ある日のこと、俺を含む部隊長全員に招集がかかった。こんなことは初めてなので何かあったのだろうかと思いながら俺は会議室にむかった。
会議室に着くと俺以外はすでにほとんどが集まっていた。そのすぐあとに残りのメンバーも到着し総隊長と依姫もやってきて会議が始まった。
「今回皆に集まってもらったのはほかでもない、我々が住むこの都の今後についてだ。かなり緊急を要することなので事前に知らせる時間もなかったのだ」
総隊長が話しているあいだに資料が配られる。配られた資料に目を通すとそこには都の移住計画について書かれていた。
「資料にも書いてあるとおりこの度都をこの地から移すことが決まった。理由については後で説明するとして、先に移住先とその手段について説明したほうがいいだろう。そこで今回移住計画の主導者である八意どのに来ていただいた。詳しい説明は彼女からしてもらう」
そう言うと会議室に永琳が入ってきた。永琳が来るなんて知らなかった俺は思わず声が出そうになった。
「八意永琳です。早速ですが今回の移住計画について説明させていただきます。まず初めに今回の移住計画は月夜見様による発案です。その理由は地上に広がる穢れが看過できない状況まで進んでいることとこれ以上地上にいれば都の内部まで穢れが入り込む可能性があるとおっしゃっていました」
移住計画は月夜見さんの発案だったのか。というか穢れという単語がでたとたん周りがざわつきはじめたけど穢れってなんだ?気になるけどそんなこと聞けるような状況でもないし後で永琳に聞いてみよう。
「そこで我々は都を穢れが及ばない地に移すことにしました。その場所とは地上からかけ離れた宙にある不浄の地、月です」
…地上から離れるとかいうからてっきり空か地下にでも行くのかと思っていたら予想の斜め上の回答をされた。月って地球の衛星のあの月のことだよな…、そんなところまでどうやって行くつもりなんだろうか。俺が元居た世界でも月に行くなんてことはかなりの大事だったが今回は月面探査なんかよりもさらに大規模だ。なにせ都に住む全ての人を月に運ぶというのだから。ロケットがいくつあっても足りそうにないと思うが。
「月に行く手段についてはすでに開発を進めています。詳しい原理の説明は省きますが、簡単に言えばワープ装置を使います。ワープ機能自体はすでに完成しており都でも同じようなものがすでに使われています。問題はそれをより長距離に対応させ大人数が同時に使用できるようにすることですが、その点についてもすでに解決の目途は立っているので移住計画は来月末には始めることができます」
なんともう月までの移動手段ができているらしい、というかワープ機能なんてできてたのか…。というか酸素とかはどうするんだろう。まあ永琳のことだ、そういったところはすでに対策済みだろう。
「そして今回皆さんに集まっていただいた理由ですが、月への移住となるとかなりの騒ぎが起こると予想されます。その騒ぎに乗じて何か良からぬことを企む妖怪も出るでしょう。そこで警備隊の皆さんには移住計画実行までの間警備の強化と付近の妖怪の掃討を頼みたいのです」
これが俺たちが今回呼ばれた理由か。たしかに月への移住なんて間違いなく大騒ぎになるしそんな騒ぎを妖怪が見逃すはずがない。移住時の混乱に乗じて何か行動を起こす可能性もあるしな。
そうして警備隊の今後の動きなどについての会議が始まり、全ての議題についての会議が終わるころには日が沈みかけていた。
「ではこれにて今回の作戦会議を終了とする。解散!」
次の日、複数の部隊による掃討作戦が決行されたが不思議なことに都の周りで妖怪がまったく見つからなかった。いつもなら何体かの妖怪と遭遇するはずなのに…。
その後捜査範囲を拡大するも結局掃討どころか妖怪がいた痕跡すら見つからなかった。まるで最初から妖怪などいなかったかのように…。
俺は違和感を感じながらもこれ以上探し回っても何もでないだろうということで掃討作戦は終了された。
その後も個人的に都の周囲を探し回ったり霊力操作の応用で妖力の感知も試してみたが何の成果も得られなかった。
そして1ヶ月後、月への移住決行の日にそれは起きた。
永琳や豊姫さんは開発担当として一足先に月に向かっているので若干の寂しさを感じながら俺がいつものように霊力操作と能力の訓練しているときだった。突然とんでもない規模の妖力を感知したのだ。この1ヶ月まったく見つからなかった妖怪たちがなぜこのタイミングで、しかもこんな規模の妖力を? などと考えていると司令部から緊急招集がかかった。
司令部につくと総隊長から信じられない事実が告げられた。
「みな、心して聞いてほしい。現在この都にむかって妖怪たちが徒党を組んで迫ってきている。月への移住まではまだ時間がかかる。そこで我々警備隊は妖怪への迎撃にあたることになった。これから詳しい作戦内容を伝える」
作戦内容といっても思ったよりシンプルだった。一般隊員は住民の誘導にあたり残りの隊員、つまり部隊長以上の隊員全員で妖怪の進行を食い止めるというものだ。たしかに住民がパニックを起こさないよう安全にワープゲートまで誘導するための人員は必要不可欠だ。それにさっき感知しただけでもかなり強い妖怪が集まっていた。最低でも中級、それも格上の妖怪が群れをなして迫ってくるのだ。一般隊員には少々荷が重いだろう。それに群れがやってくるということはそれを率いる存在がいる。あの規模の群れを率いることができるなんてそれこそ大妖怪と呼ばれるような存在だろう。
作戦の最終確認をさっさと済ませ部下たちに現状と役割を手短に伝え俺は戦場となるであろう都の正面にある開けた草原に急ぐ。
草原に着くとすでに他の隊員も到着しており最前線には総隊長や依姫の姿も見えた。すぐに持ち場につき戦闘態勢をとる。
そしてついに…
「見えたぞ! 妖怪どもだ!」
誰かがそう言うと全員が臨戦態勢に入る。すると向こうから土煙を上げながら妖怪の群れが見えてきた。
「ぎゃはははは!!逃がすかよ人間どもが!」
「殺せ殺せ!一匹も逃がすんじゃねえぞ!」
「この日のためにしたくもねえ我慢させられたんだ、気が済むまで暴れまわってやるぜー!!」
「いいか!一匹たりとも都に入れるんじゃないぞ!月への転送が完了するまで死守するんだ!」
「「「「了解!!」」」」
今までで類を見ないほどの妖怪の群れと人間の戦い。後に人妖大戦と呼ばれる戦いが始まった。