最初の模擬戦で奇跡的に勝利した俺は模擬戦が終わった瞬間その場に倒れこんでしまった。体のあちこちが痛い…。今まで特に鍛えてなかったのに無理しすぎたせいだ。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、ああ、大丈夫。ちょっと休めばすぐに治るよ」
一方で依姫は見たところ息切れ一つ起こしていなかった。普段から鍛えているのだろう。これじゃあどっちが勝ったのか分からないな…。というか多分さっきの模擬戦だって手加減していただろうしあれを勝ったといえるほど俺はお気楽じゃない。試験まで時間はないのだから休んでいる時間はない。俺は先ほどから悲鳴をあげている体に鞭を打ってなんとか立ち上がった。
「じゃ、じゃあ修行の続きといこうぜ。といってもこれからどうするかは依姫だよりになっちゃうんだけどさ」
「あ、はい。そうですね…先ほどの模擬戦で見たところ奏さんの剣の筋は悪くなかったので剣術をメインで鍛える方向でいこうかと思いまして。もちろん体術の特訓もおこないますが比率的には6:4といったところですね」
「オッケー、じゃあ早速「ただ…」ん?」
「1ヶ月で基礎から試験に合格するラインまで届かせるにはどうしても時間が足りなくて…1ヶ月間休み無しでやればなんとかいけるのですが…」
そういうことか。確かに依姫も含む俺以外の入隊希望者はもっと前から訓練してるだろうしそんな連中と合格を奪い合うんだからそれぐらいの努力はしなきゃだよな。
「わかった、なら1ヶ月間毎日修行しよう!」
「い、いいんですか?修行の内容もかなりハードですしそれを1ヶ月休み無しで続けるとなるとかなり厳しいですが…」
「大丈夫だ、たった1ヶ月で入隊試験に合格するっていうんだったらそれぐらいはしないとな。あ、もちろん毎日依姫に迷惑かけるつもりはないよ。修行の内容だけ教えてくれれば俺一人でもやれると思うし。依姫は都合がつくときだけで大丈夫だから」
依姫にも予定があるだろうしな。俺のわがままで1ヶ月も拘束するのはさすがに申し訳ない。
「いえ、それについては大丈夫です。相手に教えるというのもまた修行になるので…それに今までも毎日修行はしていましたから、むしろ修行相手ができて嬉しかったんです」
なんでも今までの修行相手は皆依姫が女だからという理由でまともに相手しなかったらしい。なんだそれ、ひどい奴らだな。でもそんな奴らを全員で実力で黙らせてきたというのだからやはり依姫はかなりの腕前なのだろう。そんな人に教えてもらえる俺は幸運なんだろうな。
それから俺は依姫に剣術の基礎や体術、それに家でもできるようなトレーニングを教えてもらった。依姫いわく俺はかなり飲み込みがいいようでこの調子なら試験の日までには合格ラインまで届きそうだと言っていた。
そんな感じで修行を進めていると自分でも驚くほど集中していたようで気づけば日が傾きかけていた。
「もうこんな時間ですか。今日はここまでにしましょう。明日からは私が迎えに行きますのでよろしくお願いします」
「ん、分かった。じゃあ明日もよろしく!」
そんな感じで一日目の修行が終わり家に着く頃には日はほとんど沈んでいた。
「あら、おかえり。思ったよりも遅かったわね。てっきり日が沈む前に帰ってくると思っていたのだけれど」
「思ったより熱中しちゃってさ。あ、そうだ。明日からは依姫が迎えに来るってさ」
「ええ、それならもう聞いてるわ。1ヶ月休み無しで修行するんでしょう?」
「なんでもう知ってるんですかね…」
「だって最初からそのつもりだったもの」
永琳の話によると初めから1ヶ月休み無しの修行は決まっていたらしい。そのことが俺に教えられていなかったのはなんでも俺の覚悟を試すためだったのだとか。
「もしあなたが休み無しの修行を拒んでいたらその時点で見込みなし判定だったのよ。そうなった場合あなたは入隊する資格なしで試験すら受けさせてもらえなかったでしょうね。もしそうなればあなたは職なし無一文。そんな人を都に置いておく理由もないから即刻追放だったんじゃない?」
なんだそれ。ということはもしあの時拒んでいたら俺は今頃路あの森をさまよっていたのか…、考えただけで背筋が凍る。
「まあ今こうして都にいられるんだからいいじゃない。ほら夕食できたから運んでちょうだい。それ食べたら霊力操作と能力についての座学だからね」
