もう一人の勇者   作:Katarina T

84 / 134
少女、新たなる門出

新しくケイの体を手に入れた少女たちは、三人でゲーム開発部の部室へ向かうためミレニアムの廊下を進んでいた。

その道中、アリスは三人で一緒にいられることが嬉しいのか、笑顔でケイと少女の腕を片方ずつ両脇に抱えて一切離れる様子がない。

少女はそんな嬉しそうなアリスの様子に自分まで嬉しくなったのか、アリスに向かってより体重をかけるように抱き着きにいく。

ケイも自分から抱き着きに行くなどといった行動こそしないものの、やはり自分の体を手に入れたことが嬉しいのか、はたまたアリスと少女が喜んでくれていることが嬉しいのか、三人で半ば惜しくらまんじゅうのようにくっついて歩きずらそうにもかかわらずケイは、まんざらでもない様子で口元を緩ませている。

そのように三人でじゃれあいながら部室にたどり着くと中から騒がしい声が聞こえてきた。

少女はその声に反応し、部屋の様子が気になったのかくっついていたアリスから離れ、扉の方に近寄る中の様子を確認しようと扉を開けたその時、扉越しに聞こえてきたものより一段大きな声が少女の耳に飛び込んできた。

「だあああ~~~~っ!!またゲームオーバー!!しかもまたこのプレイヤーだし!!めっちゃ煽ってくるしこいつっ!~~~~っこんちくしょおお!!!」

「モ、モモイちゃん、落ち着いて。そんなに暴れちゃ危ないよ――って、あっコントローラーが!あ、危ない!?」

少女が扉を開けたとき目にしたのは、PCの画面を前に興奮した様子で騒ぎたてるモモイとそれを必死になだめようと声をかけるユメ。

そして―――――暴れた際に思わず手放してしまったのか、眼前に迫ってくる黄緑色のコントローラーだった。

「───っ!?」

突然自分めがけて飛んできたコントローラーに少女は驚くが、日頃からサオリ主導の軍事式戦闘訓練をこなしているおかげか、ユメの声が聞こえるのとほぼ同時に自身の身体能力をフルに使い、素早い身のこなしで身を屈め、飛んできたコントローラーを見事に回避した。

 

見事な身のこなしで突然襲い掛かってきた危機を乗り越えた少女であったが、ここである一人の人物に不幸が重なってしまった。

 

一つは、少女と全く同じと言っていいほど体格が似ていたせいで、少女に隠れて部屋内の様子が分からなかったこと。二つ目はその人物が体を手に入れたばかりなことや未だアリスが片腕を抱きしめていることで少女のように咄嗟に動くことができなかったこと。そして何よりの不幸は、その人物が少女のちょうど真後ろに居たということだ。

 

屈んだ少女の上を真っ直ぐ通り抜けた次の瞬間、ゴンッ!という鈍い音と共にぐはっ、といううめき声が聞こえてきた。

 

少女が慌てて振り向いた時には時すでに遅く、少女の目にはコントローラーが頭に直撃して、そのまま仰向けに倒れこんでいるケイの姿があった。

「──あっ!ケイ、大丈夫ですか!?」

 

いきなりの出来事でフリーズしていたアリスが、はっと我に帰ると倒れたケイに向かって心配そうに声をかける。

 

少女も覗き込むようにケイの様子を確認すると、コントローラーがぶつかったせいなのかおでこの辺りが若干赤くなっていた。

 

部室内のモモイとユメも少女たちがいることに気付いたようで、先ほどまで騒いでいたのが噓のように黙って少女たちの方を凝視している。

そんな中、倒れたケイはすっと立ち上がるとコントローラーを投げた状態で固まったモモイの方にスタスタと歩いていく。

モモイが頭だけ動かして、すぐ目の前までやってきたケイの表情を伺うとその顔にはにっこりとした笑みが張り付いていた。

 

一見すれば、安心感を与えてくれそうな優しげな微笑みであるが、見ているモモイにはまるで地獄の鬼か怒れる大魔王の姿を幻視してしまうほど、恐ろしいものに写っていた。

 

‥‥‥まるでどこぞの冷酷算術使いのように。

 

「(あ、‥‥これ、マズイやつだ‥‥。)」

 

モモイは冷や汗を流しながらなんとかこの状況を打破しようと頭を回転させるが、答えを見つける時間は残されていなかった。

 

 

「モ~~モ~~イ!!!!」

 

「ぎゃ~~~~~!!!」

 

 

 

そうしてケイの初顔合わせは、特大の雷が落ちる結果になった。

その後、ゲーム開発部の部室では、モモイ、ミドリ、サオリ、シロコの四人が並んで正座させられケイによる説教を受けていた。

 

「‥‥ねえ、ケイちゃん。お姉ちゃんはともかく、なんで私たちまで正座させられてるの?」

 

買い出しから帰ってきて否応なしにいきなり正座させられ怒られている状況にミドリがおずおずと尋ねる。

 

「そんなのあなた達が姉さん達に悪影響を与えているからに決まってるじゃないですか!」

 

ケイは目元をつり上げながらモモイとミドリを指差しながらまくし立てる。

 

「毎日毎日ポテチやらコーラやらジャンクフードばかりで野菜を全く取ろうとしてませんし!夜更かしに朝寝坊は日常茶飯事な上、酷い時には徹夜でゲーム三昧!!前々から思ってましたが、少しは自分たちの健康のことを気にして生活習慣を改めてください!!」

 

