家は没落しましたが私は元気です   作:カニ漁船

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やって来たぜダービー。


ダービー走ったった

 イギリスのダービーステークスは、世界中のダービーの基となっている。最も歴史の長いダービーであり、英国でも特に権威のあるレースの1つだ。

 

「ダービーを制するのは一国の宰相になることよりも難しい」

 

 こんな格言も存在しているぐらいである。まぁこれは後の創作であることが分かったのだが、ダービーとは特別なレースであり、それだけダービーで勝つのは難しいという意味合いでもあった。

 今回も13人のウマ娘達がこの舞台に挑む。ダービーウマ娘という称号をかけて──。

 

 

 

 

 

 

 ウォウウォウ、イェイイェイ。やってきましたダービーステークス。私は1番人気で出走だぜい。

 

“とーぜん!ユーちゃんは最強、常に一番人気じゃないと!”

 

 そういうもんですかね。あまり人気に固執したことがないから分からんね。周りからは親の仇を見るような視線をぶつけられてるよ。可愛いね。

 ちな私の勝負服。見た目だけなら暗赤色のフロックコートを見に包んだ軍人に見えなくもない。下はスカートなので女性らしさもバッチリありますよ。

 

“今日もイケてるよユーちゃん!最高&最カワ!”

 

 よせやいお芋さん照れるぜ。おっと、そろそろゲートインの時間だ。向かいますかね。

 

《芝の状態は稍重との発表、ついにやってきましたこの時が!1マイル4ハロン6ヤード*1の死闘、ダービーステークス!今年もクラシック級の強者達が集まってきたが、その中でも規格外なのはこのウマ娘だ!2000ギニーを圧倒的な実力で制した日本からの来訪者、ダスクユートピア!》

《すでに三冠は既定路線と宣言していますからね。このダービーステークスではどんな走りを見せてくれるのか?》

 

 それにしてもエプソムレース場って面白い形してますよね。蹄鉄型のコースっていうのか、1周しないコースなんて滅多にお目にかかれませんよ。

 

《2番人気は2000ギニーの逆襲を誓うコンドルフェザー!インタビューでもダスクユートピアを意識しているような発言がありました。3番人気はオークジャングルと続きます》

《コンドルフェザーとしては雪辱を果たしたいですよね。6バ身差をつけられたわけですから》

《だが、このダービーステークスは一筋縄じゃいかない!クラシック級のウマ娘が走るには非常にタフなエプソムをどう攻略するかがカギとなる!今最後のウマ娘がゲートに入った!》

 

 さぁて、今回はどうやって走ろうか。別に前で走ってもいいんだけど、たまには後ろで走るのも良いかもしれない。……よし、後ろで走ろう。

 今回はゲートが開くのと同時──ではなく。少し溜めてからスタートする。よしよし、幸先よく後ろにつけることができましたね。

 

「「「っ!?」」」

 

 おっと、みなさんビックリしているご様子。でもこれ幸いと動き出しました。ま~今まで前でしかレースをしてなかった私めが出遅れたのなら好機と思うでしょう。私だってそう思う。

 

“またまた~。ユーちゃんはあ、そう動くんだぐらいにしか思わないでしょ?”

 

 バレてましたかお芋さん。Exactly(その通りでございます)。出遅れようがどうなろうがあまり関係ないんですよね。最後に誰よりも早くゴールすれば勝ち。これ真理。

 

《ついに始まったエプソムレース場、ダービーステークス!綺麗なスタートを切ったがおぉっと!?ダスクユートピアがわずかに出遅れたか!?これは痛いミスだ!》

《綺麗なスタートを決めていたダスクユートピアの出遅れ……彼女でも緊張していた、ということでしょうか?》

《そうかもしれないね。これ幸いと飛び出してきたのはショックトン!ショックトンがレースを引っ張る展開か?しかしルナバラードもハナを奪おうとしているぞ!13人のウマ娘が駆けていく、コンドルフェザーとダスクユートピアは中団!中団だ!》

