シャリー王記   作:剣風佐善

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貴公の首は柱に…

 大公宮殿会議室

 集まった諸侯を前にシャリーは告げた。

 「公国騎士、シュータ・マンスペル、貴公を司令官に推薦する。公国への侵略者を撃退せよ。諸侯諸君、なにか意見はあるかな?」

 多少の悶着は発生したものの、シュータの経歴…武神修道院と武神神学校をどちらも主席卒業、街道を荒らしていた山賊団を犠牲者無しに討伐etc…は貴族を驚愕させシュータは無事司令官に着任した。

 なお、もう40も近いのにまだ独り者だったシュータに貴族からの縁談が複数舞い込んだのは記載しておこう。

 「ノルス公とその軍勢は国境を越え、街道を通りこちらへ進軍しています。国境付近の一部貴族はこれに呼応、ノルス公に臣従を誓い、同軍しています。」

 「農民はもてるものをもって近隣の山岳か城壁のある場所に避難。時季が時季だけに早く何とかしないと収穫に影響が出ます。」

 「うん、それはよく知っている、金も無いし早く決着をつけたい。」

 「それはあちらも同じでしょう。殿下の継承が発表されたから大公位を要求したと思われます。そうでなかったら前大公殿下が亡くなられた時に継承権を要求したはずです。つまり、向こうも準備はそれほどできていません。」

 「つまりどちらも短期決戦志向が強いのか。」

 「その通りです。こちらの勝利条件はノルス公を退かせること、あちらの勝利条件は殿下の首です。」

 「いやな勝利条件だな。」

 「あちらは殿下を簒奪者と位置付けています。つまり殿下こそがあちらの目標です。そこで申し訳ありませんが殿下を使って相手を釣り上げます。」

 「え、ちょっと待って。僕個人はすごく弱いよ。剣の使い方も覚えてないし。」

 「殿下が直接戦う状況になったらもう負けですよ。殿下が出陣したと聞いたらノルス公は周りには目もくれず殿下に突っ込んでくる。そこを突きます。」

 「つまり待ち伏せて叩くのか。」

 「その通りです。とはいえこちらの準備とノルス公をイラつかえせ、殿下以外に気をそらさないよう嫌がらせして進行速度を遅らせる必要があります。街道警備隊の幹部を呼んでください。」

 

 「街道警備隊参りました。」

 幹部と言っても士官は隊長と副隊長の二人である。

 「街道警備隊は進撃するノルス公へのかく乱をお願いします。一撃離脱の奇襲に徹し直接の戦闘は可能な限り回避してください。」

 「普段我々が追いかけまわしている連中の真似事をするのは業腹ですが、承知しました。ひっかきまわしてきます。バンセリオン、すぐに準備にかかろう。」

 

 シュータの執務部屋

 「司令、義勇兵が来ているのですが、その、ちょっと我々には解らない武器で装備しているので確認をお願いします。」

 「武器が解らない?何を言ってるんだ。」

 訝しりながら確認に出たシュータは喜びの声を上げた。

 「大砲じゃないか。それも4門も。」

 「鉄砲もありますぜ。こちらは50丁。扱う連中も連れてきております。申し遅れました。私はポセル、大公国で商船団を率いております。」

 見るからに海の男といった見てくれの壮年の男性が言った。

 「弾薬はどれくらい?」

 「荷馬車二台あります。1回の戦なら存分に撃ってみてますぜ。」

 同好の士を見つけたといった風情でポセルは嬉しそうに告げた。

 「素晴らしい。実践では存分に撃ってもらおう。」

 

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 街道警備隊

 街道警備隊の現場職は業務上ほぼ騎乗が得意で地元の地理にも精通している。

 隊長は事務方で現場仕事は副隊長のバンセリオンが率いている

 

 出撃前

 「…。」

 バンセリオンの装いを見た人々は感想を口に出さまいと沈黙を保った。

 「…何かおっしゃってくださいよ。」

 「いや…その、かっこいいよ。小説に出てきそう。」

 「どんな小説か想像はつきますが聞かないことにします。では行ってまいります。」

 「うん、よろしく頼む。」

 バンセリオン隊は歩兵用兜に剣、ベルトにピストルという出で立ちで出撃した。

 後々「騎士様が山賊のコスプレをしていた。」と噂になりバンセリオンは噂の打ち消しに苦労することになる。

 

