剣の丘に迷い込んだ軌跡   作:ナスの森

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出会い

 

 

 ソリテールを仕留め損なったことは、無名を貫いてきたリーニエにとっては言うまでも無く致命的な痛手である。向こうもそれは変わらないだろうが、それでも痛手の度合いで言えばソリテールよりもリーニエの方がずっと大きい。

 言ってしまえば、大魔族であるソリテールが無名でなくなってしまった所で、大抵の脅威を片手で払いのけられるくらいの魔力量と実力を有している。最終的にモノを言うのは結局の所“力”なのだ。

 対してリーニエはソリテールのように莫大な魔力を有している訳ではない。

 制限した魔力を全開にしても、それは将軍や大魔族クラスといった名だたる魔族達には及ばない。それでもリーニエ程の年の魔族たちの中では十分過ぎるくらいに規格外の部類に入る魔力ではあるが、正面切った戦いではやはり地力の差で押し負ける。

 正面からでもそうならないように立ち回ることは得意ではあるが、それで勝ちを拾える確率は低い方だ。白兵戦の技量だけならば並の将軍クラスでも地に伏してしまえる自信はある、足りない膂力も剣製で補える。

 

 だがどこまで行ったところで、リーニエの力は大魔族には及ばない、本当の“無名”でしかないのだ。

 

 今回はソリテールの魔法である「剣を生み出して操る」という自分との共通点があったこと、「自分がその贋作を作れる」という点を利用してどうにか隙を作ることに成功し、一矢報いることができた。

 いや、与えた傷の深さを考えれば一矢報いる所か倍返しできたといっても過言ではない。

 

 それでも、仕留めきれなかった。

 

 そして何より痛手だったのが、現状の自分の「奥の手」を晒してしまったこと。

 

模倣(トレース)開始(オン)

 

 呟くと同時に、リーニエの手に現れたのは一振りの剣。

 その剣は、リーニエが今まで作ってきた剣や槍、斧などの武器とはまったく別格の存在。

 既に人類によって踏破済みのダンジョンの宝物庫に眠っていた残骸。訪れた人間達は、よくあるハズレのダンジョンの宝物庫に眠るガラクタなのだと誤解し、放置して帰ってしまったのだろう。

 

 事実、役目を終えたその剣は既に残骸と成り果てていた。

 

 だが、たまたまその跡を訪れていたリーニエは、その残骸の構造を読み取った。

 基本骨子、制作理念、材質、構造、そして――――それらの工程記録を内包する蓄積年月。

 例え神秘が消え失せ残骸に成り果てようとも、蓄積された年月からその剣が()()()()()()()()()頃の姿を復元し、ソレはリーニエの世界の中に確かに貯蔵された。

 

 『神紀の砕剣(シュヴェア・ヴォルク)』――――かつて神話の時代において山を砕いたとされる剣。その逸話から分かる通り、この剣は地形すら破壊しうる兵器である。

 かの魔族の“将軍”「神技のレヴォルテ」が魔法で生み出し扱う剣、「神技の砕剣」もこの剣に(なぞら)えて名付けられた物らしい。

 正に、魔族たちが魔法で作り上げるような魔剣や、人間たちが()つ業物とは別格の存在と言えよう。

 

 故にリーニエが複製し用いる「偽・神紀の砕剣(シュヴェア・ヴォルケⅡ)」は、リーニエが貯蔵する武器の中で唯一の神代の武器と言える。

 

 その手札を切ってまでして仕留めに掛かったのに、リーニエはソリテールを仕留めきれなかった。「魔力を爆発に変える魔法(エクスファンタズマ)」との併用による使い捨て運用と、矢として放つ事による威力増強まで図ったというのに、それでも仕留めきれなかった。

 大魔族の中でも莫大な魔力を有しているであろうソリテールが全魔力を注いだ魔力の壁すら易々と突破し、ソリテールに肉薄したソレはしかし、ほんの少しソリテールの体を掠めるに留まった。