 

 ダービーステークスの始まりでっせ。

 

 

 

 

 

 

 レースが始まってすぐ。マンハッタンカフェは険しい顔になる。

 

「出遅れ……ユートピアさんにしては、珍しい」

“だね~。あんまり出遅れるって印象ないのに”

 

 トレーニングでも毎回抜群のスタートを切っていた姿を知っているマンハッタンカフェは、なにかの意図があるのだろうと必死に考える。ただ、答えを見つけることはできず。周りの観客と同様に、ダービーステークスの緊張と考えることにした。

 

「ダスクユートピアは緊張とは無縁そうだが、出遅れることもあるんだな」

「あ、あ~……ソウデスネ」

 

 マンハッタンカフェのトレーナー、黒木の言葉に南雲は何か言いたげだったが、波風立たせるのも良くないと思い黙っておくことにした。後は純粋に面倒になったら嫌だという思いもある。

 現在緩やかな右カーブを抜け、コーナーめがけて走っている。

 

《坂を上っていくウマ娘達!しかしこれはかなりのハイペースだ!ショックトンに変わってルナバラードが先頭に立ったが、ルナバラードが凄まじいペースで飛ばしている!》

《稍重のバ場でハイペースは自殺行為。何かの作戦でしょうか?それともただ掛かっているだけか!》

《コンドルフェザーとダスクユートピアは変わらず中団。先頭から10バ身程離れた位置につけているか?最後方は3番人気のオークジャングル。虎視眈々と機会を窺っているぞ。まもなく左カーブへと入る!》

 

 応援の声がエプソムレース場に響く中、マンハッタンカフェはエプソムレース場のコースのことを思い出し、げんなりしていた。

 

「普通に、走っているように見えますが……最初の左カーブまでにずっと上って、最後の直線の残り僅かまで、ずっと下って。最後の最後でまた上り……凄いコース」

“どういう設計してんだろうね、これ”

 

 高低差は日本とは比較にならないほどにあるエプソムレース場。欧州のほとんどのレース場がそうだが、いざ目にすると凄まじいものだと実感する。

 

「ハイペースになった展開……もしかして、ダスクユートピアを警戒してだろうか?そして、ダスクユートピアはそれを察して中団に……かなりレースIQが高いんだね」

「ハハ、ソウデスネ」

 

 黒木の言葉に機械的に返事をする南雲。余計なことを言わないようにと必死になっていた。

 

 

 エプソムレース場で数少ない平坦な道であるカーブを曲がっていく。ここで──とあるウマ娘が仕掛けた。

 

《カーブを曲がっていくウマ娘達!先頭は依然としてルナバラード、ルナバラード先頭!そして中団からっ、ダスクユートピアが上がってきたぁぁぁ!》

「『おいおい、ここで仕掛けるのか!』」

「『今日はどんなレースを見せてくれるの!?』」

「『2000ギニーみたいなレースを待ってるぜダスクユートピア!』」

 

 ダスクユートピアが位置を押し上げる。続くようにコンドルフェザーも上がって行った。

 

「『行かせるかっ!』」

 

 最後方からはオークジャングルも上がっていく。エプソムレース場の最終コーナー、通称“タッテナムコーナー”めがけてそれぞれの走りやすい位置へと動き始める。前は抜かされまいと必死に粘っていた。

 ダービーステークスを逃げるのは難しい。コースの起伏が激しく、特に上り坂となる前半1000mのペースは70秒台が普通だ。無茶なペースアップをしたほとんどのウマ娘は最後の直線で力尽きる。現在先頭で走っているウマ娘、ルナバラードも例外ではない。

 

