【日本からの来訪者ダスクユートピア。2000ギニーに堂々参戦!】
【前走はダート!全てにおいて未知数なワイルドカード!】
【日本では圧勝!没落した名門のウマ娘は2000ギニーに波乱を起こすか!?】
インタビューはアレだったが、前評判ではそこまで悪くなく。ダスクユートピアを細かく分析している内に、彼女は2000ギニーの台風の目になるのではないか?と目されていた。世間を賑わせたインタビューからは信じられないことである。
欧州では、ダスク家の評判はあまり良くない。彼らがしてきた仕打ちは欧州にも知れ渡っており、嘲笑と侮蔑の対象になっていた。だが、ダスクユートピアに関しては
(アレが日本からのチャレンジャー……のほほんとしているが、罠か?)
2000ギニーに出走するウマ娘、ジブラルタルガイアもその一人だ。視線の先にはダスクユートピアがウォーミングアップをしている。その動きは緩慢なものであり、とても強者には見えない。
(だが、油断は禁物だ。彼女は日本のジュニア級チャンピオンと呼ばれている……このレースでも、私に次ぐ5番人気だ)
前走がダート、欧州で走ったことがないとは思えないほどの高評価を獲得しているダスクユートピア。デューハーストステークス*1とジャン・リュック・ラガルデール賞*2を勝ち、2ヶ国のジュニア級最強決定戦を制したジブラルタルガイアは、ダスクユートピアへの警戒を怠らない。
(全てにおいて未知数。彼女の発言が子供の戯言か、はたまた事実か……この身をもって体感させてもらおう)
ダスクユートピアを鋭く睨みつけるジブラルタルガイア。周りのウマ娘も、彼女を侮っているウマ娘が多い中、何人かはダスクユートピアを睨みつけている。彼女を警戒するような視線を送っていた。
当のダスクユートピアはというと。
「う~ん……ポトフが食べたい。昨日も食べたけど今日も食べたい」
“美味しいものは何日も続けて食べたいもんね……!分かるよその気持ち!”
ポトフが食べたいと考えていた。この大一番でも変わらないメンタルでいるようだ。
ウォーミングアップを終えたウマ娘達がゲートへと入る。
《今年もやってきました2000ギニー!芝の状態は堅良、天候は晴れでの出走。そして、今回は日本からの挑戦者、ダスクユートピアが来ているぞ!》
《インタビューでは三冠宣言をして色んな意味で沸かせていた彼女。前走はダート、イギリスで走った経験は0!それでも5番人気なのは彼女の強さがいまだ未知数だからか?どんなレースを見せてくれるのか、楽しみだな!》
《口だけのレースは勘弁だぜ?さぁ最後のウマ娘がゲートに入った!》
ワクワクしながら出走の時を待つ観衆。ゲートが開いた瞬間、ウマ娘達が一斉に飛び出した。2000ギニーが開幕する。
◇
さ~てさてさて、私の位置は先頭。ラビットさんと同じ位置にいますわよ。
《勢いよく飛び出しましたダスクユートピア!ショウロックと共に飛び出したぞダスクユートピア!1番人気のコンドルフェザーと4番人気のジブラルタルガイアは中団に位置をつけている!》
《ショウロックとペースメーカーになりましたね。ダスクユートピアにはどのような思惑があるのか?》
《2人がペースメーカー、快調に飛ばすショウロックとダスクユートピア、ガンガンペースを上げていく!外のショウロック、内のダスクユートピアがペースメーカー、バ群は綺麗に3つに分かれている!ショウロック率いる外側、ダスクユートピア率いる内側!そして内と外からやや遅れて2番人気キングオブハッピーが先頭に立つ真ん中!》
ラビットというわけではなさそうだなコレ。勝つための逃げってヤツか。欧州では珍しいわね。
“いけいけユーちゃんゴーゴーユーちゃーん!全員ぶちのめしちゃえ~!”
オーケイお芋さん。お芋さんの応援で燃え尽きるほどヒートよ。
レースはというと、ショウロックとやらが外で引っ張り、私ことダスクユートピアが内側のウマ娘達を引っ張る。日本じゃまずお目にかかれねぇ展開、バ群が外・真ん中・内できれーに別れている。直線しかないコースだからこそよね、こんなバ群。
周りなんて関係ねぇ、自由気ままに逃げるだけよ~。後ろからの圧を感じるよ、可愛いね。
(さ~てさて、一番人気のコンドルフェザーはどこにいるのやら。ま~前目の位置か、もしくは中団でしょ)
“ところでユーちゃん。今回は領域使うのかい?使わないのかい?どっちなんだい!”
へへ、慌てるでねぇやお芋さん。今回は
“しょぼんぬ”
あぁ!お芋さんがしょんぼりしていらっしゃる!でも使わなくても勝てそうだしな~……うん、今回は無しで。ただ、近いうちに使いましょうか。勘が鈍らないようにたまには使ってあげないとね。
今回の2000ギニーで有力視されているのはコンドルフェザーとやら。彼女のトレーナー曰く、三冠も夢じゃない逸材らしい。ほ~ん。
(さて、と。少しばかりペースを上げますかい)
「ついてこれるもんならついてきな、っとね」
ペースを上げると後ろの子達もついてきました。ま~そのまま逃げ切られたら不安よな、ダスクユートピア、さらに動きます。
《内側のバ群、ダスクユートピアが後続を引き連れてさらにペースを上げていく!1番人気コンドルフェザーはっ、慌てない慌てない!自分のペースを保つように動いている!》
《外側のショウロックも動き始めました。ダスクユートピアを意識しているのでしょうか?さらにペースが上がりますよ!》
《レースも中盤を迎えます!内と外のバ群、差はありません。真ん中のキングオブハッピーを先頭にしたウマ娘達は外側のバ群に加わりました!さぁ残り半分、どちらが先に抜け出すのか!》
レースは残り半分ときましたか。では、
「うぐっ!?」
「まだ上がんのっ!?」
追いつけるもんなら追いついてみなはれ~。とはいっても、追いかけてはこないでしょ?
