年が明け、飛行機でフライトして、やって来たぜサウジ。
「てか珍しいね南雲。飛行機はファーストクラスだったしホテルも有名なとこじゃ~ん」
案外ケチったりするかもしれない、と思ってたのに。南雲ったら飛行機もファーストクラスだしホテルもホテルで2部屋高いとこ取ってたし。用意周到じゃないですか。これには私もお芋さんもビックリ。
「あ~……まぁ色々とあってな。なんか、理事長がやたらと張り切ってたんだよ。ポケットマネーまで出そうとする始末だ」
「ほ~ん。でもあんまし良くないのでは?」
「あぁ。だから下手なものは用意できなかったってわけだ。理事長が納得するもんじゃないと、金を出そうとしたからな」
へ~、そりゃまた随分なことで。ま、そこまで思われて悪い気はしませんね。フフン。
「とりあえず、トレーニングに関してだが「この後すぐやりますよ」は?さすがに飛行機に乗ってたから今日は良いだろ?」
は~、分かってませんねぇ南雲は。あまあまの甘ちゃんですよ。グラブジャムン並みに甘いわ!
「こーいうのは日々の積み重ねが大事なんですよ。お日様を見なさい、まだまだ高いじゃないですか」
「それは、まぁ……そうだが」
「でしょ?ホテルのチェックインもまだ時間がありますし、トレーニングするには絶好の機会です」
“そうだそうだー!観光よりもトレーニングだー!”
渋~い表情をする南雲。その顔、観光する気満々でしたね?ですが私の目が黒い内はまださせませんよ!観光なんて明日にでもすればいいんですよ!いや、明日も明日でトレーニングあるからダメか。ま~レースが終わった後ですかね。
「つっても、どこのトレーニング場も使えないと思うぞ。予約なんて取ってないし」
「別にトレーニング場なんて使う必要ありませんよ。やろうと思えばどこでもできます」
「いやいや、リスクとか考えたら……わーかったよ。今からでも使えるトレーニング場がないか調べてみる」
それでいいんですよ。それに夜は夜でやることありますからね。ミラ子ちゃんとゲームする約束してるんですから!
“Wi-Fiって繋がるのかな?繋がらないとヤバいよね”
良い部屋取ってますし繋がるでしょう。繋がらなかったら……ま~何とかします。ミラ子ちゃんとの対戦が待っているんですから!
“やる気に満ち溢れるユーちゃんも素敵!でも、トレーニングはしっかりとね”
そりゃ勿論。しっかりとやりますよ。
◇
それなりの付き合いになるが、ダスクユートピアというウマ娘の全部は分からない。潰れた名家の娘で現・理事長の娘。生い立ちは悲惨だが、本人はそんなものまったく気にしない鋼のメンタルかつクッソ図太い性格。芋が好きで、どんな高級食材よりも芋の方が好きというウマ娘。
(そして、ユートピアは
アイツ、普段の図太さからは想像がつかねぇけどマジでストイックなんだよなぁ。ウォーミングアップに1時間、練習も時間の間みっちりと、クールダウンも欠かさない。アイツがやるといったトレーニングは必ずやり遂げるし、数をごまかしたりもしない。俺にはできなさそうだ。
前に一度、ユートピアに聞いたことがある。
「お前ってトレーニングが辛いと思ったことはねぇの?」
トレーニングだって結構な量だ。でも、毎日マメにこなし、レースで目覚ましい結果を残しても驕ることなく研鑽を続ける。普通なら気が緩んだり、トレーニングの量を減らしたりしてもおかしくないもんじゃないかとも思うが。
俺の質問に、ユートピアはキョトンとした後平然と答えた。
「お腹が空いたら芋を食べますよね?眠くなったら寝ますよね?それと一緒ですよ」
「いや、芋じゃなくてもいいだろ」
「私にとっては芋なんですよ。それよりも今日はスイーツを所望しますよスイーツ。お芋のスイーツを作りなさい」
「はいはい」
つまるところ、ダスクユートピアにとってトレーニングとは食事や睡眠と変わらない、ってことらしい。成程、そりゃ強いわ。
実際のところ、ユートピアがダスク家でどう過ごしていたかは知らない。確実に分かるのは、彼らが行っていたトレーニングには参加していないということぐらい。ほぼ自主トレで今の実力を身につけたってことだ。
「マジもんの天才児だよな……名家のトレーニングよりもさらに効率的に鍛えてたってことだし、神童だよ神童」
「なんの話です?あ、ミラ子ちゃんと通話するんでよろよろ」
「なんでもねぇよ。今日のおやつは?」
「ポテトチップス!ポテチを所望します!」
普段の
迎えた本番のサウジダービー。当たり前だがアイツは警戒されていた。今まで芝で走っていたウマ娘が急に海外のダートで、しかも一度も走ったことがないからな。データがないとかそれ以前になんで来た?ってなるレベル。不気味なことこの上ない。
12人での発走となったレース。アイツは抜群のスタートを切るとハナを取った。他のウマ娘はユートピアを警戒するように動き、ハイペースな展開が作られる。
《逃げる8番のダスクユートピア!ダスクユートピアが逃げる逃げる!他のウマ娘が彼女を追うが、最後の直線を迎えて疲れが見え始めた!何故お前は疲れないのかダスクユートピア!ただ1人だけ格が違う!後続をさらに突き放す!》
《いやはや、日本の芝で大活躍の彼女でしたが、まさかダートでもこれほどの強さを見せるとは!》
《ダスクユートピアが逃げて逃げてゴールイン!サウジダービーを制したのはダスクユートピア!後続に7バ身差をつけての圧勝!芝でも強い彼女はダートでも強かった!芝とダートの二刀流ウマ娘、彼女の今後に期待しましょう!》
結果、マークしていた多くのウマ娘が潰れ、アイツだけは悠々と逃げ切った。スタミナも、なにもかもが桁違いってヤツだわこれ。本当に強いわアイツ。
まず海外のレースを一つ目。次はドバイのUAEダービーか。てか結局2つとも出ることになったな。なんでだよ。
「そもそもなんでイギリスクラシック三冠なんて向かうんだ……?今思うと謎過ぎるぞ」
出走の意図をアイツは言わないからな……せめて言ってほしいもんだが。
「このレース出走したいからよろ~」
で終わらせるようなヤツだ。こっちのことも考えて欲しいんだが?
