家は没落しましたが私は元気です   作:カニ漁船

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ちょっと神妙に始まる話し合い。


説得されたった

「なぁユートピア、もう止めにしないか?」

「……」

 

 険しい顔でダスクユートピアに話しかける南雲。沈痛な面持ちであり、なにかがあったことは誰の目から見ても分かるだろう。

 対するダスクユートピアは……南雲の言っていることが分からない、といった表情。何故そんなことを言うのか?理解できない表情だった。

 現在南雲は窮地に立たされている。だからこそ、ダスクユートピアを最大限刺激しないようにしていた。

 

「この前のダービーステークス、ありゃ確かに凄かった。俺も思わず乾いた笑いが出ちまったよ」

「ほう、そうですか」

「お前は本当に凄いウマ娘だ。きっと、三冠だって夢じゃないしこれから先も順調に勝てるだろうって確信している」

「いや~嬉しいですねぇ。そこまで言ってくれるなんて」

「本心だからな。生憎と、お前が負ける姿が想像できねぇ」

 

 険しい表情から一転、今度はダスクユートピアを褒め始める南雲。一切嘘を含んでいない、心からダスクユートピアのことを褒めている。ダスクユートピアも、南雲に褒められてご満悦といった様子だった。

 

「トレーニングだって怠らねぇ、まるで生活の一部のようにやっている。無自覚かもしれないが、本当は凄いことなんだぜ?」

「そうですかね?小さい頃からそうだったのであまり実感がわきませんね」

「い~や、凄いことさ。もっと誇ってもいい。よっ!努力を怠らない天才ウマ娘!お芋大将!」

「それほどでも~」

 

 お芋大将が何のことかは分からないが、ダスクユートピアとしては誉め言葉なのだろう。なんなら一番嬉しそうにしていた。

 ──ここからが本題だ。そう言わんばかりに南雲の表情が厳しいものに変わる。

 

「ただ、ユートピア。俺はお前が大切なんだ」

「……ほう?」

 

 そう切り出す南雲。

 

「次のエクリプスステークスはシニア級との対決だ。まぁ……現状強い相手はコンドルフェザーぐらいなんだが」

「いや、その子クラシック級でしょうよ」

「あぁ。だからエクリプスステークスは問題ない。問題なのは、キングジョージの方だ。こっちはシニアの強豪達がすでに出走を表明しているからな」

 

 南雲は淡々と話しを進めていく。ダスクユートピアの神経を逆なでしないように、慎重に言葉を選んで諭そうとしていた。

 

「勿論、お前が負けるとは微塵も思ってない。きっと勝てるだろう」

「……」

「ただな?もう少し、その、なんというか……抑えてもいいと思うんだ」

 

 言葉を濁す南雲。ダスクユートピアはジッと南雲を見つめるだけで何も言わない。ただ、目だけで訴えていた。私の意思は揺らがないと。

 

「最適なレースローテというのもある。最近は取材にも引っ張りだこだしな!取材以外にも、ファッション誌とか旅レポとか!色々な企画が出てきた「南雲」な、なんだ?」

「……」

 

 南雲の言葉を途中で止め、ダスクユートピアは静かに告げる。

 

「もうここまで来たら突き進むしかないんですよ」

「っ!」

「あなただって分かってるでしょう?もう無駄なんだって」

「け、けど……」

「往生際が悪いですねぇ……良いからさっさと選んでください」

 

 ダスクユートピアは2枚の紙を掲げ、南雲に突きつける。紙に書かれているのは──レース名。

 

トラヴァーズステークスインターナショナルステークス。どっちが良いか早く選んでくださいよ」

「どっちもいやだぁぁぁぁぁ!」

 

 南雲、魂の咆哮。そう、ダスクユートピアはさらにレースを増やそうとしていたのである。

 

 

 

 

 

 

 コイツ……!本当にコイツ!なんでさらにレース増やそうとしてんだよ!

 

「てかトラヴァーズステークスはアメリカだろうが!今から渡米するってのか!?また欧州帰ってくんのに!?」

「ほら、クラシック限定レースだしプレミア感高いですよ?」

「そういう問題じゃねぇんだよ!」

 

 なんでさらにレース増やそうとしてんだよ!エクリプスステークスにキングジョージ!シニア級とのレースが控えているってのに、さらにレース増やすのかよコイツは!

 いや、別に負けるとは微塵も思ってない。ダービーステークスの大差勝ちを見て負けるなんて思うわけがないだろう。じゃあなんでどっちにも出走したくないかって?決まってんだろ!

 

(コイツの場合、どっちに出走しても勝つから嫌なんだよ!勝ったらさらに目立つだろうが!)

