もう一人の勇者   作:Katarina T

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少女、新たなフィールドへ

「……わぁ!」

 

氷河地帯に到着した瞬間、少女は思わず声を漏らした。

 

目の前に広がっていたのは、どこまでも続く真っ白な世界。

 

地面を覆い尽くす雪。

遠くにそびえ立つ、巨大な氷山。

そして、澄み渡った空の下でキラキラと輝く氷の大地。

 

これまで砂漠や廃墟、地下施設など、様々な場所を冒険してきた少女だったが、こんな景色を見るのは初めてだった。

 

「す、すごいです……!」

 

少女は目を輝かせながら、辺りを見回す。

 

「見てください! あそこも真っ白です! それに、あんなに大きな氷の山まであります!」

 

「ふふっ。少女ちゃん、そんなに驚かなくても、ここは逃げたりしないよ?」

 

隣にいたユメが、楽しそうに笑いながら声をかける。

 

「でもユメ! こんな景色、初めて見ました! まるで別の世界に来たみたいです!」

 

「確かに、ここまで一面真っ白だと不思議な感じがするねぇ」

 

ユメもまた、少女につられるように周囲を見渡す。

 

その時だった。

 

「おっ! そんなに雪が珍しいの?」

 

後ろから聞こえてきたのは、モモイの声だった。

 

「はい! 私、雪を見るのは初めてです!」

 

「へぇ~! そっかそっか! じゃあ、せっかくだし、もっと雪を楽しませてあげないとね!」

 

「えっ?」

 

モモイはニヤリと笑うと、足元の雪を両手ですくい始めた。

 

そして、それをぎゅっぎゅっと丸めていく。

 

「こうやって雪を固めると……」

 

「おおっ! 何を作っているんですか?」

 

「ふっふっふ……完成!」

 

モモイの手の中にあったのは、手のひらほどの大きさの雪玉だった。

 

「これを……こうだーっ!」

 

ぽいっ!

 

「わぷっ!?」

 

雪玉が少女の頬に命中した。

 

白い雪がぱらぱらと散り、少女の頬や髪にくっつく。

 

「…………」

 

突然の出来事に、少女は目をぱちぱちと瞬かせた。

 

「えへへ! どう? これが雪合戦だよ!」

 

「……!」

 

少女は自分の頬に付いた雪を指でつまみ、しげしげと眺める。

 

それから、モモイの方へ顔を向けた。

 

「……モモイ」

 

「ん? どうしたの?」

 

「今のは……攻撃ですか?」

 

「そう! 雪玉を投げ合う遊びなんだよ!」

 

「なるほど……!」

 

少女の表情がぱあっと明るくなる。

 

「つまり、雪を使ったバトルゲームということですね!」

 

「そうそう! 理解が早いね!」

 

「面白そうです! 私もやってみたいです!」

 

「よーし! それじゃあ、雪合戦開始だー!」

 

モモイが楽しそうに声を上げた。

 

「ちょ、ちょっとお姉ちゃん! いきなり投げるなんて危ないよ!」

 

ミドリが慌てて止めようとするが、当のモモイはすでに次の雪玉を作っている。

 

「大丈夫だって! 雪なんだから!」

 

「そういう問題じゃないと思うんだけど……」

 

「……あの、私も参加していいのかな?」

 

少し離れたところで様子を見ていたユズが、おずおずと手を挙げる。

 

「もちろんです、ユズ! みんなで遊びましょう!」

 

少女が満面の笑みで答えた。

 

「えへへ……じゃあ、私も少しだけ……」

 

ユズは控えめに雪を集め始める。

 

一方、少女は足元の雪を両手で掬い上げていた。

 

「ふむふむ……こうやって丸めるんですね」

 

ぎゅっ、ぎゅっ。

 

「できました!」

 

少女の手の中には、少し不格好ながらも立派な雪玉が完成していた。

 

「よーし! それじゃあ、まずはモモイにお返しです!」

 

「えっ!? ちょっ、待っ――」

 

ぽすっ!

