海外で結果を出すことに並々ならぬ努力を注ぐ名家があった。
「日本のウマ娘が海外のレースで通用することを証明する!」
初代当主の言葉であり、現在でもこの理念は受け継がれている。以来、その名家は海外挑戦を積極的に行い、私財を投じることも惜しまなかった。
とは言っても、やはり海外で結果を残すことは難しく。今に至るまで掲示板に入ることすらできないでいた。海外の最先端トレーニング法に器具、ありとあらゆる方法でアプローチを続けるものの結果は振るわず。潤沢にあった資金は底をつき始めていた。
「何故だ!何故結果を出すことができない!?」
その後……名家は狂ったように海外のレースに執着するようになる。日本のレースで良い成績を残しても見向きもせず、海外で結果を残せなかったら厳しい仕打ちが待つ。そのため、名家のウマ娘達は海外のレースで結果を出すことに躍起になっていた。
それでも結局、結果を残すことはできない。トレーニングが悪いのだと、練習が足りないのだともっと厳しい量を課すようになる。それこそウマ娘が壊れてしまうほどに。
使用人達は語る。
「お嬢様達は旦那様や奥様から厳しいトレーニングを課されます……あれはもはや、虐待に近い」
ウマ娘を心身ともに追い詰める。虐待に近いトレーニングを課す。世間からの評判も悪くなる一方だった。
「一時期凄かったけど、今はもう見てらんねぇよ」
「あそこの家のウマ娘達、勝ってもニコリともしないのよ?むしろ追い詰められてるっていうか」
「怯える子も多くてねぇ。一体どんなトレーニングをしているのやら。ウマ娘達が不憫でならないよ」
着実に滅びへと進んでいく名家。そして──破滅することになる。
◇
「憤怒ッ!私がなぜ怒っているか、分かるな!」
「……」
「諦めてください。数々の証言に証拠の映像、あなた達に逃げ道はありませんよ?」
見た目は小さな子供だが、トレセン学園の理事長である秋川やよいと緑色のスーツを着こなした理事長秘書の駿川たづなが目の前の男を睨みつける。やよい達の表情は怒りと侮蔑の感情がこもっており、目の前に座る人物に対して向けられている。
男は──無言。黙秘を貫いている。
「あなた方の所業は全て明るみに出たッ!観念してお縄につくがいい!」
「虐待じみたトレーニング、ウマ娘達に対する抑圧……最悪牢屋に入ることも覚悟した方がよろしいかと」
なおも無言を貫く男。いい加減堪忍袋の緒が切れそうなやよい達だったが……男が狂ったように笑いだした。
「アハ、アハ、アハハハッハハハ!」
「こ、困惑ッ!?急になんだ!?」
「下がってください理事長!」
やよいを庇うように立つたづな。しかし男は危害を加える意思は見せず、依然狂ったように笑うだけだ。
「いやはや、年貢の納め時というヤツですか……けれど、
「……どういう意味だ?」
笑いを抑えて呟く男。気になったやよいは質問をぶつける。男は大仰に手を広げた。
「簡単なことです。すでに完成したのですよ!海外のレースを勝てるウマ娘がね!」
恍惚とした表情で語る男。やよい達には、すでに男は気が狂っているとしか思えなかった。
「あの子は素晴らしい……!芝だろうがダートだろうが、どこだろうと走れる!まさに天が与えた才能!全ての頂点に立つ完璧なウマ娘!」
「……たづな」
「はい。手筈は整っています」
「まだ入学前ながら、すでに学園の卒業生に勝っている!同年代の子の中でも飛び抜けた実力の持ち主だ!あぁ、あの子が海外のレースを勝つ姿が見れないのが残念でならないよ……」
その後も何かに憑りつかれたように、男はあの子と呼ばれたウマ娘がいかに素晴らしいかをブツブツと呟き続けていた。警察に連行される間も、ずっとである。
やよいとたづなはとあるウマ娘を探していた。
「たづな!場所は!?」
「使用人からの言葉によると、この先の部屋だそうです!」
先程警察に連行された現当主の娘。彼女は屋敷の一室に幽閉されている。使用人達からの報告で分かっていたことだ。逃げられないように、連れ去られないように足早に駆け抜ける。やよい達は不安でならなかった。
(どうか無事でいてくれッ!)
