剣の丘に迷い込んだ軌跡   作:ナスの森

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久々に日刊一位を取って驚愕しました。
やっぱ無限の剣製とエミヤの人気ってすげー・・・・・・。


効率を求めて

 

 真夜中。

 王国軍の駐留する町へと通ずる渓谷の道。月の光すら僅かしか届かないその渓谷の中の道を、1個隊の軍勢が進軍していた。その1人1人は、人に近い見た目をしているが、各々の頭から生えていた一対の角が、彼らが人ならざる存在である確固たる証拠だった。

 魔族――見た目こそは人類に近しいが、その正体は根底として生態レベルから人類とは異なっている、紛うこと無き魔物の一種である。

 人に近い姿と、人に近い知性と感情を持ち合わせながらその精神性は魔物と変わらない。そして魔物の習性として漏れず、彼らは人類を捕食対象と欲す。

 人に限りなく近い彼らは、まさしく人類の天敵だった。

 その彼らは現在、魔王軍の部隊が駐留する王国軍を攻めようと、夜な夜なこの暗闇を進軍している最中であった。

 

 人間と比べて、魔力、身体能力と共に優れた彼らの頭の中に、自分達が敗北するというビジョンは一欠片もない。

 人類には理解できない魔法を駆使し、人類には及べない身体能力を以てして蹂躙する。

 彼らの頭の中にあるのは既に、勝利することではなく、勝利の後の快楽だった。魔力を誇示し、屈服させ、人の血肉という美味を堪能しようという、人類で言うならばピクニックに行くような感覚だった。

 

 だからこそ――彼らは気付かなかった。

 自分達を蝕む毒が、既に回り切っていたという事実に。

 

 部隊の最後尾にいた、人間の少女に近い見た目をした魔族。

 薄いピンク色の髪を下ろした少女が、瞳孔の宿らないその目に、一瞬だけ光を宿らせ顔を上げた。

 

「そろそろ、頃合いか」

 

 ――模倣(トレース)開始(オン)

 

 可愛らしくも抑揚のない声で呟くと、同時に立ち止まった少女の手に黒い魔力が収束する。

 手元の黒い魔力はやがて、かつて少女自身が目にした宝剣へと姿を変える。

 

『・・・・・・?』

 

 その魔力を感じ取り、近くにいた部隊の魔族達が一斉に少女の方へ振り向こうとするがその前に――その(少女)は、動き出した。

 

 

 

 

 

 密かに、自分が壊れていっているのでは無いかという自覚はあった。

 少なくともこんなことをする魔族はいまい。

 だが、それを自覚した所で止まれる少女でもなかった。

 

 喧噪が鳴り響く。蹂躙の音。殺戮の音。魔力の音。

 その喧噪の中心にいた少女は、瞬く間に己の進行上にいる同族たちを切り裂いていく。

 少女の手元の宝剣の餌食となっていく彼らのほとんどは自分達の今の状況を理解できない。勝利を確信し、慢心しながらその先を考えていた矢先の、この異常事態を理解できる者はいなかった。

 だが、この蹂躙劇の理由は決してそれだけではない。

 

 ようやく異常事態を認識した何体かの魔族達が、少女を取り囲むように剣で斬りかかったり、魔法の発動準備をする。

 多勢に無勢。例え一匹ずつ剣で切り裂いていった所で手間だろう。

 だが、少女は動じなかった。

 

工程(ロール)分解(ブレイク)

 

 宝剣が黒い魔力の姿に戻る。

 

模倣(ソード)変化(シフト)

 

 先ほどまで宝剣の姿を形取っていた黒い魔力は再び姿を変え、今度は少女の身の丈以上の三叉槍へと姿を変える。先ほどまで剣の形をしていた物体が瞬く間に槍へと姿を変えたことに彼らは一斉に驚き目を見開く。その瞬間、全方位へ回転するその槍捌きによって彼らは切り裂かれ、その傷口から魔力を流しながら霧散していく。

