決着がついた後、諏訪子は気絶してしまった。俺たちはすぐに駆け寄り諏訪子を運ぼうとしたが神奈子に呼び止められた。
「奏、この勝負はあたしの勝ちだ。悪いけど、諏訪の国は大和と合併させてもらうよ」
「なんでそれを俺に言うかな…まあ諏訪子が起きたら伝えとくよ。でも民にそれを伝えるのは後にしてくれ、今は諏訪子を休ませるのが先だ」
「ああ、そっちのほうがありがたいね。なにせこっちももう限界…」
いきなり神奈子が黙り込んだ。何かと思い顔を覗き込んだら気絶していた。
「気絶してら…、はあ、しょうがない、こいつも神社に運ぶか。おーい、大和の連中もこっち来て手伝えー!」
その後神社に二人を運び起きるのを待つことにした。大和の連中は一度大和の国に戻るらしい。兵士が大将おいて戻っていいのかと思ったが面倒だから言わなかった。
次の日の朝に神奈子が起き上がり諏訪の民に戦争の結果の報告と信仰を大和に移すよう言いに行った。諏訪子が目を覚ましたのは夕暮れ時だった。
「あれ、ここは…」
「諏訪子様!」
「翠…?なんで…ああ、そっか。負けちゃったんだ…私」
「起きたか、諏訪子」
「奏…、私は…」
「今、神奈子が民に信仰を移すように呼びかけに行ってる。多分そろそろ戻ってくるだろうな」
「そっか、そうだよね…。そのために戦ってたんだもん」
「あー、その、さ。あんまり気に病まなくていいと思うぞ?諏訪子だって頑張ってたしそれに多分…」
「いいんだ、気つかわなくても。信仰をとられた私はもうすぐ消えちゃうだろうし、そのうち誰からも忘れられる、でも、せめて二人には覚えていてほしい」
「ああ、いや、そうじゃなくてな?多分信仰については心配いらないと思う」
「へ?なんでそんなこと「いやーまいったねこりゃ」! 八坂神奈子…!」
「お、目覚めたかい、諏訪の。いやーあんたのとこの民はみんな信心深いねぇ。こっちがいくら言っても信仰を移すつもりはないの一点張りだもん」
「信仰を移さない…?なんで…」
「そりゃそうだろうよ。自分たちが信仰する神様が自分たちを守るために命張って戦ってくれたんだからなあ。むしろあの一騎討ちで余計諏訪子への信仰心上がったんじゃないか? それに祟り神への信仰をやめたらどんな祟りがあるか分からないからな、いくら相手が大和の軍神といえども祟り神への恐怖には勝てなかったんだろうさ」
「そういうことさ。これじゃあどうしようもないね」
「え、じゃあこの国は…」
「信仰を得られないんじゃ国盗りをする意味もないしねぇ、残念だけどこの国を大和に加えるっていうのは諦めるしかないね」
「だってさ、諏訪子。よかったな」
「…八坂神奈子、提案がある」
「提案?あたしにかい?」
「この先他の国がここを狙って攻めてこないとは限らない。だからさ、同盟を組みたいんだ。大和っていう大国が後ろ盾になってくれれば他の国だってそうやすやすとちょっかいをかけてこないだろうし」
「なるほど、あんたの希望は分かったよ。でもあたしらがそれを受ける利点がない。同盟というからにはそっちにも何かしらの対価はだしてもらわないと」
「ならこうしたらいいんじゃないか?」
俺は二人に考えを話した。
「…つまり、あたしたちとは別の存在しない名前だけの神を立てて民に信仰させる、でも実際はその神を立てたあたしと神事を執り行う諏訪子を信仰してることになるから諏訪子は今の信仰を失うことなくあたしもこの国からの信仰を得られるってことかい」
「ああ、これなら同盟を組むには十分なんじゃないか?」
「なるほどねえ、確かにこれなら同盟を組む価値がある。どうだい諏訪子、奏の案でいいなら同盟を結んでもいいけど?」
「私は民を守れるならなんでもいいよ、むしろこっちも信仰を得られるなんて思ってなかったからね、それでいいよ」
「よし!なら決まりだね。我ら大和は諏訪の国と同盟関係になることを誓おう」
「ありがとね。我ら諏訪の国、大和の国に信仰の一部を譲ることを誓うよ」
こうして諏訪と大和の戦争は幕を閉じたのだった。
それから数日後…
「で、神奈子はいつまでこっちにいるんだよ!?もう戦争終わってから随分経つぞ!?」
「細かいこと言うんじゃないよ。どうせ向こうに戻ったってたいしてやることないんだから」
「やっぱり大和みたいな大きい国でも神は暇なんだねえ。あ、お酒無くなった。翠ー!おかわりー!」
