「……リオ。一体どこに行くんですか?」
少女があの時の依頼主であるリオと出会えて少したった後、少女はリオに連れられてミレニアムの地下道を歩いていた。
少女はダクトや何かのパイプがそこかしこに張り巡らされている廊下を見回しながら、以前自分が眠っていた廃墟の地下とあの時独りぼっちでいた事を思い出し、少し心細そうに目の前を歩くリオに問いかけた。
「もう少し先よ。…このまま真っ直ぐ行った所に以前から私が使っている研究施設があるの。目的地はそこよ。」
少女の様子に気付いたのか分からないが、リオは彼女にしては優しい声色で少女にそう返してきた。
そしてもう一人、少女とリオ以外の明るい声が少女の横から聞こえてくる。
「おお!それはつまり秘密基地ですね!格好いいです!ここも隠しダンジョンみたいで、アリスなんだかワクワクしてきました!」
「そうかしら……。まあ、楽しんでくれているのなら良かったわ。」
「おお。アリス姉さんのやる気ゲージが上がってます。私も負けてられません。私もステージ攻略に向けて全力を尽くします。」
アリスの元気に当てられたのか少女もいつもの調子を取り戻して、両手を挙げながら飛び跳ねている。さながらやる気十分と言った具合だ。
アリスも少女に負けないくらい元気そうにはしゃいでおり、そんな二人をリオは何が楽しいのか理解できず、不思議そうに眺めていた。
そんな薄暗い地下道を進んでいるとは思えないくらい明るい雰囲気で三人が歩いていると、廊下の奥に扉が見えてきた。
どうやらその奥にある部屋が目的地のようで、リオが扉の横にあるパネルを慣れた手つきで操作すると、スーッと静かな音を立てながら扉が開き中の様子があらわになった。
「さあ、この部屋よ。遠慮せず入ってちょうだい。」
「おお!!」
「おお。」
その部屋は地下に作られているにしては広く、サーバのような機材からなんの用途に使うのか不明な機械類がそこかしこに鎮座されており、壁には巨大なディスプレイが数台設置されている。
しかしアリスと少女が最も目を引いたのは、彼女達の足元までやってきたイヌのようなロボットであった。
二人は目を輝かせながら足元のロボットを撫でたり、抱き上げたりと夢中になって接し始めてしまった。
「あ……ちょっと、二人とも……。」
余りにイヌ型ロボットに夢中な二人にリオがどう声をかけていいか困っていると、そんな様子な見かねたのかアリスのヘイローの色が切り替わった。
「…アリス姉さん、少女姉さん。ひとまず戯れるのはその辺にしましょう。……会長が困っていますよ。」
「はっ。そうでしたクエスト目標をすっかり忘れるところでした。……すいません、リオ。」
ケイからの言葉にハッと我に返った少女は、撫でる手を止めると名残惜しそうにハグをした後、リオへと向き直った。
「気にするような事じゃ無いから、構わないわ。…ありがとうケイ。」
「いえ、それこそ気にしなくていいのですが……。それより、そろそろここに私達を連れてきた理由を教えてくれませんか。」
「ああそう言えば、まだ詳しい情報を聞いていませんでしたね。……確か、渡したい物があると言ってましたけど。」
ケイの言葉に少女が補足するように疑問を浮かべた。
そう、少女とアリスは生徒会室でリオとあった後、渡したい物があるから付いてきて欲しいと言われ、この場所までやって来ており、未だ説明らしい説明を受けていなかった。
リオは少女が言った言葉を肯定するように、一度頷きながら話し始めた。
「ええ、その通りあなた達に受け取って欲しいものがあってここに来て貰ったのよ。……本当ならもっと早く準備してあげたかったんだけど、復帰するために色々しなくちゃいけないことが多くて、時間が掛かってしまったわ。ごめんなさい。」
「……いきなり謝られても困るんですけど。結局渡したい物ってなんなんですか?余り変な物をアリス姉さんや少女姉さんに渡さないで欲しいんですけど。」
