ある日のお昼ごろ。アリア、ホシノ、ユメたち三人は、市街地にある商店街にやって来ていた。
普段であれば、各々署名活動や事務仕事、掃除と学校の備品、設備の修理などといった、自分たちの仕事があるのだが、偶にはみんなでお出かけしよう!というユメの提案で、三人は午前で仕事を切り上げ、街へと出かけることにした。
「なんだか久しぶりだね!こうやって三人でお出かけするの!」
「そうでしたか?いつも一緒にいる気がしますし、そんな久しぶりでもないんじゃありませんか?」
「そんなことないよー。ねっ!アリアちゃん!」
「はい!ユメの言う通りです!本機たち三人でのお出かけは、やく一週間ぶりくらいです!」
「ほらー、やっぱり久しぶりだったね!」
「いや、十分多いと思いますけど……。まあ、いいです。それで今日はどこに行くんですか?」
「え?ええっと……そう言えば、特に決めてなかったような……。」
「ユメ先輩、自分から誘っておいてノープランだったんですね。」
ホシノは呆れるように計画性のない先輩のことをみる。
ユメはその視線から逃げるように必死に目を泳がせながら、アリアの方を向いた。
「それは……みんなで出かけられることが嬉しくって、アリアちゃんはどうかな!行きたいところとかない?」
「本機は二人と一緒ならどこでも満喫できる自信がありますよ!」
「ううーん……。嬉しいけど、そうじゃないよアリアちゃん。」
「はぁ~~。この二人は全く。」
ホシノがアホ二人の様子に頭を抱えていると、「……お?アビドスの生徒さん達じゃねえか!」っと声をかけられた。
アリア達が声のした方に振り向くと、右目に傷のある犬獣人とロボットのおばあさんがこちらに手を振っていた。
「図書館の館長さん!それに柴関ラーメンの大将さんです!」
アリアが嬉しそうに手を振り返していることから分かるとおり、この二人とはアリアはよく顔を合わせることが多く、どちらも人当たりがいい人物なので、アリアは直ぐに彼らに懐いてしまい、よく会いに行っている。
「ふふ……。こんにちはアビドスの生徒さん方。いつも当館に本を読みに来てくれてありがとね。」
「おう!ウチもいつもラーメン食いに来てくれてありがとな!しっかし、こんなとこで会うたぁ奇遇だな!」
「それはこっちも同じだよーー!すっごい偶然だね!」
この二人については、アリアだけでなく、ユメとホシノも顔見知りであり、たまに三人で図書館に本を借りにいったり、柴関ラーメンを食べに行ったりしている。
「お二人は、顔見知りだったんですか。」
あの警戒心が強いホシノですら、この二人の前では若干肩の力を抜くことができるくらい、自分たちに親身に接してくれる二人が一緒にいることに驚き、ついホシノは湧いた疑問を口にしてしまう。
言ってから、少し遠慮がなかったかとホシノは思い、発言をなかった事にするよりも前に柴関大将が口を開いた。
「まあな。顔見知りつってもたまに面倒を見る腐れ縁みたいなもんよ!」
「ほほっ……。いっちょおまえに、まあそんなところかね。」
二人はなんでもない様子で答えるもので、ホシノはそうですか……。と若干呆気にとられてしまった。
その後、少し間5人でたわいない話で盛り上がっていると、ふと柴関大将が感慨深いそうに言葉をこぼした。
「しっかしよ、嬢ちゃんたちは本当によく頑張ってると思うぜ。」
「ふえ?」
突然そんなことを言われたユメは、驚いたように目を丸くして固まってしまう。
「そうさね~~。確かにこの子たちはようやっとると私も思うよ~。この子らが頑張っているのを見ると、私ももう少し頑張ろうと思えるもんさ。」
「だな!俺はラーメン作るしか能がねぇが、それでも嬢ちゃんたち見てると、頑張ろうって気合いが入んだよな!」
「え、え~~っと……。そんなこと……。私たちはただやれることやってるだけで……。」
「はーはっは!それが自分にできることをちゃんとやってるってだけでも十分えれえってもんよ!」
「ふふふっその通りだよ~。ちょっとは、自身を持って、胸をはんなアビドス生徒さん。微力ながら応援してるよ。」
「あ、ありがとうございます!」
「そうそう!自分が正しいと思うことやってるときゃぁ、思いっきり胸はってどうどうとしてればいいさ!」
「は、はぁ……。わかりました。覚えておきます。」
そんなことを話していると、図書館の管理人さんがふと道路に設置されている時計を見た。
「おや、もうこんな時間だね~~。そろそろ行かないと約束に遅れちゃうね。」
「おっといけねぇ!話過ぎちまってたな!じゃ俺たちはこの辺でな!」
「いつでも本を読みに来ておくれ~~」「また、ラーメン食べにこいよ!」と言いながら、図書館の管理人と柴関ラーメンの大将は去っていった。
あまりの勢いに押されて、ホシノはふぅーっと息をついている。
