家は没落しましたが私は元気です   作:カニ漁船

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トレーニング公開したった

 欧州に遠征して、ユートピアさんと一緒にトレーニングをして分かったことがある。

 

「ハァ……っ、ハァ……っ!」

「ちょい休憩します?慣れない芝じゃ大変でしょカフェさんや」

“あんま無理しないでよ~。倒れでもしたらこっちも迷惑だし”

「お芋さんや。そう言ってやるもんじゃありませんよ」

 

 ユートピアさんが、規格外のバケモノであるということです……!

 日本で走って、春の天皇賞を制しました。トレーナーさんは、私をステイヤーといってましたし、私自身ステイヤーだと判断している。でも、こっちの芝はとにかく日本の芝と違って走りにくい。慣れるまでに相当の時間がかかりそうでした。

 でも、ユートピアさんは……全く苦にしていない。全然余裕そうにしている。シニア級のこっちが息も上がるほどのトレーニングをしているというのに……まだクラシック級のユートピアさんは、余裕とばかりにこなしている!

 

“どどど、どうなってんの?全然苦にしてないじゃん”

“当然でしょ?だってユーちゃんだよオトモダチ”

“……それ理由になってる?”

 

 ユートピアさんとのトレーニングは、地道な基礎トレ。特別なことは何もしない、基本的な動作をひたすら反復するだけの作業。

 

(けど、それゆえに……どんなトレーニングよりも厳しい……!)

「全ての道は基礎に通ずる。基礎こそ正義isジャスティス」

「……同じ意味では?」

「ま、そうだね~」

 

 こうして冗談を言うぐらいには余裕を見せているユートピアさん。底なしですか、彼女のスタミナは。

 何故彼女がここまでのスタミナを保持しているのか、考えてみるが……思い当たることは1つしかなかった。

 

(……ダスク家の闇、ですか)

 

 ダスク家、黄昏一族の犠牲者であるユートピアさん。これだけのスタミナも、幼い頃から黄昏一族によって鍛え上げられたものだと思うと……素直に喜べません。飄々とした態度の裏にも、私達では計り知れないような、どす黒い闇を抱えていると思うと……とても、痛ましく見えます。

 

(分からない……ユートピアさんが何を考え、何故走るのか?)

 

 ウマ娘は走るのが好きです。深い理由なんてないのかもしれない。でも、それでも……何かあるんじゃないかと、勘ぐってしまう。

 

「南雲~。芋でスムージー作って~」

「なんでトレーニング終わりにスムージーなんて飲めるんだよお前は。つか芋のスムージーってなんだよ」

「知らな~い。でもなんとかなるんじゃない?」

「……とりあえず紅はるかとかそっち方面で作ってみるか」

 

 ユートピアさんは芋が大好きみたいです。どんな高級食材よりも芋が好き。その理由もきっと、黄昏一族が原因だったら……。

 

“カフェ、あの幸せそうな表情だとそれはないと思うよ?”

「でも、可能性としては、あるかもしれないから」

“うん、落ち着いてね?ただ単に好きなだけかもしれないからね?”

 

 ユートピアさん。あなたは一体、何を考えているのでしょうか?きっと、私達では分からないような、深いことを……考えているのでしょうか。

 

(いつかきっと、ユートピアさんが本当に解放される日は……来るのでしょうか?)

 

 黄昏一族の呪縛から、お家の宿命から逃れることは、できるのでしょうか?

 ……いえ、今考えるべきことではありませんね。

 

「ユートピアさん。もう、大丈夫です。トレーニングを再開しましょう」

「あ、そう?んじゃ、レッツラゴー」

“ゴーゴー!気合入れていっちゃえ~!”

 

 今はただ、彼女に普通に接するだけでいい。ユートピアさんもきっと、それを望んでいるから。凱旋門賞の前走、フォワ賞に向けて、頑張りましょう。

 

 

 

 

 

 

 あ~、めっちゃ芋食いたい。芋のスムージーとか面白そうじゃありません?

 

「イチゴのスムージーとかあるわけだし、さつまいものスムージーもあるんだ。やってみる価値ありますぜ」

「言わんとしたいことは分かる。とりあえずトレーニング終わったら作ってやるから」

「きゃっほう!約束ですよ!」

 

 いえ~い!芋のスムージーだ~い!いーもいもいもいもー!

 にしても、偵察?に来る人が増えてますねぇ。別に面白くもなんともないと思いますけど。

 

「……ここ1週間ずっと基礎トレばっかりだな」

「待て。注意深く観察するんだ。きっと、あのトレーニングに強さの秘密があるのかもしれない」

「少しの隙も見逃さないぞ……お前の強さの秘密を暴いてやる!」

 

 なんか盛り上がってる。ハハ、ワロス。

 にしてもねぇ……全然来ねぇな、農業関係のお仕事。私めっちゃ募集中よ?秒でOK出すくらいには募集中よ?早く私に持ってこい!そして私に芋を食わせろ!ハリーアップ!