 狙いが少しはずれてしまったとか、防げないと判断したソリテールの回避が巧かっただとか、要因は色々あるだろう。

 だが一番の要因は、この神代の武器は扱いが難しかったという事に尽きる。

 彼の赤い外套の騎士のように、元の使い手の経験を憑依できていたのならば、もっと上手く扱えたかもしれない。例え矢として放つという本来から外れた使い方であったとしても、ソリテールに対して狙いを外してしまう事もなかったかもしれない。

 

「────憑依経験」

 

 「偽・神紀の砕剣」の柄を両手で握ったリーニエは目を瞑りながら呟く。

 解析のために魔力を流し、読み取る。

 

「・・・・・・駄目、か」

 

 目を開き、気怠げに呟いた。

 期待していた訳ではない。それでももしかしたらと思って試してみたが、やはり結果は無駄だった。

 確かに、脳裏にナニカが流れ込んでくるような感覚はある。

 だが、自分の脳はソレを咀嚼(共感)できず、右から左に流すように簡単に出て行ってしまう。

 この剣を使っていた英雄が、どのような出会いを経て、どのような試練を乗り越え、どのような武功を挙げ、そしてどのように散っていったのか。

 その成長に至る過程を読み取ろうとしても、共感能力に欠けた魔族としての脳がソレを咀嚼せずに外へ流してしまう。

 もし仮にリーニエが何らかの方法で神話の時代まで時渡りをし、その英雄がその剣を使っている所を実際に見て模倣する事ができていればまた話は別なのだろうが、当然そんな都合のよい事が起こる筈もない。

 

 自分の「模倣する魔法(エアファーゼン)」では、憑依経験不足を完全には補えない。その事実がリーニエの心に暗雲を立ち込めさせる。見ていない物はどう足掻こうが模倣できない。

 

 つまりこの剣を使いこなすには、リーニエ自身が鍛錬を積むしか方法がないわけだ。

 だがそれでは何時になるのか分からない。

 これ以上の手札を望むとなれば、それはもう“アレ”しかない。

 

「I am the bone of my sword」

 

 リーニエは再び目を閉じ、その言葉を口ずさむ。

 

「Steel is my body and, fire is my blood」

 

 それはある男の生涯を綴った詩。

 詠唱というよりも、独白といった方が近いのだろうか。

 

「I have created over a thousand blades」

 

 途端に、リーニエの頭の中に鮮明なイメージが広がる。

 無限の剣が突き刺さった大地、その大地を見下ろすは――――赤銅の空に浮かぶ無数の歯車・・・・・・。

 

「Unknown to――――ッ」

 

 そこまで言って、詠唱は止まった。

 無数の剣が突き刺さった大地までは想像できた、だがその先は想像した途端――――「ここから先は“自分”じゃない」とイメージが阻害された。彼の絶望を知らないリーニエが、空に無数の歯車を持つわけがない。

 リーニエは彼ではない。性質は模倣できていても、その心象はまったく異なるものだ。

 かろうじてイメージできていた無数の剣が突き刺さった大地でさえ、そのビジョンは薄いモザイクがかかったかのようにあやふやだ。

 こんな様で、“アレ”が使える訳がない。

 

「・・・・・・イメージがずれる。何が足りないんだ」

 

 隠れ家の椅子に、疲れたようにぺたりと座り込んで、林檎を囓る。

 つい最近まで人間に使われていたこの家は、営みの跡が色濃く残っている。おかげで買い込んだ林檎も長く保ちそうだった。

 南側諸国に潜伏する魔族は戦で気を張っている人間達の目を逃れようと、こういった人里離れた隠れ家に住む人間を襲い、乗っ取る事が多い。

 リーニエもまたその魔族を殺し、そのお零れに与っている状態だった。

 

「もし、あの時、完全に模倣できていれば――――」

 

