その日は、とても珍しいことが起きました。
“ッ!?……ッ!ッ!”
「ど、どうしたの?そんなに怯えて」
珍しく、お友だちが何かに怯えた様子を見せます。いつもはそんなことないのに、とても怯えていました。
“や、ヤバ……ヤババ……ッ!”
「本当に、どうしたの?なにが、そんなに怖いの?」
お友だちは、震える指先でナニカを指差す。その方向には──
「お~いも~、お~いも~。た~っぷり~、お~いも~」
“ほ~らほら、元気に育つんですよ~”
あまり見かけたことのない、栗毛のウマ娘。それだけじゃありません。
(お友だちと、似たような子が?)
栗毛のウマ娘に寄り添うように、1人のウマ娘が楽しそうに歌っていました。見た感じ彼女は幽霊。おそらく、栗毛のウマ娘の守護霊のような存在なのでしょう。
「ッ!」
そして、お友だちが何故怯えていたのか。その理由が分かりました。幽霊のウマ娘が放つオーラは──そこいらの霊よりもよっぽど強い……!とても、強力な存在!
(お友だちが怯えるのも、分かります。凄まじいオーラ……悪霊でないことが、これほど良かったことはないでしょう……!)
もし彼女が悪霊ならば、本当にマズいところでした。躊躇しそうになりますが、それでも一歩を踏み出して。
「あ、あの。少し、よろしいですか?」
「──はい?」
栗毛のウマ娘さんに、声をかけました。
少し話してみると、彼女はどうやらダスクユートピアというお名前らしい。ダスク、ですか。
(良い噂を聞かない、あの黄昏一族の子)
もしかしたらこの子も……。
「どしたん?話聞こか?てかLANEやってる?」
「LANEは、やってますが……その、ダスクということは、あなたは、
「そうだよ。そのダスクで合ってる。ま、あんま気にしないで~。お家のこととかどうでもいいし」
明るく言ってますが、やはり心のどこかでは気にしていると思われます。だって、実の両親が……いえ、止めておきましょうか。無理に話を掘り起こすのは、よくありませんから。
“ひゅ、ひゅー、ひゅ~……”
口笛吹けてないよアナタ。本当に珍しい。ここまで怯えるなんて。向こうの守護霊さんは、なんというか、こちらにあまり興味を示してなさそうな感じがします。ただ、ユートピアさんが、会話をするから参加する、くらいの雰囲気。
“へ~、そっちも幽霊か。幽霊仲間じゃん”
「まさか、お芋さんと同じような子がいるとは。よろよろ~」
“よ、ヨロ~”
お芋さん?それがユートピアさんの、守護霊のお名前なのでしょうか?
“僕はポテイトーズ。ま、気軽にお芋さんと呼んでくれていいよ~”
……ゑ?ぽ、ポテイトーズ?ポテイトーズって……
「分かりやすく驚いてるねぇ。ま、お芋さんの本名知ったらそうなるか」
“これくらいで驚いてほしくないんだけどね”
な、なんでポテイトーズさんがユートピアさんに!?なんという衝撃の事実……!
(お友だちも、怯えます!ポテイトーズさんといえば、まさに伝説的存在の1人なのですから!)
“ほ、本能が告げる……!あの人、逆らっちゃダメ……!”
“失礼だねぇ。別に取って食おうなんてしないよ──ユーちゃんに危害を加えなきゃね”
ドスのきいた声に、お友だちは私の背中にっ、ちょ、ちょっと!
「これこれお芋さん。むやみやったら脅しちゃいけませんよ」
“うっ、ごめんよユーちゃん……”
「分かれば良し。すまんねカフェさん、ただま~危害を加える気ないってのは本当だから。そこんとこは安心よ」
「は、はぁ」
まぁ、悪霊の類ではないので信じています。本当に、どういう経緯で憑いたのか謎ですが。
気を取り直して、ユートピアさんとの交流を続けます。話していて分かったのですが、ユートピアさんは、とても良い人でした。
「ところでカフェさん、お芋好きかい?」
「……まぁ、嫌いではありませんが」
“芋は良いですよ!全てを解決してくれる!”
好きな物の話題で盛り上がったり。
「……凄いですね、ユートピアさん。デビューして、すでに3連勝ですか」
「まぁね~。メイクデビューにー、新潟ジュニアにー、デイリージュニアだねぇ」
「すでに、重賞を2つも。おめでとうございます」
“そうだそうだ!ユーちゃんすごかろ~?もっと褒めてもいいんだぞ!ユーちゃん凄い!”ユーちゃんえらい!”
「照れるぜお芋さん」
直近のレースの話題で盛り上がったり。普通に話している分には、とても
「カフェさんはコーヒーねぇ」
「はい。今度、理科準備室に来ませんか?美味しいコーヒーを、淹れましょう」
「やったぜ。タダでコーヒー飲めるじゃん」
私達は、普通の人には見えないものが見える同士、気が合うのかもしれません。
「カフェさんは菊花賞を勝ったわけですか。おめでとうございます」
「えぇ。皐月も、ダービーも出れなかったので。菊花賞で、悔しさは晴らせたかと」
“菊花賞って何~?どんくらい凄いの?”
「最も強いウマ娘が勝つって触れ込みらしいですぜお芋さん」
“へ~。あんま興味ないや”
「せめて興味は持ちましょうぜお芋さん」
「大丈夫ですよ。ありがとうございます」
ユートピアさんとは、仲良くなりました。
「……おっと、もうこんな時間か。帰るとするかね」
「本当、ですね。あっという間に、時間が過ぎました」
「じゃ~ね~カフェさん。縁が《合ったら》、また会おう」
「……LANE、交換してるじゃないですか」
手をひらひらさせて去っていく、ユートピアさん。それにしても、あの子もきっと……被害者なんだろう。
(もしかしたら、心に闇を……抱えているのかもしれない)
“でも、表面上、問題ナシ?”
