もう一人の勇者   作:Katarina T

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無くさなかったモノ(青春)。少女、はじめての…

ブラックマーケット内の奥にある路地裏の一角、見た限り周りに商店はなく、人通りのないそこは、急に空が曇り始めたためかいつもより暗く、不気味な雰囲気を放っていた。

 

 

「…………………」(トボ…トボ………)

 

そんな所を一人の生徒が歩いていた。

 

うつむいているため、ハッキリと表情を確認することはできないが、その足取りは重く、ただ目的もなくさまよっているようだった。

 

その生徒…………ホシノは、あの駄菓子屋から逃げ出したあと、無我夢中でブラックマーケット内を走り回った。

 

知ってしまった…………知りたくなかった現実から、目を背けるように…………

 

 

 

…………そうやって走っていたら、気が付いたらこの場に来ており、走ることにも、考えることにも…………

 

………頑張ることにも、疲れ果てたホシノは、ただただ無気力に歩き続ける。

 

 

 

…………これは……罰なのかな………

 

…………先輩を支えられなくて…………それどころか勝手に怒って…………折角のポスターを破って…………

 

…………謝りもせずに…………一人先輩を危険な目に合わせた…………私への罰……

 

 

 

…………ああ……それでも…………それ、でも…………

 

 

「あんまり……だよ………ユメ先輩………」

 

ホシノはユメが記憶が無いことを知った時、今までの自分の頑張りを、全て否定されたような気がしていた。

 

今まで、大切な先輩が残したものを、必死に守ってきた……どんなに小さな可能性でもそれでも諦めずにユメのことを探し続けた。

 

なのに、やっと見つけた先輩は、もう先輩じゃなくなってしまっていた。

 

もう、あの日々は二度と戻って来ないと、そう現実を突きつけられ、本当に全て無くしてしまった。

 

 

「はぁもう………どうでもいいや…………」

 

虚ろな目をしながら、ただただ暗い路地裏の奥に足を進める…………

 

…………その闇の中に消えてしまいそうに…………ゆっくりと…………

 

 

「やっと見つけました。ホシノ発見です。」

 

 

そんなホシノに…………誰かが声を掛ける。

 

ホシノが声の方に目を向けるとそこには…………

 

…………路地の入口から、いつものように元気な顔でこちらに向かってくる少女の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、ホシノ、一緒に帰りましょう。皆も待ってますよ。」

 

少女がそう言いながら、ホシノに向かって手を伸ばす。

 

しかし、ホシノはその手を振り払って、こう告げた。

 

「おじさんは…………もういいよ………」

 

「いいって何がですか。」

 

「いやね………おじさんもう年だから……もう頑張る気力も無くなってねぇ………あそこに戻る気はないんだ。」

 

ホシノの言葉に少女は驚いたように、目を丸くし、ホシノに近付いてもう一度手を伸ばす。

 

「そ、そんなのダメです。ホシノは戻らないと、「いいって言ってるだろ!!!」っ!?」

 

少女の手を今度は先程よりも強く叩いて、怒鳴り声をあげ、少女の言葉をかき消す。

 

それは、駄菓子屋で見せたものよりもずっと大きな………感情の爆発だった。

 

ホシノは、はぁはぁ……と息を切らしている。

 

やがて少し息を吸い呼吸を整えると、少女に向かってゆっくり言葉を投げかける。

 

 

 

 

「………少女ちゃんはいいよね。何も知らないんだから……」

 

(やめろ……)

 

 

 

「……え。」

 

 

 

「辛い過去も何にもないんだから……こんな悲しみも知らないんだよね……」

 

(なにいっているんだよ……)

 

 

 

「全部無くして……何にもなくなった……おじさんの気持ちなんか分かんないよね……」

 

(そんなこと……言うなよ)

 

 

 

「だからさぁ……少女ちゃん……おじさんのことはほおっておいて欲しいな。」

 

(ダメ……)

 

 

 

「はっきり言うと…………迷惑なんだよね……」

 

(あ…………)

 

 

 

(ああ……言ってしまった。)

 

 

