シャリー王記   作:剣風佐善

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いきなり試練

 

 大公宮殿

 約10年ぶりに大公宮殿に帰ったシャリーは思わずつぶやいた。

 「こんなに小さかったっけ?」

 門番に何やら告げていたバンセリオンは振り返ってシャリーを見た。

 「何かご不審な点でも?」

 「いや、久しぶりに帰ってきたけど、宮殿ってこんな大きさだったっけ?と思ってね。」

 「まぁ、それだけ成長なされたという事ですよ。あ、来られました。」

 「お待ちしておりました。殿下、どうぞこちらへ。」

 老年一歩手前といった宰相…大きな商家の次男として生まれ官僚の道を究めて宰相の地位にたどり着いた男がシャリーを案内する。

 「では、私はこれで、宰相殿、後は頼みます。」

 「あれ?帰っちゃうの?」

 「自分、本職は街道警備隊の副長なんです。一カ月近く離れてたんですぐ戻らないといけません。」

 「そうか、ありがとう。またどこかで会おう。」

 「はい、殿下もお元気で。」

 シャリーは宮殿に入っていった。

 「あれ?ねぇ、こっちって執務室じゃなかったけ?」

 「よく覚えてらっしゃいますな。その通りです。」

 「ちょっと待って、なんでいきなり執務室にご案内なの?」

 「申し訳ございません。しかし何しろ大公位が一カ月の空位でしたのでどうしても決済事項が溜まっており…。」

 「ねぇ、やっぱこのまま修道院に逃げちゃダメ?」

 「ダメです。大公家にお生まれになった殿下にはその義務があります。これでも官僚組織が頑張って減らしたんです。頑張っていきましょう」

 「う…うーん。」

 「では、どうぞ。こちらです。」

 宰相が執務室の扉を開け、ものすごく嫌な予感とともにシャリーは執務室に視線を移し、そこにおぞましい数の書類の山を見た。

 「きゃ!!」

 悲鳴をあげシャリーはくるりと振り返ると逃げ出そうとしたところを襟首に宰相をしっかりと掴まれていた。

 「いけませんぞ殿下。もう昔とは違うのです。殿下も私も大公国の歯車の一つにすぎません。さぁ頑張って行きましょう。」

 「勘弁してよぉぉぉぉ。」

 シャリーの嘆き節とともに扉は閉められた。

 

 大公宮殿執務室

 「殿下、まずはこちらからです。」

 宰相は書類の山を一つ机の上に置いた。

 「ナニコレ?」

 "死去、後継者不在"、"死去、後継者未成人"の記載が目立つ貴族の相続関係書類を確認したシャリーは思わずつぶやいた。

 「ご覧の通りです。何しろ大公誕生日祝賀の儀だけではなく、主だった貴族が都に集合というわけで貴族同士もお互いに訪問したりされたりであれよあれよという間に貴族社会に蔓延しました。」

 「私は以前罹患したことがあり、生き残りましたが、しかし、参りましたな。」

 「ねぇ?確認したいんだけど、宗教方面、それと外国公使はどうなってるの?」

 宰相は眉を顰めると告げた。

 「本当は後にしたかったのですが、お気づきになったのならお見せしなければなりません。こちらです。」

 さらに書類の山が置かれをシャリーは書類を確認してうへぇという顔をした、

 「こっちもひどいねぇ。」

 こちらも"司教死亡・後任者未定"、"大司教死亡・後任者未定"、"大使死亡・後任者未定"がならんでいる。

 「上流階級のきなみか。あ、太陽神大司教様も亡くなられてる。僕、この人から叙階を受けたんだ。些か遅いが僕の名前でお悔やみを送っておいてくれ。」

 「かしこまりました。」

 「それと即位式は当面延期、まず継承・土地の整理と宗教・外交官の着任待ち、」

 「かしこまりました。…あのつかぬ事伺いますが。殿下若い時に修道院に入られたのにここらへんよくご存じですね。」

 「太陽神神殿は晴耕雨読が信条でね、雨の日は修道院の書庫であらゆる本を読みまくったものさ。まさかこんな形で役に立つとは夢にも思わなかったけどね。まぁ知らない事の方が多い。これからも私を支えてくれ。」

 「さて、まず継承からいこう、継承法に基づいて継承権をはっきりさせて臣従式。未成人の場合は成人まで国が後見。」

 「系統が完全に途絶えた所は?」

 「どこも僕みたいなのいるだろから、そうそうは無いだろうけど。あった場合は大公国預かりで。」

 「かしこまりました。進めます。残りは主にお金関係の書類です。予算案で来ていますので殿下はこのまま、増やせ、減らせ。を決めてください。後は我々が何とかします。」

 「解った。修道院でお金について教育は受けてるけどそれはあくまで農業という限られた範囲だ。しっかりアシストしてくれ。」

 「お任せを、我々はそれでご飯を食べております。」

 「って、あれ?葬儀の予算案?父上もそうだけど、兄上も葬儀してないの?」

 「はい、何しろ参列すべき人々も亡くなられていますので、火葬までは住んでおりますが正式な葬儀どころではありません。」

 「臣従式、葬儀、即位式の順番で進めるか。」

 「それが適切かと思われます。」

 

 

 「殿下、臣従式に向けて準備を進めているのですが問題と貴族から要望が。」

 「なんだい?」

 「まず問題から、数がアホみたいに多いので、臣従式が終わりませんし、序列の問題で大変面倒な事態になります。」

 「そっか、そうなるよねぇ。困るなぁ。」

 「なのですが、貴族からの要望であんだけ疫病が流行った後にまた集まるのは些か問題がある。何かと入用だし大公印章付きの叙任書で構わない。との要望が多数来ております。」

