もう一人の勇者   作:Katarina T

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IF ありえない現実(先生視点)

子供のころ、空に浮かぶ雲が生き物に見えたことがあった。

 

色んな形で自由に空を飛んでいる姿が、なんだか色んな動物が空の海を泳いでいるように思えて、年相応にはしゃいでいつか自分も一緒に飛んでみたいなんて思ってたっけ。

 

当然、大人になるにつれて、雲は生き物じゃないなんてことは分かっていき、子供の時の考えなんて今となっては思い出すだけで、若干恥ずかしくなってくる……そんな思い出だ。

 

しかし、今目の前に広がる光景を見ると、あの時の考えもあながち間違ってないんじゃないかと、そんな現実逃避にも似た考えが頭の中に思い浮かんでしまう。

 

それほどまでに目の前の光景が信じられなかった。

 

空に浮かぶ分厚い曇天が、まるで蛇がとぐろを巻いているかのように空にうごめきながら、その向こうに広がっているであろう青空を覆い隠す。

 

空高くにあるはずなのに、目の間に大きな壁でもできているのかと錯覚させるほどに圧迫感を感じさせる曇天は、なにか潜在的な恐怖を駆り立てられる。

 

「せ、先生……。」

 

モモイが私の裾を掴みながら呼んでいる。

その声は普段の彼女とは違い、信じられないくらい弱々しいものであり、声に若干の怯えをにじませている。

それでもまだ他の皆よりも顔に恐怖が浮かんでいないのは、彼女がアリスやユズといった仲間のため、何より妹のミドリの為に姉としての虚勢を張っているからに他ならない。

 

そんなどこまでも強いモモイの姿を見て、自分自身に活を入れる。

 

恐れるな!教師である自分がこんな時しっかりしないでどうする!!この子たちをこれ以上不安にさせるようなことだけは、しちゃいけないだろうが!!

 

私は、怖がる自分にそのように言い聞かせると、ここの状況を伝えに来てくれたアスナに向き直り事情を聞いた。

 

“アスナ、C&Cではなにか分かったことはない?”

 

「詳しいことは何も。他の施設も軒並み電力が途切れて停電状態になってるみたい。……私はリーダーと一緒にモノレールセンターの方を調べていたんだけど、いきなり空が暗くなったかと思って外に出ると、空がこんな風になっちゃてたの!」

 

「なるほど、こんな異常事態すぐにでも報告しなければなりませんが、通信機器が使えないので直接伝えるためにアスナ先輩がここまで来たということですね。」

 

「うん。私は他の子より足速いし、状況は一刻も争う事態になるって思ったからね。」

 

特別な直感力を持っているアスナがそう言うということは、ほんとに事態は急を要するみたいだ。

となると、ここはいち早く他の子たちとも合流して情報が欲しい。

 

……ん?いや、ちょっと待って

 

“一緒にいたネルはどうしたの?”

 

さっきの話ならアスナはネルと一緒に行動してたはずだけど、ここにはネルも他のC&Cメンバーもいない。

 

「リーダーなら、他のメンバーと一緒に一足先にあの雲が集まっている中心部に行ってくるって言ってたよ!」

 

「はあ!!?ちょ、ちょっと!何考えてるんですかあの人は!!いくらなんでも危険すぎますよ!!」

 

「大丈夫だって!リーダーなら何があっても、たとえ死じゃうようなことが起きても生きて帰って来るから!」

 

「一行で矛盾してること言わないで下さい!!」

 

「でも、ネル先輩だよ。なんかあり得そうだよね……。」

「お姉ちゃん、思っていても口に出さないでいじゃん。……私もそう思うけど。」

「はい!ネル先輩ならきっと大丈夫です!どんなに攻撃を受けてもHP1で食いしばってくれます!」

「えっと、そう言う問題じゃないんじゃないかな……。」

 

そのように皆が口々にネルの評価を言っていく。

ある意味信頼されているのかな……。

 

