家は没落しましたが私は元気です   作:カニ漁船

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日本での様子。そしてちょっと関りが示唆されていたあの2人。


日本で観戦

 日本はすでに夜。そろそろ消灯時間が迫ってきているという中で、ある希望者達は講堂に集まっていた。

 

「まもなくダービーステークス、英国ダービーの時間だッ!たづな、映像はしっかりと繋げられるだろうな!」

「勿論です理事長。今映し出しますね」

 

 大きなプロジェクターとスクリーンを用意して、画面いっぱいにエプソムレース場が映し出される。講堂内からおぉ、という声が上がった。

 今回、希望者を集ってエプソムレース場で開催されるダービーステークスを観戦しよう!という催しが秋川やよいによって発案された。希望者は講堂でダービーステークスを観戦、今回ばかりは理事長特権で寮の門限も無視される。

 準備が進められる中、大画面のスクリーンに映像が映し出される。エプソムレース場の景色だった。

 

「しっかりと映っているな!……おぉっ!見ろたづな!丁度ユートピアが映っているぞ!」

「本当ですね。あちらでは1番人気……やはり2000ギニーを制したのが大きいかと」

「まさか日本のウマ娘が、向こうのダービーで1番人気になるなど……感涙の極みッ!」

 

 やよいはユートピアの勇姿を余すことなく焼き付けるように、スクリーンに釘付けだ。たづなも同じように、視線をそらさずスクリーンを凝視している。

 

「理事長達凄い張り切ってるね~カイチョー。まぁダービーって特別な称号だし当然かぁ」

 

 今回観戦しに来たトウカイテイオーは隣に座るシンボリルドルフに話しかけるが……シンボリルドルフの反応は薄かった。

 訝し気な目をしつつ、トウカイテイオーは再度シンボリルドルフへと話しかける。

 

「カイチョー?」

「っ、あ、あぁすまないテイオー。どうかしたのか?」

「いや……なんだかボーっとしてたけど何かあったの?」

「……」

 

 シンボリルドルフは、さてどうしたものか、と思案する。話題を逸らすことも考えたが、トウカイテイオー相手に通用するとは思えない。なにより良心が痛む。

 悩んだ末に出した結論は、正直に話すことだった。

 

「実は、ダスクユートピアとは既知の仲……というわけではないな。こちらが一方的に知っているだけ、か」

 

 シンボリルドルフはダスクユートピアについて知っている。その情報にトウカイテイオーは驚いた。接点はないとばかり思っていたから。

 

「え、そうなの!?」

「あぁ。直接会ったわけではないが」

「ふ~ん……ボクはあんまり知らないや。ニュースであの子の両親が捕まったのは知ってるけど」

「そうか。まぁ、お世辞にも良い一族とは言えないからね」

 

 シンボリルドルフがダスクユートピアについて語ろうとしていた、そんな時だった。

 

「アイツの噂は、シンボリ家でも有名だったからな。なにより、ダスク家とシンボリ家には交流があった。私らが知ってるのも当然、ってわけだ」

 

 2人の会話に割って入るように、シリウスシンボリがやってくる。不機嫌そうにどかっ、と席に座った。

 

「シリウスも知ってるんだ。へ~……なんか機嫌悪そうだけどどうしたの?」

「別に。なんでもねぇよ」

「まぁ……ダスク家のことを考えたら、君が不機嫌になるのも仕方ないか」

 

 不機嫌さを隠そうとしないシリウスの態度に、ルドルフは苦笑いを浮かべる。この2人はダスク家の業について知っている。シリウスの態度も当然だった。

 

「ま、アイツが頭角を現してきた頃は、すでにダスク家自体が業界でタブー視されていたからな。私達も噂程度しか知らねぇ」

「あぁ。ダスク家に生まれた最後の希望……全ての頂点に立つウマ娘。そんな触れ込みだった」

「へ~……、2000ギニーの強さを見たら、間違いじゃないかも」

 

 トウカイテイオーはダスクユートピアが制した2000ギニーを映像で見たことがある。あまりの強さに戦慄したのを思い出した。本場の相手に、一度も走ったことがない地で、6バ身差を叩き出したウマ娘。驚かない方が無理だろう。トウカイテイオーがダービーステークスの観戦に来たのも、ダスクユートピアの強さを観るためだった。