《必死に粘るルナバラードとショックトン!しかしダスクユートピアがタッテナムコーナーで2人を捕まえた!先行勢は総崩れ、後ろに控えていたウマ娘達が飛び出してくる!やはりこのバ場でハイペースはキツかったか!タッテナムコーナーを超え、先頭に立つのはダスクユートピア!ダスクユートピアが先頭だ!》

 

 ダスクユートピアが先頭で最後の直線に入り、ルナバラードとショックトンが続く。4番手にコンドルフェザー、そして5番手にオークジャングルという位置。

 ここで観客達は──驚愕の光景を目にする。

 

 

 

 

 

 

 おっと、もう最後の直線ですか。長いようで短い旅だったよ。

 

“ユーちゃんユーちゃん!早速使いましょうや!領域を!”

 

 ふふ、慌てるでねぇや。モチのロンで今から使いますよ。

 意識を集中させる。狙うはゴールただ一点のみ。

 

“さぁさぁさぁ!ご照覧あれ民衆よ!これぞダスクユートピアが誇る至高に到達せし領域!最強の証明!”

 

 ゴールを見据えて──私の全身の細胞が躍動する。久しぶりですねぇこの感覚。さぁて、走りましょうや。

 

 

領 域

 

 

The KING of Eclipse

 

 

 イヤッホォォォウ!爆走爆走超爆走!全員置き去りにしてやるぜぇぇぇ!

 

《ダスクユートピアが飛び出した!最後の直線でダスクユートピアが差を広げていく!コンドルフェザーとオークジャングルも上がって行く!ダスクユートピアを追走する!》

「ち、ちょっと、待って……!」

「いくらなんでも、速すぎ……っ」

 

 後ろからなんか聞こえるけど気にしねぇ!最高にハイってやつだぁぁぁ!

 

《だ、ダスクユートピア突き放す!?ダスクユートピアが後続を突き放す!その差を4バ身、5バ身、6バ身!まだまだ開く!残り400を切ってまだ開く!凄まじい速さで駆け抜けるダスクユートピア!》

《あ、アハハ……これはさすがに速すぎるって》

 

 下り坂を爆走する私!怖くないのかって?アドレナリンが出まくってるから気にしないね!もっともっと突き放してやるよぉ!

 

《後続のウマ娘達は総崩れ!総崩れだ!ダスクユートピア圧倒!他のウマ娘が止まって見える!ハロンごとのタイムどうなってるんだコレ!?残り200を切ってすでにその差は10バ身は開いている!もうどこまで突き放すのか!?》

“きゃー!ユーちゃんカッコいい~!痺れる~!”

 

 へ、そのまま応援しててくださいやお芋さん!その応援も心地いいってもんだぁ!

 その後も決して差は縮まることはなく。むしろ差をつけて──私はゴール板を駆け抜けた。

 

《ダスクユートピア独走ゥゥゥ!圧巻の走り!圧倒的な強さ!これがダスクユートピア本来の力なのか!?ダービーステークスでなんとなんと大差勝ち!その差は推定18バ身差!シャーガー以来の大差勝ちです!》

 

 うげっへぇ……どっと疲れた。いつもよりかな~り疲れたよ。てかテンションが上がるせいもあるだろうな、これ。

 

《ダスクユートピア、これで二冠達成!最後の三冠目をかけた舞台、セントレジャーステークスではどのような走りを見せてくれるのか!?なにより、最早伝説は秒読み段階だ!ニジンスキー以来の快挙に向けて、日本のウマ娘が突き進む!》

 

 イエ~イ、みんな見てる~?私勝ったよ~。おや?南雲がなんか青い顔してますね。んも~、レースの度に顔を青くしないでくださいよ~。ポンポン痛いんですか?

*1
約2420m




ユーちゃん

領域を使うとハイになる。ダービーステークスで大差勝ちするバケモン。

お芋さん

久しぶりの領域に大興奮。

南雲トレーナー

きょうもそらがあおいなぁ(曇り)

世間

ダスクユートピアSUGEEEEEE!

次回は日本の様子。
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