最初の模擬戦から修行を重ねてもうすぐ1ヶ月が経とうとしていた。
「ふう、そろそろ休憩にしましょうか。もうすぐ昼どきですしね」
「え、もうそんな時間?たしかに言われてみたら腹減ったなぁ」グゥー
そういって俺たちは弁当を取り出して休憩にした。俺の弁当は永琳の手作りで修行を始めてから毎日朝に持たせてくれる。薬師らしく栄養バランスも完璧でしかもどの料理も一流の料亭のものと言われても納得できるレベルで美味い。ちなみに依姫の弁当は依姫のお姉さんが作ってくれているらしい。俺はまだ会ったことはないがなんでも永琳が色々と教えているらしい。そのうち会うこともあるんだろうか。
「にしても、明日はもう入隊試験か。なんだか修行を始めたのが昨日のことみたいに思えるよ」
「そうですね、始めてあなたに会ってここで模擬戦をしたのが懐かしいです。奏さんの腕前もあの時と比べてかなり上達しているので、明日の試験も問題ないでしょう。だからといって油断してはいけませんよ?」
「はは、分かってるって。俺以外は全員もっと前から修行を積んでるだろうし油断なんてできないよ」
そう、明日が警備隊の入隊試験当日なのだ。この1ヶ月死ぬ気で修行してきたとはいえ俺以外は全員ずっと前から警備隊への入隊を目指し努力を重ねてきた連中ばかりだろう。油断なんてできるはずもない。
「さて、少し早いですが今日の訓練は次の模擬戦で最後にしましょうか。あまり無理をして明日に響いたら元も子もありませんし。明日に向けてしっかりと休息をとるべきです」
「そうだな。じゃあ休憩もこのくらいにして始めようぜ」
そういって俺たちは剣を構える。今俺たちが持っているのは初日に使っていた木刀ではなく模造刀だ。俺がある程度剣術を扱えるようになったころに依姫に渡された。なんでも模造刀のほうが重さなどが真剣に近いので実戦で真剣を使うとなったときに違和感なく扱えるようになっておいたほうがいいとの理由だ。たしかに木刀とは違い鍔などもついているので最初のほうは扱うのに苦労したが今では問題なく使えている。
互いに向き合いながら俺は今までの修行を思い返していた。あれから毎日依姫と修行を重ねたが最初の模擬戦以来俺は依姫に一度も勝ったことがない。むしろ修行を積むほどにあの時どれほど依姫が手加減してくれていたのかを実感した。だが俺もあの時と比べてかなり強くなったと思う。この最後の模擬戦に今の俺の全力を叩き込む!
「じゃあ…いくぜ!綿月依姫!」
「かかってきなさい!月雅奏!」
互いに宣言した直後相手に向かって突っ込んでいき剣と剣がぶつかり合い鍔迫り合いの形になった。俺は一瞬だけ力を抜き依姫の剣を受け流す。依姫はそのまま前に倒れこむような形になりその隙に後ろから一撃を食らわせようとしたのだが依姫は俺の動きを予測していたようでこちらを振り向きそのままの勢いで俺の一撃を弾いた。
剣を弾かれ胴ががら空きになった俺の隙をつくように依姫が剣を振りかぶったが俺は弾かれた力を利用して咄嗟に後ろに飛び依姫の一撃を躱す。
距離をとった俺は剣を構えなおし即座に依姫との距離を詰める…ふりをして体の軸をずらしフェイントを仕掛けた。依姫が反応したのと逆のほうから後ろをとるつもりだったのだが、最後の模擬戦で仕掛けたフェイントから俺が再びフェイントを仕掛けることを警戒していたようで正確に俺の動きを捉え防がれてしまった。そのまま再び鍔迫り合いになったが先ほどとは違い俺は依姫と剣をぶつけ合うつもりはなかったのでそこまで力を込めておらず依姫に押され気味の状態になった。
俺は瞬時に力を込めようとしたがそれより早く依姫が踏み込んできて上から押さえつけられるような体勢になった。
この体勢はまずい!下から押し上げるより上から押さえつけるほうが力が入りやすい。実際今俺は依姫の剣を押し上げられないでいる。この体勢のままでは反撃もできない。かと言ってさっきみたいに一瞬だけ力を抜いて相手の力を利用して受け流すよいったことも難しい。こうなったら…
「はああああ!!」
「!?」
俺は霊力操作の特訓で身につけた身体強化の術を使った。この術は霊力操作の応用で全身に霊力を纏わせ身体能力を底上げする術で永琳いわく霊力操作のなかでもかなり難しい術らしい。しかし永琳の教えのおかげで霊力操作に関してはかなり上達している俺はこの術の習得も難なく達成できた。今では霊力操作については都で一二を争うだろうと永琳のお墨付きももらっている。
そうして身体能力の術で力を底上げした俺は下から依姫の剣を弾き上げ再び距離をとった。依姫は突然俺の力が上がったことに驚いていたようだがすぐにいつもの冷静さを取り戻した。依姫のことだ、俺が身体強化を行ったことにも気付いているだろう。身体強化の術にも限界がある。依姫が強化した俺のパワーとスピードに慣れる前に決着をつける!