「はいはい…あのとき休み無しの修行を受け入れた自分をほめてやりたいよ」
そうして夕食をすました俺は永琳の座学を受けるのだった。
「それじゃあ能力について教えるけどその前に、あなたの能力ってなんだったかしら?」
「俺の能力?【吸収・放出する程度の能力】だけど…」
「ならあなたは自分の能力についてどれくらい知ってる?」
「どれくらいって…初めて永琳に会ったときに見せただろ?物を吸収してそれを放出として飛ばすってやつ。この能力でできることはそれぐらいだよ。あとはせいぜい吸収でどんな物でも楽に持ち運びできるぐらいだな」
正直これ以外の使い道なんてないと思う。どんな物でも簡単に持ち運びできるのは便利だがその程度の能力だ。
「はあ…あなた、自分の能力がどれだけおかしいか分かってないの?どんな物でも一度に全て吸収できるってことはあなたの能力には理論上は上限がないってことよ?それに…」
そういうと永琳は突然持っていた指示棒で俺を叩こうとしてきた。
「うわっ!なんだよいきなり!?」
「いいから!ちょっと一発叩かれなさい!能力は発動しなさいよ!」
わけがわからない。なんでいきなり叩かれなきゃならんのか、それに能力を発動しとけって…永琳はいったい何がしたいんだ?
取り敢えず言われた通りに能力を発動する。その瞬間永琳は容赦なく俺を引っ叩いた。
「いってぇ!…ってあれ?痛くない」
「やっぱりね。それもあなたの能力によるものよ」
どういうことだ?叩かれても痛くないのが俺の能力によるもの?
「あなたは今能力で無意識に叩かれたときの衝撃を吸収したのよ。衝撃を吸収されれば当然その攻撃も威力が無くなってしまう。つまりあなたの能力は相手のどんな攻撃も無力化できるのよ。物理攻撃ならさっきみたいに衝撃を吸収したり、他にも霊力や妖力を使った攻撃…霊弾とか妖術とかね、それらも直接吸収してしまえば相手を無力化できるってわけ」
「なんか…そう聞くと俺の能力って滅茶苦茶強くないか?」
「だからそう言ってるじゃない。あなたが理解していないだけでその能力は使いようによっては最強クラスといっても過言じゃないわ。だからこそまずは自分の能力についての理解を深めて使いこなせるようにならなきゃいけないわけ。どんなに優れた能力でも使い手次第で良くも悪くもなるの」
なるほど、使い手次第で良くも悪くもなる、か…。たしかに永琳の言う通りだ。例えば包丁は料理に使うものだが使い方によっては凶器にもなる。能力もそれと同じということだろう。
「わかった、これからは自分の能力についてもっと理解を深められるよう頑張るよ」
「ぜひそうしてちょうだい。じゃあ能力については今日はこのくらいにして霊力操作
のほうに移りましょうか」
そうして霊力操作の訓練に入ったのだが永琳いわく俺の霊力は普通の人よりかなり多いらしい。これも転生した際の影響だろうか。まあ霊力は多いほうができることも増えると永琳が言っていたのでこのことで損するようなことはないだろう。
「それにしても…あなた初めて霊力を操作するというわりにはやけにうまいわね」
「そうか?永琳の教え方がいいんじゃないかな?」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない。でもそれを抜きにしても本当に初めてか疑うレベルよ。もしかしたらこれも能力によるものだったりしてね」
「なんで俺の霊力操作がうまいことが能力につながるんだ?」
「私が教えたことを知識として吸収、吸収した知識を実行という形で放出、って感じに考えれば有り得ない話じゃないわ。多分あなたは物事をインプット・アウトプットする力が能力で底上げされてるんじゃないかしら?」
「あー、それはあるかもな。今日の依姫との修行だって飲み込みが早いって言われたよ」
こうして言われるとあれも能力によるものだとすると納得できる。転生するまえの俺なら絶対こんなに早く言われたことを理解して実行できるわけないし。
「まあ飲み込みが早くて困ることはないしこの調子で続けましょう。この調子で進めれば試験までに十分間に合うわ」
そのまま霊力操作の訓練を終えて俺は記念すべき修行一日目を終えたのだった。
主人公の能力については転〇ラのベルゼ〇ュートを想像してもらえれば分かりやすいかもしれません。