剣の丘に迷い込んだ軌跡   作:ナスの森

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紡ぎ出される、理由。

 

 何を間違えたのか。何処から間違えていたのは分からない。

 未だ己を構成する風景は見えてこず、モザイクがかった風景の中でくっきりと無限に突き刺さる剣だけが鮮明に映し出される。

 それ以外が見えない以上、結局はそれらの剣を手に取ることしか、少女の中に選択肢はなかった。

 

 モザイクがかった世界の中で、剣だけは無駄に増えていった。

 魔族の戦士達が魔法で作り出す、この世ならざる物質で構成された魔剣。

 ダンジョンの宝物庫に収められた人類の叡智、その中にあった数々の宝剣。

 

 風景だけは見えないのに、剣を貯蔵する機会にだけは恵まれてしまったのが、少女にとって真の不幸と言えるだろう。

 魔族が作り出す魔剣は、魔族の軍勢を転々としてきた少女にとっては嫌でも目に入る代物だ。しかも魔族は、他の魔族を従えるために己の力を常に誇示し続ける必要がある。その誇示の手段として一番に用いるのが魔力量であるが、魔法で武器を作り出すその手の魔族はその序でに自身の魔法研鑽の成果である武器を戦場で振りかざし、自身の部下たちに更に力を誇示し続けるのだ。

 だから、その手の魔剣の貯蔵は自然と増えていく。

 

 人類の手によって作られた宝剣もまた同様。

 当時、かつて人類の領土の多くを支配していた魔王軍は、かつての人類が残していったダンジョン迷宮の多くを根城にしていた。

 少女が潜伏していた多くの部隊もまた例外ではなく、更に魔族達は基本的にかつての人類が残したダンジョン宝物庫の宝に興味を示さないため、結果的に手が付けられることなく放置されることが多かった。

 故に、その中にあった保存状態の良い宝剣を目にする機会も多くあったし、それらもまた例外なく少女のモザイクがかった風景の中に貯蔵された。

 

 故に、己の原風景が見えてくる事は無く、はっきり見える剣の貯蔵だけが増えていった。

 少女にとって、己の世界とは即ち、凶器しか存在しない世界でもあった。

 

 示されたモノしか見えぬというのであれば、ソレを手に取ることしか出来ぬ。

 自らの原風景を見いだす術が見つからないのならば、手に取った凶器を携えて、地獄を往くしかなかった。

 

 

 だからこそ、戦いが終われば、その在り方に綻びが生じるのは必然と言えた。

 目に見える武器を取って地獄を往くだけでよかったのが、そうではなくなってしまった。

 結局、数多の地獄をくぐり抜けた所で見えてくるモノなどなかった。

 

 薄らとだが、確かに、そのモザイクは晴れようとしていた。

 

 手に取った剣を、地面に突き刺す少女。

 その華奢な体には、何本もの剣が突き刺さっている。

 ソレを意に介さず、少女はモザイクの地面に戻した剣を見つめる。

 今し方この剣は、周りに突き刺さる無数の剣の一つに戻った。

 

 少女にとっては、ただそれだけだった。

 

「・・・・・・?」

 

 ふと、差し込んできた光に、少女は空を見上げる。

 先ほどまで、何も見えない空の筈だった。

 いや、そもそも空と知覚できる程はっきりと見えていなかった。

 それは天井だったのかもしれないし、何もない空だったのかもしれない。

 

 だが、薄らと、差し込んできたその光は、確かにこの世界において、少女が初めて目にする、剣以外のナニカであったが。

 

 薄らと、闇夜に輝く、満月のようなモノが、少女の目に確かに入った。

 

────Unfaced to darkness(敗北を認めず).

 

 ────闇に向き合わず。

 

────Nor faced to light(勝利さえ求めず)

 

 ────光からも目を背けた。

 

 知らずの内に、その詩を口にした少女はふと我に返る。

 ・・・・・・己は何に敗北したのだ?

 ・・・・・・一体、何の闇から目を背けた?

 

 ・・・・・・勝利以外の何を求める?

 ・・・・・・それ以外の(ナニカ)などあるものか?

