蓮華と戦い始めて大体10分が経っただろうか。こいつとの戦闘が長引くほど改めて蓮華という存在の規格外さが実感できた。
なんでこいつ神器相手に普通に殴り合えるんだろう。こっちが斬りかかっても避けずに殴って止めてくる。全てを絶つ剣で斬れないとかこいつホントに生物か?
「っと危ねぇ!」
「うふふ!また避けられた!これで何度目かしら!」
それに加えて厄介なのがこいつの攻撃だ。能力で吸収しきれない衝撃をもつ攻撃が何度もとんでくる。受けきれない以上こちらができるのは避けることだけだ。しかも避けても殴ってきたときの風圧で吹き飛ばされそうになるのも面倒だ。一度受け流そうとしてみたが一瞬でも触れれば吹っ飛ばされるのですぐやめた。
「どうなってんだお前の攻撃は!受けても駄目、避けても駄目とか滅茶苦茶だろ!?」
「あら、その滅茶苦茶な攻撃を躱して私に向かってくるあなたも十分滅茶苦茶じゃないかしら?」
「お前と一緒にすんな!こっちはお前に食らいつくだけで精一杯だ!」
そう言って蓮華の攻撃を避けつつ霊剣(実際は霊弾だが神力を混ぜた影響か形が剣になったのと普通の霊弾とややこしいから霊剣と呼ぶことにした)を打ち込みつつさらに霊弾で弾幕を形成、四方八方から一斉に放つ。
蓮華が霊剣を対処する隙に弾幕を打ち込みつつそれと一緒に斬りかかろうとするがそれより先に霊剣を破壊した蓮華は弾幕などお構いなしにこちらに突っ込んできた。
剣と拳のぶつかり合い。俺はしまったと思ったが気づいたときには衝撃で吹っ飛びそうになった。しかし今回は後ろに飛ばされることはなかった。衝撃に耐えたというよりは食らった衝撃がさっきより弱かったという感じだった。
蓮華の攻撃の威力が弱まったのか? そう思い蓮華を見るが当の本人は疲れなど知らないかのような雰囲気だ。だとしたらさっきのはいったいなんだ?
「避けるのはもうお終い?なら今度は乱打戦といきましょうか!」
そう言うと蓮華は連続で殴りかかってきた。その全てを避けるのは無理だと判断した俺はなるべく正面から受けないようにしながら対処する。
そうして蓮華の攻撃を捌いているとふと違和感を感じた。
さっきから衝撃の感じ方が変だ。一瞬、瞬きするよりも一瞬の間だが衝撃の感じ方に違和感がある。防いだはずの箇所から次の攻撃が来る前に衝撃を感じる。まるで同じところをまったく同時に殴られているような…
そう考えた瞬間俺は一つの予想が思い浮かんだ。
紅櫻蓮華は何らかの能力をもっているのではないか
普通に考えたら妖怪なら能力を持っていてもおかしくない。蓮華の化物じみた力に気を取られて考えもしなかった。俺が能力で吸収しきれないほどの衝撃だと思っていたものは、実は蓮華の能力によるものだとしたら?
「読めたぞ…お前の攻撃の絡繰りが!」
そう言うと蓮華の打撃の雨が止んだ。
「へぇ、なら聞かせてもらおうかしら」
「お前、能力で一度に二回殴ってるんじゃないか?」
一度の攻撃で二回衝撃をおくる。そうすれば一度吸収しても二度目の衝撃がダメージとして通る、それが俺の予想だ。 これなら吸収したはずの衝撃を喰らったことについての説明がつく。
「…ふふ、うふふふ、あはははは!! まさか能力まで見破られるなんて!」
どうやら俺の予想は合っていたらしい。蓮華は嬉しそうに話し始めた。
「ええ、そうよ。あなたの予想はほとんど当たっているわ。私の能力は【力を込める程度の能力】。私に能力を使わせて生きているのはあなたがはじめてよ」
力を込める程度の能力…、二重に衝撃を感じたのはそれが理由か。一度の攻撃に複数の力を込めることでまったく同時に衝撃を二重に生じさせたというわけだ。
「さあ、説明の時間は終わり。はやく続きといきましょう?」
その後も蓮華の猛攻は続いた。いくら攻撃の仕組みが分かったといってもそれに対処するのは至難の業だ。だが知っているだけでもさっきよりはいくらかましだろう。
俺は再び霊剣と霊弾を生成する。さっき蓮華に放った数よりも少ないがその分一つ一つの威力が桁違いの量より質作戦でいく。
霊弾で蓮華の上をとり上空からの砲撃、そこに霊剣と俺の同時攻撃。
「その動きはさっき見たわ!」
そう言って蓮華は霊剣と俺の攻撃を対処する。だが俺に気を取られた時点でお前の負けだ!