とは言え、何が起きているのかも分からないこの状況。

私もネルとC&Cの強さは信頼しているけど、さすがに心配だ。

 

“アスナ、お願いがある。私をネルたちが向かったあの雲の中心部まで連れて行って欲しい。”

 

「「「「「「先生!!?」」」」」」」

 

私の提案に皆が驚いた顔で私の方を見る。

 

「そんな危険です!!ただでさえ、状況が何も分かっていないのに、確実になにか起きている場所に向かうなんて!」

 

「ユウカちゃんの言う通りです!ここはネル先輩たちを信じてこの場で待っていたほうがいいです!」

 

ユウカとノアが私が行くのを止めようと、声を荒げてくる。他の皆も何も言わないが、二人に賛成なのか首を縦に振っている。

 

うん、自分でも無茶なことだとは思っているよ、でもそれでも譲るわけにはいかない。

 

“生徒が危険を冒しているのに(先生)がただ黙って見てるだけなんて……そんな事しちゃいけない、あっていいはずがないんだ!”

 

「「――ッ!?」」

 

私の言葉にユウカとノアが息を詰まらせてしまった。しまった、生徒が危険に迫っていると思って焦りすぎちゃってた。

もっと言い方があっただろうに……。

 

私がそんな風に落ち込んでいると、いつの間にかすぐ横に近づいていたアスナが私の手を握りながら、いつもの明るい笑顔を浮かべてくる。

 

「よ~~し、そうと決まれば、私が全力でご主人様を案内しちゃうからね!安心して怪我一つさせないから!」

 

「なら、アリスも一緒に行きます!!マスコットである先生を守るのも勇者であるアリスの役目です!!」

 

「アリスも行くの!……ええいっだったら私も一緒に行くよ!アリスを一人で戦わさせるわけには、いかないから!!」

「お姉ちゃん!?……もうしょうがないんだから。」

「私も行く。みんなと一緒なら、怖くなんてないから!」

 

「ちょっと、貴方たちまで!?」

 

アスナ、アリスに続き、モモイ達も私に付いてくると名乗りを上げる。

さっきまで怖がっていたのが、ウソのように威勢よく、かかってこーーい!!と言う彼女たちの姿がとても頼りになる。

 

“ユウカとノアはここで、他のミレニアム生たちのことをお願い。みんな突然のことでパニックが起きてるから。”

 

「……これはいくら言っても無駄のようですね。分かりました生徒の皆さんのことは任せて下さい。」

「ああ、もうっホントにしょうがないわね!いい!みんな、危なくなったら直ぐに避難する事!全員無事に帰って来ること!これが絶対だからね!先生も絶対に無茶だけはしないでください!」

 

“うん、わかったよ。二人ともこっちは任せて!”

「はい!アリス必ずこのクエストを成功させて見せます!」

 

私たちは、ユウカとノアに見送られながら、アスナの道案内で雲の中心部へと向かって走り出した。

 

 

 

 

「さ~て、こいつはどうすっかな~~。」

 

廃墟区の入り口付近で小柄な生徒が頭を搔きながらめんどくさそうな声を上げている。

 

彼女の格好は、アスナと同じメイド服を着ているがその上からスカジャンを羽織っているという奇抜な格好であり、両手には彼女の相銃である金色の龍の模様が入っている二挺一対の短機関銃、通称ツイン・ドラゴンが握られている。

 

そんな彼女こそC&Cのリーダーであり、ミレニアム最強のコールサイン00(ダブルオー)の称号を与えられた生徒、美甘ネルだ。

 

ネルは、この雲の異常な動き、同僚であり同じ学年であるアスナの直感力に従って、この廃墟区に今ミレニアムに起きている異常現象解決の鍵があると踏んでここまで足を運んでいた。

 

「……アスナが、この場所で何かが起きてるっつってたから、確実に何かあると思ってたが…………どうやら、当りらしいな……。」

 

そうネルは、廃墟の方から視線を外すことなく、呟いている。

その口調は、先ほどのめんどくさそうな口調よりもどこか重苦しさを感じさせるものであった。

 

“ネル!”