屋敷の使用人から教えられた部屋へと辿り着き、扉を勢いよく開ける。中にいたのは──。
「──だれ?」
泥だらけの無地のワンピースを着た、ウマ娘の少女だった。部屋の中にあるのはベッドと机だけ。嗜好品の類は見受けられない。それだけで、やよい達は彼女がどんな生活を送っているのか容易に想像がついた。
「ここまで……!」
「なんて酷い……!」
2人はふらふらとした足取りで少女の下へと足を運ぶ。少女は不思議そうな目で2人を見つめるが──次の瞬間には。
「もう大丈夫だ。君は、解放されるっ」
「怖がらないでください。我々は、あなたを保護しに来たんです」
彼女の警戒心を解くように、精一杯の笑顔を作って。やよい達は栗毛の少女に優しく微笑んだ。年相応の少女のように、可愛らしく首をかしげるウマ娘。
「保護?なんで?」
「あなたが楽しく、笑って過ごせるように。これからは我慢する必要はありません。好きなだけワガママを言っていいんですよ?」
「ふ~ん……よく分かんないけど」
少女は、己の願いを口にする。
「あなたたちについていったら、おいもたくさん食べられる?」
「ッ!」
その言葉を耳にしたたづなは、思わず彼女を抱きしめた。あまりの境遇に、少女の受けてきた仕打ちに同情する。
「えぇ、えぇ……!お芋だけではなく、美味しいものをたくさん食べていいんですよ……!」
「なんで泣いてるの?……よく分かんないや。とにかくおいも食べたい」
「承知ッ!すぐに手配しよう!」
やよいはすぐに各方面へ連絡。少女を保護したことと、ありったけのジャガイモを集めるように指示を飛ばした。少女はたづなに手を引かれる形で連れていかれる。
この日、とある名家が潰れた。当主とその妻は逮捕、それ以外の親族も大打撃を受けることになる。
◇
……な~んか外が騒がしい。なにが起きてんの?でも勝手に部屋を出たら怒られそうだしな~。
“きゃっほうユーちゃん!外は凄いことになってますよ!”
どしたのお芋さん?楽しそうにしてるけど。
“なんかけーさつ?ってのがやってきて家のものを片っ端から調べてるんですよ!かたくそーさく?ってヤツですかね!?”
多分それだな。え?じゃあなに、家今ヤバいことなってるの?ま~時間の問題だったからね仕方ないね。
あ、どうも。部屋で怠惰に過ごす一般名家ウマ娘です。多分今から名家じゃなくなるけど大した問題じゃないか。とりあえずジャガイモ食べましょうかジャガイモ。
“そうですよユーちゃん。ポテトは良い……ポテトは全ての食材の頂点に立つお野菜!神の食べ物!ポテトisGOD!”
ちなみに今喋っているこの人はお芋さん。名前はちゃんとあるんだけど、芋が好きなようなので私はお芋さんと呼んでいる。本人も気に入っているのでモーマンタイでしょう。ま、宙に浮いてるので生きてるウマ娘じゃないんですけどね!幽霊ってヤツですよ。
そして私の名前はダスクユートピア。一般名家ウマ娘改め一般没落ウマ娘です。言ってて悲しくなるぜベイベー。
しかしま~ついにって感じがしますね。虐待に近いトレーニングしてたから当然か。私は全然虐待されなかったけど。
“ま、ユーちゃんは優秀なので当然ですね!”
へへ、よせやいお芋さん照れるぜ。てか服洗いたい。さっき泥遊びしてそのままだからめっちゃ汚れてんだよね。使用人さんからも逃げてきたからな~。しかも着替えもない。全部外だからね。多少バッチィけどまま、いいでしょ。
さ~てジャガイモ食べましょうか〈バンッ!〉やっべ誰か来た!?急いでジャガイモを口に放り込みましょうそうしましょう!