 残るは宙を浮き、上空から魔法を撃つ準備をしていた魔族であったが――

 

模倣(ソード)変化(シフト)

 

 槍捌きの最中で既に武器を複数の短剣に変えていた少女はそれぞれの指の隙間に挟み込んだそれらを投げつける。高速で飛来してくるそれらを彼らは避けることが出来ず、心臓、首元、脳天をそれぞれ串刺しにされて落ちていく。

 

 これでまた、少女の進行上にいるのは未だ状況を把握できない魔族のみとなった。

 短剣に撃ち落とされ、地へ落ちていく最中の魔族を踏み台に跳び上がった少女は、回収した一本の短剣を再び宝剣へと戻し、彼らへ躍りかかる。

 暗闇の中、その変幻自在の凶器を振るうは、顔も見えぬ裏切り者の執行人。

 

『――――ッ』

 

 何が起こっているのか分からず、魔族達は下手人の正体も掴めぬまま迎え討とうとするが、少女の方が二手、三手も早い。

 この魔王軍の部隊に所属する面子の一匹一匹の情報を、少女は把握しきっていた。『模倣する魔法(エアファーゼン)』を可能とする、魔力を見る特殊な目。その特殊な眼を以て少女は一定期間、彼らを常に観察し続けていた。休む間もなく、常人ならば気が狂う程の時間と集中力を以て彼らを観察し、機を(うかが)い続けた。

 彼らの癖、弱点。どんな魔法を行使するのか、その魔法の発動までどれだけの時間がかかるのか、またその魔法が発動される直前の特有の魔力の流れまでも把握していた。

 故に、少女は足を止めぬまま彼らの魔力の流れからその行動を予測し、それらに対して常に先手を打ち続けるように立ち回る。

 

 即座にその状況に見合った武器を作り、そして作り替える。その動きは全て彼女自身が相対した人間や魔族の戦士達から模倣(トレース)し、自身の体に合うように最適化したもの。故に、その型は定まっていながら安定せず、常に変化する。その変化に彼らは対応しきれなかった。

 クルクル、クルクルと体を都度回転させ動きを読ませぬステップと、常に変化し続ける武器で翻弄し続ける。研鑽を重ね、変幻自在と効率を追求したその殺戮技巧は、見る者によっては戦っている、というよりも何かの舞踊を踊っているかのように映るだろう。

 

 ここは暗闇。いくら夜眼の利く魔族といえどこのような急な状況の中で明確な敵の姿を視認することは難しい。しかし、少女の眼は彼らの姿を明確に捉えられずとも、彼らの体を巡る魔力の流れがはっきりと見えていた。故に、多勢に無勢ながら、この場は少女の独擅場でもあった。

 

 彼ら1人1人に対して先手を打てるように、彼らのあらゆる行動時の魔力の流れを記憶し、更にはこの殺戮の舞台すらセッティングしてみせた。

 時間をかけてソレを実行していく様は正に、毒が徐々に蝕むが如し、であった。

 

 進行上の魔族達を一掃し、ついに少女は部隊の先頭に立っていた、部隊を率いる1人の魔族へと跳びかかった。

 

「貴様は・・・・・・リーニエ、か!?」

 

 他の魔族よりも幾分か巨躯であったその魔族は、紛れもなく将軍クラスの魔族。今の少女では魔力を全て解放しようとも、届くことはない存在。

 しかし、魔族の少女、リーニエはその瞳に一切の恐れを宿さず、手元の宝剣を黒い魔力に戻し、更にもう片方の手に新しく黒い魔力を生成する。2つの黒い魔力はそれぞれ1対の手斧へと変化し、少女はソレを将軍の魔族に向けて投げつける。

 

 回転しながら襲いかかった凶器は、しかして当たることはなく、いつの間にか彼の手に握られていた巨斧によって弾かれた。

 

旋撃の巨斧(ベルヴィント)

 