「あたしにもお願いー!」
こいつら数日前まで殺し合ってたのに今ではすっかり飲み友達みたいになってるんだが。ここ数日ずっと宴会してるし。
ま、いいか。戦争も終わって平和だしな。
「ほらほら、奏もこっちきて飲みなって!神奈子に奏の話聞かせてやりなよ!」
「へぇ、奏の過去か。そういえば気になってたんだ、聞かせておくれよ」
「はいはい、今行くよ」
――少年昔語り中――
「…って感じで目が覚めたら一億年経ってたってわけだ」
「あんた…やけに強いと思ってたけどそんな事情があったんだねえ」
「ね、何回聞いてもびっくりするよ。特に最後の鬼との戦い!そんなでたらめな強さの妖怪がいるなんて聞いたことないよ」
「あたしもだね、もし今も生きてたらぜひ戦ってみたいもんだ、軍神の血が騒ぐよ」
「やめとけ、冗談抜きで死ぬぞ」
そんな感じで俺は諏訪の国での日々を過ごしていた。神奈子は時折り大和の国に戻ったりしていたがほとんど諏訪の国に住み着いていた。諏訪の神社には三柱の神が住まうとかいう噂まで流れているらしい、まあ間違ってはいない。
それから気づけば諏訪の国に住み始めてから五十年が経とうとしていた。現人神となり神としての側面が現れた影響か時間の流れる感覚が生前より随分早い。町で見慣れた人たちもだんだんと減ってきた。そりゃそうか、普通の人間にとって五十年はそれほど長いんだ。
それからさらに十年が経ち、諏訪の国で葬式が行われた。長い間守矢の巫女として諏訪の国を見守ってきた翠さんの葬式だ。俺や諏訪子、神奈子に翠さんの家族以外にも多くの民が参列していた。
俺は転生して初めて親しい人の死を味わうことになったのだ。
「なあ、諏訪子、神奈子。親しい人が死ぬのは…辛いな」
「…うん、そうだね。私も長いこと生きてるけどさ、これだけは何回経験しても慣れないよ」
「人間はあたしたち神や妖怪よりずっと短い時しか生きられないからね。こうして他者の死を見送るのは永い時を生きる者の宿命さね…」
それから一ヶ月後
「この国をでてく!?なんでさ!」
「この世界を旅することにした。あのとき思ったんだ、俺は人間のことを知らなすぎる、もちろん妖怪のこともだ。だからこの目で見て回りたいんだよ、そして知りたい、人間や妖怪が何を想って生きるのかを」
「さみしくなるけど、そういうことなら仕方ないねぇ。ま、互いに時間はたっぷりあるんだ。生きてりゃまたそのうち会えるだろうさ」
「そっか…奏がそう決めたんなら仕方ないね。私が止めていい理由もないんだし。でも約束してよね、いつかまた私たちに会いに来るって!」
「ああ、約束だ。今までありがとうな、この国は居心地よかったよ。じゃあな!」
そうして俺は二人に見送られながら諏訪の国を去ることにした。だがその前にもう一人別れを告げる相手がいる。
俺は久しぶりに森の花畑を訪れていた。
「あ、師匠!お久しぶりです!」
「よっ、幽香。久しぶりだな」
幽香はあれから随分と成長していた。俺の腰ぐらいまでだった身長は今では俺より少し低いか同じくらいまで伸びていた。
「あれから花畑はどうだった?また誰か荒らしに来たりしてないか?」
「いえ、あの二人を追い返してからは誰も来てません。おかげで平和そのものでしたよ。あ、ところで師匠は今日はどうしてここに?」
「実はな、俺この国を出ていくんだ。だから今日は別れの挨拶ってとこだな」
「そう…ですか…。師匠とはもう会えないんですね…」
「あー、まあそんなに落ち込むなって。お互い先は長いんだから生きてればまた会えるよ」
「ですが…」
「うーん、よし。じゃあ幽香に一つ課題を授けよう、次にまた会うときまでにそれを達成できてたらなんでも一つ言うこと聞いてやる」
「課題ですか?」
「ああ、それはな、お前が一番綺麗だと思う花畑を作って俺に見せてくれ。それが課題だ」
「…分かりました!師匠と再会するときまでに、絶対作ってみせます!」
「おう、期待して待ってるよ。じゃあ、またな!」
「はい!またいつか!」
そうして幽香にも別れを告げた俺は今度こそ諏訪の国を離れたのだった。
一章より短くなってしまいましたがこれにて第二章終了です。次回からは第三章となります。三章は今までみたいに一つの場所での出来事というよりは様々な場所での出来事の話といった内容にしようと思います。