 もっとも、ルドルフとシリウスは()()()()がありそうだが。

 

「彼女は一体、何を成そうとしているのか……」

「ハッ、あんなろくでもねぇ一族のために、今更結果を出そうとしているもの好きだろ……アイツも、被害者みたいなもんかもしれねぇな」

 

 シンボリルドルフもシリウスシンボリも、映像のダスクユートピアに憐憫の眼差しを向ける。まもなく発走の時を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 レースが始まり、日本で観戦しているメンバーは盛り上がっている。ダスクユートピアは多少出遅れたものの、何とか中団につけることができていた。

 

「なんかペース遅くない?これ本当にダービーなの?」

「ハッ、おこちゃまが。これはエプソムレース場のコースに秘密があるんだよ」

「ムカっ!子ども扱いしないでよ!」

「そういうとこがおこちゃまなんだよ」

 

 納得がいってないテイオーにシリウスが丁寧に説明する。

 

「エプソムレース場は起伏の激しいコースだ。その高低差は約40mとも言われている。加えて、前半は上り坂だ。無茶にペースを上げようもんなら速攻で潰れる」

「よ、40m!?ピエェ……」

「これでも例年より速いペースだ。実況も、ハイペースって言ってるからな」

 

 レースを静かに見守るシリウス。彼女の視線は、ダスクユートピアに注がれていた。

 

「おそらくだが、ダスクユートピアを警戒しているからだろう」

「あぁ。彼女を自由にさせたら不味いというのは、2000ギニーで植え付けられた共通認識だ……もっとも、それを察した彼女は中団でレースを進めているが」

「レースIQも高ぇ、それとも天性の勘ってヤツか?出遅れもわざとだろうな」

 

 ダスクユートピアの出遅れをわざとと認識するシリウス達。まもなくカーブに入ろうとしている時、トウカイテイオーがふと呟いた。

 

「ユートピアって、なんでイギリスのダービーに出走したんだろう?」

 

 何気ない呟き。深い意図はなく、ただ純粋に疑問に思ったのだろう。

 だが、シリウスとルドルフには思い当たる節がある。ダスク家について知っている2人だからこそ、思い当たることが。シリウスは不機嫌に、ルドルフも何とも言えない表情を浮かべる。

 

「え、え?ボク、なんか変なこと言った?」

 

 2人の機嫌を損ねてしまったかと慌てるテイオー。ルドルフが手で制し、こめかみをおさえながら口を開く。

 

「……元来よりダスク家は、海外のレースに注力してきた名家だ。おそらくだが、ダスクユートピアが海外に遠征しているのも、それが理由だろう」

「へ~。ダスク家ってそういう家なんだ。あれ?でも聞いたことないけど」

「当然だ。()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう吐き捨てるシリウス。その目からは、ダスク家に対する軽蔑の感情がこもっていた。

 

「自分達の家のウマ娘を道具のように扱い、海外のレースで勝てなきゃ無価値と切り捨てる……あんな家、潰れて当然だ」

「……シリウス」

「アイツも今までのダスク家のウマ娘と同じだ。今は亡きダスク家のために、必死になって海外で結果を残そうとしている……すでに家はないってのによ」

 

 変わらず憐憫の眼差しを向けるシリウス。未だダスク家に縛られる彼女に、憐みの感情を抱いていた。

 現在先頭に躍り出ようとしているシーン。エプソムレース場の最終コーナー、タッテナムコーナーから最後の直線に向かうところで──観戦していたウマ娘達が総毛立った。

 

「「「ッ!?」」」

 

 視線は一点、スクリーンの映像に注がれる。ダスクユートピアが先頭に立ち──彼女の雰囲気が一変した。

 

「なんだ、アイツは……!?」

「わ、笑ってる?凄い笑顔だけど」

「、っ」

 

 息を呑むテイオー達。笑みを浮かべて走るダスクユートピアに、恐怖の感情を抱いた。次いで、恐ろしい光景を目にすることになる。

 ダスクユートピアは後続を()()()()()()()。それも笑顔で。無邪気な子供のように、無慈悲な蹂躙劇を繰り広げる。

 

「……ハッ。こりゃ、バケモンだな」

「実力が、違い過ぎるな……向こうは本場だというのに」

「何バ身差ついてんだろ、これ」

 

