神奈子に一騎討ちの約束をとりつけてから三日後、再び大和から書状が送られてきた。
「で、なんて書いてあったんだ?」
「一騎討ちの日取りと場所だよ。一週間後、ちょうどお互いの国の境だってさ」
「ふーん。で、ぶっちゃけ勝算はあるのか?」
「もちろん!ちゃんと対策は用意してあるよ。奏も見たらびっくりするぐらいのとっておきがね!大和の軍神に完全敗北ってやつを味わわせてやるのさ!」
諏訪子は自信たっぷりにそう言った。まあ本人(本神?)がそう言うのなら大丈夫なんだろう。
「ま、頑張れよ。俺はなにもできないけどさ」
「何言ってんのさ。奏がいなかったら一騎討ちなんてできなかったんだから、これでも感謝してるんだよ?」
「そりゃどうも。じゃ、残り一週間練習相手になってやるから完璧な勝利ってやつを見せてくれ」
それから一週間、諏訪の巫女である東風谷翠いわく神社では毎日投げ飛ばされる祟り神の姿が見られたらしい。
それから一週間後
諏訪子と神奈子の一騎討ちの日になった。
俺は翠さんと離れたところから見守る形になっている。神奈子のほうでも大和の兵らしき連中が勝負の様子を見守っているようだ。
「よく来たね諏訪の!今までいろんなところと戦争してきたけどあたしと一騎討ちしようなんてやつはあんたが初めてさ!」
「はんっ!そっちの兵士が無駄に傷つくのが可哀想だから気をつかってやっただけさ!祟り神の恐ろしさをその身で味わうといいよ大和の!」
互いにすごい煽り合いしてる。ああほら、あんなこと言うからむこうの兵士たちすごい顔してるよ。これが一騎討ちじゃなかったら今すぐこっち向かってきそうだ。
「は、はわわわ…ど、どうしましょう奏さん。大丈夫ですよね?諏訪子様あんなこと言っちゃってますけど大丈夫ですよね!?」
「あーうん、大丈夫なんじゃないですかね?今日も朝から自信満々でしたし」
この一週間俺に向かってきては投げられを繰り返していたが多分大丈夫だろう。うん、大丈夫大丈夫。
「じゃあ、始めようか」
「いつでもきやがれってんだ」
「「おりゃあああああああ!!」」
お、始まった。諏訪子は弾幕をばら撒きながら能力で地面を変形させ神奈子の動きを制限する。坤を創造する程度の能力だったか。大地を創造し操作できるというかなり強力な能力だ。空を飛べない者はまずまともに立つことすらできないし仮に飛べたとしても周りを隆起させて囲んでしまえばそれで終わりだ。
だが諏訪子の能力は神奈子にはさほど効果を発揮できていないようだった。神奈子を覆った大地が塵になって崩れ去りその瞬間柱のようなもので諏訪子を吹き飛ばす。
「なんだあれ、いきなり地面がボロボロになったぞ」
「おそらく…大和の神の能力かと。聞いた話では大和の神は天候を操ることができるそうです。さっきはその力で地面を風化させたんじゃないでしょうか」
天候を操る能力、それなら風雨を操って地面の風化ぐらいは簡単にできるってことか。
「…あれ、じゃあ諏訪子の能力と相性最悪じゃないか?」
「はい…以前も諏訪子様に同じことを言ったのですが『大丈夫だ、問題ない』の一点張りで…」
駄目なやつだそれ。しかし俺はてっきり能力で相手の動きを封じるのが狙いかと思ったのだが事前に知っていたのならいったい何が狙いなんだ?
