紅茶とコーヒーどちらが好みですか?   作:XTL601-A2

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競馬かてたので更新します


マンハッタンカフェ「コーヒーと紅茶どちらがお好みですか?」

「コーヒーが欲しい…」

 

愛妻タキオンと我が子へフレンチトーストを2枚ずつ、計6枚焼き上げたところで、自分の物を作るのが面倒になった。

そこで、余った卵液でスクランブルエッグを作ったのだが…。

 

「甘すぎるなこれは。」

 

結果、コーヒーの苦さに逃げたくなる出来栄えに仕上がった。

フレンチトーストにするのなら良いが、そのまま炒って食べるのには適さなかった様だ。

 

「相変わらず美味しいねぇ、キミの作る物は。」

 

俺とは対象的に満足そうに目を細めるタキオンと子供達。

 

…まぁ、よかったとしよう。

 

愛する妻子を眺めながらポットより紅茶をカップへと注ぐ。

コーヒーを飲みたくっても、この家には紅茶しかないのだからしょうがない。

口直しに飲んだ紅茶はタキオンの好みに合わせて常備しているマリアージュフレールの甘い香り。

どうも口の中はサッパリとはしなかった。

 

「とってもおいしいね、旦那くん。」

 

だけれども、タキオンからこんな声をかけられたものだから、そんな不快感等すぐに吹き飛んだ。

彼女に使われる事に充足感を覚える自分。

我ながら少し呆れてしまう。

 

「それはどうも。」

 

「…でもいいのかい?キミは食べなくて?」

 

タキオンはそういって1枚残ったプレートをこちらへと寄越す。

どうやら俺が、甘い甘いスクランブルエッグを食べているので不憫がっているのだろう。

 

「いいよ、別に。それはタキオンの分だ。」

 

「しかしだねぇ?もとはキミのつくった物だろう?」

 

「タキオン達の為に作ったんだ。それにちょっとカロリー高いのは控えようと思ってさ。最近太ってきたから…。」

 

そう言って自分の腹に意識を持っていく。

学生時代バリバリで部活をやっていたあの日から幾日か…。

酒を覚え、不摂生なこの身体はいつの頃からかだらしなくなっていた。

 

「ふーむ…気にする必要はないと思うがね。まぁお腹は出てきたとは思うけれど。」

 

そう言って隣の彼女は俺の腹を指でつつく。

ぽよんと脂肪がその存在を主張した。

 

「それが嫌なんだよ。タキオン…。」

 

「ふぅん?」

 

不思議そうにこちらを覗くタキオン。

思わず見返し彼女の肢体を観察する。

現役の頃からは少し柔らかくなった印象を覚えるが、その姿は基本生徒の頃から殆ど変わらない。

 

「ウマ娘が羨ましいよ。」

 

食事を節制せずとも、基礎代謝だけで生活の余剰熱量を消費し尽くすウマ娘の身体。

太りにくいのだ。

我々人間の何倍も。

 

「とは言ってくれるが、私達は私達で結構大変なんだよ。いつだか前にも話したとは思うが、人間の何倍も高カロリーな物をとらないとやっていけない。そのせいでキミに出会う前の私はよく干からびていたじゃないか?」

 

昔の事を懐かしむように彼女は語る。

 

「でも、少し同情はするよ。私は今のキミを見て特段醜いとは思わないが。確かに愛する旦那くんにはいつまでもかっこよくいてもらいたいからねぇ?」

 

「努力するよ…ランニングでもしようかな?」

 

「いいんじゃないかぁ、旦那くん。そうだ今担当している娘とトレーニング中に併走するというのはどうだろう。」

 

「無理だよ。息がきれて指導できなくなるのがオチだ。」

 

「むぅ、妙案だと思ったのだがねぇ。」

 

唸る嫁。

その時だった。

 

「…!なんだね?」

 

突如テーブルに置いてあったタキオンのスマホが鳴り響く。

すかさず、タキオンはそれを手にとり応答した。

 

「…あぁ、おはよう。どうしたんだい?…うむ…その経過観察は今日はキミ達にまかせてある筈だ。」

 

話の内容から彼女の勤め先。

休日に電話とは急を要する事案なのだろう。

 

「おいおい、今日は休日だろう?私が必要かい?ソレ?」

 

会話の内容が少し不穏になってきた。

 

「頼むよぅ、今日は家族全員揃ってて…あーもう、わかった!わかった!いまからそちらに向かう!すぐに!それがお望みなんだろう!?」

 

遂にタキオンは手持ちのスマホの通話を切り、髪をかき乱しながらそう怒鳴った。

 

「タキオン…?」

 

「…はぁ、聞いてのとおりだ旦那くん。」

 

タキオンはゆっくりと…俺が見ても明らかにわかる不機嫌顔で口を開いた。

 

「すまないが、職場に呼び出されてしまった。本当に申し訳ない。もう!すぐに!出ていくよ!」

 

「あっあぁ…」

 

「では失礼するよ!あぁ…くそったれだねぇっ!」

 