 

 怪我?生憎とこいつは健康体そのものだし、なにより無茶なんてしたことがない。疲労も残さないし、怪我に繋がるようなものはないと言っていいだろう。7月にエクリプスステークスとキングジョージを走る。そこから8月にトラヴァーズかインターナショナルステークスを走るってなっても、コイツは怪我1つせずに完走することができるだろう。断言してもいい。

 けど、そうなると俺がさらに目立つんだよ!ただでさえダービーステークスで注目度がさらに爆上がりしたってのに!

 

(俺がどんなに否定しても、好意的に取られちまう!日本人特有の謙遜、謙虚な姿勢もまた名トレーナーの証みたいな扱いをされる!)

 

 止めてくれ……!俺本当になんもできないから!普通のトレーナーだからマジで!ユートピアが凄いだけだから!

 目の前にいるユートピアはというと。

 

「ほらほら、早く選んでくださいよ。トラヴァーズがインターナショナルか」

「うぐっ……」

「早くしないとどっちにも出走しますよ」

「日程が近いから無理だろ……」

 

 こっちの気も知らないでよぉ!これ以上有名になりたくねぇんだよ俺は!慎ましやかに生きたかったのに、どうしてこうなった!?

 いったん頭の中を整理しよう。とりあえずこの窮地を脱するための策を考えるが、ふとユートピアのことが頭に浮かんだ。

 

(でも、不思議だよなこいつも)

 

 乱暴な言葉を使っているが、悪いとは思っている。だって、ユートピアから悪意の類は一切感じないのだから。

 最初こそ、俺が困っている姿を見て悦に浸っているのだろうか?と思う時もあった。けど、出走するレースを決める時のコイツからは俺に対する悪意は一切感じない。本当に出たいレースに出てるだけ、というかそんな感じがするのだ。

 

(俺がどんなに嫌がっても出走することを曲げないし、困っているのも確かだ。でも……)

 

 悪意は一切ないんだよなぁ……ユートピアは。乱暴な言葉遣いになるのがちょっと申し訳なく感じるぐらいには。

 

「んで?どっちに出走します?ハリーハリーハリー!」

「分かった分かった!今決めるよ!もうちょっと待て!」

 

 コイツ本当に悪意はないんだよな?信じていいんだよな?

 

インターナショナルステークス!インターナショナルステークスだ!トラヴァーズステークスに出走するよかマシだろ!」

「はい言質取った。んじゃ、出走登録よろよろ~」

「コイツ……ッ!」

「あ、後今日はいももちでお願いしますよ。い~もいもいも~」

 

 本当に悪意ないんだろうなぁ!?

 

 

 

 

 

 

 こうして私はインターナショナルステークスへの出走権を勝ち取ったぜベイベー。

 

“にしても、本当に色んなレースに出走するねぇ”

 

 そりゃあねお芋さん。出れるレースには出ないと。7月には2つもレースに出るわけだし、ついでに8月のインターナショナルステークスに出てもいいじゃないですか。

 

“本当にそれだけ~?”

 

 ま~後はアレですね。南雲が有名になりたいって言ってたんで。口ではああ言ってますが、あればあるだけいいって言ってましたからね!私が勝てばそれだけ有名になる。私はレースに出走できる。おっと、完璧なWin-Winが完成しちまったな~?

 後、南雲料理上手いからね。毎日ポテト料理が楽しみですよ。

 

「レースで勝てば、富も名声も手にすることができますからね。もっともっと頑張らねば」

“富は微妙なとこだけどね~。でも、最近はお仕事なんかも増えてきたからウハウハなんじゃない?”

 

 おぉ、そういえばそうでした。ダービーステークス後、私の名声はとどまることを知らず!どんどんこっちでのお仕事が増えてきたんですよ!いや~、最新モデルを使わせてもらえるのって神!ありがたみ~。

 

「ただ、芋を所望したら全員可哀想な顔で見てくるんですよね。なんでですかね?」

“全く嘆かわしい!ポテトは全食物の頂点に立つ食べ物であるというのに!何が不満なんだい!”

「そうだそうだ!お芋最高!煮てよし、焼いてよし、潰してよし!最高の食物です!」

“分かってるねユーちゃん!そうそう、ポテトは最高の食べ物なんだよ!”

 

 そろそろ農業関係、しいて言うならお芋のお仕事待ってますよ。私、即オファー受けちゃいますよ。楽しみに待ってまーす!




ユーちゃん

これは、お前が始めた物語だろ?それはそれとして農業関係の仕事は絶賛募集中。

お芋さん

ポテトは神の食材です。お前もポテトを食べないか?

南雲トレーナー

悪意がないことは分かっているが、それとこれとは話が別。
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