「ようこそお越しくださいました、アリアさん。わざわざこのような場所にご足労いただき、誠にありがとうございます。」
「いえ、本機は全く問題ありませんよ!気にしないでください!それより貴方が本機に手紙をくれた人ですか?」
「クック……。ええ、その通りです。直接お会いするのではなく、手紙での招待になってしまい申し訳ありません。」
黒い人影は、紳士を気取ったような態度でアリアを備え付け合った椅子に誘導すると、その対面に腰掛け再度話を切り出した。
「申し遅れました、私たちのことは『ゲマトリア』、私のことは、『黒服』とでもお呼び下さい。この名前が気に入ってまして。」
「黒服さん……ですか。分かりました、そう呼ばせて貰います!それで、本機と話したいというのは……。」
「単刀直入に言いましょう……実はですねアリアさん。私は前々から貴方の事が気になっていたんですよ。」
「??本機のことがですか?」
「ええそうです。
アリアの前に座る黒い人影、いや黒服は愉快そうに顔のひび割れを歪ませながら、話し続ける。
「遥か昔存在していた、キヴォトスに神を再現するためにAI開発を行う研究機関。我々がいま拝借している本来のゲマトリアが援助をしていた研究。その最初に造られた存在。この世界で、初めて人工的に生み出された神。名も無き神々の王女、DECAGRAMMATON(神名十文字)、その全ての祖に当たる存在。………それがあなたです、アリアさん。いえ……名も無き原初の王女。」
「王女……。本機が、ですか。」
アリアは突然明かされた自身の真実に理解が追い付かず、呆気にとられたように固まってしまう。
黒服はそんなアリアの様子を気にしたそぶりも見せずに話を続ける。
「はい、貴方は紛れもなく、かの者たちが作り上げたもっとも古き神であり、今のキヴォトスにおいて、紛れもない最高の神秘でもあります。……そして、アリアさん。私は貴方の持つその力を研究するために貴方が欲しいのです。」
「…………。」
「もちろんタダとは言いません。貴方が私に協力していただけるというのなら、アビドスが抱えている残りの借金をなんとかしましょう・・・・・それと惜しいですが暁のホルス・・・・小鳥遊ホシノも諦めます。」
「ッ!?ホシノが本機の生まれと何か関係してるんですか!」
アリアはいきなり自分がよく知る人物の名前が出て来たことに驚き、もしやホシノも自分の出生に関係しているのかと思い黒服に問いかけた。
しかし、黒服首を横に振りながら、口調を崩すことなく答える。
「誤解させてしまい申し訳ありません。貴方の出生と小鳥遊ホシノは無関係ですよ。……ただ、小鳥遊ホシノは、貴方と同じようにこのキヴォトスで最高ともいえる神秘を宿していますので、彼女のことも欲しかったというだけですよ。まぁ彼女にはすでにこの話は断られていまして・・・・・・諦めるつもりは無かったのですが、彼女よりも優先度が高いあなたが私に協力してくれるというのであれば、彼女は諦めますが………いかがでしょうか。」
「………本機は。」
アリアは考え込むように押し黙ってしまう。
アリアにとって、ホシノは大切な存在だ。自分を目覚めさせてくれて、今まで温かい思い出をたくさんの感情を他にもいっぱい………数えだしたらキリがないくらいたくさんのモノをくれた恩人。
そんなホシノが聞いてる限り狙われているという事実。そして、自分が今日はすればホシノが狙われることはなくなる。
その上、アビドスの借金まで一緒になくなるという。
借金についてもこの数か月間で、ユメとホシノがどれだけ苦労してきたか、近くで見ていたアリアはよく分かっている。
だから、迷うことなくこの案を了承すべきだという考えがアリアの頭にはあった。
しかし、それと同時にアリアは二人と離れたくないという気持ちもまた強くあった。
実際に黒服がアリアに何をしようとしているのかは、アリアは知らない。
しかし、アリアは直感的にここで黒服の提案に乗れば、自分はユメとホシノと一緒にいることが出来なくなるという予感を感じており、それは嫌だ!っとアリアの感情がそう叫んでいた。
理性では受けた方がいい。感情では断るべき。正反対の考えがアリアの心に渦巻いており、なかなか答えを出せずに押し黙ってしまう。
そしてしばらくの間、沈黙した時間が過ぎたころ、黒服が「……クックック。」と笑いながら、また何かを話始める。
「アリアさん、貴方からすれば私は信用の無い大人。私もこんな話にすぐに回答していただけるとは思っておりません。………では、私からもう一つご提案をさせて頂きましょう。……貴方に決して拒めない提案を。」
「本機に拒めない、提案ですか……。それってどういう。」
「……あのアビドス生徒会長、………確か、梔子ユメさんでしたか、このままだと彼女の命は危ういでしょう。」
「ッ!!?ユメが危ないってどういうことですか!!」
アリアは勢いよく椅子から立ち上がると、黒服に向かって詰め寄った。その顔には一切の余裕がなく、いつの間にか手には『アイギス』が握られている
それも当然だ、ユメという存在は、ホシノと同じようにアリアにとって掛け替えのない存在だ。
そんな人が命の危機にさらされていると聞いて冷静でいられるほど、アリアは大人ではない。
「クックック、まあ、落ち着いてくだい。今すぐ死ぬというわけではありませんので。」
アリアに詰めよられてもなお、黒服の態度は変わらず落ちついたものであり、アリアに椅子に座るように促す。
アリアは一先ず黒服からユメの話を聞くことが、最重要であると考え椅子に座り直した。
「実は、私がつい先日入力した情報によると、昨日、アビドスの生徒会長が砂漠地帯に連れ去られたという情報が入って来たのですよ。」
「連れ去られたって、誰にですか!?」
「恐らく、カイザーの幹部の誰かでしょう。功績欲しさに独断での愚行といったところですかね。確かにあの生徒会長が砂漠で遭難し、事故死すればただでさえギリギリなアビドス高校の体制は崩れ一気に乗っ取りが完了すると思われますが………。クックック、あまりにも浅はかな考えですね。」
「早く助けに行かないと!ユメがどこにいるのか教えてください!!」
「………そう言うと、思っていました。」
そう言うと、黒服は立ち上がり、引き出しの中から一枚の紙と腕輪を机の上に置いた。
「これが、私から貴方に提供する最後の提案です。………私と契約を結んで頂けるというのであれば、アビドスが抱える借金全額の返済、今後、小鳥遊ホシノに関わらないこと、………そして、梔子ユメさんの救出に可能な限り協力致しましょう。………これに了承していただけるのでしたら、こちらの契約書にサインをお願いします。」
黒服は、アリアに契約書を差し出す。これにサインすれば、もう戻ることは出来ないとアリアの直感が警報を鳴らしていた………。
「分かりました!本機はその契約を結びます!」
「クックック……。契約成立ですね。よろしくお願いしますよ、アリアさん。」
アリアは、迷うことなく黒服との契約書にサインする。
全ては大切なもの、無くしたくないものを守るために。