俺はさっきまでとは比にならない速度で依姫に肉薄し、残りの体力を全て使い切るつもりで剣を振るった。
最初のほうは依姫も俺の攻撃を防いでいたが疲労がたまってきたのかだんだん俺の攻撃への反応速度が遅れてきた。このまま押し切ればいける!
「うおおおおおおお!!」
「はあああああ!!」
俺が全力を込めた一撃を放とうとした瞬間依姫もまた剣を振りかぶっていた。さっきまでよりも、いや今まで見てきたなかでも最も早く威力も桁違いであろう一撃。おそらく依姫も身体強化の術を使ったのだろう。
俺たちは互いにこの一撃で決着がつくと理解していた。互いに全てをぶつけ合い、そして全てを込めたこの一撃で相手を倒すのだと。今の俺たちはおそらく同じことを思っているのだろう。
(ここまで修行をつけてくれた依姫に…)
(私と全力でぶつかってくれたこの人に…)
((勝ちたい!!!))
そして互いの全力を込めた一撃を放つ。今までにない速度・威力で互いの剣と剣がぶつかり合い、そして…
バキンッ
「へ?」
「はい?」
折れた。それはもう見事に折れた。俺の剣は刃が真ん中でポッキリ折れており依姫にいたっては根元から刃が砕けていた。
いくら模造刀とはいえ強度はかなりのものだ。しかし考えてみてほしい。身体強化をした二人が全力でぶつけ合えばどうなるか、当然折れる。少し考えれば分かることだ。
「…折れたな」
「…折れましたね」
さっきまであんなに昂っていた気持ちはどこかにいってしまった。それは依姫も同じなようで、俺たちは刃の欠けた剣を持って立ち尽くしていた。
そんな光景がなんだかシュールで今の自分を客観視したらなんだか笑いがこみ上げてきた。
「くっ、くくっ、あはははは!!なんだこれ、おかしすぎるだろ!あはははは!」
「な、なんですかいきなり!笑わないでください!」
「いや、だってさ。さっきまであんなに意気込んでたのに…剣ぶつけたら折れるって…あはははは!!だめだ抑えられない!あはははは!!」
「まってください…そんなふうに言われたら…ふっふふっ、あははははは!!!」
「「あははははは!!!」」
そうやって俺たちは小一時間笑い続けていた。
「ひー、だめだ笑いすぎて腹痛い」
「そ、そうですね。これ以上は私も、ふふっ」
ようやく笑いが落ち着いた俺たちは互いに向き合った。
「さて、さっきはあんなことになりましたが…勝敗、どうしましょうか?」
「んー、とりあえず引き分けでいいんじゃないか?またいつか改めて決着をつけるってことで…この先も模擬戦する機会はあるだろうし、今は明日の試験を意識するってことで」
「そうですね、ではそういうことにしましょうか」
「改めてありがとう、依姫。お前のおかげでここまで強くなれたよ」
「礼を言うのはまだ早いですよ。そういうのは明日の試験に受かってから言ってください」
「それもそうだな、じゃあ互いに明日の試験頑張ろうぜ!」
「はい!」
そうして俺たちは訓練場をあとにした。
家に帰ってからは永琳と霊力操作と能力の使用についての最終確認をしてそちらも問題ないとのことなのであとは試験当日を待つのみとなりこうして俺の1ヶ月の修行が終わったのだった。
そしてついに…警備隊入隊試験当日になった。