 

 自身で口にした言葉の意味すら分からず、少女は結局、これからもこのモザイク塗れの世界を彷徨うしかない。

 

 

 

 

 ただ一つ、分かることがあるとすれば。

 

 

 

 

 少女の内にある、無限に剣を内包したこの世界のモザイクは。

 徐々にだが、確かに晴れようとしていた。

 

 

     ◇

 

 

 朝、リーニエが来る前とは打って変わり設備の整った林檎農園。修道院に住む多くの孤児たちがその農園の世話をするその隣で、剣戟の音が鳴り響いていた。

 その剣戟の音源たる存在は4人。

 その内の3人は1人の女児と2人の男児。エルゼ、カール、アベルの3人だ。

 もう一人は、木剣を手に3人を相手取っている魔族の少女、リーニエ。

 

 以前にリーニエに鍛錬してくれと頼んでいた3人であったが、承諾したリーニエの手によって日課だった農作業から離れて特訓を受けていたのだった。

 

「やぁっ!」

「踏み込みが浅い。もっと気合いを入れろ」

 

「これならっ!」

「踏み込みは十分。でも大振りすぎだ。そんな物に魔物も人間も当たってくれない」

 

「オリャアっ!!」

「・・・・・・そもそも剣が向いてないな。後で個別指導だ。武器はいくらでも用意してやるから、その時に得意な武器を見繕え」

 

 3人同時相手をしながら、一人一人問題点を指摘し、矯正していく。

 魔族としては若輩ながらも魔王軍に入り込み、一人孤独に戦い続けたリーニエに蓄積された模倣技は既に万を超えている。そして、その模倣技を如何に改良し、モノにし、如何なる状況で外に出力するのが最適か、それを瞬時に導き出すに至れる程の実戦経験を積み重ねてきた。彼の剣製とは異なり、模倣した武器からの憑依経験をなし得ないリーニエの剣製は、この膨大に蓄積された模倣技と合わさって初めて真価を発揮しうる代物なのだから、必然とも言えるのだが。

 その経験は皮肉にも、本来敵対種族である人間の子供達に武を教えるという行為に大いに貢献していた。

 己が記憶してきた模倣技の魔力の流れをデータとして参照し、彼らの魔力の流れと比較する。蓄積されたあらゆる解を選び、彼らに適正な武器はどれか、適正な技はナニカ。それらを全て見定めるため、まずは小手調べの鍛錬をリーニエは3人に施していた。

 

『・・・・・・』

 

 その様子を、農作業に勤しんでいた他の子供たちはまじまじと見ていた。

 リーニエの強さに憧れたのは、何もあの3人だけではない。ここにいる子供達だって、あの3人と同じ気持ちを抱かなかった訳ではない。

 それでも一歩踏み込めなかったのは、やはりリーニエに対する畏れのようなモノが、未だ彼らの胸中に渦巻いているからに他ならない。

 だからその一歩を踏み出してリーニエに教えを乞うた3人の事が、他の子供達には少し眩しく映ったのだ。

 

「・・・・・・ッ」

 

 他の子供達と同様に鍛錬の様子を見守っていたアンジュであったが、リーニエのブロードソードに弾き飛ばされるカールを見た瞬間に顔を少し強張らせる。

 他ならぬリーニエの事だ。ちゃんと加減はしてくれているのだろうが、見ていてハラハラする事に違いはない。農作業をこなしつつも、危なくなったら直ぐにでも駆け寄って回復魔法を掛けるつもりだった。この事に関してはリーニエも了承済みだった。

 逆に言えば、回復役が控えているからこそ、リーニエは3人に容赦なく教えをたたき込むことができているとも言える。

 やがて、死にそうな表情で地面に倒れ込んで息を切らす3人。

 それを見下ろしたリーニエは雑に片手のブロードソードを投げ捨てる。同時に、投げ捨てたブロードソードと、子供達の手に握られていた武器が黒い魔力に変わって霧散していく。

 

「今日はここまで。

 言っておくけれど、私のような魔族や人間と戦えるようになっても意味はない。貴方達の主な敵は農園を荒らす魔物だ。基本的な事は私が直接叩き込むけれど、いずれは魔物とも実戦を積んで貰うから、そのつもりで」

 

「「「は、はい・・・・・・」」」

 

「お疲れ。2人は今日は休んでいい。カールは暫くしたらまた後で来ること」

「ひ、ひぇ~・・・・・・」

 

 表情を変えず、無機質な声質で無慈悲に言い放つリーニエの言葉に、カールは表情を恐慌にゆがめた後、グッタリと地面に顔を伏せるのであった。

 

