2000ギニーを勝ってからというものの、記者の数が明らかに増えた。
「是非ダスクユートピアさんへの取材を!」
「ダービーステークスへの意気込みをお願いします!」
「イギリスのクラシック三冠に挑戦するというのは本当でしょうか!?」
元々日本からの挑戦者ということに加えて、色んな意味で注目されているダスク家のウマ娘ともなればそりゃ注目を浴びるだろう。しかも、2000ギニーを勝ったのだからもう取材の依頼がひっきりなしに来るわけだ。
ここで1つ、ユートピアが俺に質問した時の言葉について思い出してみよう。俺は確かに、名声は欲しいし実績もあればあるだけいいとは答えた。でもそれは
「重賞を何個か取れて、あわよくばG1ウマ娘を育てたトレーナー!なんてのは憧れるよな~。でも、オープン入りするだけでも狭き門だし、夢のまた夢だよな~アハハ~」
俺の名声が欲しいというのは、重賞を何個か勝てたらいいな、程度のものだ。断じて海外G1を勝ちたいなどと思ったことはない。
そりゃあね?勝ったのは嬉しいよ。すげぇ嬉しい。日本のトレーナーで、海外で実績を上げるというのはかな~り難しいというのは承知の上。だから嬉しいっちゃ嬉しいんだよ。名声も実績も手に入るわけだから。
でも……それに比例するように上がってくるんだよ。
「ダスクユートピアの強さの秘訣はなんでしょうか!?」
「やはり秘伝のトレーニングがあるのですか!」
「新人でありながら海外G1を勝つ……素晴らしい才能ですね!」
俺への期待がさぁ!青天井で上がっていくんだよ!なに!?秘伝のトレーニングって!ねぇよそんなもん!あえて言うなら知ってるのはユートピアだけだよ!
俺は慎ましやか~に生きたかったんだ……普通のウマ娘を担当して、次のレースを一緒に相談して、果てには重賞を掴み取ったりして……そんなトレーナー生活を送りたかったんだ。
「南雲~次はこのレース出るよ。え?G1だけど何?」
「だ~いじょうぶだって。私に任せたまえよ。南雲を有名にしちゃるけんのう」
「今日はジャーマンポテト作って南雲~」
なんで今の俺はとんでもねぇウマ娘によって欧州を連れ回されるトレーナーになってんだよ……。どこで道を間違えちゃったんだ俺は……。
ユートピアの価値観は大分変わっている。最高峰の格付けであるG1レースをただのレースとしてしか見ていないし、道端に落ちている石ころを拾うかのようにG1へと挑んでいく。あ、このレースも出走できるじゃ~ん。G1?なにそれ食えんの?みたいな感覚で挑むのだから緊張もへったくれもない。
「アイツ、一応名家出身だよな?しかも海外レースに注力する名家の。だから海外のG1には詳しいはずだよな?なのになんだあの反応、マジで出走できるから出走するか~ぐらいにしか思ってないじゃん」
どういう育ち方したのかマジで気になるんだけど。俺の知っているダスク家のウマ娘とはかけ離れているんだけど。
別にユートピアが嫌いとかそういうことはない。むしろ助かっている。俺が本音をぶっちゃけても否定することなく協力してくれるし、結果で応えてくれている。事実俺は有名になりつつあるので
(俺そんなだいそれたものじゃないんだけど!?いたって普通のトレーナーなんですけど!)
俺のできること以上のものを期待されてて胃が痛いんだよ!別に凄いトレーニング方法を知っているわけでもないし、ウマ娘が怪我をする確率が分かったりするわけじゃないし、実力を見ただけで判断できるようなトレーナーでもないんだよ!ダスクユートピアが凄いだけなんだよ実情は!言ってて悲しくなるなコレ。
周りから集まる期待と俺の実力!天秤にかけるまでもなく期待の方が重い!俺の実力なんて空気同然だ。
(ユートピアもユートピアだ……!軽い調子でこのレース出るよ~とか言いやがって!)
悪いとは言わないが少しは自重してくれ!本当に、頼むから!これ以上俺にかかる期待を上げないでくれ!
天井知らずの期待とユートピアからの圧に四苦八苦していた頃、俺は妙案を思いついた。
「……そうだ!俺の実力なんて何も関係ないことをぶっちゃけちまえばいいんだ!」
なんで気づかなかったんだ俺!インタビューで俺はトレーニングとかに一切関与してないことをぶちまければいい!そうすりゃユートピアが凄いだけだってなるし、俺への期待も軽くなる!我ながらナイスアイディアだ!
ただ、一切関与してないと言ったらそれはそれで問題だな。責任問題に問われる可能性がある。だから上手い塩梅を見つける必要があるのだが。
「しかし、俺に秘策有り!次のインタビューでしっかりと答えるぞ!」
この時の俺はストレスでちょっとテンションがおかしくなっていたのかもしれない。ユートピアから変な目で見られていた。
「南雲どうかしたんですかね?今日はポテトをマッシュして食べますよ~マーッシュマシュマシュマ~ッシュ」
ジャガイモをマッシュしている……ちょっと待てい。
「ほらユートピア。俺がやるから貸せ。お前を見てるとあぶなかっしいから」
「フフン。生憎と私は料理ができないんでね」
「威張ることでもないだろ……」
今日はユートピアのためにマッシュポテトを作った。アイツはご満悦な表情で食べていた……本当に芋が好きだなユートピアは。
◇
ついに来たインタビューの日。ユートピアはおらず俺だけ。ここで、秘策を使う!