「リーダー!」

 

そんなネルの耳に聞きなれた声が聞こえてくる。

 

その声に少し驚いたように目を開きながら、声のした方に視線を向けると、予想通りの人物と予想外の集団がこちらに向かって来てるのが見えた。

 

「リーダー、ゴメン遅くなっちゃった!」

 

“良かった、無事みたいだね!”

 

「おお!ネル先輩!無事でしたか!ここからアリス達もパーティーに合流します!」

 

「ええっと、こんにちは、ネル先輩。」

 

「な、はあーーー!なんで、先生とチビ共がここに居んだよ!!おい、アスナ!これはいったいどういうこった!」

 

「ああーー、ええっと話せば長くなるというか……。とにかく、一緒に来たいっていうから連れて来ちゃった!」

 

「連れてきちゃったってお前……。はぁ~、ったく今の状況分かってんのかよ……。」

 

“ごめんね。私が無理を言って付いていきたいってお願いしたんだ。だからアスナを責めないであげて。”

 

先生が申し訳なさそうな声で、そのようにネルに言うと、しょうがねえな……と頭を搔きながら、なにやら諦めたように息をついた。

 

「……まあ、確かにあたしらだけじゃ、あれについて、どうしよもなく、手詰まりになってたのは事実か……。」

 

「え!?ネル先輩、もうこの事件についてなにか分かったの!?」

 

「さすがネル先輩です!」

 

モモイとアリスが、驚いたようにネルの方を向く。

 

ネルは二人の視線をうっとおしそうに受けながらも、神妙な顔つきのまま、……見ればわかる。といい廃墟区の入り口に設置された簡易キャンプの中に私たちを誘導する。

 

「いいか、今は大人しいが、いつ何が起きるか分かんねから、絶対にあたしのそばから離れんじゃねえぞ!」

 

“うん、頼りにしてるよ。”

 

「ネル先輩、安心してください!何が起きてもアリスが、この光の剣で皆のことを守って見せます!」

 

「そう言う問題じゃねえっつうの!」

 

「あの、今は大人しくしてるって……どういうこと?」

 

「見ればわかるっつったろ、……ほら、あれだ。」

 

先生たちが簡易キャンプを抜けて、廃墟区内に足を踏み入れると、ネルはある一点を指差した。

 

それを見た先生たちは、この日一番の衝撃を受けて、目を見開き絶句してしまう。

 

「っ!?先生あ、あれって!!?」

「うそ……あれってまさか!」

「どうして……だってあれって!」

「先生!あの物体にアリス見覚えがあります!?」

 

(“アリスの言う通り、私にも見覚えがある。でもそんなはずはない、だってあれは確かに破壊したはずだ!”)

 

先生ですら、目の前のものがここにあることが信じられずに必死に否定しようとするが、どれだけ頭の中で否定する材料をかき集めようが、現に目の前にある物体が消えるわけではない。

 

それは一見するとただ真っ黒な球体、まるでそこだけ世界を切り取ったように一切の光すら通すことない黒色の球体は、遠くからでもはっきりと視認できる大きさを持ち、廃墟区の中心部に静かに鎮座し、その直ぐ上を中心に曇天が渦を巻いている。

 

そんな球体とよく似たものを先生は知ってる。

 

確かに大きさこそ比べるまでもなく小さいが、先生は一目見ただけで、はっきりとその球体が同じものであるという確信を得ていた。

 

なにせ自分がみたのはつい最近の出来事であり、決して忘れてはならない、いや忘れられるはずのないキヴォトス最大の危機の際だったからだ。

 

 

 

“アトラ・ハシースの箱舟……。”

 

 

 

それは、あまねく奇跡の始発点。その激闘が行われた舞台であり、最後には一人の先生と共に空へと消えたはずの兵器が、あの時と変わらない姿でそこにあった。

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