俺は蓮華の攻撃を捌きながら上に飛ばした特大の霊弾からの砲撃を蓮華にぶつけた。
「どうだ…、今度こそ直撃しただろ…」
しかし
「ああ、楽しい…楽しいわ…。今まで生きてきたなかではじめてよ?ここまで楽しませてくれたのは、ここまで傷を負ったのは!」
蓮華はまだ立っていた。俺の攻撃はたしかに直撃したようで服はボロボロになっており砲撃を防いだであろう蓮華の右腕は黒く炭化しているようだった。
だがそれでもまだ立っている。今のは間違いなく俺の全力だった。今の俺にはもうこれ以上霊弾を生成できるほどの霊力は残っていない。
いやまて、まだだ、まだやれることはある。神力だ。まだ俺は神力をほとんど使っていない。霊剣の生成でしかつかっておらずそれも霊弾に神力をわずかに混ぜ込む程度だ。幸い神力の扱い方は霊力操作と同じだ。それに布津御魂剣だってある。こいつの真価を俺はまだ引き出せていない。
全てを絶つ神器、そう言われて難しく考えてしまっていたが要はなんでも斬れる剣だ。剣である以上使い方は今までと同じだ。
俺は今まで学んできた剣術で一番得意としている構えをした。居合抜刀。最初に教えられてからなぜかこの形が一番しっくりきた。
布津御魂剣にもともと宿っている神力に加え俺自身の神力を込める。今の一撃ならそれこそ神ですら斬れそうな気になってくる。
「…そう。それがあなたの全力なのね。いいわ、そろそろ終わりにしましょうか。互いにボロボロだし…最後なのだから、せっかくだし私も鬼に伝わる奥義で迎え撃ちましょう」
そう言うと蓮華の右腕に妖力が集まりだす。気づけば俺たちの周りは互いから溢れ出た神力と妖力に満ちていた。
この一撃でこの戦いに決着がつく。この死闘、そしてこの戦争にも。
永遠とも思える一瞬が過ぎ、俺たちは決着の一撃を繰り出す。
「鬼神奥義・武絶!!」
「居合抜刀…神薙!!」
布津御魂剣に宿る神力と奏がもつ神力、二つの神の力と全てを絶つという性質が交わり放たれた斬撃はまさに全てを絶つ一撃だった。奏が剣を振りぬいた瞬間、剣の軌道上にあった全て、空気、音、そして空間すらも切り裂かれ…瞬間、世界がズレた。
対して蓮華の放った一撃はまさに破壊そのものといえる事象を引き起こした。蓮華の右腕に込められた妖力が弾け、能力によって何重にも重ねられた鬼の力が解放される。その瞬間、空間は歪み、全てを引きずり込みねじ切る、局所的なブラックホールを生んだ。
片や世界そのものを絶つ斬撃。片や空間を破壊し局所的にブラックホールを生成するほどの一撃。
世界そのものに干渉する一撃がぶつかり合う。
瞬間、二人の間で大爆発が起こった。
気がつくと俺は倒れこんでいた。すぐに起き上がろうとするが体がまったく動かない。
「あら、目が覚めたの?」
蓮華らしき声が聞こえたがそちらを振り向くこともできなかった。
「ああ、どれくらい寝てた?」
「さあ?私もついさっき起きたばかりだから。ところでいつまで寝てるの?」
「体が動かないんだよ…、もう指先一つ動かん」
霊力も神力もすっからかんだ。起き上がることもできないんだからこれではしばらく都に戻れそうもない。
「あらそう。せっかく勝者に労いの言葉でもかけようかと思ったのだけど」
「勝者?何の?」
「そんなの私とあなたの戦いに決まってるじゃない。五体満足のあなたと右腕が無くなった私。どっちが勝者かなんて明らかだと思うけど?」
そう言われた俺はようやく多少は動かせるようになった首を蓮華のほうに向ける。たしかに蓮華の右腕は肘から先が消し飛んでいた。
「まあ腕くらいすぐに治るから別にいいんだけどね。そんなことより今日は初めてのことばかりで楽しかったわ。まさか人間に負けるなんてね。あ、現人神だっけ?まあどっちでもいいか」
蓮華はさっきまでの戦いをまるで楽しい思い出のように語り始める。実際彼女にとっては楽しい思い出なのだろう。俺はまったくそう思わないが。
そうして一通り話し終わると彼女は立ち上がりこの場を去ろうとした。
「じゃあそろそろ行くわ。お互い生きて再会したらその時はまた遊びましょう?」
「死んでもごめんだ。お前みたいなやつとそう何度も戦ってられるか」
「あら、つれないのね。女性からの申し出は素直に受け取るものよ?」
「殺し合いにならないのなら遊んでやるよ。鬼と戦うなんてこれっきりにしたいもんだ」
そう軽口を言いながら蓮華は去っていった。俺も早く都の転移装置から月に行かないとな。永琳や依姫たちが待っているだろうし。
そうしてなんとか起き上がった俺は都に向けて歩き出そうとした、その瞬間
「月雅部隊長、聞こえますか!今から30分後に都の爆破装置が作動します!それまでに都の転移装置まで向かってください!この録音が聞こえたらすぐに向かってください!繰り返します!月雅部隊長…」
まて、録音が聞こえてから30分後?この録音はいつから聞こえていた?そもそも録音が再生されてからどれくらい経った…
直後とんでもない爆発音とともに俺の意識は暗転した。
今回で第一章は終了です。次からは第二章となります。まあ次の展開はお察しのとおりなんで期待せずお待ちください