「・・・・・・それで」

 

 暫く間を置いたリーニエの視線が、農園の方へと向く。

 カールに向けられていた光のない無慈悲な瞳が、今度は農園の子供達の方へ向く。

 その瞳を受けた子供達は「あ、やばい」と目を強張らせる。

 

「貴方達はいつまでサボっているつもり?」

 

 おかしい、目に光がない筈なのに。ギロリ、という擬音と共に鋭い光を向けられているかのような錯覚を覚えてしまう。

 

「農作業より“こっち”がお望みなら、この3人共々、面倒見てやるけど?」

 

 再び模倣したブロードソードをチラつかせてそう言うリーニエに対し、農園組の子供達は慌ててリーニエから目を逸らして再び農作業に勤しみ始めた。

 あの3人ほどの勇気を、彼らはまだ持ち合わせていなかったのである。

 その中で、鍛錬が終わったのを確認したアンジュはそそくさと立ち上がって、倒れて息を切らしている3人の元へ駆け寄る。

 

「3人ともお疲れです! いま回復魔法をかけますからね」

 

 特訓組はリーニエの指導を受け、リーニエの手を離れた農園組は代わりにアンジュが受け持つ。

 二組がそれぞれ仕事を終えたら、全員で集まって食事を取る。

 汗を流した後の昼食は正に美味。全員、何かしらを失った面子が出そろうこの修道院において、彼らにとってそんな充実した毎日が続いていた。

 

 

     ◇

 

 

「リーニエ様。一緒に街へ買い出しに行きませんか?」

 

 きっかけは両手の籠に売り出し用の林檎を大量に乗せながらそう言ってきたアンジュの誘いだった。

 カールへの個別指導まで時間があったリーニエはこれを承諾し、一緒に籠を持ってアンジュと共に修道院から街へ降りる事となった。

 

「いつも林檎有り難うねアンジュちゃん、リーニエちゃん!」

「いえいえ、困ったときはお互い様ですから。私達も銭を稼げますし、ウィンウィンです♪」

 

 いつも林檎を買ってくれる行きつけの若いお母さんと笑談するアンジュ。

 その一方で、隣にいたリーニエはと言うと、街の人間たちにすっかり顔と名前を覚えられてしまったと内心でため息を吐く。

 ────これは、よくない傾向だ。

 幸いフードで角を隠しているため魔族であることはバレてはいないものの、いつまでもここに留まっている訳には行かないと、合理的な思考はそう警鐘を鳴らす。

 ・・・・・・だがその一方で、己の中に逆の思考が芽生えていることも、いい加減リーニエは薄らと自覚していた。

 

「リーニエちゃんも有り難うね。今度会ったらアップルパイご馳走してあげるから」

「それは頂く」

 

 遠慮の欠片もない即答である。菓子作りの心得はあるが、それはそれとして他人が作ってくれるというのならば貰わない理由はなかった。

 相変わらずだなぁ、と隣のアンジュが苦笑しつつ、若い奥さんと別れる。

 その後も林檎は順調に売れていき、真昼を過ぎた頃に既に完売していた。

 

「フフフ、今日も大量に稼ぎましたね♪」

「私が作らせたんだからこれくらい当然。農家仕込みの林檎は美味じゃなければ噓なんだから」

 

 財布に集まった銭を眺めながら微笑むアンジュに、リーニエは素っ気なく返す。

 その後、稼いだ銭を元に買い出しを行うアンジュと、それに付き添うリーニエ。

 ただ買い物をする、それだけなのに、なぜそんなに楽しそうにアンジュが笑うのか、リーニエには理解できないが。人間にとってはきっと楽しい事なのだろうと、リーニエは漠然と考えていた。実のところ、アンジュはリーニエと一緒に買い物ができるというのが楽しいのだが、その考えにリーニエは至れていなかった。

 

「・・・・・・ふぅ。さすがに疲れましたね。あちらのベンチで休憩しましょうか」

「これしきの事で疲れるなんて、戦士じゃない人間って脆弱だね」

「私は戦士(アナタ達)みたいな体力バカじゃないんですぅ~」

 

 ベンチの上に買い物袋を置き、自分もドサリ、と座り込んで背もたれに寄り掛かるアンジュ。それを見たリーニエは呆れるように目を細めつつも、アンジュの隣のスペースに座り込んだ。