 

「うわっ!?」

 

少女の投げた雪玉が、モモイの胸元に命中する。

 

「やった! 命中しました!」

 

「くっ……! やるじゃん、少女ちゃん!」

 

「ふふふ……これが雪合戦の醍醐味ですね!」

 

「よーし! こうなったら本気でいくよー!」

 

「お姉ちゃん! だから少しは加減してってば!」

 

ミドリの制止もむなしく、モモイは次々と雪玉を作り始めた。

 

少女も負けじと雪玉を作り、二人の間で雪玉が飛び交う。

 

「えいっ!」

 

「甘いよー!」

 

「むむっ! ならば、こちらです!」

 

「わっ!? ちょっと、少女ちゃん! そっちから来るの!?」

 

そんな二人を見て、ミドリもつい笑みをこぼした。

 

「もう……二人とも、楽しそうなんだから」

 

そう言いながらも、ミドリの手にはいつの間にか雪玉が握られていた。

 

「……あれ? ミドリも参加するの?」

 

モモイが尋ねる。

 

「えっ!? そ、それは……!」

 

「ふふふ。ミドリもやりたいんですね!」

 

少女がにこにこと笑いながら、ミドリの方を向く。

 

「うっ……。そ、そういうわけじゃないけど……」

 

「じゃあ、ミドリも一緒に遊びましょう!」

 

「……もう。分かったよ」

 

ミドリは小さく笑って、雪玉を投げた。

 

ぽすっ。

 

「きゃっ!」

 

少女の肩に雪玉が当たる。

 

「やった! ミドリの攻撃が命中!」

 

「えへへ……ごめんね、少女ちゃん。」

 

「ふふふ……これは反撃しなければなりませんね!」

 

少女は楽しそうに雪玉を構えた。

 

その様子を少し離れた場所から眺めていたユズも、いつの間にか雪玉を二つほど作っていた。

 

「……あの、私も投げていい?」

 

「もちろんです!」

 

「じゃ、じゃあ……えいっ」

 

ぽすっ。

 

ユズの投げた雪玉は、少女の足元に落ちた。

 

「あっ……外れちゃった」

 

「惜しいです! でも、ユズの攻撃もなかなかのものでした!」

 

「そ、そうかな……?」

 

「うん! 次は当ててみせるからね!」

 

いつの間にか、ユズも少しだけ積極的になっていた。

 

そして、そんな光景を見ていたアリスも、興味津々といった様子で近づいてくる。

 

「雪玉を投げ合う遊び……。なるほど、これは新しいミニゲームですね!」

 

「アリス! 一緒にやりましょう!」

 

「はい! アリスも参加します!」

 

「……アリス姉さんまで参加するんですか。」

 

ケイが呆れたように呟く。

 

「ケイも一緒にやりましょう!」

 

「私は遠慮しておきます。」

 

「えーっ!」

 

「えーっ、ではありません。そもそも私たちは遊びに来たわけではないのですよ?」

 

ケイはそう言いながら、少女たちの方へ視線を向けた。

 

少女はモモイやミドリ、ユズ、そしてアリスと一緒になって雪合戦を楽しんでいる。

 

その表情は、普段以上に生き生きとしていた。

 

「……まったく。」

 

小さくため息をつきながらも、ケイの口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。

 

「まあ、少しくらいなら……」

 

「ケイ! 危ないですよ!」

 

「えっ?」

 

ぽすっ!

 

モモイの投げた雪玉が、ケイの顔に見事命中した。

 

「…………」

 

「……あ」

 

モモイが固まる。

 

「……モ~モ~イ?」

 

「え、えっと……これは、その……、アハハ!油断大敵だよケイ!戦場とは情け容赦ない場所なんだから!」

 

モモイが開き直ったように胸を張っている中、ケイはゆっくりと少女の方を向く。

 

「……どうやら、私も参加しなければならないようですね」

 

そう言って、ケイは足元の雪を拾い始めた。

 

「えっ!? ケイもやるんですか!?」

 

「ええ。今のは宣戦布告と受け取りましたので」

 

「おおっ! ケイが本気になりました!頑張ってくださいね!」

 

「大丈夫ですよ姉さんたちの前で見っともない所は見せられないので。……さて、覚悟はいいですね。モモイ。」

 

「え!?ちょ、ちょっとタイム!」

 

その後、雪原にはしばらく楽しそうな声が響き続けた。

 

 

 

 

「……まったく。何をしに来たのか分からなくなってきたな。」

 

少し離れた場所で、サオリが呆れたように呟いた。

 

「……楽しそう。」

 

隣に立つシロコが、雪合戦に興じる少女たちを見つめる。

 