 

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 修道院と神学校

 修道院は各神の権能について学ぶ学校の機能も持っている

 神学校は神の権能を研究し発展させる研究機関でもある

 

 太陽神

 太陽神の修道院は農業について学び農業指導者を育てる学校でもある。

 神学校は農業についての研究を行い品種改良も行っている。シャリーも進むはずだった

 

 知恵の神

 知恵の神の修道院は各種学問を修める大学となっている。

 宰相はもちろん、多くの官僚がここを出ている。

 

 海神

 武神の修道院が陸軍士官学校ならこちらは海軍兵学校と商船学校

 ポセルはここを出てる。

 

 

 野営の陣

 シャリーの軍は小さな丘に遮られが湾曲しそこだけ狭くなり橋がかかっている場所、その丘に陣を張った。

 「さて、殿下。迎え撃つ算段は付きましたが一つ問題がございます。」

 「何かな。」

 「重装騎兵の突撃を止めるのが難しい。」

 「どういうこと?」

 「逆茂木と拒馬、これはどちらも相手からの突撃を防ぐもので可能な限り用意しますが、おそらく足りません。こちらの兵力的に突破を防ぐのも難しいです。突破されたら負け確定なので何とか足を止めないと。」

 「どうすれば止められる?」

 「前日に雨でも降って地面の状態が悪くなるのが最高ですがそれこそそれは神頼み以外の何物でもないですね。」

 「待って、ようするに地面が柔らかければいいんだよね?」

 「そうですが。何か良い方法をご存じなのですか?」

 「うん、どのくらいの規模があればよい?」

 「こちらは完全にここで迎え撃つ算段なので…そうですね。実際に歩いてみましょう。」

 

 「ご覧の通り、野戦築城中ですが、この部分、こちらの軍勢に囲まれた台形のここで足を止めたいですね。」

 「判った、ノルス公の軍勢がここに到着するのは?」

 「バンセリオン達が嫌がらせして速度が落ちているので3日後ですね。」

 「それなら何とかなりそうだ。やってみよう。一番近い都市に避難した農民たちに連絡を。」

 

 ノルス公の野営地

 天幕が燃え盛り、火におびえた馬が奔り回る。

 「また、放火か。何とかできないのか。」

 「申し訳ございません。しかし、彼らの方に地の利があり、追撃したものが返り討ちにあっております。」

 「可能な限り篝火を焚け、それとこちらに就いた貴族に追跡させろ。」

 「篝火ですが、近辺の農民が皆財産と一緒に逃げてしまったので薪に限りがあります。それと殿下に忠誠を誓った貴族達もこの近辺の地理には疎く・・・。」

 「ええい、くそ。」

 

 近辺の農家から借りてきた有輪犂と農耕獣、各種農具を前にシャリーは言った。

 「よし、農家出身の民兵諸君は僕と一緒に土を耕すんだ。参陣したもので太陽神修道院に入っていた者もだ。やり方は心得ているだろ。」

 貴族たちから苦笑があがり、何人かが前に出てきた。素早く打合せが行われ、丘の緩やかな斜面は耕されていった。

 「鎧を着たまま有綸犂を扱うのは世界中探しても滅多にいないでしょうね。」

 「うん、太陽神もびっくりだろうね。武神はどんな顔をしているかな?さぁ急ごう。この後熊手で地面を綺麗にならさないと。」

 「これだけ一斉に耕す光景はなかなか壮観ですね。」

 「あの、殿下、犂を扱う手が素人じゃないんですが…。」

 「そりゃちょっと前まで太陽神の修道院で修行してたからね。慣れたものだよ。」

 

 進軍するノルス公

 「なんだ、これは、橋板がほとんど無いではないか。」

 「どうやら庶民が持ち去ったようでして、応急としてこのようになりました。」

 「むぐぐ。」

 「食料の確保に行った部隊が返ってきません。」

 「道に障害物が…。」

 「とっととどかせ。」

 「障害物を撤去しようとしたものの落とし穴とまきびしがあり負傷者が…」

 「ぬぎぎぎぎ、あの若造さえ殺せば何とかなる。先を急ぐぞ。」

 

