まっすぐにひかりあれ!   作:白扇泉流

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この話は書いててめちゃくちゃ楽しかったです。だからこそ次の話が難しすぎて狂いそうになりました。

以下、ピクシブ投稿時のキャプションを転用

ここからが本番だ……!という気持ちで書きました。調査編です。
題名の曲説明を少々。バッハのイギリス組曲第二番の前奏曲です。組曲の名の通り6番まであり、雰囲気はかなり異なります。盛大ながら怪しげな雰囲気も持ち合わせた始まりにふさわしい文かはさておき、好奇心をくすぐられている真純ちゃんのイメージでお送りしています。
前回もバッハだったのですが今回もバッハです。なんなら曲の形式もだいたい同じです。違うところといえば時代を遡りました。まあ本文に何ら関係はありません。パルティータはいいぞ……という気持ちからバッハばっかり聴いてるのでそのせいです。


J.S.Bach Englische Suiten No.2 a-moll BWV 807 prelude

 レトロ感が売りらしいこのホールは至る所にネオンサインが浮かび、薄くシティポップが流れている。生まれてすらない時代の少し懐かしくなるようなチューンはいまの懐古的な流行りにあっているのかもしれない。ホールに入ってすぐチケットを出した時にオーダーしたドリンクを受け取り、全体を見渡せる端の空きテーブルに陣取った。ひとまず喉を潤せば薄いカシスオレンジが口に入る。若者が多いからか、いかにも安い酒といった風だ。遠目にホール中央、ステージのあたりを見ると、聞いていた通りサークル仲間の距離感で気安い会話が行われていることが伺える。光量の抑えられた店内では詳しいことはわからないが男女比に差はあまり見られず女性の方が固まって席を使っているようだ。目がついた二人組とおぼしきグループに声をかけるべく、ドリンク片手に近づく。スポットライトが照らすステージにほど近く、他のグループと程よく離れた位置にいる彼女たちは華やかに爪先まで飾り話し込んでいた。

「なぁ、君たち二人か?ぼ……私とちょっとお話ししない?」

「何?ナンパみたい。そう!あたしたち二人で来てんの。そっちは?」

 少し面長な方がそう答えてくすくすと笑う。真純はさっき考えておいた理由を言うことにした。

「ぼ……私は友達に誘われたんだけど、その子が遅刻してさ。彼女もこないし、ステージまでまだ時間あるしナンパしちゃおっかなって」

「アッハハ、オンナノコ同士じゃナンパにならないでしょ!」

「そう?まあ、まず二人をなんて呼べばいいかな」

「アタシがルカ、こっちがエミね。おねーさんの方は?」

「セーラって呼んで?ルカ、エミ?」

 バチっとウインクするとノリ良くきゃーと声が上がる。最初に声をかけたのがエミ、名前を言ってくれたのがルカらしい。机上にグラスを置きスツールにしっかり腰掛けて二人を見ると彼女たちは興味深そうに真純を観察していた。

「オッケー。セーラはここ初めて?」

「えっどうしてそう思った?キョロキョロしてたかな?」

 何かまずい振る舞いで浮いてしまっただろうか、今回は調査にならないかもしれない。そう思って自分をあらためる素振りをするとルカがニヤニヤしながら指摘する。

「んーん。セーラ、きれいな顔してるじゃん?なのに入ってきてすぐ男が寄ってこないってことはまだ知られてないってことでしょ」

「あー確かに、ダイキとか好きそうな顔だ。今日もいるのにあいつがきてないってことはまだあったことないってことね」

 エミも納得したように真純の顔を眺める。珍しくしっかり化粧をしたが、その仕上がりはさほど悪くないらしいというのは朗報だった。手ェ出すの早いもんねーあいつ、と二人で内輪の話をし始めた。人名がちらほら聞こえるが、名札かついているわけでもなく特定は難しい。女狙いの男が多いのはわかっていたことだが、そんなことで初めてきたとバレるとは思っておらず真純は二人に合わせ笑うしかなかった。強いていうなら知り合いがいないというのが悪いのだろう。飲みサーの延長にあるインカレに興味のあるような人間は残念ながら真純の周りにはいなかった。話しかけるきっかけに使った友達はもちろん架空の人間でチケットもその子経由でもらったことになっている。