 それがこの将軍の魔族の持つ、巨斧の名前だった。

 回転をさせればさせる程その刃に宿る魔力が増幅していき、通常の斧の回転攻撃よりも倍の威力を出せる、この将軍の魔族だけが持ちうる魔斧だ。

 人を殺すために魔族が魔法で作り上げた武器はみな総じて、この世ならざる物質で作られた業物だ。将軍クラスならば、尚更である。

 

「オオオォォッ!!!」

 

 リーニエの突然の裏切りに動揺するも、即座に目の前の敵の排除に意識を切り替えた将軍の魔族は頭上で斧を回転させるように振り回し、やがてその地面へと振り下ろす。

 

 その瞬間、大地の悲鳴が鳴り響く。

 地が裂かれ、瓦礫が降りしきる。

 

「――――ッ!?」

 

 今まで無表情だったリーニエは突然の衝撃のあまり僅かに目を見開き、空中で防御の姿勢を取ってしまう。

 その隙を、将軍の魔族が見逃す筈も無かった。

 リーニエの華奢な躯の殆どを覆い尽くす程の巨腕の手が、視界を遮る粉塵の奥から現れ、リーニエの胴体をつかみ取った。抵抗するリーニエだが、振りほどけない。

 

「理由は問わぬ。だが――」

 

 リーニエを締め付ける、手の力がより強くなる。

 

「この惨状、よくもやってくれたなッ!! おかげで色々と台無しだッ!!」

 

 この裏切り者め、と荒くなった語気で罵倒する。

 普通の魔族ならば、その剣幕だけで戦意を喪失する所だったが。

 

 裏切り者の執行人は、ゆっくりと顔を見上げる。光の灯らない、冷たい無機質な眼で将軍の魔族を見るだけだった。

 

「貴様・・・・・・ッ!!?」

 

 それに激昂し、そのままリーニエを握りつぶさんとするがその前に。

 ゆっくりと、リーニエの口が動く。

 

 『魔力を爆発に変える魔法(エクスファンタズマ)』、と。

 

 その瞬間、将軍の魔族の背後で爆発が起こり、崩れた瓦礫が破片となって将軍の背に襲いかかる。

 そして、将軍の巨躯に守られる形でその被害を逃れたリーニエは、力が緩んだその隙に、再び右手に宝剣を作り出し、将軍の腕に突き刺す。

 

「くッ!?」

 

 たまらず、魔族の将軍はリーニエを手放してしまった。

 爆発の正体は、先ほどリーニエが魔力で作り出し、将軍に向けて投擲した手斧だった。将軍の振るった『旋撃の巨斧(ベルヴィント)』によって弾かれ、渓谷の崖に突き刺さったままだった手斧。将軍の大地を割る斧撃によって瓦礫と共に地面に落ち、そのまま将軍の背後の瓦礫に埋まっていた。

 そしてその手斧という武器を構成していたリーニエ自身の魔力を、そのまま爆発させた。

 爆発そのものは将軍に大したダメージを与えなかったが、僅かな隙が出来た。

 

 そして、リーニエにはそれで十分だった。

 

工程(ロール)分解(ブレイク)

 

 宝剣を再び、両手の中に黒い魔力へと戻す。

 

「貴様、何度もコケに――」

 

 その魔力を感じ取った将軍が再び怒りの形相で向き直るが。

 それに何の反応も返さないまま、リーニエは宝剣から戻した黒い魔力に、更に新しく魔力を上乗せする。

 

 ――――創造の理念を鑑定し、

 

 ――――基本となる骨子を想定し、

 

 ――――構成された材質を複製し、

 

 ――――制作に及ぶ技術を模倣し、

 

 ――――成長に至る経験に共感し、

 

 ――――蓄積された年月を再現し、

 

 ――――あらゆる工程を凌駕し尽くし、

 

模倣(ソード)変化(シフト)

 

 ――――ここに幻想を結び、剣となす。

 

「なッ、それはッ・・・・・」

 