 そこまで言いかけて、思わずリーニエは(かぶり)を振る。

 確かに、あそこで彼の世界を完全に模倣できていれば、その性質どころか、彼の心象風景、そして彼が貯蔵してきた英霊たちの宝具に至るまで難なく使えるようになっていただろう。

 だが、そこまで模倣が進んでいたら、リーニエはもうリーニエではなくなっていたことは明白だ。

 記憶からその思考に至るまで、完全に“彼”と化していた事だろう。

 “性質”だけをうまく模倣できたのは、むしろ都合のいい奇跡としか言い様がない。

 それでも、もっとギリギリまで模倣できていれば思わずにはいられなかった。

 

「・・・・・・でも、武具の模倣はちゃんとできる」

 

 ────そもそも前提として、この世界には“投影魔術”という代物は存在しない。

 

 彼は“投影魔術”を介して己の心象世界から貯蔵した武器を引き出して来れた。

 もし固有結界という代物が、彼がいた世界だけの特有の魔術だというのであれば、そもそもこの世界の住人であるリーニエがそこから武器を引き出せている事自体が、普通に考えればおかしい。

 

 事実、リーニエはこれまで生きてきた中で投影魔術なんてモノ、一度たりとも使用していない。

 リーニエが使うのは、あくまで魔力で武器を生み出す魔法だ。投影魔術とは似て非なる物。

 収束させた黒い魔力を武器へと変える、大雑把に言えばリーニエの魔法はそういった代物だ。

 

 にも関わらず、投影魔術ではなくこの世界の魔法で引っ張り出せるという事は────この世界の魔法でも固有結界に通じる(すべ)はあるという証拠に他ならない。

 

 なら後はもう、単純にリーニエ自身のイメージの問題しかないわけだ。

 

「・・・・・・」

 

 腕をだらんとぶら下げながら模倣した「偽・神紀の砕剣」を消し、はぁ、とため息を吐く。

 南側諸国に潜伏したのも、元々はこの魔力制限の“揺らぎ”をなんとかするのが目的であったのに、もう一つ乗り越えるべき難題が増えてしまっていた。

 執行者時代も、固有結界が使えないことを気にしていなかった訳ではない。

 それでもなるべく人目に付くのを嫌う狩りをしていたリーニエにとって、固有結界といった目立つ魔法の使用にはむしろ忌避感があった。だからこれまでさして気にしてこなかった。

 でもこれからは、正面から戦わなければならない機会がずっと増えてくる。

 確実に、自分から奇襲を掛けられるような状態からではなく、相手が自分という獲物を求めてやってくる。

 ならば「偽・神紀の砕剣」や固有結界といった奥の手の使用も視野に入れなければならない。

 

「でも、どうする」

 

 前者はまだ時間を掛ければ確実に克服できる。時間をかける時点で考え物だが、それでも克服できるという確信があるだけまだマシだ。

 だが、後者については如何ともし難い。

 この世界の魔法でも通じる道理がある以上、理論上発動することは間違いなく可能だ。

 

 だが、肝心のイメージが纏まらない。

 本来、魔族は自身の魔法の使用に人間が魔法を使うような細かいイメージなどは必要ない。「空を飛ぶ魔法」が魔族にとっては魔法ではないのも同然であるように、本来ならば息をするように扱えるのだ。

 しかし、リーニエがたどり着こうとしているのは現実世界を己の心象で上書きするという大禁呪。例え魔族であろうと息をするどうこうで扱える物ではない。

 世界を書き換えるという性質上、どう足掻いてもイメージという要素が重要ファクターとして先行する。

 

 そのイメージが、今のリーニエの中にはない。

 己の心象風景とイメージを合致させることが、リーニエにはできないでいた。

 

「・・・・・・堂々巡りだ」

 

 何十年も、魔族を細々と狩りながら悶々としてきたリーニエ。

 揺らぎを克服することはできず、己の真髄に辿り着くこともできない。

 