「あ、そっか。今誘ったこが遅刻してんだっけ?」

「友達も酷なことすんね〜ちょっと入りづらいもんこの規模のクラブだと。まあ入っちゃえばみんな仲良くなれるけど!」

「あたしらも別大だしここに顔出すようにになってからだもんね。慣れると他大のこと仲良く慣れるし楽しいよ」

「ただ酒目当てか、男目当てか知らんけど、最初はやっぱ何人かできた方がいいよー一人でフラフラしてるとすぐ食われるからねー」

 ふと真純の存在を思い出した二人が矢継ぎ早に話しかけてきた。親切に注意してくれるとは彼女たち声をかけたのは当たりのようだ。そのあとも二人の警句は続いた。

「ユウトさんとかリョウさんは人気あるし下手に近づいたら女子から敵扱いになるしね。女子で固まってるとバリア的な?感じで上の方の人か、勇気あるチャラ男しか近づいてこんから」

「勇気あるチャラ男!まあそだね、アタシも酒飲みたくて1人で来たことあるけどめっちゃ声かけられるわ。うざすぎてさっさと帰ったけど。特に端っことか行きがちなんだけど、狙い目だと思われるんじゃない?うざいと思ったら女子トイレ入るといいよそれで誰かと一緒に出てくればこっちこなくなるから。あとは……この店は下だっけ。上の方の人の溜まり場あるらしいからチクるといいよ、出禁になるらしい」

「え、それほんとなの?」

 ルカが初耳だと言った風にケラケラと笑うエミを止める。場慣れしている彼女でも知らない情報が出てくるとは思っておらず思わず真純も食いついた。マドラー代わりにしているストローがからからと氷を鳴らす。

「上の方の人って?何か違うのか?」

 そういえば初めてだったね、とルカが説明をしてくれる。

「あ、わからないか。運営の人たちなんだけどコウタさんが一番上で、今日も最初に挨拶するんじゃない?あと三十人くらいいつも見る人がいる感じ」

「ルカ知らなかったの?ほらユウカさん、いたじゃん。あの人に付き纏った男は全員出禁になったって」

「それコウキさんが特にお気に入りだったからじゃない?あの人お気に入りにはめちゃくちゃ甘いじゃん。一般人にはそんな対応してくれないと思う。あ、でも、お気に入りだけ集めて別のパーティーやってるらしくて、高級ワイン飲み放題って聞いた。それはちょっと気になる。ま、ユウカさんレベルじゃないと呼ばれないけど」

「えぇっ2人とも可愛いけどなあ……メイク上手いし、洋服も可愛いし……」

「ありがとね、セーラ。でもユウカさんは**の読モやってるし別格なのよ。も〜アタシもあの顔とプロポーションで生まれてきたかったわ……」

「わかる〜〜もう手遅れだけど」

 キャラキャラと笑う彼女たちはまだ楽しそうに話を続ける。初日からなかなか情報が集まってきて幸先がいい。通知が来たかのように真純がスマホを確認するとそろそろステージが始まる時間だった。今動かないと何もできなくなりそうだと思い離席することを二人に告げる。

「あ、今着いたってきたから迎えに行ってくる。付き合ってくれてありがとな」

「あ、もう行っちゃうの?ザンネーン、じゃあね」

「また会ったら話そ!バイバーイ」

 手を2人に振り返してその場を離れた。一度入り口に戻りさっきの2人の死角になっている席で一休みする。飲み物はほとんどなくなっていた。グラスを返却口に返して、新しくレモネードをもらう。ノンアルコールだがレモネードは色が酒に見え、周りから浮くこともなさそうだった。

 急に音楽のボリュームが下がり、オレンジのネオンがゆっくりと色を褪せさせた。ステージにスポットが集まると一人の男が登ってきた。あれがさっきいっていた「コウタさん」だと当たりをつける。軽い挨拶と今日のステージについて話すとそのままマイクを隣の男に渡した。その人は今日の目玉のDJだったらしく会場に声をかけるとパフォーマンスが始まった。

