廃墟区からミレニアムタワーに戻った先生たちは、タワー内に設けられた今回の異常事態の対策会議室に集まっていた。
その部屋には、廃墟区に行った先生とアリスを除くゲーム開発部にC&Cメンバーの他にセミナーのユウカとノア、部長のヒマリを始めとしたヴェリタスメンバーもいる。
その場にいる全員が神妙な顔つきをしており、重たい空気が部屋の中を満たしている。
こんな時、モモイは誰よりも明るく声を上げて皆を引っ張ろうとするが、その彼女も周りの皆と同じように何も言えずにただ口を噛みしめている。
彼女の膝の上で握られた拳が震えている様子から、よほど悔しい気持ちでいっぱいなのが見てとれる。
無理もないだろう。彼女たちの大切な仲間が目の前で連れ去られた上に自分たちは助けるどころか何もできず逃げてきてしまったのだから。
モモイは自分が強いと思っているわけではない、自分より強い生徒なんてたくさんいることは分かっているし、あの状況では他に選択肢なんて無かったことも分かってる。
………しかし、どうしても何もできない己に、仲間を見捨ることしか出来なかった事実に、凄く悔しくてたまらないのである。
モモイは更に強く手を握りしめた。
そして、悔しい思いをしているのは、モモイだけではない。
ミドリもユズも先生もネルやC&Cメンバー、他の皆も同様に悔しさでいっぱいだ。
特にネルは、自分がついていながらこの様な結果になったことに責任を感じており、今すぐにでも廃墟区に飛び出して行きそうである。
そうしないのは、彼女の冷静な冷静さを残している部分が無策で行っても無駄であると告げているかあらである。
あの光景を誰よりもまじかで見て、肌で感じたネルには、あのロボットやほかのオートマタ達の異常性を誰よりも理解しており、自分一人が突っ走ったところで何にも出来ない。
それがわかっているからこそ、どれだけ悔しく思っていても寸でのところでここにとどまっているのである。
「とにかく……一度、状況を整理しましょう。」
そう口を開いたのは、この中で最も秀でた頭脳を持っているヒマリであった。
彼女は、この状況をなんとか解決するために、冷静に現状を分析し始めた。
「まず第一に……現在、ミレニアム学区内ではほぼ全ての電力が失われており、エレベーターや各種電子機器の使用が不可能になっています。これは、発電所で電気を作っても同様で発電した直後に電力が消失してしまいます。この現状の原因ですか、あの空の曇にミレニアム中の電力がたえず吸収されているからです。……そして、吸収された電力が行きつく先は、先生が見たという黒い球体で、まず間違いないかと思います。先生方が廃墟区に来られる前にあの周辺の電気の流れを測ったところ、あの球体に電力が吸われていることを確認出来ましたので。」
ヒマリが手元から、一枚の紙を皆に見せるように机の上に広げる。
その紙には、ミレニアム学区内の地図とあの廃墟区で観測したであろう、電磁波の波を観測したデータが記載されていた。
データには、多くの数字や理解不能な単語が多く見受けられ、正直何が書かれているのか、一見しただけでは理解が難しい内容ではあったが、唯一そのデータ内に記載されていたグラフとミレニアム学区の地図から先生たちは辛うじて、電力の向かっている方向を読み解くことができた。
それによると、確かにヒマリの言う通り雲がまるで電線のようにあの球体に電気を運んでいるようだった。
「第二に……特殊な怪電波の発生。こちらも範囲はミレニアム学区全てで発生しており、この電波には私たちの使う通信機器の類全ての波長を狂わせる効果があります。そのせいで私たちは互いに連絡を取り合うことはできませんし、ほかの学区にいまミレニアムで起こっているこの異常のことを伝えることも直ぐにはできません。」
次にヒマリが出したのは、自信のもっているスマホ。
彼女は、スマホを操作し、どこかに連絡を取るようなそぶりを見せるが、スマホからは、ツー…ツー…ツー…という音声しか流れてこず、発信音すら流れることはなかった。
これ以上やっても無駄だと判断したヒマリはスマホを懐に戻すと、表情をより深刻なものにしながら、先程までより重々しく口を開いた。
「……そして、第三に…………これが最も信じられない事ですが…………。先生たちが見たというあの黒い球体………、あれは『アトラ・ハシースの箱舟』である可能性が非常に高いです。」
それは、口にしたヒマリにとって、最も信じたくない事実であったのだろう。
事実ヒマリの表情には、いつもの余裕が欠片もなく、ただただ現実を飲み込もうと必死になっていた。
「あ、あの!アリスちゃんは!?あの中に飲み込まれたアリスちゃんは無事なんですよね!?」
「……私にもあの中がどうなっているのか予測することは出来ません。ですから残念ですが現時点では、アリスちゃんの無事を確認することは……できません。」
「そ、そんな……。」
「じゃあ、尚更早くアリスを助けないと!こんな所でグズグズしてらんないよ!」
「……それが出来るなら、とっくにやってるよ。」
焦っているモモイを止めるようにヒマリの横にいるエイミが話し出した。
「いま廃墟区の入り口は、無数のオートマタとAMASで埋め尽くされてる。モモイ達の言うことが本当ならあのオートマタ達はこっちに攻撃こそしてこないみたいでけど、廃墟区への侵入の邪魔をして来るのは確実。無理やり突発しようにも、あのオートマタ達は普通のと比べて、耐久性が異常で倒しても倒してもその場で次々と量産されてきりがない。その上、原因は分からないけど、廃墟区で遠隔操作のAMASやドローンは全部制御不能になって、逆に私たちの邪魔をするような動きをする。ミサイルや爆弾も同様、ミサイルは着弾地点がそれて当たらないし、爆弾は遠隔からの爆発信号が届かないみたいで不発、どっちも役に立たない。……つまり、私たちが使える武器は、自分の銃だけ。とてもじゃないけど、あの軍隊を突発出来ない。」
エイミは、淡々といまの現状を語っていくが、その顔には冷や汗がにじんでいた。
「……そして、仮にオートマタを突発出来たとしても……最後には、あのロボットがいる。」
重々しく語るエイミから引き継ぐように今度はヒマリが前に出る。
「……私も映像でしか見ていませんが……あれは、ただのロボットではありません。言うなれば、守護者。何人もあの球体に近づけさせないために生み出された個体でしょう。恐らくあのロボットを倒さない限り、球体に接触することはできないかと。……それに」
「球体の傍に行けたとして、中に入る方法がねぇってことか……。」
言い淀んだヒマリの代わりにネルがそのように口にする。
ネルの言葉を肯定するようにヒマリは重々しく頷いた。
ネルは、チッと舌打ちをしながら、眉をひそめる。
一度自分が体験したことから何と無く予想がついていたことだが、想像以上に今の状況に対して打てる手立てが無い。
アリスのことを抜きにしても一刻も早く事態を解決しなければならないが、問題が多すぎてどうすればいいのか分からない。
部屋の空気は、最初よりも重苦しさを増しており、全員が暗い顔をしている。
このままではいけないと先生は、なんとかこの空気を変えようと思考を巡らせるが、何も思い浮かばない。
そして、ただただ時間だけが過ぎていく、そんな中、突然その部屋のドアが開き、一人の生徒が入ってきた。
「……方法なら、あるわ。」
「「「「「「「!?」」」」」」」
皆が驚いたように部屋に入ってきた人物の方を向く。
その人物は、かつて、ミレニアムのトップに在籍し、先生たちと戦ったことも共闘したこともある人物。
″リオ!?″
元セミナー会長、調月リオだった。