「ぶっちゃけ、イギリスの三冠は廃れつつあるんだよな。ニジンスキー以来出てないし」
そもそも、欧州は長距離路線自体が廃れつつある。2000ギニーとダービーステークスを勝っても三冠目のセントレジャーに向かわないケースだってあるわけだ。
「……イギリスの三冠路線を盛り上げる、とか?」
いや、そんなことやってアイツに何の得があるのか。もしや、ダスク家の悪い印象を払拭させるため?う~ん、分からん。
「アイツのことだから世界中で有名になってたくさん芋が欲しいから~、なんてこともありそうだな」
「何の話で?」
「いや、なんでもねぇ。フライトの時間が待ってるし、さっさと行くぞ」
「あいあ~い。せっかちですねぇ南雲は」
「テメェがお土産買い漁ってるからだよ!人を待たせておいて!」
コイツ本当に図太いな!
◇
さ~てさて、ドバイに来ましてUAEダービーでございますわ~。現在私は中団、珍しいとこでレースしてるね。
とはいっても、もうすぐ最後の直線なわけ。それじゃ早速抜け出しましょうか。
《ダスクユートピアが動いた!一番人気のダスクユートピアが外から躱していく!他のウマ娘もペースアップ、最後の直線に向けて動き始めた!ダスクユートピアはバ群の真ん中を突き抜ける!》
《良いポジションにつけましたね~。早々に抜け出しそうだ!》
最後の直線で続々と躱していく私です。1人、また1人と躱してって~。てかアレね、固まってたから抜くの簡単ね本当。
“いけいけーユーちゃーん!
いやいやお芋さん。それは
気づけば先頭、後は突き放す。
《残り200mでダスクユートピアが先頭に変わった!ダスクユートピア先頭先頭!他のウマ娘との差をグングン広げていく!》
他の子達は置いてきた。私が勝つためにな。ほい、ゴールっと。
《ダスクユートピアが圧勝ゴールイン!2着に5バ身差をつけての快勝です!これで無傷の6連勝!しかも芝とダートどちらも含めて6連勝です!》
《え~彼女の次走は……なんで2000ギニー?》
うっひょひょ~い。この調子でイギリスで私の風を吹かすぜ、おうイェイ。黄金の風だぜ黄金の風。これはイタリアか。
そんなこんなでドバイのホテル。お風呂も豪華仕様だぜ。家のお風呂みたいだ~テンション上がるな~。
「それにしても、イギリスクラシックか」
“久しぶりだな~僕は!今どうなってんだろ?”
お芋さんはそうですね。さてさて、私がイギリスのクラシック三冠を選んだ理由が気になるでしょう。その理由とは!
「一番古い三冠レースだし、近年は三冠達成者いないじゃん?」
“そうだね!全く嘆かわしい……全距離で勝ってこその最強でしょうが!”
おぉう、お芋さんご立腹。ま~イギリスのクラシック三冠について説明した時怒ってたからな~。
「ま、だからこそ狙うんだけどね。外部からやってきた私が、最も権威がある三冠と言っても過言じゃないイギリスのクラシック三冠を制したらどうなるのか……気になるところさん」
私がイギリスの三冠を狙うのはこれが理由ですよ。なんとなく、面白そうだから。ワクワクは全てにおいて優先されるのさ。ワクワクを思い出すんだ。
“ユーちゃんなら余裕のよっちゃんイカだね!何の心配もいらないよ!”
「当然だぜいお芋さん。それはそれとしてトレーニングはするけどね」
“あたり前田のクラッカーさ。トレーニングはちゃんとするんだよ?お風呂上がりの柔軟も忘れずにね?”
当然ですよイェイイェイ。あ~お風呂最高。
ユーちゃん
イギリス三冠を狙う理由は面白そうだから。イギリス側からしたらたまったもんじゃない。
お芋さん
久しぶりのイギリスにちょっとワクワクしている。
南雲トレーナー
なんでイギリスのクラシックに?と疑問を感じている。理由はアレだった。
ミラ子
ご存じ(自称)普通のウマ娘。ユーちゃんとはよくゲームをする間柄。友達。時差は知らないねぇ。
次回、欧州遠征編。ここからレース描写はちゃんとします。