「お前も参加したいのか?」

 

「別に。……ただ、ああいう光景は嫌いじゃない。」

 

シロコの視線の先では、少女がモモイに雪玉を投げ返していた。

 

その隣ではユメが笑いながら応援しており、アリスやミドリやユズ、それにケイも楽しそうに声を上げている。

 

「……ふむ」

 

サオリは少し考えた後、足元の雪を拾い上げた。

 

「サオリ?」

 

「いや。こういう遊びにも、多少は付き合っておくべきかと思ってな。」

 

サオリは手の中の雪を丸めていく。

 

その様子を見たシロコテラーが、少しだけ目を見開いた。

 

「……珍しい。」

 

「何がだ?」

 

「あなたが遊びに参加しようとすること。」

 

「そうだろうか。……まあ、たまにはいいだろう。」

 

サオリはそう言って、雪玉を一つ完成させた。

 

そして。

 

「……少女ちゃん。」

 

「はい?」

 

少女が振り返った瞬間、サオリの手から雪玉が放たれる。

 

ぽすっ。

 

「わっ!?」

 

少女の背中に雪玉が命中した。

 

「サオリ!?」

 

「油断していたな。」

 

「むむむ……! サオリも敵陣営だったんですね!」

 

「敵陣営というわけではないが……」

 

「ならば、こちらも反撃です!」

 

少女はすぐさま雪玉を作り始める。

 

「ふっ……来るといい。」

 

その様子を見ていたシロコテラーは、ほんの少しだけ口元を緩めた。

 

そして、何も言わずに雪玉を一つ作る。

 

「……ん、私も参加する。」

 

「シロコまで!?」

 

「……雪合戦。悪くない。」

 

こうして、当初の予定にはなかった雪合戦は、いつの間にか全員を巻き込んだ大騒ぎへと発展していった。

 

「はぁ……はぁ……! た、楽しかったです!」

 

しばらくして、雪合戦はひとまず終了した。

 

少女は頬を赤くしながら、満足そうに息を吐く。

 

髪や服には雪が付いており、頬にもまだ少し雪が残っている。

 

「ふふっ。少女ちゃん、顔に雪が付いてるよ。」

 

ユメが近づき、少女の頬に付いた雪を優しく払ってあげる。

 

「ありがとうございます、ユメ!」

 

「どういたしまして」

 

「いやー! それにしても楽しかったね!」

 

モモイは満足げに笑いながら、両手を腰に当てた。

 

「少女ちゃん、初めての雪はどうだった?」

 

「最高でした! 雪ってこんなに楽しいものだったんですね!」

 

「でしょでしょ! これなら、また来たくなっちゃうよね!」

 

「はい! 次はもっと大きな雪玉を作ってみたいです!」

 

「おおっ! いいね! じゃあ、次は雪だるまも作ろうよ!」

 

「雪だるま……?」

 

少女が首を傾げる。

 

「雪を丸めて、大きな玉を二つ重ねるんだよ。目や鼻を付ければ完成!」

 

「なるほど! それはぜひ作ってみたいです!」

 

「ふふっ。じゃあ、帰る前にみんなで作ろうね。」

 

ミドリも笑顔で頷く。

 

「私も手伝うよ。せっかくだし、可愛い雪だるまにしたいね。」

 

「えへへ……私も、作ってみたい」

 

ユズも小さく手を挙げる。

 

「はい! みんなで作りましょう!」

 

少女は嬉しそうに返事をした。

 

その時だった。

 

「……そろそろいいでしょうか。」

 

ケイが一歩前に出る。

 

「楽しい時間を過ごせたのは何よりですが、私たちは調査に来ていることを忘れないでください。」

 

「あっ……そうでした!」

 

少女は慌てて背筋を伸ばす。

 

「ごめんなさい、ケイ! つい楽しくなってしまいました!」

 

「分かっています。……まあ、初めて見る雪に興奮する気持ちも理解できますから。……私も楽しかったので。」

 

ケイは少しだけ表情を和らげた。

 

「ですが、ここからは気を引き締めてください。先生も私たちを待っていますから。」

 

「はい!」

 

「うん。そろそろ行こうか。」

 

ユメが頷く。

 

「……周囲の警戒は続ける。ここは敵地である可能性もある。」

 

シロコがそう告げると、サオリも静かに頷いた。

 