「そう、だけど。でも、なんというか……掴みどころがない、というか」
“それはあるね。飄々としてた”
ユートピアさんは、雲のような人でした。自分の本心を悟らせないというか、暗い部分を見せないように明るく振舞っているような。そんな感じがします。だって、黄昏一族のウマ娘は、みなさん……。
「大丈夫、でしょうか?」
“う~ん……考えすぎ、だと思うけどね”
そうかも、しれませんが。それはそれとして、仲良くしたいですね、ユートピアさん。
◇
それにしても私の同類がいるなんてね。マンハッタンカフェ、貴様(お芋さんを)見ているな!
「ところで向こうのお芋さんみたいな方はどうしたんですかね?やたら怯えてましたが」
“なんでだろうねぇ。僕には皆目見当もつかないよ”
なんかお芋さんにめっちゃ怯えてたけど、お芋さんは不干渉だからなんかしたとは思えないし。ま~遺伝子レベルでなんかあるんでしょう。今度理科準備室に行きましょう。無料でコーヒーが飲めるぞひゃっほい!
「コーヒーか……コーヒーではないけど、キッチンに入ってたまに飲み物勝手に拝借しましたね」
“そんなこともあったねぇ。追いかけ回されたけど、誰も追いつけなかったし”
「部屋に入れば私の不可侵領域よ」
ま、その後使用人に怒られましたがね!なんでこんなことができるかって?私が優秀だからだよ。ドヤドヤ。
「次のレースは~、ホープフルとやらに出ましょうか。ジュニア級のG1っすよG1」
“G1だろうと関係ないね!ユーちゃんに勝てる子なんていないよ!”
「照れるぜ。次走はどうしようかな~?海外に行くからサウジとかUAEダービー*1に出るのも良いかもしれん」
「……何の話だ?てか1人でなにブツブツ言ってんだよ」
おっと、南雲が帰ってきましたね。えっらいやつれてますけどなんかあったんか?
「えらいやつれてますね。どしたん?話聞こか?」
「なんでチャラ男風なんだよ……理事長とちょっとな」
おっと、理事長とお話でしたか。とても疲れる話だったようで。
「そうだチャンナグモ。ホープフルの登録ヨロ」
「人をカ〇イみたいに呼ぶんじゃねぇ。ホープフルな。はいはい」
「後はサウジかUAE、どっちかのダービーに出たいからどっちか決めて」
「はいはい……ちょっと待て」
あん?どしましたそんな血相を変えて。
「お前ッ!なんで、急に……お前ぇー!」
「おいおい落ち着けよなぐもっち」
「たま〇っちみたいに呼ぶな!なんでいきなり海外戦なんだよ!?」
え、決まってるでしょそんなん。
「ゆくゆくはクラシック三冠に挑むために決まってんでしょ」
「お、お前……ソレ日本じゃなかったのかよ!?」
「え?違いますけど。日本のクラシックなんてあんまり興味ないですし」
頭痛そうに抱えてますね。大丈夫?バ〇ァリン飲む?
「サウジかUAEダービーってことは……まさかアメリカクラシックか!?なんだってそっちに……」
「いや、そっちでもないけど」
「じゃあどこだよ!?サウジダービーとUAEダービーを選ぶならアメリカクラシック三冠だろ!?」
「イギリスクラシック三冠」
おっと、ポカーンとしてますね。ウケる。撮っとこ。パシャリとな。
「お前、お前ぇー!お前お前お前ぇー!」
「イギリスのクラシック走る前に、海外戦の実績が欲しいっしょ?そうなるとこの2つが良いかな~って」
“あっちのジュニア級G1はもう終わっちゃったしね~”
出たかったぜデューハーストステークス。気づいたら終わっちゃってたよ。今からフューチュリティトロフィーも難しいしね。
「だとしても!ダート走る意味はなんだよ!?意味ねぇだろ!」
「んなの決まってるっしょ?ダートも走れるってことをアピっておかないと。いずれは走ることになるんだし」
“そーだそーだ!ユーちゃんの決めたことに文句を言ってんじゃねぇぞ!”
ふらふらした足取りになりましたね。大丈夫?もう休んだ方が良いんじゃないですか?
「とりまイギリスクラシックの登録頼みましたよ?あぁ、登録忘れた~なんて言い訳は通用しませんから。だって……どこまでもついてくると言いましたもんね?」
「ッ!?」
言質取ってるもんねこっちは!やることやってもらいますよ!
「ま~安心してくださいよ南雲。私が勝てるかどうか心配なんでしょう?」
「いや、ちが「私は絶対に負けない。前哨戦が何だろうとな……だからまぁ、大船に乗ったつもりでいてくださいよ。全部勝つんで」そういうことじゃねぇぇぇぇぇぇ!!」
おぉ、南雲っち渾身の叫び。とりま登録頼んましたよ~。
ユーちゃん
ホープフル→UAEダービーorサウジダービー→イギリスクラシックに挑もうとしてる変態。適性迷子。ドゥラエレーデかよ。
お芋さん
ユーちゃん至上主義なので何も言わないしユーちゃん側に回る。
カフェ
初登場。ユーちゃんとはなんだかんだ仲良くやれそう。心配は杞憂に終わってるよ。
お友だち
恐怖心 俺の心に 恐怖心 お友だち心の俳句。お芋さんが怖い。ちなみに仮にSSだった場合は19代父がポテイトーズとなる。そりゃ怖いわ。
南雲トレーナー
安らかに眠れ。多分眠れないけど。
次回は多分掲示板回。