第一話 出会い
「…はっ!」
目が覚めて最初に見えたのは視界いっぱいに広がる緑…木々だった。つまり俺は見知らぬ土地の森に放り出されたということになる。
「転生する時代はランダムとは聞いてたけどさあ…場所までランダムなのは聞いてないって!見渡す限り緑だよ!人の気配がないんだけど!?せめて町とかの近くにとばしてくれたっていいじゃん!」
などと嘆いてみたが返ってきたのは静寂だけだった。虚しい…。
まあここでじっとしててもしょうがないしなあ、まずは川を探そう。明るいうちに水だけでも確保しておきたいところだ。こういうときは行動あるのみだ。
幸運にもすぐ近くで川を見つけた俺は水を飲んだ後、あの爺さんが言っていた能力とやらを試してみることにした。とは言っても能力に関しては何も説明されてないので使い方が分からない。そもそも自分にどんな能力が与えられたのかも分からず途方に暮れていた。
「はあ…せめてどんな能力かぐらい教えておいて欲しいよなあ…」
爺さんは自衛のために能力を与えると言っていたから少なくとも攻撃手段として使える能力だと思うのだがそれ以外のことは何もわからない。こういうのでよくあるのは超パワーだとか炎を操るといったものなので木を殴ったり炎を出そうとしてみたりしたのだが何の成果も得られなかった。むしろ木を殴ったせいで手を痛めたので結果としてはマイナスだ。
能力に関してはこれ以上考えても分からないので一旦放置するとして、これからどうしようかと考えながら何となくポケットに手を入れてみたらなにか入っていることに気づいた。
「ん?なんだこれ?」
ポケットから取り出してみたところそれは一枚の紙きれだった。見たところメモ用紙のようだ。
これを見ているということは今頃能力が何か分からず途方に暮れておるのではないかの?なんで分かるのかって?それはわしが神だからじゃよ~。早速じゃが君の能力とその使い方を教えようと思う。しっかり覚えておくように。まずは能力についてじゃが、君の能力は
[吸収・放出する程度の能力]
じゃ。使い方はいたってシンプルじゃぞ。吸収したいものに対して吸収するイメージをすればそれを吸収できる。逆に放出するときは吸収したものを放出するイメージをするだけじゃ。試しに放出するイメージをしてみるといい。今の君に必要なものを吸収させておいたからの。
メモ用紙には能力と使い方について書かれていた。正直かなり助かった!取り敢えず書いてある通り放出するイメージをしてみる。すると渦のようなものが浮かび上がりそこから何かが出てきた。
「これは服と…剣?」
服はどこかで見たことがあると思ったらどうやらF〇Oの太〇望によく似たものだった。爺さんの趣味だろうか?そして剣のほうだが…はっきり言ってよく分からない。見た目からして刀なのだろうがそれくらいしか俺には分からなかった。
「服はありがたいけど剣って…触ったことないっての。これのどこが必要なものなんだ?これで戦えっていうんじゃないだろうな」
俺は剣術なんてわからないしせいぜい授業で剣道をすこしやったぐらいだ。素人に本物の刀なんて渡すなよ…。
取り敢えずでてきた服に着替えて剣は能力でしまっておくことにした。吸収ということなのでブラックホールをイメージしたら思ったより簡単にしまうことができた。
それからは能力の練習ということで枯葉や木の枝、小石に丸太など落ちているものを片っ端から吸収してみたりそれらを一気に放出したりして遊んでいた。すると突然どこかから…
「きゃあ!」
!?
今のは人の声、というか悲鳴だよな!?あっちから聞こえたはず…行ってみるか!
