魔法科高校厭人録   作:ヴェルバーン

2 / 2
tacktick 様

だいぶ前にメッセージをいただいていたにもかかわらず対応できずに申し訳ありませんでした。

原作を変更させていただきました。


≪ 2 ≫

 

 

 

 

 上級生たちが行っている階下の授業風景を窓越しに俯瞰しながら、男子生徒─────流導 穹(るどう そら)は冷静というには余りにも冷めきった視線でその魔法行使を観察していた。

 

 

 鉄鉱石、つまり酸化鉄から銑鉄及び鉄分の分離、抽出をするという内容だった。

 

 

 時計塔の鉱石科(キシュア)では初歩中の初歩。大半が家門にて履修済みか、あるいは全体基礎科(ミスティール)で一年目の初期に講義されるような内容の実技。

 

 

 超能力を汎用化したこの世界の魔法でここまでのことが出来るのは純粋に驚きだが、実際にその魔法の工程を見てみれば少しといわずにガッカリする。

 

 そも、超能力とは人類に仇なす者たち─────伝承科(ブリシサン)が相対する『地球外の脅威』を始め、「魔でも人でもない存在」つまり『混血』に対抗するために人類が無意識に生みだした異能という名の『抑止力』だ。

 

 授業の内容からすれば確かに人類の役には立っているのだろうが、別に魔法を使わなくても非魔法師の手でもできること。

 この世界の南米に『例の蜘蛛』が存在しているのかは分からないが、この世界の現行の人類は地球外の脅威に晒された経験が甚だしく乏しいか、絶無のため危機感が足りない。

 

 現状、元の世界の自分がどうなったのかは分からず指針すら決められない穹だが、この世界の超能力─────魔法は人類外を相手取るという発想すらないことを痛感せざるを得なかった。

 

 

─────魔法、魔術衰退の原因、神秘の名残の感じられなさ、元の世界の自分、この世界の自分、現在の統合された自分、この世界での地球外の脅威、二つの魂の分離及び帰還方法、南米の蜘蛛……─────

 

 思考が目まぐるしく廻る中でも授業は続いていき、午前のオリエンテーションは終わっていく。

 

 

 

 彼を見つめる少女の熱い視線に気付かぬまま。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 アリサは男子生徒に対する感情を認めてその彼を観察し始めると、暫くしておかしなことに気が付く。

 

 

 一時限目の科目選択と履修登録の最中は気が付かなかった。

 

 アリサを含めクラスメイトが自席で履修登録を進めている中、時折彼を意識し何気ない素振りで目線を向けたが、相変わらず気付くことも振り返ることもなかった。

 

 それを寂しいと感じながら、「自覚した思い」で見つめていると不思議と顔が熱くなり火照るように体温が上がった。

 上がった体温を冷ますこと、しかし目線を向ければやはり体温が上がることを幾度か繰り返して、『やはり』と自分の気持ちを再確認と確信を持った。

 

 一時限目はそれに終始、没頭した。

 

 以降の上級生の授業の見学に際して、A組とB組の生徒が実験棟に移動する時、アリサは自分の鼓動が高鳴り赤面した自身の表情を取り繕うのに苦労した。

 

 

 男子生徒の顔を見れた。

 

 ─────正面から。

 

 

 残念ながら目線は合わなかった。

 その時彼は伏し目で、更に次の瞬間には視線を切って進行方向に足を向けて先を行ってしまった。

 

 それでもアリサは満足した。

 

 やっと顔を見れたから。

 瞳も、眉毛も、目の形も、通った鼻筋も、薄い唇も、整った顔立ちも。

 その面差しを。

 

 もしかしたら()()()()()()しれないと思ったが、疼き(もた)げた感情は一際強まっていった。

 

 茉莉花と合流したあとも、明が担任の近田(ちかた)に質問をしている時も、アリサは常に彼を視界に入れたくて位置取りに気を使ったし、視界に収めた彼の挙動を見続けていた。

 途中、ふとアリサは問いたいことがあって近田に質問をしたが、彼は眼下の上級生の授業を見ており自身の発言に興味すら持ってもらえずに残念に思った。

 

 オリエンテーションの最中、気もそぞろだったり、集中していないアリサを隣にいた茉莉花はかなりの違和感を抱いたはずだ。

 彼女は終始物問いたげな顔をしていたから。

 

 下校の時か、帰宅後か、必ず聞かれるであろう質問に対しての説明や返答をどうするか。

 

 恐らく、アリサは自身の本心を誤魔化すのだろう、と未だ尋ねられてもいない返答を考え始めた。

 

 本心を明かした場合、茉莉花の反応が今はまだ少しだけ怖いから。

 

 

 

 

 そして肝心の、彼を観察しているうちに気付いたおかしなこと。

 

 

──────誰も彼を認識していない。

 

 いや、認識はしているのだろう。

 

 事実、歩いた彼の動線を妨げないように避けたりするクラスメイトは確かにいた。

 

──────しかし、誰も彼に目線を向けない。

 

 入学2日目で嫌われるようなことが出来るわけがない。例えあったとしてもアリサは同じ組なのにその出来事を知らない。

 

 何かの魔法なのだと確信した。

 検知されないような、それこそBS魔法のように特異的な。

 

 不可思議というよりもただおかしく、異様に映った。

 

 

 

 オリエンテーションは午前中で終了し、午後になって部活動の紹介のために講堂に集まった。

 新入生の参加は任意のため帰宅する生徒もいた。それでも150人近くの生徒が集まったが、残念ながらアリサの想い人は見当たらなかった。

 帰宅したのかもしれない。

 

