あの砂漠での戦いから早くも数日が経過した頃、アリアはとある
ここ最近は、ホシノが何かと理由をつけて、三人での行動することが多かったため、アリア一人で外出するのは久しぶりの事だった。
そんなアリアが、公道から住宅街に続く道に入ったところで、背後から声をかけられた。
「クククッ……お久しぶりですね、アリアさん。」
「貴方は、確か……黒服さんでしたか?」
声をかけてきたのは、あの日アリアと契約を結んで結果的にユメを助けるのに協力して貰った黒服であった。
黒服は、出会ったときと同じ相変わらずの黒いスーツ姿で、どこか気味の悪い笑い声を鳴らしながら、アリアに親しげに声をかけてきた。
「ええ、その通りです。覚えて頂いて嬉しく思いますよ。ところでアリアさん、あの後あなた自身に何か変化したことなどございますか?」
「変わったところ、ですか?いえ、特にありませんよ!本機の機能は全て正常に稼働しています!」
「ふむ、なるほど……しかし、これは……。」
黒服は、アリアの回答が意外だったのか、なにか考えるように顎に手をかける。
アリアは、自分を見ながら、何かを考えている
「あの、黒服さん。本機からも報告しなければいけないことがあります。……実は、黒服さんから身に付けておくよう依頼されていた腕輪が壊れてしまいました。すみませんです。」
アリアが、取り出した腕輪は黒服と契約を交わした際に身につけておくようにと言われていた腕輪であり、セトの憤怒との戦いの最中に真っ二つに割れてしまっていた。
アリアは申し訳なさそうに黒服に腕輪を見せながら頭を下げる。
しかし、対する黒服は特に気にした様子も無く、あっさりとした口調で話し出した。
「ああ、そんなことですか。構いませんよ、大変貴重なデータを取ることができましたから。何よりもはや貴方との契約は機能していませんから。」
「え?なんで、ですか?」
「私が契約したのは、無名の原初の王女である貴方です。今のアリアさんは、ただの学生になってしまい、私との契約が切れてしまっているんですよ。ククッ、こんな事例、私も初めてのことですよ。本来なら死亡した場合でもない限り契約が切れることはないのですが。本当に貴方は面白い人ですね。」
黒服の口元のヒビが愉快そうに広がっていく。
その姿は面白いものを見たときの少年のようにどこか楽しげであった。
「という訳で、貴方との契約は無効ではなく、完遂という形で終わっているのですよ。非常に惜しいですが、最低のデータは取ることができたので、私も契約通りアビドスの借金返済と小鳥遊ホシノの勧誘を諦めましょう。……それではアリアさん、またどこかでお会いしましょう。」
そう言うと、黒服はアリアから離れるように去っていき、そのまま街の謙遜のなかに消えていった。
アリアは黒服の姿が見えなくなると、持っていた腕輪を懐にしまい、用事を済ませる為に再び歩き始めた。
その数時間後、用事を終えたアリアが、アビドス生徒会室に戻ると、ユメとホシノが書類の山に埋もれていた。
「ひ、ひぃん…………。書いても書いても書類が減らない………どうなっているの……」
「仕方ありませんよ……、オアシスの復活を皮切りに砂漠化の原因だった砂嵐の沈静化によって、アビドスの環境がドンドン改善されていってるんですから、今がチャンスだということで、アビドス復興活動に乗り出した企業が数多くあるんですよ。」
「それはとっても嬉しいことだけどーーー。なんで、みんな私たちに書類持ってくるの~~~?」
「私たちがアビドス自治区の所有権を持っているからですよ。本来、自治区の土地の所有者はその自治区の学校が持っているもので、自治区での活動には当然その地区を収めている学校の許可がいるんですよ。」
「え?でも私今まで申請が来たことも許可を出したこともないよ?」
「……それは、今までアビドスの土地の所有権がカイザーコンストラクション……つまりカイザーグループがアビドスの土地を持っていたせいですよ。だから、カイザーグループは別に許可なんて貰わなくてもアビドスで好き勝手出来ていたんです。……私もまさか土地の所有権があのクソ企業に取られていたとは、思っても居ませんでしたけど。」
ホシノはうんざりした表情のあと、どこが清々とした気持ちで目の前に積み上がっている書類を片付けていく。
正直、割り切れないことやよく分かってないことだらけだ……。
ユメ先輩が攫われたときやアリアが居なくなったときに何も出来なかった。大変不快ではあるが、あの時、黒服があの場所を教えなければ、ホシノはあの場にいることも出来なかっただろう。
それだけじゃない。カイザーグループがアビドス自治区のほぼ全ての所有権を持っていることにも気づけなかった。少し調べたら分かるようなことのはずなのに、分かったのは連邦生徒会がカイザーからアビドス自治区の所有権を奪った後だった。
なにより…………もう少しでユメ先輩と……アリアが居なくなっていたかもしれない。
その事実が、何よりも怖かった……。あんな思いはもう二度とごめんだ。
その他にも、いろいろ分かってないことや不安なことは多い。
ただ、……それでも今は前に進むことができる。
今までの先の見えない、真っ暗な袋小路じゃない……。
少しだけだけど、明るい未来が……希望が見えてきたような、そんな気がする。
ホシノは思わず頬が緩み、嬉しそうな笑みをこぼす。そんなホシノの顔を覗き込むようにアリアが近づいていった。
「ホシノ、なんだか嬉しそうです!」
「っ、ア、アリアいつの間に帰って来てんですか!帰ってきたのなら声をかけてください!」
「はい!本機ついさっき帰還しました!ミッションクリアの報告に来たんですけど、ホシノがとっても可愛い顔してたので、思わず見惚れました!」
「ええ!ホントにーー、私よく見てなかったよ!ねえねえアリアちゃん、ホシノちゃんどんな顔してたの!写真とかある!」
「はい!バッチリ写真にとって記録していますよ!こちらをどうぞです!」
「どれどれ……、きゃああーーー!!ホシノちゃんかわいい♪この写真アビドス高校の広告に使ったら人いっぱい来るんじゃないかな!」
「それはナイスアイディアですね!早速作成に取り掛かります!」
「ふざけんなーーーー!!!!そんなことしたら二人共、絶対に砂漠に埋めますからね!!後、勝手に人の写真とるな!!早く消せーーーーー!!!!!」
顔を真っ赤にした暁のホルスがアホ二人をしばきあげるという、以前にも見たような光景が繰り広げられた。
「というか……アリアは一体、市街地になにしに行ったんですか……。なにか用事があるとか言ってましたけど。」
「あ!そうです!そうです!忘れるところでした!ユメ頼まれてました署名、すべて集めましたよ!皆さん協力してくれるみたいです!」
「ほんと!やったー!それなら何とかなりそうだよ!!」
「あの、話が全く見えてこないので……説明をお願いします。」
「ふふん、実はホシノちゃんを驚かせるために、私とアリアちゃんとで、あることを計画してたんだよ!」
「はぁ?私を驚かせるですか……。ユメ先輩、一体何をしようとしてるんですか?」
ホシノがまた馬鹿な事を始めようとしてるんじゃ、と若干呆れたような顔をしながら
ユメの方を見ていると、ユメはおもむろに席から立ち上がると、壁に飾られた『アビドス砂祭り』のポスター前に向かった。
「本当はまだまだ秘密にしておこうと思ってたんだけど…………、でも二人には、今ここで宣言するね!」
ホシノが今まで見て来たなかで、最も自信の籠った表情を浮かべたユメは、ハッキリ二人に向かってこう言った。
「アビドス砂祭りの開催をここに宣言します!!」