その横でユメは少しぽけ~~っと、していた。
そんなユメの様子が気になったホシノがユメに声をかけた。
「ユメ先輩、どうかしましたか。」
「……ホシノちゃん。もしかして私、夢でも見てるのかな」
唐突にそんな事をいう先輩にホシノが戸惑うと、ユメは更に続ける。
「実はね、この頃アビドスの環境を良くするための署名を集めてるとね、私の話を聞いてくれる人が少しだけどいるの。……ちょっと前までは誰も聞いてくれなかったし、見向きもしなかったけど、本当に少しづつだけど私の話を聞いてくれる人が出来たんだ……。」
ユメはなにかをこらえるよに声を抑えながら、話し続ける。
「今まで私なりに考えて、がむしゃらにアビドスの為に頑張ってきた。……けど、心のどこかでは本当に意味があるのかな?って思っちゃうときもあったんだ。」
「……そうだったんですか。」
いつも前向きな先輩が初めてこぼした本心にホシノはなんて言っていいのか分からず、言葉に詰まってしまう。
しかし、ユメは若干俯いていた顔をばっと上げると、いつも以上に優しい笑みを浮かべた。
「……でも、ほんの少しでも私の思いが伝わって、私の頑張りをちゃんと見てくれてる人がいて。…………そして、私を支えてくれてる人が出来た。」
ユメの優しい視線がホシノを真っ直ぐ見る。
「今なら胸を張って言えるよ……。私のやって来たことは無駄なんかじゃないって!ホシノちゃんとアリアちゃんとなら絶対にアビドスを復興できるって!私信じてる!だからホシノちゃん!アリアちゃん!私に力を貸して!一緒にアビドスを盛り上げていこうよ!!」
そう、いつものより三倍以上テンションが上がった先輩をホシノは、しょうがないですね。と口元に笑みを浮かべながらユメを見た。
「ユメ先輩一人だと頼りないですからね。付き合ってあげますよ!」
「わ~~っありがとうホシノちゃん!とっても心強いよ!」
「全く調子が良いんですから、あまり浮かれてないで下さいよ。……それにしても、アリアさっきから何で黙って……?あれ、アリア?どこ行きました!?」
ホシノはこういう時一番騒がしそうにする友人がなぜかずっと黙ってることに違和感を感じ、アリアがいた方を振り返った。
すると、そこにはさっきまでアリアの姿が無かった。
「え!?アリアちゃん、どこにいったのーー!?」
いきなり居なくなったアリアにユメも驚き、周囲に向かって呼びかけた。
「……ま、まさか迷子になっちゃったのかな!」
「そんなあり得ませんよ!私たちほとんど移動してないですし、アリアはしょっちゅう街に来てるんですから!」
「じゃ、じゃあどうして居なくなっちゃったのかな?」
「そ、それはわかりませんが……。」
ユメはどうしようと慌てており、ホシノはまさか誘拐でもされたっと考えていると、すぐそばにある雑貨屋から「ユメーー!ホシノーー!見てください!」と何やら大荷物を抱えたアリアが出てきた。
「アリアちゃん!?よかった~~迷子になっちゃったかと思って心配したよ~~。」
「全くです!勝手にどこかに行かないで下さい!行くにしてもせめて一声かけて下さい!」
「あうう……。心配させてすみません。とっても気になる物を見つけたので、つい買ってきてしました。」
アリアは二人から注意されたことに反省するように肩を落とす。
ユメはしょうがないな~~っと言いながら、それに以上は何も言わず、代わりにアリアが抱えている袋を指さした。
「それにしても大荷物だねー。なに買ったの?」
「それはですね……。じゃーーんです!見てくださいリュックサック型の水筒です!モノだけでなく水分も持ち運べる便利グッツです!」
「へえ~~確かに便利そうだね!ね、ホシノちゃん。」
「いえ。むしろ動く時、邪魔になりますよ。クオリティも微妙ですし……。」
「ええ?そうかなぁ……。私はいいと思うけど……。」
「なら、こっちはどうですか!お饅頭クジラの特大ぬいぐるみです!」
「うわ~~。なにこの子、すっごくかわいいよホシノちゃん!」
「どこがですか。微妙にネーミングセンスないですし、なぜクジラと饅頭を掛け合わせたのか意味が分かりませんよ。」
「でもでも、すっごく手触りがいいよこの子!ホシノちゃんも触って見たら!」
「そうです!ホシノもこのお饅頭クジラを抱きしめて下さい!そうすればこの生物の魅力が分かるはずです!」
「私は興味ないので結構――って無理やり押しつけてこないでください!むがっ!ちょっほんとにーーっ」
その様に騒ぎ続ける中、ホシノはほんの少しだけ、今が楽しく思えてきた。
このまま三人でバカやって行くのも……まあ、悪くないかもしれませんね……。
騒がしい日常の中、ホシノはふと、そんな事を思っていた。
――――その数日後、突然ユメとアリア、二人と連絡が取れなくなった。