「その通りだ。遊びはここまでにしておこう。」

 

「はーい!」

 

モモイが返事をする。

 

「えー、もうちょっと遊びたかったのにー」

 

「お姉ちゃん、調査が終わってからでも遊べるよ。」

 

「そうだけどさー!」

 

「……その前に、ちゃんと仕事をしないと。」

 

ユズが小さく呟く。

 

「うっ……ユズに言われると何も言い返せない……」

 

「ふふっ」

 

ミドリが笑う。

 

そんなやり取りを交わしながら、私たちは再び歩き始めた。

 

しばらく進むと、雪原の向こうに人工的な建造物が見えてきた。

 

氷に半ば埋もれた巨大なテント施設。

 

その周囲にはいくつもの機械設備が設置されており、どうやら先生たちはあの施設を拠点に調査を行っているらしい。

 

「おおっ! あれが先生たちの拠点ですか!」

 

少女は再び目を輝かせる。

 

「大きな建物ですね! まるで雪原に隠された秘密基地みたいです!」

 

「確かに、そんな感じがするね」

 

ミドリが答える。

 

「でも、あれだけ大きい施設なら、ゲームのダンジョンみたいに色々な部屋がありそう!」

 

「お姉ちゃん、今は遊びじゃないからね?」

 

「分かってるってば!」

 

「……あれ?」

 

その時、シロコが足を止めた。

 

「どうした?」

 

サオリが尋ねる。

 

「……何かいる」

 

その言葉に、全員の表情が変わる。

 

シロコは施設の周囲に視線を向けていた。

 

「見られてる気配がする。……それも、こちらを監視しているような動き。」

 

「監視、ですか?」

 

ケイが端末を取り出す。

 

「こちらでも確認します。」

 

少女も自分の端末を操作する。

 

すると。

 

――ピッ。

 

小さな電子音が鳴った。

 

「あれ?」

 

画面には、見慣れない信号が表示されていた。

 

「何でしょう、これ……。どこかから何か信号が届いています。」

 

「通信?」

 

「はい。でも、一般的な通信規格とは少し違うみたいです。」

 

ケイが少女の端末を覗き込む。

 

「これは……。かなり特殊な信号ですね。解析には時間がかかりそうです。」

 

その時。

 

『――――』

 

端末からノイズが流れた。

 

そして、その奥からかすかな機械音声が聞こえてくる。

 

『……観測……対象……』

 

「っ!?」

 

全員が足を止めた。

 

『……接近……確認……』

 

「ひぃん。一体何が起きてるの?」

 

ユメが不安そうに周囲を見回す。

 

「全員、警戒態勢!」

 

サオリが即座に指示を出す。

 

シロコも銃を構え、ケイは少女とアリスを後方へ下がらせた。

 

「姉さん達、少しこちらに。」

 

「はい!」

 

「分かりました!」

 

だが、少女は端末から目を離さなかった。

 

『……預言者……への……報告……不(・)要(・)。』

 

「預言者……?」

 

ノイズの中で微かに聞き取れたその言葉に、少女の表情が少しだけ引き締まる。

 

『……来訪者を確認。観測を開始する。』

 

――プツン。

 

通信が途切れた。

 

しばらく、誰も口を開かなかった。

 

やがて、少女がゆっくりと顔を上げる。

 

「……どうやら、私たちのことは既に知られているみたいですね」

 

「ああ。こちらの動きを把握している存在がいると考えた方がいい」

 

サオリが銃を構え直す。

 

「先生に報告しよう。施設へ急ぐ」

 

「はい!」

 

少女は端末をしまい、再び前を向いた。

 

先ほどまでの無邪気な笑顔は、今は少しだけ影を潜めている。

 

しかし、その瞳に宿る好奇心まで消えたわけではなかった。

 

「どうやら今回のクエスト、思っていたよりも難易度が高そうです!」

 

「……それでも、進むんだよね?」

 

いつの間にか少女の隣に来ていたユメが尋ねる。

 

「もちろんです!」

 

少女は迷いなく答えた。

 

「だって、先生が困っているんですから!」

 

「……ふふっ。そうだね。」

 

ユメが優しく微笑む。

 

「みんなで先生を助けに行こう」

 

「はい!」

 

少女たちは氷河地帯の調査拠点へと再び足を進め始めた。

 

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