――?side――
「きゃあ!」
しくじった。実験に必要な材料を取りに森に入ったはいいが妖怪に襲われてしまった。いつもならこの程度の妖怪すぐに倒すことができるが今は普段使っている弓矢がない。矢が思ったより少なかったせいで相手を倒す前に無くなってしまった。ここから都まで負傷したこの足で妖怪相手に逃げ切れるだろうか。
「gaaaaaaaa!!!」
…どうやら現実はそこまで甘くないようだ。こんなことなら面倒でも護衛の一人ぐらいはつけてもらっておくべきだったか…。
などと考えていると妖怪が腕を振りかぶっているのが見えた。自分でも驚くぐらいに冷静に状況を客観視しているが死ぬ瞬間は周りがスローモーションに見えるというやつだろうか。いづれにせよ私はここでこの妖怪に殺されるのだろうが。
自分が殺されるというのにまるで他人事のように考えながら死の覚悟を決めようとしたまさにその瞬間だった。
「どりゃあああああ!!」
今まさに自分を殺そうとしていた妖怪が突然吹き飛んだ。
どうやら横からすごい勢いで何かを叩きつけられたようだが…。
吹き飛んだ理由を考えているとその何かを叩きつけたであろう人物が現れた。
「さっきの声あんただよな!大丈夫か!?」
どうやらさっきの私の声を聞きつけてここまで駆けつけたようだ。
「え、ええ。ありがとう。私は大丈夫よ」
そう答えながら助けてくれた人物を見ると都では見ない顔だった。さっきの攻撃が彼によるものだとしたら恐らく何らかの能力を持っているのだろう。しかしそうなるとますます怪しい。能力というものは珍しいものでそんな人間が都にいたら立場上話ぐらいは耳にするはずだ。しかしさっきのような攻撃ができるような能力を私は知らないしそんな人間がいるという話も聞いたことがない。少し警戒する必要がありそうね…。
――奏side――
悲鳴を聞いた俺はすぐに声の聞こえた方向に向かって走り出した。木々をかき分けながら進んで行くと女の人が化け物に襲われていた。すぐに助けようとしたが俺はあることに気づいた。
(あれ?どうやって助ければいいんだ?)
俺はあんな化け物を相手にできるほど強くないし人一人抱えて化け物から逃げられるほど鍛えてるわけでもない。剣で戦う?論外だ。素人がいきなり実戦なんてできるわけない。
となると今の俺ができることは一つだった。
(こうなったら一か八か…!)
俺は咄嗟に化け物にむけて手を突き出し能力を使った。
「どりゃあああああ!!」
化け物にさっき能力で吸収した丸太なり石なりを一気に放出!
正直当たる気がしなかったし運良くひるんだりしてくれればその隙に逃げれるかもぐらいの考えだったのだが、偶然にも化け物に直撃しそれなりの速度で飛び出したようでそのまま吹っ飛んでいった。
俺の決死の攻撃でかなり吹き飛んでくれたようで化け物がこっちに戻ってきたりはしなかった。偶然とはいえ何とかその場をしのげたことに安堵しつつも俺は襲われてた人の無事を確認することにした。
足を怪我しているようだがそれ以外は無事なようで声をかけたらお礼を言われた。
しかし俺の姿を見たとたんになにやら警戒し始めたようだ。まあそりゃそうか。いきなり森から人がでてきて化け物を吹っ飛ばしたら誰だって警戒するよなあ。
そのように考えていると彼女から声をかけられた。
「さっきの攻撃、あなたの能力によるものかしら?」
「え、ああ。ってなんで能力のことを…」
「あんな滅茶苦茶な攻撃ができるなんて能力持ちとしか考えられないわよ。能力がある人間は珍しいけどいないわけじゃないし、少し考えればすぐ分かるわ」
まじか。てか俺以外にも能力がある人間がいるんだな。
「ところで、あなたいったい何者?さっきも言ったけど能力を持つ人間は珍しいから都にいたら知らないはずないし、服装からしてよそ者よね。よその国からのスパイだとしてもなんでそんな目立つ格好で森にいるのかしら?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺はスパイなんかじゃないしそもそもここがどこなのかも分からないんだよ!」
どうやらこの人は俺のことをスパイだと疑っているらしい。まあ確かに自分たちの町の近くに見慣れない格好のやつがうろついてたら怪しむのも当然か。てか近くに人里あるのかよ!
「…」
「…」
き、気まずい…。多分俺の言っていることが本当か疑っているんだろうが証明できるようなものはないし信じてもらうしかないんだよなあ…。
「見た感じ嘘をついているわけじゃなさそうね。ごめんなさい、助けてもらったのに疑ったりして」
どうやら信じてもらえたらしい。危ねえ…、もし信じてもらえなかったらどうなってたんだろうか。
「取り敢えず都に案内するわ。助けてもらった恩もあるし、行く当てがないなら都に住めるよう頼んであげるけど」
「本当か!?助かるよ!」
マジか!住む場所とかどうしようかと思ってたからありがたい!
「じゃあ都に案内するわ。ついてきて、ええと…」
「あ、まだ名乗ってなかったな。俺は月雅奏。よろしくな」
「そう。私は八意永琳よ。よろしく奏」
こうして俺は転生先で八意さんに出会ったのだった。