「今私と目が合ったな?これで貴方とも縁ができた」
「はっ?」
開口一番変なウマ娘から言われた。いや、見た目が変とかじゃなく初対面の相手に対してどこぞの戦隊レッドみたいなことを言うもんだから変なウマ娘で間違いないだろう。てか、そもそも彼女はなにをやっていたんだ?いつの間にできたんだこの農園は。
「今から面接をさせてもらおう。連れていくけどいいよね?」
「……ちょっと待って。なにがなんだか「答えは聞いてない!」本当に待って!?」
栗毛のウマ娘に連れて行かれるまま、俺──南雲龍一は面接とやらに付き合うことになる。何なんだこのウマ娘は……。
彼女に連れてこられたのは空き教室の1つ。机をくっつけてスタンドライトをつけられて……おい、これ取り調べスタイルじゃねぇか。
「さて、早速面接ですが……あ、その前にタルト食べます?さっき買ったんですけど、芋のタルト以外なら食べていいですよ」
「いやいや、今から面接ってのをするんじゃないの?というかなんで俺?」
「最初に通りかかったのがあなた……別に深い意味はありませんよ。たまたまあなたが通りかかったからです」
「言い直した意味あった?」
ほとんど変わってないじゃん。はぁ、学園には変わったウマ娘がいるって研修の時に先輩トレーナーから教わったけど、まさか自分の身で体験することになるなんて。こういう時は流されるままが大事だって言ってたな。機嫌を損ねようものなら大変だし。
そして始まる彼女との面接。どんな質問が来ても驚かないぞ。平常心を保て俺。目の前の子タルト食べてるけど。てか食べ方綺麗だなおい。
「さて、まずは最初の質問。あなたに担当ウマ娘はいますか?」
「いないよ。そろそろ担当をもてってせっつかれるぐらいだし」
これは先輩の言葉だ。軽く言ってくれるけど、そもそもスカウトが成功しないというか、断られたら怖いじゃん?
「ふむ、ウマ娘を担当した経験はなしと都合がいいですね」
「今すっごい小さい声で何か言わなかった?」
「気のせいですよ。では次の質問……え~っと、担当ウマ娘は欲しいですか?」
「まぁ……そりゃ欲しいかな」
じゃないとトレーナーになった意味がないし。じゃあ行動に移せと言われたらその通りだし耳が痛い。でもいざとなると腰があげられない……あると思います。それじゃダメなことは分かってるんだけどなぁ、どうしても動かない時はある。本当に追い詰められたらちゃんとやるけど。
「ふむふむ。担当したいウマ娘なんかはいますか?」
「どうかなぁ……近々開催される選抜レースで良い子がいたらって考えてる」
というかこの子は選抜レースに出走しないのだろうか?もしかして自分の実力に自信がないとか?この子のことよく分からないから何も言えないけど。
「さてさて、ぶっちゃけ名声は欲しいですか?」
「めっちゃ欲しい」
……ハッ!?しまった、内なる欲望が漏れてしまった!
いやね、言い訳をさせて欲しい。そりゃ担当第一なのは分かるよ?凄く分かるし、トレーナーとして当然なのも理解している。
でも、それはそれとしてチヤホヤはされたいじゃん?やっぱり人に褒められたら嬉しいし、承認欲求満たしたいじゃん?だから悪くはないと思うんですよ。名声が欲しいというトレーナーがいたってさ!ちょっとはモテたいな~と思ってもさ!俺は悪くねぇ、俺は悪くねぇっ!
けど、それがこの子にバラされたらおじゃんだ!これから先のトレーナー生活に支障が出る。上手い言い訳を考えないと……!
「ち、違うんだ!今のは」
「ほうほう、名声は欲しい野心家と」
「だ、大丈夫だ!名声のためにウマ娘を道具として使うなんて論外!あくまで常識の範囲、常識の範囲でね?お互い頑張っていって、その果てに有名になれたらな~なんて」
「実績はあればあるだけいいですか?」
「それは勿論」
……グッバイ俺のトレーナー生活。反射的に答えてしまったよもう。
「ただ、ウマ娘に無理をさせるつもりはないと?」
「……それはそうだよ。だって、怪我でもさせちゃったら大変じゃないか」
その子は一生を棒に振るかもしれないし、俺としても我慢ならない。だから怪我なんて論外、絶対安全の精神で行かないと。
「ウマ娘に怪我をさせたくないという精神はすばら。花丸をプレゼントしましょう」
「あぁ、うん……ありがとう」
だからなんだ?って話なんだけどこっちは。本当になんなんだこの子は。
「ところであなた、料理はできる方で?」
なんだその質問。もう疲れたから解放して欲しいよ……。にしても料理か。
「まぁ……趣味でやるぐらいだしそれなりには。お菓子作りも好きだね」
「採用で」
「はっ?」
急に立ち上がってまた手を掴んできたなこの子。凄いアグレッシブだな本当に!
「おめでとうございます。あなたにこの私を担当する権利をあげましょう」
「そんなオ〇ーナを買う権利みたいに言われても……」
「おや、何かご不満でも?」
不満しかねぇよ!この子がどんな子かも知らないし、勝手に連行されただけだし!なんでそんな子を担当しなきゃいけないんだよ!こっちから拒否するわ!
いや、一体何が悪かったのか……みたいな表情してんじゃねぇよ!今ので担当する気になるのなんてそれこそ頭のイカれてるヤツしかいねぇよ!何もかも悪いわ!