それだけ言うとタキオンはまだ皿に残っていたフレンチトーストを詰め込んでそそくさと家を出た。

間もなく聞こえる、車のエンジン駆動音。

たった5分で愛する妻は消えてしまった。

 

───

 

案外子供達も忙しいもので、上の子は部活動、下の子は同級生達と駅前に…それぞれ外出してしまった。

はて?今日は久しぶりにみんな休日に揃ったと思っていたがなんの予定も入れていなかったのはお父さんだけだったらしい。

 

…急用がなければ妻が家にいたと思うと、夫婦水入らずの時間が過ごせたのに。

 

なんとも歯痒い心持ちだ。

 

「走るか…」

 

自分しかいない家でそう呟いてからの行動は早かった。

地層の如く堆積した衣服の最下層から埋もれたジャージを引っ張り出し、ホームセンターで買ったノーブランドのランニングシューズを装備する。

そしてそのまま、近所の河川敷へと繰り出した。

川沿いの遊歩道には休日だからか、同業者が多い。

みな体力増進の為にランニングに励んでいる。

 

学生、主婦、社会人…老夫婦…そして、ウマ娘。

 

職業病だろう。

思わず汗を流す彼女達に目がいってしまう。

自宅は職場である学園から乗り換え含めて駅を両手の指輪程隔てているので、勿論我が校の生徒などいない。

その殆どがもう成人を越えた頃合であった。

もしかしたらかつて学園に在籍していた者もいるかもしれないが…。

ともあれ、全く仕事とは関係ない赤の他人達を目で追い、その走りを評価してしまう自分がいた。

 

全く…休みの日でもこれとは…。

 

無論、俺からの熱い視線に気づかない彼女達ではない。

すれ違うウマ娘は皆、怪訝な目で睨み返してくる。

 

「トレーナーさん…?何をやっているんですか?」

 

その中にとても見知った瞳があった。

 

───

 

「…どうぞ、貴方好みに深くローストしたブラックです。」

 

「ありがとうカフェ。まさかランニング中にキミに会うとは思わなかったよ。」

 

「私も登山の帰りに貴方に会えるとは思ってもいませんでした。」

 

河川敷で偶然再開したカフェ。

そんな彼女の営むコーヒーハウスに招かれ、コーヒーをいただく。

 

───立ち話もなんですし、お店に来ませんか?コーヒーでも片手に。今日は昨夜から徹しで登山に行く予定だったので、お店閉めています。貸し切りですよ。

 

彼女のその提案を断る理由など勿論ない。

喜んで来店し、今の状況である。

カフェが淹れてくれたコーヒーを飲むのは久方振りの事。

もう長い間そんな機会は無かったのだが、未だに俺の好みを覚えていてくれたらしい。

 

「久しぶりですね。貴方にコーヒーを淹れるのは。」

 

カフェの方もそう思ったのか、感慨深げにそう呟いた。

現役時代タキオンと一緒に担当していたウマ娘、マンハッタンカフェ。

卒業後も親交があり、彼女の店にも幾度か訪ねてコーヒーを注文していた。

でも、いつの日からか脚が遠のき、遂には行かなくなってしまったのだ。

 

「そうだね。本当に久しぶりだ。」

 

「えぇ、タキオンさんとご結婚されてから、あまりいらしてくれませんでしたから。」

 

「そういえば、そうかもしれない。」

 

彼女の答えに納得する。

理由は明白。

この店には紅茶はないから。

カフェの拘りで。

結婚後も3人で顔を合わせる機会はあったが、場所はいつも紅茶もコーヒーもどちらも飲める所だったな。

 

「…トレーナーさん。これもどうぞ。」

 

そう言ってテーブルに追加されるお皿。

 

「ジャムトースト?」

 

その上には黄色いジャムが塗られたトーストが載せられていた。

 

「はい。自作のジャムです。今度お店でだそうかと思っていて。味見をしていただけませんか?貴方好みだとは思いますよ。」

 

「そうなんだ。ありがとう。」

 

礼を言いつつ、口へ運び咀嚼する。

途端に口の中に酸味と程よい甘みが広がった。

果物の物だろうか?

植物性の繊維質が、丁度良く残っていて舌触りが良い。

おおよそ、ジャムとはとても思えなかった。

 

「すごく美味しいよ!カフェ!」

 

「ふふっ…ありがとうございます。」

 

しっかりと酸っぱいが、甘みもあって後味が良い不思議な味。

どんな果物を使ったのか全く検討が付かなかった。

 

「甘酸っぱくて癖になりそうだ。これ何のジャム?」 

 

「ルバーブです。これ野菜のジャムなんです。」

 

「野菜!?」 

 

種明かし成功。

そんな風な顔でカフェは説明する。

 

「はい。とても酸っぱい野菜でそのまま食べるのには適しません。ですが、砂糖で煮詰めてジャムにすると上品な酸味に仕上がるんです。知人から教えてもらい作ってみました。作っていて貴方好みの味だなと思っていたら…丁度、アナタが。」

 