「それなら心配は要らないわ。……なにしろ受け取るのは、ケイ、貴方なんだから。」
「……?私に、ですか?」
てっきりアリスか少女に対するものかと思っていたケイは、リオのセリフに困惑した様子で首をかしげる。
隣にいる少女もいまいちリオが何を言いたいのか分からず、ケイと同じように首をかしげている。
そんな二人を見ながら、リオは口元を緩ませながらいつもより若干自信の籠もった声で続けた。
「そうね、もったいぶるつもりも無いから教えましょうか。…今回、貴方達に渡したいものは……ケイ、貴方の身体よ。」
「はい……??」
「……はい?」
『……はい?』
突然、リオから言われた内容が理解できず、ケイと少女、後奥に引っ込んでいるアリスが固まっているなか、リオの話しは続いている。
「いつまでもアリスと同じ身体に居ると言うのも不便でしょ。いくら記憶が共有しているといっても、お互いの会話に支障もあるし、何より同じ身体に二人分の感情が入っているのは、何かとリスクが高いわ。ちゃんと感情を処理するためにも肉体は必要不可欠よ。…だから貴方が動くための肉体を準備したわ。」
そんなリオの説明に一番早く反応したのは、ケイではなくアリスであった。
アリスは、表に出るとリオの元に駆け寄ると嬉しそうに声をあげた。
「リオ先輩っ!今のセリフ本当ですか!?本当にケイの身体を作ってくれたんですか!」
「アリス…。ええ、本当よ。準備は全て済ましてあるわ。」
「!!だったらアリスも…ケイと触れ合う事が出来るんですか!少女ちゃんと三人で冒険に出掛けられるんですか!!」
アリスは興奮冷めやらぬと言う具合で、捲し立てるようにリオに話しかける。
しかし、これは無理もないことだ。
確かにアリスはケイと話すことは出来て居たし、アリスの身体の中に居たので、ずっと一緒にいたと言えるだろう。
……しかし、それでも不満に思うことは多かった。
せっかくケイと再開でき、今度こそ本当に仲間に姉妹に慣れたはずであったのにアリスと身体を共有している都合上どうしても片方が表に出ている間は、もう片方ば奥に引っ込んでいなければならない。
その為、ケイと一緒に大好きなゲームをプレイすることは出来ない上に、ケイはアリスの日常を邪魔しないように極力出てこようとせず、話せる機会も少なかった。
もう一人の姉妹である少女はミレニアムには居ないため、会いたいと思ってもすぐに会う事は難しい。
そのことにアリスは少なからず不満に思えてしまっていた。
その上、アリスの仲間であるモモイとミドリ、二人の姉妹の存在もアリスを不満にさせる原因であった。
時にケンカしても常に二人仲良く一緒にいる二人の姿にアリスは、気付かぬうちに心の奥で羨ましいと感じてしまっていた。
……こんな思い大切な仲間に感じたくないというのに。
そんなアリスにとって、ケイと直接触れあうことが出来るという事実は、どんなレアドロップよりも豪華な報酬であり、三人で一緒にゲームが出来ることは、どんなエンディングよりもずっと待ち望んでいた光景であるのだ。
そんなアリスの気持ちが伝わったのか、少女も嬉しそうに笑顔を浮かべながらアリスの元に駆け寄るとアリスの手を取りなから話しかける。
「良かったですね。アリス姉さん。私もとっっても嬉しいです。」
「はい!!アリス、最高の気分です!今ならどんなボスモンスターが来ても負ける気がありません!リオ先輩、本当にありがとうございます!」
「私もアリス姉さんと同じ気持ちです。ありがとうございます、リオ。」
アリスと少女の嬉しそうな感謝を受けて、リオも思わず笑顔になってしまう。
そんな三人をアリスの中から見ているケイも隠し切れないように口元が緩んでしまっている。
「……ところで、ケイの身体ってリオが作ってくれたんですか。」
「…ええ、実にアバンギャルドな仕上がりよ。」
『…………え。』