 2日後

 「すごいですね。これでは、これなら突撃を防げます。」

 見事に耕されたうえ、しっかりと偽装された陣地を見てシュータは感嘆して言った。

 「さて、後はノルス公の到着を待つだけです。」

 

 数日後…

 ノルス公は丘に陣取るシャリーの陣を見た。

 「丘の上に陣取ったかまぁ鉄板だな。だが経験の差と言うものを見せてやる。」

 ノルス公は戦となれば自身が還俗あがりの若造に負けるわけがないと思っていた。

 「射撃武器があるはずだ。傭兵たちに射撃武器を始末させろ。」

 クロスボウと大楯を担いだ傭兵たちが前に出てシャリーの陣に射撃を始める。

 シャリーの陣からも応射があり、よくある撃ちあいが始まる。

 傭兵隊長は自分達の方が射撃の腕も数も多いと見て取った。これならいけると思ったその時、相手陣から轟音と白煙が立ち上り近くの兵士が大楯ごとなぎ倒された。

 「おい、冗談じゃないぞ。」

 歴戦の戦士である傭兵隊長はそれが何かを知っており、発射元を探した。

 「くそ、あんな奥に。」

 相手陣の最奥に大砲を見た傭兵隊長は罵った。しかし絶望はしていない、大砲は数が少ない、こちらも時間がかかるだろうが雇い主が突撃出来るだけの射撃兵を減らせるだろう。かれはそう考えていた。

 

 ポセルの大砲陣地

 「ふはは、どんどん撃て。」

 「親父、ご機嫌だな。」

 「そりゃ、そうだろ。思う存分撃てて怒られないからな。」

 

 傭兵隊長が撃ちあっているころノルス公はいらだっていた。

 「まだ射撃武器を始末できんのか。」

 「あの大砲と鉄砲が厄介で」

 「ええい、役に立たぬ傭兵どもめ。構わん我が騎兵隊で蹴散らしてくれる。」

 ノルス公の騎兵隊と言えば馬も鎧を身に着けた重装槍騎兵で知られ今までも沢山の敵を蹴散らしてきた。今回もそのつもりだった

 

 「退けい。傭兵ども。ワシが勝ち方を見せてやる。騎兵隊ワシに続けい。」

 傭兵隊に叫びつつノルス王は自ら馬上の人となり、騎兵隊を進めた。相手の陣はそれなりに整っていたが中央部は民兵と思しき兵が陣取っていたが逆茂木があり、突撃は難しい。

 しかしその両脇、凹型をした陣の側面部は重装歩兵が構えているが逆茂木等は無く突撃は容易と思えた。そして丘の中腹だが右の方がやや高く、左側の歩兵隊に突撃突破し相手陣を分断するのが得策と思えた。

 「目標、敵陣左歩兵陣、突撃開始!!」

 鋼の奔流が動き始めた。

 

 爪弾きにされた傭兵隊長は配下に告げた。

 「どうやら俺たちは用済みらしい。とっとと帰るぞ。」

 「良いんですか?」

 「金は貰ってる。それに先ほどノルス王は『退け。』といった。言われた通り退くさ。あの陣の前見ただろ。あそこに騎兵隊が踏み込んだらオシマイだな。」

 「承知。全員に引き上げの合図を出します。」

 「おい、お前たちどこへ行く。」

 「我らノルス王から退くよう命令が出た故退く所存。」

 

 敵陣からの射撃があり隣を行く騎馬が倒れたがノルス王にとっては心地良い刺激にすぎなかった。

 あと少しで敵陣に突入し蹂躙するという快楽が味わえるのだ。ノルス王は思わず笑みを浮かべ・・・

 (馬脚が鈍った?)