「『それでは、今回はダスクユートピアさんの強さの秘訣について。彼女のトレーナーである南雲トレーナーにお話を伺いたいと思います!』」
「『今日はよろしくお願いします!』」
「『おぉ、気合十分ですね!』」
当然だ。これで俺に対する期待も軽減されるだろうと考えたら嬉しさが溢れてくるからな。このインタビューで、俺の期待を少しでも取り除く!
「『早速本題に入りますが、ダスクユートピアの強さに関して。私は特に関与していないんですよ』」
「『と、いいますと?』」
「『基本的に彼女は自主的に練習をしていますから。私は見守ったり、軽くアドバイスするだけです』」
全部事実だからな。ユートピアの強さに俺は一切関与してないわけだし。
「『なのでお教えできることは本当になくて……期待に応えられず、申し訳ありません』」
「『またまた~。本当はあるんじゃないですか?』」
「『いえ、本当にないんですよ。私は普通のトレーナーなので。ベテランの方々には遠く及びません!』」
「『新人トレーナーなのに、2000ギニーを勝利するのはとてもすごいことですが』」
それは本当にそう。
「『これもダスクユートピアの実力ですよ。彼女の才能は本当に素晴らしいですから!私なんてとてもとても……釣り合っているとは思えません』」
「『ほうほう……ちなみに普段何をしているか、詳しく教えてもらっても?』」
「『えぇ、別に構いませんよ。まずは……』」
その後は、なんかやたら詳しく質問されたが問題なく答えた。生憎とやってることは普通のトレーナーと何も変わらない。だから安心感がある!
(これで俺への期待は無くなる!凄いのはダスクユートピアであって俺じゃない、俺は一般トレーナーであることが認知されるはずだ!)
……ただ、気づいてなかったんだ。ちょっと冷静に考えれば分かることなのに、この対応がどれだけまずかったのか。ストレスでテンションがハイになっていた俺は、気づくことはなかった。
◇
南雲龍一へのインタビューを終えた記者達は、帰りがてら今回の成果について話していた。
「なんというか、普通でしたね。ダスクユートピアのトレーナー」
そう話すのはまだ新人の記者。今回はもう1人、メインで質問していた先輩の仕事についていく形で来た記者だった。
新人の言葉に、ベテランの記者は分かってないなと答える。
「違うぜ新人。ありゃ日本人特有の謙遜、ってヤツだ」
「けん、そん?」
「そう!自分なんて大したことはない、凄いのは他のヤツって自分を下に見せることさ!」
得意げに語る先輩。新人にレクチャーをする。
「日本人はな、みな謙虚なんだよ。あのトレーナーのようにな」
「は~……分からなかったです。ということは、南雲トレーナーは」
「あぁ。ダスクユートピアを担当するに足る、素晴らしい才能を秘めたトレーナーだ」
先輩の言葉に相槌を打つ新人。一言一句聞き逃さないように耳を傾けていた。
「最後の最後まで秘伝のトレーニングを教えないのもそうだ。簡単には手の内を明かさんぞ、という気概を感じる」
「ッ!確かに、そうですね……そう易々とは教えませんよね!」
「加えて、自主トレが主だと言っていたがそれはないだろう。きっとスペシャルなトレーニングをしているに違いない!」
「そ、その根拠は?」
「フッ、ダスクユートピアはアレだけの強さを誇っているんだぞ?自主トレだけで身につくはずがない。きっと、あのトレーナーには何かがあるんだろう……我々には理解できないような、凄いトレーニングを知っているとか!」
今回の取材の話で盛り上がる2人。会社に着くまで会話は尽きなかった。
……まぁ、冷静に考えれば当然で。いくら南雲が自分はダスクユートピアの強さに関与してないといったところで信じてもらえることはないだろう。むしろ、2000ギニーを制したのは担当の力とウマ娘の方を立てることで南雲は日本人特有の謙虚な男性であると認知される。
加えて、南雲自身の評価も最近見直されつつある。なんせ担当が2000ギニーを勝ったのだ。日本での悪評など表舞台で見かけることはなくなった。
では、どうなるか?
【南雲トレーナー、担当ウマ娘を絶賛!南雲「自分なんてまだまだ」】
【期待の新人トレーナー南雲の尽きぬ向上心。いずれはベテランも追い抜いてみせる】
【次代を担うニューホープ!南雲トレーナーの謙虚な姿勢!】
南雲への期待はさらに高まることとなった。
ユーちゃん
料理の腕は米を洗ってと言われたら洗剤を用意するレベル。
南雲トレーナー
これで期待は減るぞ!やったね!したいが現実は非情である。