 姿を見れないだけで残念に思う気持ちが、やはりそれだけ彼を想っているのだと自身の感情に確信を深めた。

 

 たとえ異常な魔法を行使していようと、これが伝え聞く()()()の弱みというべきものか。

 

 アリサは唯々、懐いた感情を痛感させられた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 「─────それじゃあ、検討してみてね。いい返事を期待してるわ」

 

 「……失礼いたします」

 

 

 礼を最後に風紀委員会本部を退室する。

 

 別に穹が何か問題を起こしたというわけではなく、風紀委員への勧誘の話し合いのためだった。

 型月世界の自分と同化する前なら、幾分かは新鮮な気持ちで話しを聞き、応じられたのだろう。だが、今の穹はかなり冷めた気持ちで風紀委員入りの判断を保留とさせてもらった。

 

 委員長の3年生裏部(うらべ) 亜季(あき)と、()()時間が空いていたらしい誘酔(いざよい) 早馬(そうま)という2年の上級生の2人は穹が引いてしまうほど熱心に職務内容を語り勧誘してくれた。

 

 正直に言って明確な「やらなければならないこと」と、漠然としてはいるが「やりたいこと」に時間を取られるだろうと予測している穹としてはこれ以上、時間も労力も割きたくないというのが本心だった。

 

 何より、人付き合いに極度のストレスを負う精神性を持つと自認している穹は、しがらみや対人関係は最低限でいたかった。

 

 こんなことなら「やらなければならないこと」の筆頭に関係している部活動の紹介にでも参加すればよかったと内心悪態をつくが、先の話しぶりからして勧誘は避けられなかったようなので検討する時間が多くとれたと思い直すことにする。

 

 そう思わなければやってられなかったとも云うが。

 

 

 部活動の紹介に参加しなかったのは、穹には元々入らなければならない部活動が決まっていたからだ。

 

 そして先ほどの風紀委員2人も、それを見越していたのだろう部活動の紹介の時間に勧誘の場を設けたのだ。

 

 穹自身─────というよりも「流導の家」の思惑が学生の魔法師にまで透けて見られていることについて内心忸怩たる思いがあるが、穹は致し方ないとも思う。

 

 

 

 

 

 流導家が千葉家と二分する剣術の大家として栄えていたのは3、4年ほど前の話だ。

 

 流導家のルーツは西洋の剣術家の家系で、現代の剣術─────「魔法と剣技の戦闘魔法技術」では千葉家よりも歴史が若干深い。

 

 なんでも、戦国乱世の時期に日本に武者修行のために訪れた初代がそのまま居ついたとか何とか。

 

 まだ同化して余り日が経っていないが、過去にこの世界の自分が流導家の文献を漁った記憶から同化した現在の自分が得た所感で云うならば、当時は魔術(の名残)があったのだろうと推察することができる。

 今は神秘の名残どころか残滓すら感じられないこの世界で、同化する前の自分は無意識とはいえ触りだけでも使えていたので、あるところにはあるのだろうが。

 

 

 流導家が落ち目になったのは当主である父が亡くなったことに起因する。

 それ以来、分家の一部が離反、独立し門下や他の分家も対応に苦慮している。

 主に旗錦を鮮明にしろと迫られているらしい。

 

 そんな流導家が曲がりなりにも維持できているのは穹の叔父の尽力と、継嗣である穹自身の実力、剣名故だった。

 

 叔父曰く「剣術の大会や、穹自身の実力を更に魔法師界隈に示せば云々」ということらしい。

 

 その事情すら魔法師界隈では噂になって久しいのが、穹自身恥ずかしいくらいだった。

 

 どうせなら離反した分家の連中を根切りにしてやるか、要求や言い分を丸々呑んで認めてやればいいのにとすら思うが、穹は本家の立て直しに必死になっている叔父が残念ながら嫌いではない。

 

 悪評を叔父にもついて回らせるのも、叔父の努力を無にするのも気が進まない。

 

 

 

 何とも面倒なことだな、と同年代の学生たちが部活動の紹介を受けている同時刻に、穹は溜め息をつきながら第一高校の校門を潜り家路に就いた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 茉莉花と連れ立って十文字家に帰宅し雑談を交わして戯れながらも案の定、見学時の(つね)とは違う様子について顔を近づける勢いで追及の質問を幾度も浴びた。

 

 その度に誤魔化すのだが、茉莉花はジト目に頬を膨らませ納得しない。

 

 親友に嘘を吐くのを何度も心苦しく思いながら、アリサは自身の懐いた感情を吐露するのを避けた。

 

 もし告げたのなら。

 

 

 応援はしてくれるだろう。

 

 助言もしてくれるかもしれない。

 

 もし、関係が進めば愚痴だって聞いてくれるはずだ。

 

 

 だが今は、会話も済ませていない男子生徒に懸想していると親友に伝えられなかった。

 

 

 アリサはもう少しだけ、この感情に浸っていたかった。

 

 秘めていたかった。

 

 大事にしたかった。

 

 

 脳裏に浮かぶ、名前も声も知らぬクラスメイトの男子。

 

 思うだけで胸が熱くなるが、実際に目にすると体中が熱くなるのだろうか……?

 

 

 茉莉花との会話を楽しみながら、そうした淡い考察を思考の片隅で想起し、彼に会える明日が待ち遠しいと感じていた。

 

 

 

 

 

 

 





前回の投稿から遅れた理由。

スカイリムっておもしろいよね……。

……すみませんでした。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。