 それを悟る機会(悲劇)が、もうすぐ訪れようとしている事を、この時のリーニエはまだ知る術もなかった。

 

 

     ◇

 

 

 時を経てまた数十年。

 南側諸国の戦火は静まるどころか、むしろ激化していた。

 最初は小国同士の小競り合いに留まっていたのが、徐々に火が広がり始め、憎しみの連鎖が各国に絡みついていく。

 それはまるで、形のない呪いのようだった。

 ただの呪いならば女神の魔法で解けるかもしれないが、この形のない呪いはそんなモノで解けることはない。

 

 そんな南側諸国の人里離れた一角にぽつんと佇む修道院。

 その修道院は現在────人間ではなく、魔族による襲撃を受けていた。

 

 ここは修道院、本来ならば多くの僧侶が修行や聖典の翻訳のために精を出す場所である。

 ならばこそ、そんな魔族達を迎え撃つのは女神の魔法を扱う僧侶たちである筈だった。

 

 

 だが、そんな修道院への襲撃を迎え撃っていたのは────たった1人の、修道服を身に纏った少女だった。

 

「ハァ、ハァッ・・・・・・!!」

 

 息を切らせながら、女神の魔法による防護壁を展開し、必死に守り通す。

 数による暴力もさながら、一方的だった。

 彼女は防御系や回復系の女神の魔法は得意だったがその反面、攻撃系の魔法は苦手だった。

 無論、たとえ得意だった所でこのような状況では反撃する暇もないだろうが。

 

「チッ、しぶといな」

「修道院だからと襲ってみれば、僧侶は女子1人だけ。あとは───」

 

 チラリと、修道院を襲っていた魔族の1人が、僧侶の少女の後方を見やる。

 

『お、お姉ちゃん・・・・・・』

『シッ! 声を出しちゃ駄目・・・・・・!!』

『で、でもぉ』

 

 そこにいたのは、()()()()防戦一方の戦いを震えながら覗く孤児たち。

 

「ッ、出てきちゃ駄目ッ!」

 

 魔族の視線を追い、後ろを振り向いた僧侶の少女が叫ぶ。

 

 この修道院を守る僧侶は、この少女1人を除いて他に誰もいなかった。

 いるとすれば、彼女が守るべき、この修道院に保護した戦災孤児たちのみだった。

 親を失い行くべき所さえ分からない子供を保護し、国の支援も断たれて少女1人となったこの修道院に住まわせていた。

 

「後は使えない(わっぱ)共のみか。相変わらず人間は理解できないな。そいつらを見捨てれば、まだ戦況はマシになるものを」

「ッ、貴方たちに何がッ」

 

 分かるものかと、少女はキッと下劣な襲撃者たちを睨み付ける。

 その理由を襲撃者達は理解しない。理解できない。

 使えない足手まといを庇って何になるのかと、侮蔑でも、嘲りでもなく、ただ本当に素朴な疑問を抱いて口にしただけだった。

 

「まあいい。蹂躙してやるから精々抗えばいいさ」

「僧侶どもと魔法比べができると思ったのだがな、こんなのしか残っていないのはつまらん」

「ッ」

 

 魔法が飛んでくる。

 女神の魔法による防護壁を展開して防ぐ。

 だが、既に魔力は底を突こうとしている。

 対して攻撃してきている相手はみな魔族。己よりも魔力量は多く、そして借り物(女神)の魔法とは異なる、独自に研鑽した魔法をそれぞれ放つ。

 

 やがて限界になった防護壁は徐々に脆くなり、防御を突破した魔法が少女の体へとそれぞれ命中していく。

 

「キャッ!!」

 

 防護壁を破られ、ボロボロになった少女は後方へと弾き飛ばされる。

 

「よく持ち堪えた。だが、これで終わりだ」

 

 次々と、魔族達が倒れた少女の元へ歩み寄ってくる。

 魔法を使えず、無力となった人間に対して魔族達がやることはただ一つ。

 

