気を失った少女とアリスを取り敢えずソファーに寝かせた先生は、アポカリプス越しでリオに問いかけた。
“リオ、少女ちゃんとアリスの関係って一体?”
『……先生も薄々察しは付いていると思うけど、少女ちゃんはアリスと同じ名もなき神々の王女よ。』
リオは先生の問いに対し、『私の推測の部分もあるけれど』と言いながら答えていく。
『少女ちゃんは恐らく、AL-1S……アリスに何らかの不具合や緊急事態が起きた際、代わりにアトラ・ハシースの箱舟を実行する役目を持った……所謂AL-1Sのバックアップのような存在だと思うわ。』
“少女ちゃんがアリスのバックアップ……”
『ええ。少女ちゃんの性格がアリスによく似ているのはそのせいよ。恐らくあの時…………色彩が訪れた際、ウトナピシュティムの本船でプロトコルアトラ・ハシースを実行した時に起動条件を満たしたと誤認して動き出したんだと思うわ。』
“でも、確かに少女ちゃんはアリスと似ているけど、違う所も多いよ。それにバックアップにしてはアリスの記憶を全て持っているようには見えなかった。”
『それはアリス本人が未だ存在しているから完全に記憶を引き継ぐことが出来なかったからでしょうね。でもある程度の記憶を記録としてインストールしたことによって、アリスとはまた違った人格を形成したということよ。』
リオの説明に先生は一先ず納得した様子であったが、最後に一つどうしても聞きたいことがあるらしくリオに訊ねた。
“なら、そんな少女ちゃんにしかできないリオの頼み事って一体?”
『…………さっきも言ったように少女ちゃんの役割はバックアップ、つまり非常事態に対する備えとしての機能がいくつか搭載されているわ。…………その機能には、アリスの記憶の引継ぎの他に直ぐに行動を起こせるようにアリス以上の学習能力と適応能力、そして………受け取ったデータが破損していた場合の復元能力が備わっていると私は考えている。』
“データの復元………っ!?リオまさか!?”
『ええ可能なはず…………私の希望が正しければ、あの二人ならきっと……。』
アリスの深層意識内で少女はアリスに今から行うことの説明を済ませていた。
「アリスお姉ちゃん、これで説明は全部です。分かりましたか。」
「はい!バッチリです!でも少女ちゃんがアリスのバックアップだったなんて………」
少女の正体にアリスが若干落ち込み掛けるが、少女は明るく話しかける。
「私は嬉しいです。アリスお姉ちゃんのバックアップに成れたこと。」
「そ、そうなんですか?」
「はい。私がアリスお姉ちゃんのバックアップだったから今こうしてアリスお姉ちゃんの力になる事が出来ます。だから少なくとも今は、私はアリスお姉ちゃんのバックアップで妹です。」
「はい!それならアリスももう迷いません!アリスは少女ちゃんのお姉ちゃんです。」
二人の少女が互いに頷きあうと、少し距離を置いて向き合った。
「それじゃあ始めましょう。準備は万全ですか。」
「勿論!アリス何時でもいけます!」
その言葉を合図に少女はアリスの方向に掌をかざし、宣言する。
「起動開始。現時刻によるプロトコルATRAHASISの実行のため、システムの鍵であるAI名_Keyの修復の実行を名もなき神々の王女、AL-2Bが提案します。」
アリスも少女と同じように少女の居る方向に掌をかざし、少女に合わせて言葉を紡ぐ。
「名もなき神々の王女、AL-1Sが承認します!新たな聖域確保のため、AL-1Sの全データの所有権をAL-2B へと移行します!」
すると、アリスの手から光の粒子群が放たれ、少女の中に入っていく。
「AL-1Sからの承認及びデータの移行開始を確認。………これよりAL-1S内に残留しているKeyのデータ及び当機に搭載されているAI名_Keyのメンテナンスデータを使用し復元作業を開始します。」
少女の声に合わせて、少女の胸の内から光が溢れていく。
そして、少女はこの空間の中心にある台座の上に置かれている小さな“ロボットのキーホルダー”に向けてアリスと同じように光の粒子群を放った。
光の粒子を受けたロボットのキーホルダーはうっすらと白い光を放ちだし徐々にその光量を大きくしていく。
これは、本来なら起こるはずの無かった。ほんの小さな奇跡………
もし、少女が目を覚まさなければ…………
もし、アリスが勇者でなかったら…………
もし、少女がアリスのバックアップでなかったら…………
もし、二人のどちらかが歩んでいた道の途中で諦めていたら…………
…………この二人が出会わなければ…………
何か一つでもかけて入れば、決して起こるはずの無かった小さな奇跡。
その奇跡には、ゲームの勇者のように魔王を倒して世界を平和にする力も、世界中の困っている人を助けられるような力もない本当にちっぽけな奇跡。
しかし、間違いなく【名無しの少女】と【見習い勇者】は起こしたのだ。
たった一人の“大事な仲間”を救うための奇跡を…………
ロボットのキーホルダーから発せられた光がこの空間一杯に広がった頃、
……少女とアリスは光の中心に手を伸ばす。
そしてそこにいる“誰か”の手を片方ずつ優しく掴むと、ゆっくりとその子を光の中より連れ出した。
その子の見た目はアリスと少女ちゃんと瓜二つであり、アリスと同じようにミレニアムサイエンススクールの制服を着て、瞳をとじてその場に立っている。
部屋に溢れていた光はいつの間にか霧散し、来た時同様に暖かな光だけが空間内を照らすようになった頃、
少女とアリスが両手を握っている子の瞳がゆっくりと開かれた。
「……ん?ここは…私は一体?」
瞳の色が赤いアリスと少女ちゃんそっくりな子が困惑したように声を漏らす。
少女とアリスは互いにその子に向かって満面の笑みを浮かべながら声を掛ける。
久しぶりに帰ってきた仲間との再会を喜ぶように……
やっと会うことが出来た仲間との出会いを喜ぶように……
「お帰りなさい!!」
「初めまして!!」
『ケイ!!』(ガバッ!)
「……えっ?王女が二人…これは一体何の状況でしょう?ってうわ!?」(ギュッ!)
奇跡を起こした二人の少女は、出会えた仲間に抱きついて嬉しそうに笑い合った。