 先程までダスクユートピアの境遇を思い浮かべ、可哀想とも思っていたシリウス達だが、この時ばかりは彼女の強さに魅せられた。圧倒的な暴力によってねじ伏せる姿は、芸術的ともいえる。

 やよいとたづなはお手製のうちわをもって楽しそうに応援している。ルドルフ達以外のウマ娘も、気づけば笑顔で応援していた。

 最終的に、ダスクユートピアは大差をつけてダービーステークスを制した。日本のウマ娘が、歴史的快挙を成し遂げた瞬間である。

 

「祝杯ッ!素晴らしいレースだったな!まさに圧倒ッ!」

「楽しく走れているようで何よりでしたね!」

「すごいすごーい!ユートピアさんってやっぱり滅茶苦茶強かったんだね!」

「理事長理事長!セントレジャーステークスも中継しましょう!」

「無論ッ!中継する予定だ!」

 

 誰もがダスクユートピアの勝利に喜ぶ中、ルドルフ達は浮かない表情を浮かべる。考えているのは、ダスクユートピアのこと。何故彼女が海外遠征をするのか、その理由について。

 

(……彼女は、ダスク家を再興しようとしているのだろうか?これまで散っていった先達のために、彼女らが無駄ではなかったことを証明するために)

(とんでもねぇ呪縛だな。海外で走ることに何の疑問も抱かねぇほどに洗脳されているのか、あるいは)

 

 やはりダスクユートピアはダスク家に縛られているのだろう。それが2人の出した結論だった。

 ……ルドルフ達は知る由もないだろう。まさか当の本人はダスク家に何の未練もなく、実の両親が捕まったことをまるで外部の人間かのような感想を残していることを。イギリスのクラシック三冠を狙う理由が長らく達成者がおらず、よそ者の自分が取ったら面白いんじゃね?というものすごく軽い理由で向かったことも、海外遠征自体何となくで決めていることを。そしてトレーナーは完全な被害者であることを。ルドルフ達が知るはずもない。

 ダスクユートピアが図太い感性の持ち主であることなど露知らず、ルドルフ達は拳を強く握っていた。

 

「やっぱ、ダスク家ってのはろくでもねぇな。捕まって尚、自分達の娘に呪いを残すってか?」

「……同感だ、シリウス」

「え?そうなの?……ボクにはとてもそうに見えないけどなぁ」

 

 何かに燃えているシリウスとルドルフをよそに、テイオーはダービーステークスを勝ったダスクユートピアに祝福の言葉を贈っていた。

 

 

 

 

 

 

 へっくしょい!う~ん、どこかで噂されてますかね、私。にしても、出走した子達が私を信じられないような目で見てますね。

 

“うっひょ~!久しぶりの領域!最&高!”

 

 へ、お芋さんのテンションもマックスでなによりでっせ。あ、他の子達は私を睨みつけてどっか行っちゃった。ま~折れてはいないみたいで。

 それにしても、今日のご飯は豪勢にいきましょう!ポテトサラダに~フライドポテトに~ジャガイモをたくさん使ったコロッケを所望しますよ!デザートには勿論大学芋にスイートポテト!お芋パラダイスですお芋パラダイス!いやっふ~!

 

「『おめでとうございますダスクユートピアさん!』」

「『ありがとうございます。今夜は豪勢に食べますよ』」

「『ほほう!何を食べるか聞いても?』」

「『お芋パラダイスです!ポテサラにフライドポテト、コロッケに大学芋!スイートポテトが楽しみですね~!』」

「は?」

 

 帰ったらお芋パラダイスですよ南雲!よろしく頼みましたよ!




ユーちゃん

今日はお芋パラダイスだ!

お芋さん

領域サイコー!ユーちゃんサイコー!お前らもユーちゃんサイコーといいなさい!

南雲トレーナー

きょうも いが いたくなる

シンボリルドルフ

ダスク家について知ってる。ダスクユートピアを被害者と思っているが当の本人はアレ。

シリウスシンボリ

上に同じく。ダスクユートピアに憐憫の眼差しを向けるが当の本人は超お気楽。

トウカイテイオー

笑顔で走ってるのあれテンション上がってるだけじゃないの?と感づいたウマ娘。賢いねぇ。
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