 それが分からない訳ではない僧侶の少女は、やっとの思いで立ち上がりながらも、おぼつかない足下をふらつかせながら、魔族達を見据える。

 

「・・・・・・ここまで、かな・・・・・・」

 

 弱気に、そう呟いた。

 後ろから子供達の悲痛な叫びが聞こえる。

 お姉ちゃん! お姉ちゃん! お姉ちゃん! と。

 馬鹿ね。大声を出しちゃ駄目ってさっき言ったばかりじゃないと、僧侶の少女は心の中でぼやく。

 

(ごめんね皆、守れなくて。そして今も戦場で頑張っている僧侶の方々、ごめんなさい。私では、皆さんの帰る場所をお守りすることができませんでした)

 

 目を瞑り、己の最後を待つ。

 もう、立っているのがやっとだった。

 自分の体はこれから、殺された後無惨に貪り食われるのだろう。

 

 その未来を想像して身が震えるも、もう女神の魔法を行使できるだけの魔力も、逃げるだけの体力も残されていなかった。

 ・・・・・・そんな、己の未来が潰えたと思われた、その時だった。

 

 

 

 

 

『擬・女神の三槍』

 

 

 

 

 

 三条の光の槍が、迫り来る魔族たちに襲いかかる。

 その三条の光はそれぞれ3人の魔族達の頭部に命中し、爆散させると同時に絶命させた。

 

 

 

 

 

「────え?」

 

 

 

 

 

 突然起こった光と爆発音に、僧侶の少女は顔を上げる。

 目の前の魔族達も突然の事態に困惑しているようだった。

 

「なッ、今のは、女神の魔法か!?」

「他にも僧侶が────」

 

 一度に仲間が3人もやられたことに動揺した魔族達は一斉に光の槍が飛んできた方向を見やる。

 振り向いた魔族たちはその瞬間、黒い魔力を纏いながら高速で迫る剣に眉間を的確に射貫かれる。その速度はゾルトラークに匹敵していた。

 三条の光槍に続き、高速で迫る剣に次々と仲間を射貫かれ、動揺が広がる魔族達。

 

 その動揺を、舞い降りる影は見逃さない。

 

 剣を持ち、魔族たちを切り裂いていく。

 時には斧に、時には槍に作り替え、動きの型そのものを目まぐるしく変え、舞いながら魔族達を無情に斬り殺していく。

 

『こいつッ───!?』

 

 影の正体は、少女だった。

 桃色の髪を降ろした、魔族の少女。

 獲物である筈の人間達を狙わず、同族である筈の自分達に襲いかかるその存在に魔族達は理解が追いつかなかった。

 

「魔族が、魔族を・・・・・・殺している? しかもさっきのは、『女神の三槍』? まさか、聖典もなしに発動した?」

 

 それを呆然と見ていた僧侶の少女は、彼らよりも更に混乱している。

 魔族が魔族を殺しているのもそうだが、捕食対象である筈の自分(人間)を無視して積極的に同族を狩っているという事実。

 そして何より・・・・・・さっき見た「女神の三槍」があの少女が放ったモノだというのならば、あの少女は魔族でありながら聖典もなしに女神の魔法を行使したという事になる。

 ・・・・・・そんな事が有り得るのか。否、有り得て良いのだろうか。

 

 そんな彼女の困惑などつゆ知らず、殺戮劇は進んでいく。

 少女の動きは、例えるのならばナニカの舞踏のようだった。

 回転を挟んだステップの最中で、次々と武器と動きの型を変えながら華麗に敵を斬り殺していく。時に優雅に、時には華麗に、時には力強く豪快に。違う動きを違和感のない繋ぎで繰り混ぜながら、先読みされることを許さず正面から翻弄していく動き。

 それでいて、まるで一方的に先読みしているかのような淀みのない動きに、僧侶の少女は、思わず呟いてしまった。

 

