幽香に修行をつけてほしいと頼まれてから一ヶ月が経とうとしていた。幽香の成長速度は凄まじく最初は低級の妖怪にも負けそうなほどだった妖力も今では上級妖怪に匹敵するほどまでに増えていた。
「うん、俺が教えることもうなさそうなんだけど」
俺がそう呟くと幽香は驚いた顔でこちらを振り向く。
「何言ってるんですか!私は師匠に教えてもらいたいことがまだまだあります!」
「そうは言ってもなあ、ぶっちゃけあと俺が教えられることなんて霊力操作の応用とあとは剣術ぐらいだぞ?霊力操作は妖力の扱いの参考程度だろうし剣術はいらないだろ。お前剣使わないし」
正直なところ俺が教えたのは霊力操作の反復練習と体術ぐらいだ。霊力操作は積み重ねれば霊力の最大量が増えるので妖力も同じような感じだろうと思って教えただけだし体術も俺が教えられることは全て教えたつもりだ。幽香は俺を師匠と呼んで慕ってくれているが師匠らしいことをできたとは思えない。
「分かった。じゃあ今日は霊力操作の応用を教えるから、それが妖力でもできるか確かめてみろ。それができるようになったらテストをしよう」
「テストですか?」
「ああ、まあテストというより卒業試験みたいなものかな。まあその時になったら言うよ」
それから一週間が経ったころ
「師匠!出来ました!出来ましたよ私! 身体強化も飛行も出来るようになりました!」
早くない?俺が教えてまだ一週間だよな?妖怪って成長速度も人間とは違うんだなあ。
「す、すごいなお前…。よし、じゃあこの前言ったとおりテストといこう。俺に一発当ててみろ」
「し、師匠にですか? できますかね…」
「自分を信じろ。今まで真面目に特訓してきたんだ、やれるはずだ」
「わ、分かりました。じゃあ…いきます!」
そうして幽香は妖力で弾幕を形成し周囲を囲いつつ身体強化でこちらとの間合いを一気に詰めてくる。弾幕と幽香を同時に対処しなければならないのでほとんどの相手ならこの時点で詰みだ。
まあ俺の場合は弾幕を先に全て吸収して逆に相手にぶつけるけど。自分は霊力を消費せず相手の動きを止められるのでかなり便利だ。
幽香は俺が能力を使うとは思わなかったのか一瞬動きが止まる。戦場ではその一瞬が命取りだ。
俺は一瞬の隙を見逃さず幽香の後ろに回り込み大きめの霊弾を一発放つ。弾幕と霊弾による挟み撃ちだ。
「俺は能力を使わないなんて言ってないぞ! 常に最悪を想定して動け!能力を持ってるやつはそれを戦闘に活かすなんて当たり前にやってくるぞ!」
「分かって…ます!」
幽香は弾幕と霊弾を跳躍で避け上からの攻撃に切り替える。高密度の弾幕の嵐、俺は即座に霊弾で応戦する。
砂煙が巻き起こり幽香の姿が見えなくなったところで俺はまんまと幽香の策にハマったことに気づいた。これではどこから攻撃がとんでくるか分からない。妖力探知で見つけようともしたが幽香はもともと妖力が少なかった影響か自分の妖力を隠すことに長けていた。そのせいで今の幽香が本気で隠せば妖力探知でも見つけ出すことはかなり難しい。
俺は砂煙を吸収し視界を確保する。しかしあたりを見回しても幽香の姿はなかった。
「どこだ…?いやまて、この場合は…上か!」
咄嗟に見上げると上空から幽香が弾幕を放ちながらこちらに突っ込んできた。俺は再び放たれた弾幕を吸収し幽香に撃ち返す。しかし幽香は避けずにそのまま真っ直ぐ向かってくる。捨て身の特攻というわけだ。
「避けないのなら…遠慮なく撃たせてもらう、ぜ!」
俺は特大の砲撃を放つ。かつて蓮華に放ったほどではないがそれでもかなりの威力をもつ大技だ。
「ちょっとやりすぎたか…?幽香のやつ気絶してないといいけど」
俺は幽香が気絶して落ちたりしてないか目を凝らす。しかしそこには誰の姿もなかった。
「あれ?いない…」ドンッ「…え?」