「そうなんだ。確かに俺好みかもしれない。」

 

「トレーナーさん、甘すぎるのは苦手ですよね?よかったらお持ち帰りになって下さい。瓶がいくつかありますから…そしてよろしければタキオンさんともお越し下さい。勿論、お子さんもご一緒に。」

 

ルバーブ。

正体を明かされた未知なる野菜。

答えを明示されても、どんな植物なのかは想像もつかない。

ミステリアスな彼女らしいチョイスである。

 

「うん…ありがとう。」

 

「またいらして下さい。絶対に。お友達もそう言っています。」

 

「お友達も?」

 

「えぇ、お友達も。」

 

カフェはそう言って可愛らしく微笑んだ。

 

───

「で、貰って帰ってきたという訳かい?」

 

その晩。

子供二人も寝静まり。

大人の時間となった夜。

今朝、カフェから貰ったジャムを手土産に夫婦二人団欒の時間を過ごしている。

 

「あぁ、知ってるか?ルバーブって?」

 

「勿論。寒い所で採れる西洋野菜の事だろう。」

 

意外とお嬢様であり、知識豊富なタキオン。

そのお上品な名前の野菜のコトも知っていたらしく、その概要をつらつらと説明し始める。

 

「北国の人間がむかし砂糖で煮詰めて甘味にした果物の代用品だよ。煮詰めるとこの様に黄色くなるが、生の物は茎の部分が真赤でね。名前の響き程、おしゃれな物じゃないよ。サラダで食べる事もあるんだが、個人的には酸っぱくて食べられた物じゃない。…全くカフェも変な野菜を見つけてきたものだねぇ。うぅ…酸っぱい。酸っぱい。」

 

ルバーブのジャムを紅茶に溶かし、ロシアン風にして出してみたのだが、タキオンのお気に召さなかった様だ。

顔をへこませながら追加で砂糖をドバドバと投下している。

 

…身体壊しますよ?

 

頭の中でカフェみないな声が一瞬聞こえたような気がした。

 

まさか、お友達が家まで…?

 

いや、考えるのはよそう。

 

「そんなに酸っぱいかこれ?甘酸っぱくて美味しいと思うんだけど?」

 

「う~む。夕飯を頂いて、改めてキミの作るお料理は美味しいと感じていた所なんだが…味覚については解りあえない隔たりがあるようだ。」

 

なぜだか、学生の頃の様な雰囲気で愛する妻はそう言った。

 

「そういえば結局何だったんだ?休日なのに職場に呼び出されて?」

 

話題を変える様にタキオンにそう問いかける。

結局彼女が帰宅したのは7時過ぎ。

すっかり太陽が沈んでしまった後だった。

 

「それなんだがね…聴いておくれよ。私の休日中にある実験の観測を任せていた部下が、異様な数値が出たのですぐ来てほしいと言ってきたんだ。私も急いで駆け付けたんだが…。」

 

「だが?」

 

「電話で報告してきた数値なんか観測されていなかったんだよ。計器の情報はリアルタイムで記録されるんだが、記録を調べてもそんな異様な数値なんかどこにも残っていなかった…。」

 

「じゃあ、その観測してた部下の見間違いだったんじゃ?」

 

「いやぁ…それがねぇ…」

 

タキオンの表情が険しくなる。

 

「タキオン?」

 

「それが、一人じゃないんだ。その数値を目撃したのが。複数人が異様な数値の確認をして私に連絡してきた。でも、コンピューターの記録には残っていない…。何かしら異常がないか調べたり、機器の故障を疑って業者を呼んでみたりしたんだが、結局、原因は解らずじまいなんだよ。」

 

深刻な表情。

妻のここまでの顔は久しぶりの事だ。

 

「しょうがないので実験のやり直しさ。休日を完全に棒に振ってしまったよ。」

 

どこか遠い目をするタキオン。

あまり良い状態ではないようだ。

 

「全くだ。折角、夫婦水入らずでタキオンと過ごせると思ったのに。」

 

タキオンの意見に同調する俺。

来週の土日。俺は担当の娘と新潟遠征の予定がある。

だから、また一緒にタキオンや子供達と休日を過ごせるのは再来週になってしまう。

 

「夫婦ねぇ…、なぁ、トレーナー君。」

 

「ん?」

 

「私は君と結婚しているんだよね?」

 

唐突にタキオンはそう言った。

 

「上で寝ている二人の子供は私が産んだんだよね?」

 

「…は?」

 

あまりに変な質問に俺は素っ頓狂な声を上げる。

 

「どうしたんだ、タキオン?」

 

「いや、すまない。トレーナー君。少し疲れてみるたいだ私。」

 

俺の声に彼女は目を擦りながらそう答えた。

 

「…ごめん。トレーナー君。もう寝るよ。」

 

そう言って席を立ち、寝室へと向かう妻。

そんな、彼女の背中は疲労困憊という感じ。

 

余程、疲れていたのだろう。

 

そう思う事にした俺は、愛する妻の背中を追ったのだった…。

 




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