 

ホシノは顔を伏せ少女の表情を見ないようにする。

 

 

 

自分が傷つけてしまった少女のことを、ホシノは見たくなかった。

 

 

 

ホシノは気づいていた。

 

 

 

今言ったことは全部……少女に対し抱いているある感情から来ている言葉だという事を……

 

 

 

自分にできなかったことを成し遂げ、自分が居たいと思っている場所にいる少女に対する……

 

 

 

……そんな、どこまでも自分勝手で、醜い嫉妬心から出た言葉だったという事を……

 

 

 

ホシノだって、こんなこと思うのは、間違っていることは分かっている。

 

 

 

だが、いくら理性では把握していても、感情はそうはいかない。

 

 

 

(この子は何も悪くないのに……寧ろユメ先輩や別世界のシロコちゃんのことで感謝しなくちゃいけないのに……)

 

 

 

(探しに来てくれて、ありがとうって、言わなきゃいけないのに……)

 

 

 

(ほんと……最低だね……私……)

 

 

ホシノが少女をその場に残し、また路地裏に消えようとした時……

 

 

 

(グイッ…ギュッ!)

 

 

 

突然少女がホシノの手を引っ張って、抱きしめてきた。

 

 

 

「…………。………うえっ!?」

 

 

突然のことに驚きホシノの口から声が漏れる。

 

しかし、まだ若干混乱しながらもホシノは直ぐに冷静さを取り戻し、少女に冷たく話しかける。

 

 

「いきなり何するのさ。聞こえなかった…………私のことはほっといて、」

 

 

「嫌です!!ほっときません!!」

 

 

「っ!?」

 

 

 

いつかのシロコとのやり取りの時のように、ホシノの言葉を遮りながら、少女は自分の意志を告げる。

 

そこには、絶対にホシノを離さないという、強い意志があった。

 

 

「な、なに言ってるのさ、いいから離れて!私のことは放って置いてっ!」

 

「嫌です!嫌です!絶対に離しません!今ここで離したら、ホシノが消えていきそうですから絶対に離しません!」

 

「……っ!」

 

少女を引き離そうとホシノは、少女の肩を掴み力を籠めるが、少女のどこにそんな力があるのか、全く動かすことが出来なかった。

 

 

「それに今、私は少し怒っています!だからこのまま消えるなんて許しません!」

 

少女の言葉にホシノの動きが止まる。

 

そして少し瞳を閉じて、その後に続く言葉を黙って待つ。

 

(無理もないよね…………あんなに理不尽なこと言って傷つけたんだし…………何言われてもしょうがないや)

 

 

ホシノは、先程の自分の発言に対する文句か、それとも非難する言葉か、はたまた両方か…………

 

いずれにせよその言葉を受け止める覚悟をしていた。

 

 

しかし、少女の口から出てきた言葉は、ホシノが想像していたどれでもなくて、

 

 

 

 

「どうして……どうして何もなくなった何て言うんですか!!」

 

 

 

 

ただホシノのことを思った言葉だった。

 

 

「…………え。」

 

戸惑っているホシノを無視して少女は続ける。

 

「ホシノは何もなくしてなんていません!」

 

ハッキリと…………

 

「ホシノはちゃんと持っています!」

 

目の前の迷子の少女に伝わるように………

 

「ホシノには…………」

 

少女は…………

 

 

 

 

 

 

「仲間がちゃんといます!!!!独りぼっちなんかじゃありません!!!!!」

 

本当の真実(現実)を伝えた。

 

 

 

 

 

「…………っ!?」

 

少女の言葉にホシノの瞳が大きく開かれる。

 

少女は尚も言葉を続ける。

 

「ホシノには、ホシノのことを大切に思ってくれる人がちゃんといます!今も心配して帰りを待ってくれる人がいます!」

 

少女の抱きしめる力が強まる一方で、ホシノの抵抗する力が弱まっていく。

 

少女の暖かい体温が伝わり、深海の中のように冷えきったホシノの体を暖めていく。

 

「それに、ユメだってそうです!何処にも行ってなんていません。ここにちゃんといます!」

 