 

“そうだそうだー!ファッションのお仕事もユーちゃんの可愛さがアピールできて悪くないけど、畑仕事もよこせー!ポテト栽培させろー!”

 

 そうだそうだー!私に農業関係のお仕事を寄越せー!後ゲームが上手くなる方法も教えろー!いまだにミラ子ちゃんに勝てないぞこんちくしょー!

 

“それはユーちゃんがなんとかするしかないんじゃないかな?”

 

 急に真顔になるじゃんお芋さん。その通りなんだけどさ。

 にしても、偵察の人数が日増しに増えているのは事実。これも南雲が許可していることだからね。別にいいんだけど。

 

(何考えてるんですかねぇ?意味なんてないのに)

 

 私のトレーニングなんてこの基礎トレぐらいしかありませんよ?特別なことなんてなにもしてない、普通の基礎トレですよ。見てもつまらんでしょう。

 ……ま、南雲にも何か考えがあるんでしょう。つっつくのも野暮ってもんですね。そんなことより今日は芋のスムージーですよ!楽しみですねぇ!

 

 

 

 

 

 

 さてさて、今日も沢山の人が見に来ているな。

 

(フッフッフ……その調子でどんどん見に来てくれよ~。そうすれば)

 

 ユートピアのトレーニング風景を見ていれば、俺がなんも関与していないのが分かるんだからなぁ!

 もっと最初からこうしておけばよかった。別に秘密にするようなトレーニングはしてないわけだし、見られて困るようなものもない。地味~な基礎トレをただ繰り返すだけ、すぐに気づくだろう。

 最近俺に対する期待がうなぎのぼりだ。本当に勘弁してほしい。

 

(何が秘密のトレーニングをしてダスクユートピアを強くしている、だよ。ねぇよそんなもん!普通のトレーニングしかしとらんわ!つーか、そもそもアイツは自分でトレーニングやるし!)

 

 だからこそ、ここいらでファンに気づかせる必要がある。俺達がやっているのはただの基礎トレで、皆が望むような特殊なトレーニングなんてものはないのだと!

 もう最近本当に胃が痛い……キングジョージも普通に勝ったし、インターナショナルステークスも勝つだろうし。セントレジャーも凱旋門賞も勝つだろう。それだけの実力がユートピアにはある。けど忘れることなかれ。これはダスクユートピアが元々持っていた力であり、俺の手腕など何も関係していないのだ。

 

(天才がその才能をいかんなく発揮しているだけ……俺の力なんてないに等しい)

 

 しいて言うならアイツに芋料理を作ってやってるぐらいだ。それぐらいしかやってない。トレーナーの腕関係ないんだよ。

 でもマスコミ共は面白がって好きに書きやがる。やれ俺は謙虚なトレーナーだの素晴らしいトレーナーだの。

 止めてくれ俺に期待すんのは!ただ名声と実績が欲しかっただけのクズなんです!だからお願い、俺にこれ以上何かを期待しないでくれ!頼むから本当に!

 

(黒木先輩も見直したーとか、お前は凄い奴だと思っていたよーとか褒めてくるんだよ……辛いんだよ普通に。なんか騙してるみたいで)

 

 めんどくさがりなのはなんも変わってないんすよ黒木先輩。アイツが凄いだけで、俺はただおんぶにだっこなだけなんですよ。それに気づいてください。

 ま、まぁ?それもここまでだ!

 

(この基礎トレを見続けていれば気づくはずだ!マスコミだってバカじゃないんだから!)

 

 基礎トレだけをしているユートピアの姿を見て、マスコミたちも分かるだろう!俺にはなんもないってな。ふっふっふ、この先が楽しみだぜ……!

 

(……ついでに俺の鬼畜とかいう評価もなんとかならねぇかな)

 

 やれ俺がダスクユートピアを海外に連れ出すクソ野郎だの、G1レースを走らせて名声を稼ごうとしているクズだの色々と言われているのは知っている。うん、自分がクズでクソ野郎なのは否定しないけど、ダスクユートピアに対する扱いで言われるのは心外だよ。連れ出されてんのは俺だよ。G1レースに出走したいって言ってんのもアイツだよ。俺なんも関係してねぇよ。

 この評価も改まってくれねぇかな……

 

「……まぁ無理だろうなぁ」

 

 ある種の諦観を抱きつつ、ユートピアとマンハッタンカフェのトレーニングを黒木先輩と一緒に見守っていた。




ユーちゃん

1年中芋のことばっか考えてる。

お芋さん

芋とユーちゃんのことしか考えてない。

カフェ

やはり黄昏一族は悪!滅却する!

お友だち

多分ユートピアそこまで深いこと考えてないと思うよ。

南雲

そろそろハゲの心配をし始めた頃合い。
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