 最早許さぬと言わんばかりに『旋撃の巨斧(ベルヴィント)』を振るおうとした将軍であったが、目と口をあっけらかんと大きく開き、その光景を目の当たりにしてしまった。

 リーニエの両手には自分が持っている物と同じく――()()()()()()旋撃の巨斧(ベルヴィント)』が握られていたことに。

 

 もう1度述べるが、魔族が作り出す武器はみな総じて、この世ならざる物質で構成された業物だ。その業物を作り上げるのは、その魔族自身が研鑽してきた魔法に他ならない。

 そして魔族は自分の魔法に対し尋常ならざる誇りを持つ。その一代限りの独自の魔法を、彼らは生涯をかけて研鑽していくのだから。

 要するに、そのような武器を作る魔族にとって、己が作り出した武器とは謂わば、己の研鑽してきた魔法の成果そのものなのだ。

 

 それをいとも簡単に模倣されたともなれば、彼の心情は言い表せるものではないだろう。

 

 

 

「貴様ぁッ!!!」

 

 

 

 おそらく、将軍の生涯の中でもしたことがないであろう歪んだ形相で、吠え立てる。

 頭の中がぐちゃぐちゃに乱され、思考が纏まらなかった。

 誇りを踏みにじられた? 否、最早そういう話ではない。

 将軍はいまこの時を以て己の生涯をまるまる踏みにじられたのだ。

 

 とても立ってなどいられない、斧など持っていられない、技を振るってなどいられない。

 怒りの放心状態、当てはまる状態と言ったらまさしくソレだろう。

 

 己の躯を掴んでいた腕を足場に跳び上がったリーニエは、そんな彼の怒りなど知ったことかとばかりに、言葉を呟く。

 

「『模倣する魔法(エアファーゼン)』」

 

 リーニエの剣製は、模倣元となった彼のように元の担い手の技量や力まで模倣できる程の精度にはない。武器としての精度をどれだけ上げようとも、魔族としての生まれ故か、根本的な共感能力に乏しいのだ。

 担い手への最低限の敬意はあった彼とは異なり、彼女にとってはそんなものは知ったことではない。

 故に。彼と同じような憑依経験は使えない。だが、リーニエにはその必要すらなかった。

 目の前の将軍の技自体は、模倣する魔法により取得しているが、リーニエが今思い浮かべた戦士は別の人物だった。

 

 あの時、たまたま見掛けた勇者パーティ。その中にいた最高の戦士の技。同じ種類の武器の使い手で、更に上の技量を持つ戦士の動きを模倣できるというのならば、態々模倣元の担い手の技量を真似る必要など、どこにもなかった。

 

 ――――魔力の流れを記憶し、

 

 ――――記憶した流れを最適化し、

 

 ――――その軌跡を辿り、

 

 ――――今ここに、技となす。

 

 跳び上がったリーニエはその体ごときりもみ回転しながら複製した『旋撃の巨斧(ベルヴィント)』を振るう。回転は数にして4回。

 魔力の充填により熱くなった斧の刃先が、将軍の頭上から振り下ろされる。

 将軍自身が生涯をかけて生み出した魔斧と、人類最高の戦士の技が合わさったソレは。

 

 

 

 

 

 将軍の(どう)(こく)を、その体ごと両断してみせた。

 

 

 

 

 

 激しい戦闘の末に瓦礫が崩れ落ちた渓谷の道。

 死闘を制したリーニエはその瓦礫の上に座り込み、足をパタパタと揺らしながら、懐から取り出した林檎を頬張る。

 1度林檎を口から離し、リーニエは林檎を持ってない左手を握ったり開いたりしながら、先の戦闘を思い浮かべる。

 

「今回は、危なかったな・・・・・・」

 

 さすが将軍クラスといった所か。奇襲による動揺と、投擲武器の爆発と、相手の武器を複製したことによる再度の動揺。この3つの要素のうち一つでも欠けていれば、リーニエは即座に握りつぶされていた。