 熟練した騎乗者でもあるノルス王はすぐに異変に気付いた。

 (ここ数日は雨も降っていない地面は十分に硬いはずだ。いったい何事。)

 馬の足元を見ると、くるぶしまで土に埋まり、馬脚は落ちるばかり。

 (むぅ)

 と、思いきや次の一歩は固い地面、脚の高さの違いに馬がよろける。とっさに馬を御しバランスを取り戻すが、近くの騎馬は転倒、後続の騎馬がそれを避けようとさらに馬脚を乱す。

 (まずい)

 統制の失われた騎兵突撃は悲劇の始まりだ。すぐに統制を取り戻さねば。

 ノルス王は熟練した騎兵隊指揮官として正確な判断を下し指示を与えようとした…しかし。

 「ぬぉ!?」

 斜め後方に位置していた騎馬がバランスを崩し、ノルス王の馬に衝突した。

 よろめく馬を必死に抑えるノルス王は重大なそして致命的な一瞬を失った。

 前方の騎馬が乱れた所に何も知らない後続の騎馬が突っ込み棒立ちになる騎馬、転倒する騎馬が、後ろ足で立ち上がり騎兵を放り出す馬が続出し…。

 

 「よし、いまだ。下馬騎兵隊前へ。」

 シュータが剣を掲げ、板金鎧を身に着け長柄武器を構えた下馬騎兵隊が前進する。

 シャリー達の犂き残した"硬い"地面を通り混乱の最中にある騎兵隊に殺到し、ばらばらになりつつある騎馬を取り囲み始める。

 

 

 騎兵隊の混乱と下馬騎兵隊の突進を見たノルス公歩兵隊指揮官は直ちに行動を起こした。

 「いかん、公をお助けする。歩兵隊前進」

 予備として残されていた重装歩兵隊が前進を開始する。

 そして森の中からそれを待ちわびていた者たちがいた。

 「なんとも美味そうな光景ではないか。なぁ。」

 先々代大公に小姓として使え始め今回も喜んでシャリー大公の元に馳せ参じた老貴族が獣のような笑みを浮かべて言った。

 「森に突撃は出来んが、森から突撃は出来るのだ。全騎突撃!侵略者を撃滅せよ。」

 森から次々と現れ素早く隊列を整えると突撃を開始しする。

 ノルス王の騎兵とは違う胸甲騎兵による早い鋭い突撃が歩兵隊の側面に突き刺さる。

 部隊救援に気を取られていたところの側面に突撃を喰らってはたまったものではない。

 恐慌にかられた歩兵隊は一気に崩れ、逃げ始める。

 「第三、歩兵隊を追撃しろ!第一、第二、わしに続け、旋回!ノルス公の尻に一発かますぞ!」

 混乱状態にあるところに後ろから騎兵突撃を喰らってはなすすべもない。

 「殿下、もういいでしょう。殿下の部隊も前へ、包囲されれば連中も諦めるでしょう。」

 「よし、義勇兵隊前へ、敵を包囲する。」

 民兵たちが逆茂木を迂回し全身を始める。勝敗は決した。

 

 「くそ、くそ、くそ。あのガキを見誤っていたか。」

 ノルス公は泥まみれになりながら罵った。既に馬は失っている。

 「誰か代わりの馬を、代わりの馬をもて。」

 失敗した騎兵突撃は悲劇となる。混乱の中ノルス公は馬を求め続けた。

 「馬を、馬を、ただの駄馬でも公国をやる。」

 しかし、誰しもが自身の生存に手一杯であり、何やら叫ぶ男には誰も興味を抱かなかった。

 ノルス公はもう一度馬を求めようと顔を上げ…。

 "トン"衝撃は小さかったが、その直後の痛みは尋常なものではなかった。

 ノルス公は痛みの元に目をやると、鎖骨の下あたりから矢が生えていた。

 「……。」

 血液が肺に流れ込み血を吐く。もう声を出すこともできず、よろよろとふらつき彼は野茨の茂みに倒れこんだ。出血とともに薄れゆく意識の中彼はなんと柔らかいベッドだろうと思った。

 

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 王国

 シャリーもノルスも名目上は王国に臣従する貴族だが、国王はだいぶ前に断絶してから空位となっている。

 名目上王国傘下となっている各大公国、公国は王冠に忠誠を誓うのみである。

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