―諏訪子side―
いやー、やばい。能力全然効かないや。翠から聞いてはいたけどまさかほとんど完封されるとはね。なにさ、地面を風化させるって。私と相性最悪だねこりゃ。
「どうした諏訪の!まさかこれで終わりなんて言うんじゃないだろうね!」
「そんなわけないじゃん!まだまだ小手調べだよ!」
そうは言ったものの能力が効かない以上できることはかなり限られる。弾幕だって無限に出せるわけじゃない。なにより厄介なのはあの御柱!四本の柱が縦横無尽に襲い掛かってくる。あれのせいで距離を詰められない。それと大和のが背負ってる注連縄、あれも地味に面倒だ。あれ多分蛇を表現してる。蛇の脱皮は『再生と永遠』を示す、それがミシャグジ様の力を打ち消してるんだ。さっきから祟りが効かないのもそれのせい。
「あーもう!私のやること全部防いでくるじゃん!」
「祟り神の恐ろしさは聞いてるからねえ、そりゃ対策ぐらいするってもんでしょ!」
このまま戦っててもそのうち限界がくる。出し惜しみなんてしてられない!
私は再び能力で地面を隆起させ大和の神の視界を覆う。どうせすぐ風化してくるだろうけどその一瞬が欲しい。
「さっき見せただろうに、それはあたしには効かない…!?」
地面を風化させさっきと同じように御柱をぶつけてくる。
それを待っていた。
ザンッ
「なっ!?」
「対策ぐらいこっちもしてるに決まってるじゃんねぇ!」
大和の神の顔が驚愕に染まる。それもそうだろう。なにせ自慢の御柱が真っ二つに斬られたんだから。
「これが私のとっておき!対御柱用の鉄輪さぁ!」
大和の神が御柱で戦うというのは知っていた。だからそれを無効化する方法をずっと考えてた。そしてある日民が斧で木を切り倒してるのを見て思いついた。
あれ?鉄で武器作ればいいんじゃない?
もちろんただの鉄製の武器で神が使う御柱を斬れるはずがない。だから今日までずっとこれに神力を込め続けた。祟り神の頂点が神力を込め続けたんだ、いくら軍神が操る御柱といえど真っ二つだ。続けざまにもう一本斬ってやった。これで残りは二本、さっきよりかなり動きやすい。
「お自慢の御柱も真っ二つにされちゃ使えないみたいだね!このまま残りの二本も使い物にならなくしてあげるよ!」
「はんっ!あたしに対してそれを狙って実際に斬ったのはあんたが始めてだよ!でもね、それを警戒してないとでも思ったかい?鉄ならこれはきついだろう!」
大和の神…面倒だな、神奈子とか言ってたっけ、それでいいや。とにかく神奈子を御柱もろとも斬り落としてやろうと思ったがいつの間に巻き付いていたのか神奈子の腕にあった藤蔓に防がれた。しかも面倒なことに鉄輪にまで根を伸ばしてくる。とっさに離れたが遅かった、すでに根を張り鉄輪は錆びついていた。いくら神力を込めたといってもこれでは使い物にならない。ただ向こうも無傷とはいかなかったようで残った御柱を投げ捨てていた。なんとか御柱には傷をつけられていたか。
「これで互いに丸腰…こっからは小細工なしの殴り合いといこうじゃないか!」
「軍神と殴り合うとか冗談でも嫌だけどね…そんなことも言ってられないか。弾幕もほとんど意味ないしね、いいよ、軍神様に敗北ってやつを教えてあげる!」
そこからはよく覚えていない。とにかく互いに無我夢中で目の前の相手を殴り倒していた。それからどれくらい経っただろう、一時間か二時間か、あるいは数十分かもしれない。どちらにしろそれは訪れた。
「はあ…はあ…。初めてだよ、ここまで血を流したのは…軍神にここまで言わせたんだ、洩矢諏訪子、あんたは誇っていい」
「…そんなのどうでもいいよ、結局負けちゃったんだ、私は」
私は負けた。自分の全部を出し尽くして、皆に期待されて送り出されたのに、結局負けちゃった。それが悔しくて、気づけば泣いていた。
「うっひぐっ…ごめんね…皆、ごめんね…翠、ごめんね…奏…うわあああああ!」