 道を行き交う人々の喧噪と共に、2人の時間がゆっくりと過ぎていく。

 

「・・・・・・こうして、また二人きりになるの。書斎での時以来ですよね」

「・・・・・・それがどうかしたの?」

 

 目を伏せ、後ろめたそうに言い出したアンジュに、リーニエは素っ気なく聞き返す。

 

「もう一度、二人きりで話したくなったんです。あの時は、私の失言で、お互い余裕を無くして有耶無耶になっちゃいましたから・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 だから買い出しなんて理由付けてここに誘ったのか、と一先ず納得したリーニエは無言でアンジュに続きを促した。

 

「色々、ありましたよね。リーニエ様に助けて頂いた事、一緒に林檎を作って、売って、一緒に食べて。遂にはリーニエ様、あの子達に剣まで教えるようになって」

「・・・・・・1人は、剣士に適性はないけどね。動く時の魔力の流れからして、おそらく斧の方が向いてる」

「よく見ていらっしゃるんですね。私、あの子達に少し嫉妬しちゃいます」

 

 クスリ、と笑いながら言うアンジュ。

 

「あの子達を鍛えるって、最初にリーニエ様が言い出した時、一体何事かと思いました。正直今でも、あの子達を戦いに出すという行為には抵抗があります」

「あいつらが言い出した事だよ。私は農園のための序でに手解きをしてやってるだけ」

「・・・・・・分かっています。あの子たちがリーニエ様に頼み込んだ理由も。(ひとえ)に、私が頼りないから・・・・・・」

 

 さすがに後ろ向きに捉えすぎだ、とこの場に第三者がいればそう突っ込むだろうが、生憎そこを突いてくれる人間はこの場にはいない。

 子供達がリーニエに鍛錬を頼み込んだ理由が、自分の負担になりたくないからと聞いた時は嬉し涙が出ると同時に、己の不甲斐なさに対する涙も出た。

 

「でも、あの子たちが私のために立ち上がってくれたのも、こうして私が多く笑えるようになったのも、全部リーニエ様が来て下さったからなんです」

「・・・・・・」

「争いで家族を亡くしたあの子たちに、また争いに向かわせるような事をしている事に、思う事はあります。でも、私の為に立ち上がってくれるその姿に、今一度私も勇気を貰えたような気がします。

 だから、不甲斐ない自分が嫌になるけれど・・・・・・同時に、すごく嬉しい」

 

 顔を赤らめて微笑むアンジュの目は、ひたすら優しく、母性に溢れていた。

 

「・・・・・・リーニエ様は、どうですか?」

「・・・・・・?」

 

 唐突に投げかけられた疑問に、リーニエは頭に?マークを浮かべながらアンジュを見る。

 

「貴女は私達に、色々なモノをくれました。貴女に、その自覚はないのかもしれないけれど。貴女様が来てくれてから、貴女と、あの子たちとの日々が、その毎日が私にとってはまるで宝物のように感じられるようになったんです。

 だからこそ、不安になる」

 

 顔を俯かせて、アンジュは語気を弱めて続ける。

 

「・・・・・・私は、貴女様に何を返せるのでしょうか?」

「・・・・・・」

「私は、貴女に酷い事を言った。そんなつもりがなかったとは言え、貴女を傷つけてしまったのは事実。貴女を疑い、貴女に何も返せぬまま別れてしまう所だった」

 

 1つ、アンジュはリーニエに対して不可解な事があった。

 ・・・・・・あの一件以降、自分達に対するリーニエの態度は、明確に柔らかくなっていた。

 一目見ただけでは気付かない程の差でしかなかったが、おそらく子供達もソレを感じ取っている。

 

「貴女様は、獲物である魔族をおびき寄せる餌として私達の孤児院は最適だと。だから私達の所に留まると言った。・・・・・・でも、可笑しいです。あれきり魔族の襲来なんてありません。リーニエ様があそこに留まる理由なんて、もう何処にもない筈です。なのに────」

 

 ────どうして、未だに一緒にいてくれるのですか?

