その視線の先には…………
「…………ふむ、なるほど。使えないガラクタだが…………これは丁度いいかもしれんな。」
ミレニアムタワーにこっそりと入る
「ヒヒッ………ヒヒッ…………このキャンペーン、先生には少しもの足りないかも知れぬが…………せいぜい堪能していってくれ………。ヒヒッ、ヒヒヒッ」
ナニカはそう言い、ただ不敵な笑みを浮かべていた。
少女も、先生も、誰も知らないところで、ナニカの悪意がゆっくり迫りつつあった。