「・・・・・・綺麗」

 

 いつの間にか、相手が魔族である事すら忘れて、僧侶の少女は魅入ってしまった。

 本来ならば、魅入ってはいけない光景だ。

 とても後ろの子供達に見せられたものではない。

 それでも、完成されつつ今も進化し続けているであろう殺戮技巧に、目を奪われてしまった。

 

 気が付けば、魔族の集団はあっという間に魔力の塵となって消滅していた。

 舞い散る塵の中心に立つ魔族の少女を、僧侶の少女は呆然と見つめる。

 

 

「・・・・・・」

 

 

 やがて、魔族の少女がその無機質な目を此方に向けた時、僧侶の少女はようやくハッと我に返った。

 

「・・・・・・ッ」

 

 そして、魔族の少女が手にした宝剣を携えながら此方に歩み寄ってくるのを確認した僧侶の少女は下がる。

 それに構わず、魔族の少女は前進する。剣の柄を握る力の具合からして、この魔族の少女は自分も殺す気だと悟ってしまったからだ。

 

 せっかく、生き残れたのだ。

 この魔族がどのようなつもりで同族を殺したのかは分からないけれど、少なくとも私達を助けるためなんて事はあり得ない。

 

 だが、下がる足にも力が入らない。

 僧侶の少女が一歩下がる間に、魔族の少女は瞬く間にその距離を詰めていた。

 

「そんなッ!?」

 

 絶望で顔を青ざめさせる僧侶の少女。

 それに構うことなく、魔族の少女はその首目がけて剣を振るおうとして────

 

 

 

 

 

「お姉ちゃんっ!!」

 

 

 

 

 

 後ろから聞こえた子供達の声で、その刃は首を刎ねる寸前で止まった。

 

「・・・・・・?」

 

 いつまでたっても痛みが来ないことに疑問を抱いた僧侶の少女が目を開ける。

 

 

 

 魔族の少女の目線は、子供達の声が聞こえた方向に向いていた。

 しかも、心なしかその目は見開かれており、驚いているように見える。

 魔族がたかだか人間の子供如きの叫び声に臆した訳ではない。

 ならば、その魔族が剣を止め、目を見開く理由は一体何なのか。

 

 

「アレは、林檎農園・・・・・・?」

 

 

 戸惑うように、魔族の少女が呟く。

 魔族の少女の眼を奪ったのは隠れる子供達ではなく・・・・・・その子供達が身を潜めていた林檎農園の木だった。

 暫し、それを見つめる魔族の少女。

 僧侶の少女も何が何だか分からず、突きつけられる刃に怯えつつも様子を見守っていた。

 ・・・・・・やがて、沈黙を破ったのは魔族の少女の方だった。

 

 

「あれは、貴女たちが育てているの?」

「・・・・・・? は、はい。本格的に、とは行きませんけれど。あの子たちと一緒に、どうにか」

「・・・・・・そう」

 

 

 おもむろに聞かれた質問に、僧侶の少女はしどろもどろになりつつも答える。

 少し間を置いて相づちをうった魔族の少女は、剣を突きつけたまま動かない。

 

 何を考えているのか分からないが、どことなく、殺気が薄れているような感じを僧侶の少女は感じ取った。

 

(この魔族、もしかして・・・・・・)

 

 林檎農園に反応する魔族。

 それにひっかかりを覚えた僧侶の少女はふと、昔聞いた話を思いだした。

 そして。

 

「あ、あのっ!!」

「・・・・・・?」

 

 突きつけられる剣に恐れおののくことなく、僧侶の少女は身を乗り出して魔族の少女に話しかける。

 

「私、僧侶のアンジュと言います!! 後ろの子たちは、この修道院で保護している子供達です」

 

 

 

 

 

────貴女の名前を、教えて頂けませんか?

 

 

 

 

 

 それが、魔族の少女リーニエと、僧侶の少女アンジュの出会いだった。

 

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