 酷い事を言ったのに、もう一緒にいる理由なんてないのに、こうして子供達に剣を教えて、未だに自分達を守ろうとしてくれている魔族に対して、アンジュは奥底に封じ込めていた疑問を投げかける。

 

「─────」

 

 そんな疑問を投げかけられるとは思わなかったのだろうか、リーニエは僅かに口を開けて固まる。

 ・・・・・・そんなの、こっちが聞きたい。

 何故未だに、自分はここに留まっているのか。この街の人間にも自分の顔と名前を覚えられてしまった。これ以上留まるのは、執行者としてはリスクしかないというのに。

 ソリテールが何処まで自分の事を広めるのかは予想できないが、態々自分から広げるような愚かな真似をする必要もないだろう。

 

(・・・・・・でも)

 

 リーニエはそっと目を閉じて考える。

 

“ごめんね・・・ごめんねぇ・・・・・・気付いて、あげられなくて・・・・・・ッ!!”

“ありがとう・・・・・・今までオレ達の農園を、守ってくれて・・・・・・!!”

 

 傷を負い。意識を失う最中に、2人の腕に抱きしめられた記憶。

 零れ落ちる2人の涙。

 その時の、温かい感触。

 初めてできた、帰るべき場所。

 

“ごめんなさい、リーニエ様・・・・・・ごめんなさい・・・・・・私は、貴女を・・・・・・苦しめて・・・・・・勝手に、疑って・・・・・・私は・・・・・・!!”

 

 目の前の少女に、抱きしめられた時の事を思い出す。

 零れ墜ちる涙。

 帰るべき場所を求めて、辿り着いた先で、涙しながら抱きしめてくれた少女。

 

“この砂の城のように、何もかも無くなった訳ではあるまい? お前にはまだ、残っているモノがあるんじゃないのか?”

 

 どこからともなく聞こえてきた、腐った男(ロストマン)の言葉を思い出す。

 実感として、感じているわけじゃない。

 でも、人間で言うところの、“心地よさ”というモノを抱いていたのだとすれば。

 

(・・・・・・そういう、事・・・・・・なのかな・・・・・・)

 

 帰る場所があること。そこに居れる事を、心地良いと感じているのだとすれば。

 でも、それは人間が持つべき感性。

 魔族である自分が持ちよう筈がない。

 

 ・・・・・・でもそうだとすれば、今の自分の愚行にも、辻褄があってしまう。

 

 だから、きっと、おそらく、私は・・・・・・。

 

 

「・・・・・・今は」

 

 認めたくないのか、それとも確証がないだけなのか、リーニエにしては珍しくその言葉は弱々しい。

 それでもアンジュは、ゴクリと、息を呑みながらリーニエの回答を持つ。

 

 

 

 

 

「今は、アナタ達と一緒にいれれば、私はそれで────・・・・・・ッ!?」

 

 

 

 

 

 回答を絞りだそうとしたその時、リーニエは突如として目を見開いてベンチから立ち上がる。

 

「・・・・・・リーニエ様、一体?」

「・・・・・・何か、大きな魔力が、来ている」

「え────・・・・・・ッッ!!?」

 

 遅れて、アンジュも魔力探知感じ取ったのだろうか、リーニエが向いている方と同じ方向に目をやる。

 

 

 

 それと同時に、そびえ立っていた高台が、吹き飛ばされていくのが2人の目に入った。

 周りの通行人もソレに気付き、呆然と吹き飛ばされた高台跡を見つめる。

 ────その空から、異物が舞い降りてくる。

 トカゲのような体に、翼が生えたようなシルエット。

 

『お、おい・・・・・・あれは、まさかッ!!』

 

 通行人の1人は顔を青ざめながら、重厚な羽音を立てて舞い降りるその巨大な影を指さす。

 その影は、見るだけでどのような魔物が、容易に想像が付く。

 実際に目に見たことはなくとも、物語の書物、勇者の冒険譚などにも幾度となく強敵として出現し、人々の脅威となる存在。

 

 

「・・・・・・あれは、紅鏡竜? でも・・・・・・色が・・・・・・それに紅鏡竜の生息地は中央諸国の筈・・・・・・それじゃあ、まさか、あれは・・・・・・」

 

 

 信じられないモノでも見るかのように、アンジュは全身を震わせながら呟く。

 本来ならば真紅の鱗を持つ筈のその竜の体は、紺色の鱗に覆われていた。左右の後頭部から後ろ向きに生えた2本の角。獰猛なる黄色の眼。重厚な羽音を響かせる巨大な翼。

 

 

「・・・・・・紅鏡竜の、亜種」

 

 

 その魔物の正体を口にしたリーニエは、アンジュの前に立って模倣の魔力を手元に集めた。

 

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