ケイの最もな言い分にモモイとミドリは反論できないのか「うぐっ‥‥」や「それはその~」と言いながら明後日の方に視線を向ける。

 

「‥‥でもそれは私たちは問題ない。ちゃんとバランス良く食べてるし、夜もしっかり寝てる。」

 

モモイ達が反論出来なくなったところで、その会話を横で同じく正座させられていたシロコが口を挟んできた。

 

シロコは、自分たちは別に不健康な生活を送っていないから自分とサオリは無実であると主張するが、ケイは先ほどのモモイ達同様の目つきで勢い良くシロコの方に視線を向ける。

 

「貴方たちはモモイ達とは別の意味で悪影響を与えてますよね!少女姉さんから聞きましたよ!日頃から傭兵術やゲリラ戦術を教え込んだりしてるそうじゃないですか!おまけに先日の駄菓子屋の要塞化といい~~。いえ、まだそこまではいいです。ですがなんで銀行強盗の計画案ややり方のレクチャーをしてるんですか!?貴方たち人の姉を犯罪者かテロリストにでもしたいんですか!!?」

 

ケイの発言に心当たりがあったのか、サオリは半目でシロコの方を向き、シロコは二人の視線から逃げるように明後日の方を顔を向けた。

 

そんな5人を楽し気に眺めている少女にユメが近寄って話しかけてきた。

 

「ふふっ♪ケイちゃんもみんなと仲良くできそうでだね!」

 

「はい。皆とっても楽しそうで私も嬉しいです。これからもっと楽しいことが起きそうな気がします。」

 

「そうだね~~。せっかく仲良くなったんだし、みんなでどこか遊びに行くのもいいよね!ちょっと変わったところ……そうっ!この前行った海辺の洞窟みたいな普段見られないような素敵な景色でも見に行きたいね!」

 

「いいですね。絶対行きましょう。」

 

 

 

そんな会話を少女がしていると、ピロリンっという音が部屋に鳴り響いた。

 

「!あっ、これアリスのじゃない?」

 

ケイの説教がドンドンヒートアップしていることに危機感を感じていたモモイが、これ幸いっといった様子でアリスに問いかける。

 

アリスはモモイの言葉に同意するように頷くと持っていたスマホを操作し始めた。

 

「この番号は……?先生からです!!」

 

先生からの通信にアリス含め、ゲーム開発部の面々が嬉しそうな反応を見せるなか、アリスは嬉々として通話をつなげた。

 

「もしもし、先生!」

 

“こんにちは、アリス。”

 

久しぶりの先生との会話というのもあり楽しそう気なアリスとは異なり、先生の声色にはどこか緊張感があった。

 

「……。」

 

「?ケイ。どうかしましたか。」

 

「……いえ、何でもありません。気にしないでください少女姉さん。……一先ず話を聞いてみてからですね。

 

少女がケイの様子がおかしくなったことに首をかしげていると、先生が部屋にいる全員に話があると切り出してきた。

 

“みんな、よく聞いてほしいんだ。”

 

 

…………そこから先生が今まで起きたこと、そして今起きていることについて説明が始まった。

 

 

キヴォトスにおいて、神の存在証明を行うため、神を研究し、その構造を分析、再現することで新たなる神を作り出すことを目標に、長い年月をかけて稼働を続け、遂に自身が新たな神になろうとしている超高性能人工知能。

 

 

…………『デカグラマトン』についてを

 

 

 

 

 

「氷?」「河!」「探?」「索!」

 

数分後、一通り先生からの説明が終わった時のゲーム開発部の反応は、見事にバラバラだった。

モモイとアリスは氷河地帯に行くことに目を輝かせており、ミドリとユズは何か危なそうなことが起きていることに怖がっている。

というかモモイは、氷河地帯にいけることのみに気が取られてデカグラマトンのことを余りきいていない様子である。

 

「………取り敢えず、先生の話を整理すると、今、先生たちは突然現れた謎の存在、…………確か『デカグラマトン』だったか。それを調査するために氷河に行ったがそこでアクシデントが起こり、調査の続行が不可能になった。そしてそのアクシデントの解決のためにアリスとケイ、そして少女ちゃんの協力が必要になったと。」

 

頭の上に?マークを出している仲間たちを見かねて、サオリが簡単に状況整理と話の進行役を請け負う。

 

先生はそれに同意見しつつ、この調査はゲームではなく現実で起きていることであり、未知の部分が多く、危険なことであると告げる。

 

“だから、よく考えて決めてほしい。”

 

先生は最後にそういうと、アリス達の返答を待った。

 

できる事なら生徒を危険目に遭わせたくない先生は、本当は断って欲しかった。

確かに、今の状況を変えるには、三人の協力がいることは分かっているが、だからといって仕方ないで済ませたくない気持ちが先生にはある。

 

だから三人が断るなら、先生は何も言わず、すぐに他の手を考えるつもりであった。

 

 

 

…………しかし、アリスと少女、二人の中で既に答えは決まっている。

 

大切な仲間が、恩人が、戦友が助けを求めるなら、自分たちの力が必要だというのなら。

 

アリスと少女はお互いに顔を見合わせ頷くと、ケイが仕方ないといった様子で二人に話しかける。

 

「姉さん達の思うようにして下さい。……私もそれに異論ありません。」

 

「「先生!!私達に任せてください!!」」




鋼鉄大陸に少女含めた『万事屋フェリクス』がダイナミックエントリー!
この先、どうなってしまうのか!?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。