 「え?それでいいんだ?じゃ、そうしちゃおうか。臣従式は希望者のみとしよう。」

 これが慣例となり臣従式は希望者のみとなり懐事情に自信の無い子孫達から大変感謝されることになるのだがそれはまだ先のお話。

 

 「さて、次は外交だ。」

 「各国より新規外交官が着任するという知らせは続々と来ております。各教団も新しい司教や大司教を送ってくるそうです。ただ…。」

 「ただ…?」

 「隣国のノルス公から応答がありません。ノルス公は御父上が即位するときにも継承権を主張してきたので、おそらく今回もそうでしょう。こう言っては失礼ですが殿下はその…還俗された方ですので。」

 「あー、大公位欲しいか。」

 「はい、あちらは内陸国ですので、港が欲しいというのもあるでしょう。」

 「やだなぁ。忙しいのに。」

 

 「やっぱり言ってきたか。」

 羊皮紙に印章付きの手紙を読みシャリー大公は宰相に手紙を渡した。

 宰相が読み終わるのを見てからつぶやく。

 「予想通りとはいえ、現実として突きつけられるとうれしくないな。」

 「自分は大公家の血を引いているのだから元出家より大公の地位に相応しい。まぁよくある話ですな。」

 「前々々大公の妹が祖母だから大公冠を寄越せ…か。受けると思ってるわけないだろな。」

 「喧嘩を売っている以外の何物でもないかと。」

 「戦争前提か。生き残っている貴族に親書を送れ。騎士たちも招集だ。戦争になるぞ。」

 「ノルス公への返事は。」

 「懇切丁寧にお断りの手紙を送って差し上げろ。」

 

 「殿下、貴族からの返書が来ましたが…。」

 「あーあ、僕を大公として認めるには侵略者を倒しその資格を見せよ。けっこうあるなぁ。1/3くらい?やっぱあれ?漁夫の利?」

 「半分は、残りの半分は共倒れしてもらってあわよくば独立を・・・。でしょうな。」

 「僕が負けたら?」

 「それはもちろんノルス公に忠誠を…ですよ。良い話もあります。大公国騎士達は殿下に就きます。あと、還俗して家を継いだのも大部分が殿下側。」

 「騎士たちは公国に忠誠を誓っているでわかるけど、還俗組は…同情票かな?」

 「勿論、それもありますでしょうが、還俗組は各修道院や神学校出です。殿下が何したいか判ってるしやりたいのでしょう。」

 「それはありがたいね。」

 「殿下、まず間違いなく戦になりますが、先立つもののお話があります。」

 「あ、お金の話かぁ。」

 「はい、大公国で新しく税金を取るには議会の承認が必要です。しかし議会は現在…。」

 「叙任が終わって間もないから議会どころじゃないか…。」

 「その通りです。一応貯えと貿易認可料が入ってくる季節ですので、多少の費用は賄えますが、長くは戦えません。」

 「どのくらい?」

 「一月がよいとこ、短期決戦が必要ですな。」

 「解った、とりあえずお金の話はこれで何とかなりそうだけど、もう一つ大問題があるんだ。僕は軍事が全く判らない。代理として指揮を執る指揮官が必要なんだ。」

 「それでしたら、面白いのがおります。武神修道院、神学校を主席で卒業して今は領内警備隊の隊長やってるのがおりましてな。バンセリオンの上司です。一度会ってみるとよいですな。」

 「え?それってすごくない?僕のいた修道院主席卒業した人、すごい頭よかったけど神学校主席は無理だったよ?」

 「各種賊退治で実績があります。おかげで領内の治安は落ち着いたものです。他国が攻められた際に援軍として部隊を率いて出陣し実績も上げています。」

 「うん、ありがとう。あってみよう。」

 

 「騎士シュータ・マンスペル、お召しにより参上しました。」

 「うん、よく来てくれた。君の事は資料を見させてもらった。さて、宰相から聞いていると思うが、この国は近くノルス公に攻められる。そこで君に何とかしてほしい、ただ、資料を見ても君の事は優秀だと思えるのだけど確認するすべがない。」

 「それでしたら、これでどうですか?」

 シュータは何やら箱を取り出した。

 「あ、それ、僕も修道院でよくやってた。面白いよね。」

 「このゲームは元々軍人の指揮訓練用に作られた物のです。これで試してみませんか?」

 

 「あー、また負けた。これでえっと。」

 「12連敗です。まだハンデ追加しますか?」

 「いや、止めとくよ。君が優秀なのはよく解った。君を司令官に推薦するのでその才覚を遺憾なく発揮してくれ。」

 「かしこまりました。」

 

 シャリーが慇懃無礼な断りの手紙を送ってから2週間後、ノルス公は簒奪者の討伐を名目として兵を起こし、国境を超えた。

 それを受けてシャリー大公はノルス公の軍勢が領土から退去するまでの"戦時"を宣言し、戦場になると予測されるカージェンヌ川より南の住民に避難を勧告した。

 

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 貴族

 貴族は自身も臣従をした臣下を持つ家臣とされる。

 大公といえど臣下の家臣への命令権は戦時以外持たない。

 

 シャリーとシュータのゲーム

 ポイントを使って駒を揃えてランダムに組み合わせた戦場ボードで戦うゲーム。

 中流以上には当たり前に遊ばれている。双方のポイントに差を付けたり駒を制限してハンデとする。

 

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