(そりゃ~このペースに付き合えば自滅だもんね。玉砕覚悟でもなけりゃ来ないでしょ)
なので、私が単独で抜け出すのは必然なのであった。ちゃんちゃん。
《中盤を過ぎて、先頭に躍り出たのは内側のダスクユートピア!ダスクユートピアが単独先頭!内側のバ群は抑えている、少しばかりペースダウンだ!》
《ショウロックは、さすがに付き合わないですね。果たして何を考えているのか?ダスクユートピア》
《ただ1人ペースをガンガン上げるダスクユートピア!後続との差をつけていくぞぉ!このオーバーペースに付き合えるウマ娘はいるのか!?》
イッツ、ショウタ~イム。
◇
2000ギニーを観戦している人達は信じられないような光景を目にしている。先頭を走るのは日本からやってきたダスクユートピア。その勢いは、衰えることを知らない。
「『い、いつ落ちるの?あの子』」
「『さ、さぁ……下手したら、ずっとこのままじゃね?』」
「『そんなこと、ありえるの!?』」
まだまだ余裕とばかりに駆け抜けるダスクユートピア。後ろにつけるウマ娘達との差を突き放していき、残り400mを切った時点での差は6バ身近い差がついていた。
《ダスクユートピア逃げる逃げる!さ~まだまだ余裕とばかりに逃げているぞダスクユートピア!これを捕まえることができるのか!?》
《外側からはジブラルタルガイアが位置を押し上げていきますね!何かを感じ取ったのか、凄まじい勢いで上がって行きます!》
《ショウロックはどうか!ショウロックは落ちていく!内側のバ群もペースアップペースアップ!逃げるダスクユートピア、その脚色は衰え知らず!》
ダスクユートピアを追いかけるウマ娘達も薄々感じ取っていた。彼女はこのまま、逃げるつもりなのだと。
(一緒に逃げたショウロックは落ちてきてるのよ!どうなってるの!?)
(侮っていたつもりはない、なのに!彼女の強さは……ッ)
「『我々の想像を、はるかに超えているとでもいうのかっ!?』」
ショウロックは落ちていく。一緒のペースで逃げていたはずのダスクユートピアは先頭で走っている。脳が理解を拒みそうな風景だった。
(諦めてなるものか!我らとて誇りがある、これまで積み上げてきた勝ち星への誇りが!)
ジブラルタルガイアはバ群から抜け出して伸びていく。残り1ハロン、外側バ群の先頭に立ち、後続を突き放しにかかった。
「──『こっちだって、負けるわけにはいかないんだよ!』」
内側のバ群からはコンドルフェザーが伸びてくる。その末脚は凄まじいものであり、ジブラルタルガイアをも退ける勢いだった。
外ラチいっぱいを駆け上がるジブラルタルガイア。真ん中を突き抜けるコンドルフェザー。もっとも──先頭に立つダスクユートピアは遥か前方。差は全くと言っていいほど縮まっていなかった。残り1ハロン地点で他を置き去りにする末脚を見せたジブラルタルガイア。そんなジブラルタルガイアに唯一食らいつく、どころか上回る末脚を見せたコンドルフェザー。
だがダスクユートピアはそんな2人すら嘲笑う。
《ジブラルタルガイアとコンドルフェザーが猛追!これは怒涛の追い上げだ!しかしこれはどうしたことか!?ダスクユートピアとの差は縮まらない!何故だ!?どういうことだ!?理解不能な現象が起きているぅ!》
「『コンドルフェザーもジブラルタルガイアも速いのに、ダスクユートピアには追いつけない!?』」
「『あのウマ娘はどうなってんだ!?』」
一向に縮まらない差。歓喜か悲哀か、どちらともつかない悲鳴がレース場を覆いつくし──決着がつく。
「──ほいほ~い。まずは一冠目、ってね」
《アンビリィィィバボォォォォウ!コイツは衝撃の決着だぁぁぁ!クラシック第一戦、2000ギニーを制したのはなんとなんと日本からのチャレンジャー、ダスクユートピアだぁぁぁ!とんでもねぇレースを見せてくれたぜぇぇぇ!》
《は、はは……!コイツは笑うしかない。あまりにも格が違い過ぎる!》
インチキだ、不正だ……そんな声すら上がらない。当然だ。走ったウマ娘に失礼だし、何より──後続に6バ身差つけての勝利など、文句の付け所がない圧勝なのだから。
「いえいいえ~い。イヤッホォォォウ!」
なおも余裕を見せるダスクユートピア。
(も、モンスターめ……!)
そんな彼女を、他のウマ娘は悔しさと恐怖の入り混じった瞳で見つめていた。
ユーちゃん
体力お化け。結構テンション上がっている。
お芋さん
ユーちゃんが勝って万々歳。
出走したウマ娘達
なんだあの化物(畏怖)。
観客
なんだあの化物(恐怖)。
煽り返された記者達
彼らはもう、終わりですね。