 ステージライトが万華鏡のごとく色を変え、ホールにいる男女を照らす。どこかで聞いたことのある曲が聞こえ始めて、騒ぎからにげるようにグラスを持って席をたつ。壁に沿うように歩いていくと隠されるようにある階段にたどり着いた。少しだけ覗くつもりで降りていくと地上よりも狭く、こじんまりとしたバーカウンターになっている。人も少なく、こちらは男のほうが多い。空いているテーブルにグラスを置き、スマホを見るフリをしながらあたりを確認した。上とは客層が少し違うか、少しギスギスしたような雰囲気がする。レモネードも底をつきそうになる頃、一人の男が靴を引きずるような音を立ててテーブルの隣にやってきた。ブランドのロゴが入ったビッグシルエットのスウェットにシェフパンツを合わせる、流行を押さえた服装。ハイブリーチの髪はワックスで軽く整えられており、身なりに気を遣っているのがよくわかる。しかし身振りには気を使わないのか、引きずったあとのあるパンツやタバコの影響だろう黄ばんだ爪にだらしなさが出ていた。

「ねぇ、キミホールの方行かないの?なら俺と遊ばない?」

「友達を待ってるんだ。二人一緒でもいいなら遊んでもいいよ」

 スマホから目を離すことなくそう答える。もちろんハッタリだがどうにかして撒かなければと策をねった。この男は対して上の方ではないと見える。周りから気にされているようではないし、むしろ面倒くさくて無視されているかのごとく誰もこちらに顔を向けないようにしていた。取り入ったところで大した話は聞けまい。真純もスマホに視線をやり極力男の方を見ないようにうつむく。すぐ逃げるべきだろうと次に来る人間を盾にすると決め、階段に注意を向ける。男は何を思っているのか、上機嫌でまだ真純を誘おうとした。

「オトモダチ?いいねえ!いいよぉーキミと友達と3人で遊ぼうか!オレ、運営にツテがあってさ……いいの、あるんだよね。だからさ」

「ちょっとまってなよ……」

 男を見ずにケータイをいじっている真純にしびれを切らしたのか腕をつかもうとしてきた。が、さらりと躱し、階段の方へ駆け寄った。男の耳にも階段を降りる靴音がしていた。

「あっ遅かったじゃないか!」

「っ、待たせたね」

 すぐに状況を把握して小芝居に乗った彼はすぐに彼女を背に隠すと追いかけてきた男に相対した。彼を見ると顔を顰める。

「あれっオトモダチって男かよ!……まあいいや。おにーさん、オレとカノジョと一緒に遊ぼーよ」

「今日はもう帰るので結構です」

「なんだよ~ノリわりぃな。せっかく来たのにもう帰るわけぇ?おにーさんだって一人も引っ掛けてないなんてもったいないよー?」

「そうですね、また来たときの楽しみにとっておきます」

「ええ?せっかく今日デカいイベントやってるのに?」

 煽るように、にやにやとした笑いを貼り付けて彼に話しかける男は奥の真純にしか興味がないようで、どうにか邪魔者を消そうと誘いかける。

「残念ですが、彼女が場酔いしちゃってるみたいなので」

「じゃあこっちで看病してあげよっかぁ?この奥にベッドあるし、寝とけば良くなるでしょ」

「そんな面倒を見ていただかなくとも、僕はまだ酔ってないので僕が責任持って送り届けますよ。この子にこだわらずとも上にはキレイな女性がいっぱいいるじゃないですか」

 砕けた言い方でいかにも遊んでいそうな台詞を吐いている知り合いにちょっと笑いそうになりつつ階段側に少し動いた。彼がふわふわとした口調を使うといかにもチャラ男といった風に見える。中身はもっと質が悪いのにきれいに被われた猫皮は継ぎ跡が見当たらない。

「んー、そうだけどさ、オレは彼女が気に入ったワケ。先に声かけてたんだし、オレが優先されると思わない?」

「申し訳ないですが、この子と待ち合わせていたのは僕なので。じゃあ、気分転換に外に出てきますね」

 まだ食い下がる男を一蹴すると体の向きを変え、真純を押すようにして階段を上る。なにか声をかけてきたような気がするが耳に届く前に階段を駆け上がった。まだ盛り上がっているホールを横目にそのまま出口までたどり着いた。




安室ともバーボンとも当たり前ですが降谷とも違うカバーの人間を書くのが楽しかったです。ここは殆ど変えてない……はずです。来週、どうにか次の話を修正できれば投稿されるはずですが……
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