「…………違う………あれは、もう私の知っているユメ先輩じゃ…………」

 

「違いません!」

 

ホシノの言葉を少女が否定する。

 

そして真っ直ぐホシノの目を見ながら、はっきり告げる。

 

「ユメはユメです!何も違いません!私は知っています!ユメがどれだけ頑張り屋さんで、いつも周りの人を気遣って、笑顔にして、大切なことをちゃんと教えてくれる…………そんなとっても暖かくて優しい人であることを私はちゃんと知っています!これは、記憶なんて関係ないユメの大事な魅力です!」

 

「…………。」

 

(ああ……そうだ………)

 

ホシノだって知っている…………アビドスで二人で頑張っていた時、頼りないし、直ぐに騙されるし、突拍子もないことを言ってくる困った人だったけど…………

 

…………自分にいくつもの大切なことを教えてくれた大切な先輩であったことを

 

(何で…………忘れてたんだろ…………対策委員会の皆のことも…………ユメ先輩のことも……)

 

(ッーーー……)

ホシノの瞳から一粒の涙がこぼれ落ち頬をつたう。

 

(ポロ…ポロ…ポロ…ポロ)

 

それを皮切りにホシノは大粒の涙を流れさせる。

 

まるで、自分の中に押し込んでいた″モノ″を全て吐き出すように……ただただ、涙を流し続ける。

 

ホシノの手は、もう抵抗する力を完全に失い、それどころか目の前の少女を抱き寄せるように、手を回していた。

 

顔を少女の胸に埋め、ただ黙って抱きしめられる。

 

 

その姿はまるで…………少女と初めて会った時のユメそっくりであった。

 

 

ホシノを胸に抱きしめ、頭を優しく撫でながら、少女は優しい口調で話しかける。

 

「大丈夫です。ホシノの大切なものはちゃんとあります。思い出ならこれから沢山作って行けます。」

 

「そう、かな………?」

 

「はい。絶対に出来ます。不安があるなら、私が手伝います。」

 

ホシノが顔を上げ、少女の目を見る。

 

少女の碧色の瞳は、確かな自信を宿し、どこまでも真っ直ぐに、ホシノを見つめていた。

 

「名前も役職も未だない私ですが、ホシノの力にはなって見せます。」

 

「どうして…………私にそこまで…………」

 

 

 

「だって、私はホシノとフレンド………″友達″になりたいからです。」

 

「友、達…………?」

 

「はい。フレンドはイベントで協力して、一緒に戦うことが出来る。大切な存在です。」

 

少女は明るい笑顔を浮かべながら、楽しそうに説明する。

 

「本当はパーティに入れたいですが、ホシノはもうパーティを組んでいます。ですから私とフレンド登録をしましょう。これでいつでも助け合えます。」

 

少女の言葉を聞きホシノは少し考え込む。

 

思えば、自分に友達何て言う存在がいただろうか…………

 

 

 

対策委員会の子たちは守らなきゃいけない後輩、先生は頼りになるけどちょっと抜けてる大人。

 

ホシノには対等に接することが出来る存在がいなかった。

 

 

そんなホシノに、いま自分と対等に接してくれる存在…………

 

…………いや、友達になろうと言ってくれている人がいる。

 

 

少女はホシノを離し…………眩しい程の笑顔を浮かべて、手を差し伸べた。

 

 

「ホシノ!私と友達になって下さい!!」

 

 

ホシノは差し伸べられた手を見て…………

 

「…………うへ~おじさんで良ければ、こっちからお願いしたいくらいだよ~」

 

…………今度はちゃんとその手を取った。

 

 

いつのまにか、空にかかっていた雲は晴れ、優しい日の光が路地裏にいる少女たちを、照らしていた。

 

少女とホシノは、繋いだ手を離すことなく…………

 

初めてできた友達と、仲間が待っている、

 

………″自分たちの帰るべき場所″へと戻っていった。

 

 

その時の彼女たちの顔は……澄んだ青空のように晴れ渡っていた。

誰のメモロビが見たい

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