“おや?誰ですかこの人達?ユーちゃんの知り合いで?”
いや、知らないね。私の知り合いにオレンジ髪の幼女に緑色のスーツを着こなす人はいないね。てか私を見て涙流してるけどなんで……って、もしや!
(私の服泥んこじゃん!ヤバい、怒られるかな?)
いやいや待ってくださいよ。あなた方が誰だか存じませんけど、これには仕方ない事情ってもんがあるんですよへへへ。とりあえず怒らないでください!なんでもはしませんけど!ちょっとちょっと、近づいてこないで!へるぷみー!
「もう大丈夫だ。君は解放される」
「怖がらないでください。我々は、あなたを保護しに来たんです」
……あれ?私の目線に合わせている?なにより声色が優しい……ほほう、つまり怒る意思はないと見たね!あっぶねぇ、もしこの人達が使用人さんの関係者なら説教されること間違いなしだった。てか保護とな?ふ~ん……よく分かんね。
“ユーちゃんユーちゃん!この人達についていったらポテトたくさん食べれますかね!?”
ふふ、慌てるでねぇやお芋さん。まずは向こうの出方を窺ってからだ。場合によっちゃポテトパラダイスも夢じゃない!
「保護?なんで?」
「あなたが楽しく、笑って過ごせるように。これからは我慢する必要はありません。好きなだけワガママを言っていいんですよ?」
「ふ~ん……よく分かんないけど」
好きなだけワガママを言ってもいい!?なんて天国なんですか!これはもう、言うしかねぇぜ!
「あなたたちについていったら、おいもたくさん食べられる?」
“そうです!ユーちゃんの親が捕まろうがブタ箱にぶち込まれようが知ったこっちゃありませんが、ユーちゃんの無事とポテトの保証をお願いします!それさえあれば生きていける!”
そうだそうだ!お芋はちゃんと食べれるのか~!それさえあればなんでも良いぞ私は~!
「えぇ、えぇ……!芋だけではなく、美味しいものをたくさん食べていいんですよ……!」
え?なんで緑スーツの人私を泣きながら抱きしめてるの?こわぁ……どゆこと?私の格好があんまりにもあんまりなの?そんなにダメだった?泥遊び。てかお芋さえあればいいんだけど。好物食えないのって地獄じゃん?
「なんで泣いてるの?……よく分かんないや。とにかくおいも食べたい」
「承知ッ!すぐに手配しよう!」
どうやらすぐに手配してくれるようですよお芋さん!
“マジで!?よっしゃぁぁぁぁ!”
へへへ、これで毎日ポテトパラダイス!ポテパラですよポテパラ!あ、私の手を握ってどこに行くおつもりで?……え?あなたのお名前秋川やよい?学園の理事長?え、その見た目で?とりあえずトレセン学園で保護すると。ほ~ん……芋さえ食えればなんでもいいや。
──こうして私、ダスクユートピアは戸籍上理事長の娘となったらしい。ちゃんちゃん。
ダスクユートピア
身長:161㎝
体重:ポテトたくさん
スリーサイズ:85/55/84
特徴:セミロングの黄金色に輝く栗毛
海外レースに力を注いできた名家出身のウマ娘(シンボリ家と多少交流があった)。家は没落したし両親は捕まったのにまぁいいやで済ませるメンタルの持ち主。守護霊兼大親友のお芋さんと一緒に今日も頑張る。
お芋さん
幽霊系ウマ娘。ダスクユートピアと同じ栗毛。やたらめったらテンションが高いしダスクユートピア大好き。なおそれ以外にはほぼ塩。ポテト狂いであり、ポテトこそが至高の食品であると豪語している。
本名はPotoooooooo(ポテイトーズ、Pot-8-Osとも)。元ネタの馬はエクリプス産駒の滅茶苦茶やべーヤツ。どれくらいヤバいって?現存するサラブレッドの父系約9割はコイツ。ダーレーアラビアン系ならほぼコイツに行きつくレベル。ちなみにサンデーサイレンスの父系もポテイトーズ。