 もともと正面から戦おうなんて思っていなかった。それ故に緻密に布石を打ち、計算した上で勝ち取った勝利ではあったが。

 そもそもとして戦闘行為に発展することそのものが、下手な証だった。

 一方的に、より効率的に仕留めるのがリーニエの理想だった。

 

「でも、最後のは良かった」

 

 空いた手に黒い魔力を収束させ、再び複製した『旋撃の巨斧(ベルヴィント)』を眺めながらリーニエは思い出す。

 あの時、自分を屈服させてきた男の魔族を、あの山脈の頂にて仕留めた日のことだ。

 下山する最中、偶然他の魔族の部隊と勇者パーティと呼ばれる四人組の冒険者の戦闘に遭遇した。

 その中でリーニエは、一人のドワーフの戦士の技に目を奪われた。

 戦士アイゼン――それがリーニエが最強と見做した戦士の名前だ。

 その技を完全再現するにはまだ自分には膂力が圧倒的に不足していることは承知の上だったが、それを考慮しても彼の動きそのものをこの身に模倣(トレース)するだけでも、リーニエの戦い方は大分見違えるものになった。

 戦士アイゼンはパワーはあれど、その背丈はドワーフ故に小さい。

 体格で己を圧倒する戦士を相手にした時にどのように立ち回るべきかを、リーニエは学ぶことができた。数ある戦士の動きを模倣し取り込んできたリーニエであったが、己の基本の動きとなる部分にまで染み込ませたのはアイゼンの動きが初めてだった。

 今まで複製した武器の元の担い手たちにも、模倣してきた技の元の使い手に対しても敬意を抱いてこなかったリーニエであったが、アイゼンの技に対してだけは特別に近い思いを抱いていた。

 

「でも、駄目だな。やっぱり」

 

 空を見上げ、考えに耽る。

 今回、戦闘になってしまったこともそうだ。相手の戦士の技を模倣するために、態々戦闘に持ち込んで糧とすることはある。むしろリーニエはそういった行為も積極的に行ってきた。

 だが、今回の相手はこの奇襲が実るまでの間、数ヶ月は共にいた相手だ。直接相対してなくとも、常日頃から目を離さず観察してきた相手でもある。その動きはとっくに模倣できていた。故に、とっくに得るもののない戦闘を行うなど、リーニエからしたら非効率極まりなかった。

 

 魔王軍の分隊に取り入り、機を窺い後ろから刺すという生き方故、リーニエは常に本質的な孤立無援を強いられていた。

 人間の味方を得ることはできる筈も無く、魔族はそもそも己が刈るべき獲物である。

 故に、リーニエは1人でできることを増やし、そして持ち得た物全てをできる限りで伸ばしていく必要があった。

 

 模倣してきた戦士の動きの中で、己に必要と感じたものは徹底的に己の体に合うように最適化してきたし、常に仲間(獲物)である魔族を観察するために、魔力の流れを読み取る目も徹底的に鍛えてきた。

 魔力探知能力も格段に上昇し、それを己の利用価値として魔王軍の分隊に入り込む際にも役立てた。

 己の能力を偽るための、魔力制限技術だって磨いてきた。

 伸ばしたのはこういった表面的なステータスだけではない。

 先読み能力、観察力、集中力、状況判断能力――そして、今回のように狩り場に最適な状況へ導き出す能力。

 

 己の狩りに必要だと思われる能力その全てを、リーニエはできる限り伸ばしてきた。

 “彼”から模倣して得た剣製の精度についても、言うまでもない。

 

 それを以てしても、そろそろ狩りの手段そのものに限界を感じてきたのだ。

 己が力を付けてきているという実感はある。だが、それだけではもう限界だ。

 

 もっと他に自分という要素を含まない事柄を、うまく利用できればいいのだが。

 

「・・・・・・そうだ」

 