「……もしや、私の実力に不安を抱いているわけですね?」
「は?いやそれ以前に「ま~仕方ありません。あなたはウマ娘をスカウトする努力を怠る癖に名声は欲しい野心家なのですから」人聞きが悪いな本当に!喧嘩売ってんのか!?」
ちゃんと努力してるわ!俺の何を知ってんだよお前は!
「ま、冗談というヤツですよご友人。ですがご安心を」
「誰がご友人だ。てか安心って?」
いつの間にか手を握るのを止め、彼女は扉へ手をかける。去り際に、俺に一言。
「次の選抜レースで私の強さを見せましょう。スカウトの件は、その後にでも」
名前も知らない栗毛のウマ娘は去っていった……なんだったんだ、本当。というか、学園の生徒にあんな子いたのか。つーか、強さを見せるって。
(よっぽど自信があるようだけど、滅茶苦茶強くないとスカウトなんてしないぞ!)
そう固く決める俺であった。とりあえず空き教室を綺麗に……って、あの子ちゃんと綺麗にして帰ってるな。というか食べかすも落ちてない。ずっとタルト食べてたのに。
そして選抜レースはというと。あの子は走っていた──とんでもない強さを見せつけて。
《ダスクユートピア独走、ダスクユートピア独走!なんとなんと後続に10バ身以上の差をつけて走っている!凄まじい才能、これほどの逸材!ダスクユートピア、圧勝ゴールイン!》
え、強くね?大差をつけて勝ったんだけどあの子。マジで強いじゃん。序盤からずっと先頭で逃げ続けて、影すら踏ませてないんですけど。他の子が可哀想になるくらいの強さじゃん。1人だけデビュー済みって言われても信じるぞこれ。そりゃあんだけ自信満々な言葉を口にできるよ。てかあんだけ強かったら俺が担当できるわけ「おや、来ていましたか」え?待って、なんで俺のとこに来てんの君?
「どうです、私を担当する気になりましたか?」
強い意志の籠った目で俺を見つめる彼女、ダスクユートピア。どこか
「なんで、俺なんだ?それこそ有名なトレーナーは他にもいるだろ?」
「ふむ、
後ろからの恨みがましい視線に耐えながら、俺は彼女の答えを待つ。
「この前言ったでしょう?スカウトの件は、選抜レースの後にでも、と。約束を反故にするわけにはいきませんし」
「……それだけなのか?」
「後はそうですねぇ……名声が欲しいんでしたよね?」
いや、ここでそれは止めてくれないだろうか?あぁもうどうでもいいか。最低限周りに聞こえないように言ってくれたし。
「私があなたを有名にしましょう。なので、あなたは文句を言わずについてきてください」
「……はは」
思わず渇いた笑いが出てくる。何て傲慢な物言いだよ。だけど、気づけば口角が吊り上がる。彼女の手をとって、答える。
「良いぜ、どこまでだって付き合ってやるよ」
「──ふむ、これで契約成立というヤツですね。これからよろしくお願いしますよ。え~っと」
「南雲。南雲龍一だ。これからよろしくな、ダスクユートピア」
「えぇ、よろしくお願いしますね南雲」
こうして、俺はダスクユートピアと契約することになった。俺にとって、初めて担当することになるウマ娘。見放されないように気をつけないといけない……それでも、最低限やれればいいかな。
だが、この時の俺は知らなかったんだ。俺は比喩抜きでどこまでも付き合わされることに。そして彼女がどんなウマ娘だったのか、なんで彼女の名前に聞き覚えがあったのか……俺は忘れていたんだ。もし、過去の自分に会えたら何をしたい?という質問に対して俺はこう答えるだろう。
「血迷ってんじゃねぇとぶん殴ってやりたい」
──と。
◇
よっしゃ、これでトレーナーGETだぜ。
“しっかし、あんなので大丈夫ですかねぇ?”
「大丈夫だよお芋さん。あの人はおそらく……極力頑張りたくない人だ」
“そーれは分かってますよ。だから心配なので”
チッチッチ。それが重要なんですよお芋さんや。
「極力頑張りたくないけど、いざという時……追い詰められた時は頑張るタイプだよあの人は」
“あ~、追い詰められてから本気を出すタイプっていますよね”
「そう。こっちの要求はある程度飲んでくれるだろうし、なにより自由がきく。後は、できるだけ負い目を作りたくないタイプだ。無茶なことは要求しないだろうね。それに、あれだけ言ったんだから見放すなんてことはしないでしょう」
“ま、ヘタレっぽいしね~。ユーちゃんを見放すようなことはしないでしょう”
それに、私は
「言質は取りました。これで私はどのレースにも出走可能ってことです!」
“ヒュー!ユーちゃん素敵!抱いて!”
へへ、そう褒めるなよお芋さん。
“ところで契約の決め手になったのは?”
「あの人料理できるじゃないですか。だからポテトスイーツやポテト料理を作ってもらう係です」
“グッジョブユーちゃん!あんたが大将!”
ぶっちゃけ名声が欲しいとかどうでもいいんですよ。私にとって重要なのは彼が料理ができるという点!その一点のみで契約を迫りましたからね!ウヘヘ、これでポテパラですよポテパラ!
ユーちゃん
決まり手 料理が作れること。夏休みの宿題は最初の方で終わらせるタイプ。
お芋さん
決まり手 ユーちゃんが決めたから。夏休みの宿題?なにそれ?
南雲トレーナー
決まり手 ユーちゃんの圧倒的強さ。犠牲者。極力頑張りたくはないけどいざという時は本気出す。夏休みの宿題を夏休み最終日にとりかかるタイプ。