後ろから突然なにかが当たった。振り向くとそこには幽香がいた。
「一発、当てましたよ。師匠!」
…要するにあれだ、俺の完全敗北というわけだ。
「いやー、やられたやられた。まさかあえて俺に砲撃を撃たせたとはなあ」
幽香が言うにはわざと砲撃を撃たせて俺の視界を遮りその隙に身体強化で俺の背後を取ったそうだ。すぐに撃たずに俺が攻撃を終えてから撃ったのは砲撃が終われば俺は油断するだろうと考えてのことらしい。
「師匠が砲撃を撃ってくるかは賭けでしたけど…作戦どおりにいって良かったです」
「戦いの途中で作戦立てて実行できるのはそれだけ思考速度が上がってるってことだ。今のお前ならもう自分だけでも花を守れるよ。というわけでだ、テスト合格ってことで記念にこれやるよ」
「これは…傘ですか?」
「そ、日傘。お前どんなに暑い日でも一日中花の手入れしてるだろ?いくら妖怪でもそのうち倒れるぞ。これさしときゃ多少はましだろ」
俺が幽香に渡したのは日傘だ。それもただの日傘じゃない。俺が神力と霊力を込めて妖怪が使っても壊れないくらいに強化した特別品だ。俺が死んだら神力も霊力も抜けてただの日傘になるだろうがそれまでは絶対に壊れない最強の日傘だ。
「ありがとうございます師匠!一生大切にします!」
「喜んでもらえて何よりだ。じゃ、これでお前の修行も終わりだな。これからもたまにここ来るけどこの花畑は自分で守れ」
「あの、師匠。最後に一つだけお願いがあるんです」
「ん?お願い?」
「その、私にさっきの砲撃を教えてください!」
「いやいや、あれを覚えなくてももう十分お前は強いって」
「そうじゃなくて…、師匠は色々技術を教えてくれましたけど、技はとくに教えてもらわなかったので、一つくらい師匠の技が使えるようになりたいなぁ、と…」
たしかに技とかは一切教えてこなかったな。俺は基本剣術メインだし霊弾だって大体ばら撒くか一点集中でブッパの二択だ。そういうことならたしかにあの砲撃は技といえるのかもしれない。
「いいよ、そういうことなら教えてやる。といってもそんな特別なことはしてないけどな」
「本当ですか!ありがとうございます!」
そうして俺は幽香に最後の修行をつけた。俺の砲撃は幽香にもしっくりきたようで一、二時間で会得していた。
「師匠、本当にありがとうございました!」
「いいって、俺が好きでやったことだ。たまに様子見に来るよ。じゃ、またな」
「はい!また今度!」
それからしばらくして俺はこっそり花畑に来ていた。理由はあれだ。
「へへ、やっぱり元通りになってやがる」
「今日はあの妙なやつもいねえから邪魔される心配はないな」
例の二人組だ。こりずにまた来たらしい。また投げ飛ばしてやろうかとも思ったがせっかくなので様子を見ることにした。花を摘もうとしたら多分出てくるはずだ。
「ねえ、いつも私の花たちを荒らしていたのはあなたたち?」
「ああ?誰だてめえ」
「邪魔すんじゃねえぞ!もし邪魔するってんなら痛い目見ることになるぜぇ?」
幽香だ。俺が修行をつけてから初めての花畑への侵入者。つまり幽香にとっても初めて人間を追い払うことになる。うまくやれるだろうか。
「そう、止めるつもりはないのね…。ところで痛い目を見るだったかしら?はたして痛い目を見るのはどちらなのかしらね…!」
「ひっひぃ!こいつ妖怪だ!逃げるぞ!」
「ぎゃあああ!!助けてくれええええ!!」
幽香が少し威圧しただけで二人は逃げ出していった。幽香も拍子抜けだったのかキョトンとしている。というかあいつ俺といたときと雰囲気とか全然違うな。
まあ幽香がうまくやれるか心配で見に来たけど杞憂だったようだ。あの二人組ももうここには近づかないだろう。
俺はうまく人間を追い払えたことに飛び跳ねながら喜んでいる幽香を尻目に静かに花畑を後にした。