 そう言ってトン、と林檎の上に手を置く。

 その狩りのスタイルの性質上、リーニエは一定期間は彼らを後ろから討つまで魔王軍の分隊に入り込む。そしてその部隊に所属する以上は王国軍や帝国軍を始めとした人間の戦士達と戦うことだってあった。

 その過程でリーニエ自身が手に掛けてきた人間達は多い。

 だが、リーニエはその戦場を、部隊に潜り込んでいる期間中に己の研鑽に集中できる唯一の機会としか見てこなかった。目に付き、相対してきた戦士たちの動きを模倣し己のモノとする。リーニエとて魔族だった。己自身の魔法である「模倣する魔法(エアファーゼン)」の研鑽には余念がない。

 

 だが今にして思えば、その時は自分以外の魔族たちも、人間の戦士達や魔法使い達に釘付けなのだ。後ろから討つ絶好の機会がそこかしこに転がっている理想の状況ではないか。

 どうしてその事に今まで思い至らなかったのだろう、とリーニエは反省する。

 

「人間たちを、利用すればいいんだ」

 

 リーニエは、魔族たちの信頼を勝ち取る手段を知っている。

 己の魔力探知能力に利用価値を見いだしてきた魔族たちを、リーニエは言葉巧みに操り狩り場に誘導してみせた事だってある。

 今度はソレを人間達にも行い、魔族達とぶつけさせればよいのだ。

 問題は、その手段。

 

 あの村にて人間の常識や立ち振る舞いを多少学んでいたリーニエならば、何も行動を起こさないことを前提にすれば人の営みに長期間潜伏することも可能だ。だが、根底の種族が違う以上、魔族たちの懐に潜り込むのとは勝手が違うし、ましてや信頼を得られるなんて論外だろう。

 短期間の潜伏でできる、人間達をうまく誘導させ、魔族の部隊とぶつけさせる手段をリーニエはこの場で欲していた。

 その末にたどり着いたのが――。

 

「情報」

 

 答えを呟くリーニエ。

 今まで、本質的にたった1人の戦いを強いられてきたリーニエには、その重要性は嫌と言うほど理解できていた。

 力に劣る人類側は、魔族側よりも特にソレを重要視するだろう。常に不利な戦いを強いられてきたリーニエだからこそそこは理解できていた。

 

「流してやればいいんだ、人間たちに魔族の情報を」

 

 現状で自分が潜り込んでいる部隊がどこに駐留するか、どの町を攻めるのか。

 その情報を近くの町の人類軍の兵士達に流し、あえてぶつけさせる。

 

「逆も良いかもしれない」

 

 両サイドに情報を流し込み、かち合わせる。

 時間差で情報を与えれば、ぶつけ合わせる場所や時間帯だって、うまく行けば調整することが可能だ。

 より、己の狩りに最適な状況を作りやすくできる。

 

 自分の魔力探知能力と、人間たちの所への潜伏能力は折り紙付きだという自負はある。そういったことでリーニエは魔族たちに「人間たちを滅ぼす上で利用価値がある」と思わせてきた。

 彼らからタイミングよく命令されるか、自分から進言されるか、いずれかでも容易に人間達の営みに潜り込む口実は作り上げられる。

 

「決まりだ。これからは人類側にも情報を流して、より上手く狩っていこう」

 

 その方が効率的だし、と綴り、リーニエは再び林檎を囓る。

 暫く囓ると、パタパタさせていた足を止めて、再び夜空を見上げた。

 心なしか、目を細めたその表情は神妙そうだった。

 

「・・・・・・でもそうなると、1つ面倒だな」

 

 より効率的な狩りの仕方を考え出せたのはいいが、そうなるとソレと引き換えに1つ面倒な事象が発生してしまうことにリーニエは気付く。

 ――――下手すれば、己の狩り場を人間たちにも見られる恐れがある。

 今まで己の狩り場に誘い込んだ魔族たちは例外なくリーニエの剣製の餌食になってきたので、実質リーニエの狩りを見る存在はいなかった。

 だが、この方法を実行すれば人間達にも己の狩りを知られる危険性がある。それはやがて自分が本来狩るべき魔族達にも流れて行ってしまう畏れがある。

 

 つまり、リーニエの狩りを目撃した人間たちも例外なく、リーニエ自身の手で殺す必要が出てくるということだ。

 今までは他の魔族が請け負っていた人間たちの始末も、リーニエが肩代わりしなければなくなってしまう。そうなるかはタイミング次第といった所だが、リスクとしては大きい。

 前向きに捉えれば、魔族を滅するという目標を達成した後に、人間の戦士達を相手にじっくりと己の魔法を研鑽できるという見方もできなくはないが、孤立無援であるが故に取り逃がしてしまう可能性がある。

 つまり、研鑽に興じている時間などはない。

 

 けれどまあ、仕方ない。

 効率を優先するために、ナニカが必ず犠牲になってしまうのはリーニエだってこれまでの戦いで思い知っている。

 リーニエ自身の手にかかる人間達の数は多くなってしまうがそれでも――

 

 

 ――――その方が、結果的に犠牲者も少なくなる。

 

 

「・・・・・・?」

 

 

 一瞬、霞掛かった思考に違和感を覚えたリーニエだったが、すぐに気にすることはなくなった。

 今後の方針を固めたリーニエは瓦礫から飛び降りると、渓谷の道を少し進んでいく。

 進んだ先に見えたのは――先ほど自分が刈り取った魔族の部隊が襲撃する予定だった、町の明かりが広がっていた。

 

「・・・・・・」

 

 暫しソレを見つめたリーニエは、そこから背を向けて去って行く。

 

 先ほどの林檎の美味のせいだろうか・・・・・・その口元が僅かに緩んでいたのを、リーニエ自身が気付いていたかどうかは定かではなかった。

 

 

 

 

 

 

 ――――それでも、心の穴が埋まることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 




・リーニエの剣製
エミヤの「無限の剣製」の性質を模倣したリーニエは勿論、彼と同じように自分が今まで見てきた武具を、魔力を消費して自分の心象世界から引っ張りだすことが可能。

しかし、エミヤが自身の固有結界から武器を引っ張りだす手段として「投影魔術」を経由していたのに対し、リーニエの手段は「投影魔術」ではなくあくまで原作やアニメと同様の「武器を作り出す魔法(名称不明)」を経由するものであるため、武器を複製する時のエフェクトはアニメと同様である(黒い魔力が武器を形取る)。

またその違いからかエミヤとは異なり、1度複製した武器を純正な魔力に分解し、別の武器の複製に再利用することが可能。これにより武器の複製による魔力消費を節約することができる。
このためアニメと同様に投影品を次々と別の武器に作り替えながら戦うことが可能。

しかし、共感能力の不足により憑依経験は使用不可能で、リーニエはソレを自身の「模倣する魔法(エアファーゼン)」で補っている。

・主な複製武器

『ダッハ家の宝剣』
原作の64話「剣の魔族」にて登場。元は名だたる魔族が持ち主の剣であり、現在はダッハ伯爵家の家宝として保存されている。
原作でも2度に渡って魔族に盗まれるだけはあって、フリーレン曰く、「魔族にしか分からない価値がある」。そのためか、魔族であるリーニエの手にもよく馴染む。
おそらく、拙作における「干将・莫耶」ポジション。

旋撃の巨斧(ベルヴィント)
今話でリーニエに真っ二つにされた魔族の将軍が作り出した魔斧。本作オリジナル。サイズは大体原作やアニメでリーニエが振るっていた大斧と同じくらい。
回転を加えれば加える程に刃に宿る魔力が増していき、通常の斧よりも倍以上にも威力が上昇する。
戦士アイゼンの技を用いるのに使用。ダッハ家の宝剣と同様に今話以降はこれも頻繁に使用していく。
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